【悲報】ワイ、ワーム。竜やけどモテない   作:オリーブそうめん

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登場竜物は全て己の主観と己の知識認識の範囲で語っています。
主人公と同じく、正しい事を必ずしも言っている訳ではありません。
各発言を比べると、幾つかの問題が分かるかもしれません。

信頼できない語り手を複数組み合わせると、信頼性がそこそこある答えが出るのと同じ理屈ですね。


◆ヒロインダービー◆

◆一番 北の果てにて誕生した新興貴族竜◆

 

 

 

 焦燥が胸を掻き毟る。

 切望が心を搔き乱す。

 苦悩が魂を撹拌する。

 

 (わたくし)は研究者一族の最終版として生まれ、誕生と共に完成品(マスターピース)の称号を得ました。

 一族の者は、誰もがエフティーは素晴らしいと私を呼びました。

 

 私は、エフティーという名を、素直に喜んでいました。

 

 群れの中で生きていた時は、私こそ竜の中の竜なのだと誇りに満ち溢れていました。

 私を罵倒する者などは何処にもいなかったのです。

 いたら決して許さなかったでしょう。

 罵倒した相手を。…そして、罵倒された私自身を。

 

 故に────私の誇りを、塵埃の様に見下す群れの外を知った時に、何かが壊れる音がしました。

 

 

 

 

 

 

 『竜の形をした獣(レッサードラゴン)

 

 それが群れの外から見た、私たちの評価でした。

 

 

 能力の多彩さで、純粋な身体能力で、その造形美で────。

 他の全ての竜に勝っていた私は、始原の竜から続く全ての竜が先天的に持っている基本能力、『寄星能力』の差だけで敗北したのです。

 私より圧倒的に劣る能力の竜が、龍脈吸収による強化補正の振れ幅だけで、私を遥かに超えるのです。

 …最初は何かの間違いだと思いました。

 実は高い能力を隠していただけでないのかと。

 しかし世界はいつだって残酷で、こんなはずじゃなかったことばかりの連続だと、私に敗北という初めての挫折を与えました。

 

 素の身体能力の差や、多彩な能力など龍脈の吸収量によってたやすく覆すことができるのなら、それが竜という生物の価値の本質なのだとしたら、どうして私たちは────

 どうして私はこのような進化の先に選ばれたのでしょうか。

 自分達自身の意思以外によってであれば、許せそうにありません。

 もし、そんなことがあるとすれば、絶対に責任(・・)を取らせなければ。

 

 

 

 

 薄過ぎる竜の因子は、血に流れる因子こそ竜の定義とする、竜全体に通用する理屈において嘲笑の対象でした。

 龍脈がない世界という、絶対にありえない前提の世界においてでしか最強になれない愚かな獣だと。

 

 中身は龍脈吸収以外の多彩な技能を持つ(無駄だけを詰め込んだ)ものでありながら、その姿だけはかの帝王種バハムートに収斂する。

 それは現行のカースト序列一位にして、竜の血の濃さに置いて序列二位にあたる彼女達のプライドを大いに刺激し、私の群れが今の様な姿になってから、ずっと天空の覇者たちに侮蔑されるようになり、それに他の竜も倣いました。

 

 許される事ではない、いえ、許せることではないと、力をもって打倒した日々もありましたが、あの帝王種の当主の前には敵わない事も理解していました。

 いえ、無理矢理理解させられました。

 心臓を抉り出したくなるくらいには癪に触りましたが。

 無論、相手の心臓を…ですわよ。

 今現在はまだ、それが無理なことを私自身が理解しているという事実が、気をおかしくさせそうです。

 私の一族には、そもそも私にさえそれが不可能であると言う者も多く、そのような敗北主義が身内に蔓延っているという事実にもです。

 

 それでも一族の者は、「エフティーは凄い」と私を称賛しました。

 他の竜に敗北した私を、私に敗北するような連中は凄い凄いと褒め称えました。

 

 呆れて物も言えませんでした。

 情けなくて何も見えなくなりました。

 悔しくて、ただ暴れたくなりました。

 

