きっとこの勝負服は…

1 / 1
Twitterから着想を得たので初投稿です pixivにもあげてます 追記 日間ランキング(加点)にて19位、大変驚いています。皆様に楽しんでいただけて何よりです


第1話

今日が最後。

 

ちっちゃな頃から色んなことをして来て、いっぱい努力もしてきた。

 

でも、それも最後。

 

このゲートの中から見る緑も、隣で泣きそうになりながら発走を待つ顔を見るのも、そのまた隣で絶対に勝つのは自分って自信満々な顔を見るのも。

 

私は今どんな顔をしているのだろう。隣の娘と同じような弱気な顔なのかな?自信なんて微塵もないんだからきっといい顔はしてないんだろう。

 

ガコッっと小気味のいい音がしてゲートが開く。

 

作戦はいつもと変わらない。いつだってこの作戦を貫いてきた。後ろで脚を溜めて、4コーナーから一気に。スタミナこそ無かったけど瞬発力だけならG1を勝ったあの子やあの子にだって負けてない、はず。

 

バックストレッチからスパートを掛けてスタミナを切らしてた私にトレーナーが提案してくれて、それまで未勝利だったのが嘘のように勝利を重ねて、それでもG1だけは何時までも出れなくて。

 

だから今日は、今日こそは勝たなきゃ。

 

そんな余計な事を考えていたらまどなりにあの子がいる。いつも走る時は楽しそうで、笑いながら走り続ける。

 

ねぇ、貴女は何が面白くて走り続けるの?

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

あっという間に4コーナー手前。

 

もうあの逃げの娘は後ろの彼方。

ここからは自力の勝負。先行集団に呑まれないように、出来るなら中を一直線に。あの時見た黒鹿毛のあの娘のように。

 

「―――ぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああ!!!」

 

普段なら絶対に出ないような声。

全力で駆ける。

 

ふと視界の端にトレーナーが映った。全力で声援を送ってくれているのが見える。声が聞こえるわけじゃないけど、必死で全力なのが分かる。

 

ここで踏ん張らなければ私は何者にもなれないのだろう。

 

前はあと5人。

 

せめて、あとその1人。せめて、並んで。せめて、5着で。

 

叶うなら、1着を。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

ダンボールに荷物をまとめながら、あのレースの事を思い出した。

 

結局6着と着外の結果で終わり、私のレースは幕を閉じた。今仕舞ったこの体操服には嫌というぐらいの思い出が染み付いている。いっそ私の勝負服なのでは?と錯覚するぐらいには。

 

あのレースの後、トレーナーは泣きそうでほっとしたような顔をして迎えてくれた。 私は確か澄ました顔して

 

「届かなったよ、ごめんね?」

 

なんて言ったと思う。

その後トレーナーから抱きつかれて泣いて謝られたのはびっくりしたけど。

 

そんな事を思い出しながら作業を進めてたらスケッチブックを見つけた。これは確か。

 

あの皇帝のような厳格さやあの名優のような煌びやかさもあの愛された逃げウマのような可愛らしさも

 

でも確かにそれは、私の勝負服だった。

 

きっとG1に出てこれを着て、一生懸命走ってトレーナーと一喜一憂して。

 

それが叶わなかった、夢の残骸。

 

視界が滲む。あのレースの後だって涙はなかった。頑張ったけどここまで、そんな感情で終わって。

 

それでも叶うなら、願ったのなら。

 

「着たかったなぁ…。出たかったなぁ…!」

 

もう隣人はいない。彼女も私と同じように夢半ばで尽きてしまった。良かったのは互いに五体満足でいられたことだろうか。

 

もう、隣には誰もいない。

 

私は大声を上げて、この学園で初めて泣いた。




誤字報告ありがとうございます 感謝します

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。