 ああ、一族はこの程度の高みを『完成品(Final Tuned)』と定めたのかと。

 最強に届かないままでF.T(エフティー)と呼ぶのかと。

 勝てないままで、それを限界と定めるのかと。

 

 

 この時に私は私を再定義しました。

 これよりこの身はいつか頂点にたどり着く(未完成だと認める)と。

 私は太源から先細る糸である事を良しとしないと。

 私は、己を大海に辿り着く冷厳の河であると、氷河(グラシャレース)と定めたのです。

 

 

 それでも、進化の大海までの道程は、思うようにはいきませんでした。

 一族の中で、権力を掌握したとしても、所詮は其処止まりです。

 カースト一位の、天空の覇者の影響は大きすぎました。

 

 

 

 

 そんな中に、救いは一つだけありました。

 

 吸収と放出に特化したバハムートを超える、竜族始まりの大海。

 竜の定義(『寄星能力』)だけに特化した、カースト最下位(最果ての海)

 かつて私が彼を醜く無才だと見下し、その私を天空の女帝が「貴みに辿り着いたばかりの(竜から遠ざかった)愚民は何も知らぬ。これだから新興の一族は貴みに値しない。

古の盟約を、始まりの栄光を。…まあ愚民たる彼方(かなた)が知る必要もない。知識は知る必要があるものが知っていればいいのだから」と見下した。

 その原因となった、竜に見えぬ竜。

 彼は言いました。

 

「今は言わせておけばええんや。

いずれ、姫さんたち以外はいなくなるんやから」

 

 

 その真意は、その根拠は私には分かりませんでしたし、彼もまた説明しようとはしませんでした。

 

 

 

 

 

 

 伝えるつもりは一切ありませんが、血の濃さにおける本来の序列一位である彼が血の濃さに拘らぬ事は、私に救いを与えました。

 彼は血の濃さなどよりも良い容姿が欲しいとの無いものねだりをしていましたが…。

 まあ確かにワームの容姿が良いかと言われれば、否定せざるを得ませんが。

 もし、ワームの姿こそが美しいと思われるのであれば、私の種族もそのように品種改良したことでしょうし。

 …まあ普通に考えてそれはありませんね。

 

 とはいえ、汎ゆる生物の血で竜の血を薄め、それ故に多彩。

 それを再び肯定的な意味で認められる様になった事に感謝してあげなくもありません。

 

 獣に堕ちた竜。

 未だにその言葉には脳が焼き切れそうになりますが、昔よりは少しだけ、ええ、ほんの少しだけは余裕を持てるようになりましたの。

 

 硬化能力。

 急速細胞分裂能力。

 超再生能力。

 他の生物に扮する能力。

 透明化能力。

 発電能力。

 冷凍・発熱能力。

 解毒能力。

 振動能力。

 様々な能力を手に入れた私ですが、やはり龍脈吸収・保有能力だけは他の竜種と比べると、悔しいながらも劣ります。

 

 吸収に特化したワーム。

 吸収と放出しかないバハムート。

 私達はその流れから随分と離れた進化を続け過ぎました。

 

 ですが、いつか決着が付いた(竜が消え去った)日には、私の様な存在だけが残ると、彼はそう言っていました。

 これは彼の母親の受け売りらしいですが。

 

 彼は与えられた情報を鵜呑みにして考えない所はありますが、今回は許すとしましょう。

 

 私とて何であろうと絶対に勝てない、という事を認める気はサラサラありませんが、彼曰く全ての魂の総和(究極の群体生物)たる星に勝つ事は、あのバハムートの当主が百体いても不可能なのだとか。

 

 だから、『竜』という在り方はいつか必ず絶滅すると、敗北主義を語っていました。

 

 天空の女帝はそんな結末を迎える位なら、星を滅ぼして共に消える事を望んでいましたが、彼の両親はどちらもその選択を肯定しなかったといいます。

 

 歴史上、最も龍に近付いた先代のワームと、その奥方であり原初の原初にまで先祖返りしたミドガルゾルム。

 

 私の考えですが、バハムート当主が百体いようと成し得ない『龍殺し』を、何時の日にか彼は単独で可能になるでしょう。

 それには相性的、特性的な部分が多分にあるでしょうが、だとしてもその点において、彼は最強の竜だと言えましょう。

 

 そう言えば彼は星の知識からの受け売りでこんな事を言っていた。

 

「マメ知識や。太陽風(オーロラ)はそれ自体極めて有害やけど、それ以上に有害な銀河線から護ってくれてるんやで」

 

 それが正しい知識なのかどうかは分からない。

 そういった知識をもって星に還ろうとした流れを食した彼は受け売りで言っただけ。

 

 それでも、それでも私は救われた。

 だから────

 

「それは私も極めて有害と言うことですか?」

と威圧しながら取り敢えずブレス攻撃する(ブレっちゃう)事にしました。

 

 いつか、彼自身の言葉で肯定される日を待つとしましょう。

 

 

 

 

 粛正と統制をもって、世界が新生へと至る日まで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆二番 大農園の大地主◆

 

 例え明日竜の歴史が終わるとしても、それでも私は今日、世界樹を植えたい。

 

 私達にとって、他の竜というのは養分に過ぎなかった。

 私達にしか製造出来ない世界樹を貸し与え、管理させて収穫した龍脈の一部をその賃料として受益する。

 世界樹から龍脈を喰らうのも、他の竜から龍脈を回収するのも、大きな意味の違いなんて無かったの。

 だって、どちらも私のものになるんですからね。

 …それ故に、私の先祖は一度破滅した。

 

 かつてはワームについては、世界樹に最も必要なビジネスの道具という認識さえあった。

 決して彼に知られてはいけませんが、何せ世界樹とは、私達の先祖があるワームを種袋として植物に捧げた成功品なのだから。

 ワームの龍脈吸収能力に目を付けて、完成させた究極の道具。

 世界樹の試作品にして失敗作がドラゴンプラントであり、私にとって世界樹とは従順で優秀なドラゴンプラントに過ぎなかったわ。

 ワームなんて、地を耕し、星の血を耕す従業員。

 そしてその血液は始まりの世界樹の原材料。

 そんな風に見ていたの。

 …先祖の所業を知った時には驚いたわ。

 血というものは、何処までも業を繋ぐのだから。

 形は違えど、ワームを己の為に利用し尽くすという発想に変わりはなかったのですから。

 

 私は彼を事業の投資対象としか見ていなかった。

 けれども、彼は私の予想以上に非常に有益な労働者だった。

 世界樹を植える際に、一定以上の深度が無ければ発芽しない特性がある。

 龍脈に触れなければ、ただの植物として、竜の血を発芽させずに終わる。

 なら、その穴を掘る何かが必要。

 それを成し遂げられるのは、何処か恐ろしいワームの母娘と、余りにも恐ろしさが欠如したもう一匹の家族である雄竜しかいなかった。

 

 選択肢はそもそも無かったわ。

 けれども依頼する以上は、最低限の報酬を与えるつもりではいた。

 契約上での付き合いに過ぎない。

 あくまで契約があるだけの他者。

 それでも契約だけは守ろうと思ったわ。

 それは──、相手にも契約を守らせる為に必要な事だから。

 

 

 彼は私に報酬を渡される事にとても驚いていた。

 彼は契約以上の仕事を成し遂げたというのに、報酬を貰えるとは思っていなかったようね。

 聞けばあのレヴィアタンに良いように使われているのだとか。

 私は彼に世界樹の苗を渡した。

 レヴィアタンはただ彼に微笑んだ。

 それは彼の中ではイーブンだった。

 私は少しイラッとした。

 

 

 彼は私の依頼に答えてくれる。

 彼は私の依頼に応えてくれるだけでしかない。

 私が頼む仕事に彼は異議を持たない。

 私が頼む仕事に彼は意義を持たない。

 頼まれたから快くやってくれる。

 それだけ。

 私は少しだけではなく、イラッとしたのかもしれない。

 

 …私は、その都合の良い関係に不満があるのかもしれない。

 有能な竜材が不満なく確保できているこの状況に、不満などないはずなのに。

 彼が受け取るべき報酬を受け取ることを当たり前と思わないところも、契約の第一竜者としての矜持が許さないというのもあるけれど、それだけで無い事も分かってはいるつもり。

 

 ワーム()というビジネスパートナーを手にした時、一族は大いに驚いていた。

 「まさか許される日が来るとは」と言った者がいた。

 その後、私はそう言った叔母を問い詰めて、事実を知った。

 とはいえ、多くの事実は歴史の彼方に、我が先祖自らによって積極的に焼却されていた。

 きっと、名門中の名門には我が先祖が忘れようとした悪行が、より明確に残っているのだろう。

 名門に頭を下げて態々恥を聞きに行くつもりもないし、私より知っていそうな叔母を食らい知識を奪う気も無かったわね。

 それなりの借りはある相手に、不義理を働くのは契約の竜としての名折れだから。

 

 

 

 ワームの事を調べれば調べるほど、彼の異常性は際立った。

 

 彼を絶対に苗床に出来ない(・・・・・・・・・・・・)以上、考えるに不要な想定ではあるけど、その血は彼が思う以上に特別なのだから。

 この世界には、嘗て七本の世界樹があった。

 世界樹が最も完成した時代。

 ニーズヘッグが最も覇を唱えていた時代。

 あるワームを使い潰し切って完成した直後。

 世界樹は最も完成しきっていた。

 

 今ある世界樹は、代を重ねるごとにその純度を落とした劣化版に過ぎないわ。

 本来、始まりの世界樹(プロト・セフィロト)の種は十一存在したけど、その内発芽できたのは七本に過ぎなかった。

 ワームを苗床にした先祖は、ワーム一族とバハムート一族に粛正された。

 その際に、三つの種が避難していた先祖ごと潰えた。

 

 残された筈の七つの世界樹は、他の竜が奪い合う前に、当時のワーム一族が全て枯らし切ってしまった。

 僅かな生き残りの先祖は、残された一粒の種の純度を薄めながら増やさなければならなかった。

 

 始まりの世界樹。

 それには、現在の世界樹には失われた特性があったと聞いているわね。

 それが十一本全て揃えば、完全に成長しきった時には、その根同士を絡め合った全ての世界樹が地中で融合するはずだったと。

 そうなれば、星が枯死した可能性もあったし、世界樹自体が別物になった可能性もあったって。

 今の世界樹の性能から逆算してみると、強がった先祖の法螺話と片づけるわけにもいかないし。

 

 そもそも、世界樹の根には魔術陣的な軌道に近い特性があるわ。

 …発動部分が機能していないからただ星に伸びる根としての機能しかないけれど、その魔術内容は想像に難くない。

 ベースの一つである植物が、そう特別でもない以上、その特性はワームに依存することになるでしょうね。

 だとすると……あの血が特別なことには間違いがない。

 

 

 彼を材料として、新たに始まりの世界樹(プロト・セフィロト)を作る計画が長老派たちの中で持ち上がったけど、私は全力で潰した。

 植物を併用してその知識ごと食らうのも有用性は認めたけど、お腹を壊しそうだからやめたわ。

 後のことは妹に全て任せたのだけれどね。

 長老派の彼らは今頃は────、…う~ん、新種のペンギンになっているかもしれないわね。

 

 

 妹が彼は私のペンギンになりえるかと揶揄うのだけれど、文字通りワームをペンギンにしようとしかねないから怖いわ。

 

 

 

 

 

 世界樹の苗は、始まりの世界樹には決して届かないでしょう。

 品種改良を続ける私だからこそ、その不可能を理解できてしまう。

 

 

 始まりの世界樹を創り出した大罪。

 始まりの世界樹を潰えさせた大罪。

 私の血に眠る業。

 それでも、その罪の堕とし子を残さねばならない。

 

 生きるために。

 昨日を明日につなぐために。

 

 例え明日竜の歴史が終わるとしても、きっと私は今日、世界樹を植える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ 三番 深海の皇◆

 

 彼が私を知るよりも早く、私は彼を知っていましたよ。

 当然ですよね。

 だって、彼は最も遺さなければならない血なんですから。

 調べようとしないと知らない彼が、私の事を調べていなかった(知らなかった)のは、怒っちゃいましたけど。

 

 会うのは初めてでしたけど、やっぱり今の美的感覚には合いませんでしたねー。

 原始竜としては美形なのでしょうが、現代竜としては原始竜というだけで容姿に難ありとしか。

 まあ、そんなことどうでもいいんですけど。

 元々、私自身の美醜の好みなんて、婚姻には一切無関係ですし。

 私にも最低限の責任感くらいはありますよぉ。

 

 あの極光竜(新貴族発祥)の『自由恋愛革命』なんてのは、下々だけで流行ればいいんじゃないでしょうか。

 元々それなりの自由恋愛はありましたが、流石にあの愚民たちの思想は目に余りますわぁ。

 婚姻の規範を規定したバハムート一族が怒るのも無理はないですわね。

 

 私は、私が死ぬまで私を甘やかしてくれる相手ならそれで十分なんですよ。

 全てを私のために費やして、私を存分に長生きさせて、それでいて私より永生きして看取ってくれる相手ならそれでいいんですから。

 

 

 急速に自由恋愛をかつて以上に前面に押し出した結果、どうなったか、あの意識だけ高い寒冷の病魔(インフルエンサー)は想像して行ったのでしょうか。

 優れた者が優れた者を自由に選び、次代に更に優れた血を遺す。

 それ自体はいいことだと思いますよ。

 分を弁えていればですけどねぇ。

 

 同じ種族の相手から選ぶのならば、その中で一番条件の良い個体を選ぶ。

 同じ種族の中に良い候補がいないのであれば、他の種族の中で一番条件の良い候補を選ぶ。

 選ばれないのは、同じ種族の中で劣っているから。

 選ばれないのは、劣っていると認識される種族だから。

 

 相手の選び方は、実は管理婚姻と変わりない。

 けれども、選ぶ側の序列は、家の強さではなく、個体の強さに準ずることになるわよね。

 

 別にそれはどうでも良いのですけれど、ねぇ。

 だって私は家柄の良さも個体としての容姿も優れているから、どっちでも構いませんし~。

 

 

 困るのは種族の中で魅力の序列が低い個体と、竜種全体の中で魅力の低い一族だけですから。

 私が許せないのは、彼の不遇を作り出した原因が、分を弁えずに手を出そうとしている事だけですから。

 それまでの無秩序な自由恋愛から、せっかくバハムートが管理恋愛に移行させようとしていたというのに、かつて以上の無秩序と選択者気取りの傲慢をまき散らしたのですからね。

 あの獣たちを蜥蜴竜の総帥(バハムート)が軽蔑するには、積み重ねた理由がありますのに。

 新たな価値観は旧き勢力に迫害されるとしか、思ってないのでしょうねぇ。

 娘の婿にと目をかけていた彼が不遇な扱いを受けて、実の娘までその価値観に染まってしまった恨みはお察しですわぁ。

 …新しい価値観とやらに目が眩んだ序列一位の娘が、序列二位の娘()にくれた隙を頂くのは別問題ですけどね。

 

 

 彼自身は目が無いのに、かなり美醜に拘るのですが、「…何で美しいとか醜いとか分かるんだろうね。不思議だなー」って聞いたことあるのですよ。

 答えはまあ、ビックリするくらいに想像通りでしたねぇ。

 生きながらにして丸呑みして捕食した対象が、死の直前に強く遺した正直な意識や、既に死した獲物達の記憶から自身への印象を認知していたのですよね。

 単純な容姿なのに、エゴサーチして傷付く程度の繊細さがあったのは面白かったですねぇ。

 …だから自分の事には無頓着なんだと、分かった気がしましたわ。

 ワームがバハムートを引き合いに出してさえ比較にならない規模の、龍脈探知能力を持っていることは、他の竜は兎も角、私たちとバハムートの一族は理解していますわ。

 視覚の代わりに魂に刻まれた記憶さえ読み取る能力。

 視覚と引き換えに私達に残されなかった能力。

 そのアドバンテージと危険性は、卑しい竜達には想像もできないでしょうねえ。

 あの元大公族(ニーズヘッグ)は、今は寄生植物を用いて相手を喰らう事で行えるのでしたっけ。

 大きく劣化した記憶喰いが。

 野蛮ですわね。

 流石盟主との歴史を歩んでいながら、反逆したお馬鹿さん達の子孫ですわ~。

 今でこそ、没落した盟主を差し置いてバハムートと共に皇帝を名乗るレヴィアタンですが、元はニーズヘッグと共に大公でしかありませんでした。

 あの裏切り者と同格だったご先祖様にはお悔やみですわぁ。

 

 

 彼は目が無くても、龍脈を読み取れるなんて本当に可哀そうですわ。

 誰でも相手への不満や悪意はほんの少しは持ってしまう。

 視界だけで判断するのならば、黙っていれば何も知らずにいられますのに。

 そもそも、他の生物が竜を恐ろしい悍ましいと思いながら平伏していただけなんて、少し考えれば分かるでしょうに。

 捕食者と非捕食者の関係なんてそんなもの。

 大勢の獲物を喰らって、多くの龍脈を喰らって、そしてそれらからの侮蔑を本気にするだなんて、ゾクゾクする位可愛いと思いませんかぁ。

 

 

 ああ、そうそう。

 個竜的には、裏切者の血(ニーズヘッグ)と竜を気取る獣は大嫌いなんですよ。

 最初に主の望みを知りながらそれを裏切った連中と、主に望まれながら生まれた存在なんて、『嫉妬』するしか無いでしょう?

 使えるものは全て使う主義ですから、個竜的な感情でどうするなんて事はありませんけどね~。

 

「こんにちわ。完成品さん」って、親切にこちらから声をかけて差し上げましたのに。

 獣の分際で、「次そう呼んだら尊い血が潰えることになりますわよ」ですって。

 個竜的な感情だけで動いて良いのなら、その安い血を絶やすのは天空大公竜(バハムート)ではなく、深海大公竜()がやってもいいんですよぉ。

 父親が星から吸い上げた全ての記憶ごと爆砕したせいで、彼自身も知らぬ古の盟主の命。

 敗北主義の証明。

 『竜』が潰えた環境で、せめて星に許容される範囲で生物としての竜を遺すための保険。

 それが極光竜。

 生きているだけで、最も古き竜が竜の絶滅を前提にしていた事を思い出させるのは、あのプライドが天空より高いバハムートには許せないでしょうねぇ。

 「何故、此方(こなた)達の勝利を信じてはくれなかったのだ」とか言いそうです~。

 あの獣自身もプライドだけはバハムート並みに高いですが、そもそも獣として残す為に生まれた(・・・・・・・・・・・・・・・)のに、獣呼ばわりが嫌とは身の程知らずでお笑いですね~。

 星を害する力も無いので、生態系の一員として認めてくださいって立場でしょう。

 追随した別の種族は意味を分からずに『竜の形をした獣(レッサードラゴン)』と言っていますが、バハムートは事実を言っているだけ。

 だって正真正銘の『獣としてデザインさせた博物館(レッサードラゴン)』でしかないのですから。

 真の皇帝自ら命じて生まれた命。

 彼があの愚民を『お姫さん』と呼ぶのは気に入りませんね。

 

 

 

 …まあ、取るに足らぬ相手の事を考えるのは時間の無駄ですから、明日は彼にどんな仕事を頼むかを考えながら眠るとしましょう。

 彼は私に永く尽くすために生きるのだし、私は彼に永く尽くされるために生きるのですから。




お姫さんの名前の由来は南極側の国立公園指定の氷河。
北極がキャラの居住地でしたが、名前は南極寄り。
この世界では北極にペンギンが居たりするので今更ですね。
種族の正体は、竜でないバハムートとしてデザインされた新生物。
ほぼ全ての獣の因子を組み込まれている為、その因子を使って人間にも擬態出来る。


レースには参加していないけれど、やはり妹さんはクレイジー。
「可愛く無い竜は、ペンギンにしてkawaiikawaiiしちゃうぞー」


生きている相手の心は読めない主人公は、ジャイアン系ニコニコお嬢様の腹黒さを知らない。
語り手次第で見え方が変わる典型。
真の皇帝が盟友バハムートに似せて自らデザインさせた次代の生命とか、まさしく『お姫様』であって、獣とか愚民とか言ってるのも完全な勘違いなんですよね。

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