刀使ノ武芸者ー修羅流転録   作:重曹とクェン酸

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楽しんで頂けているか分かりませんが第8話の投稿となります。


8.火柱

 それは突然の事だった。

 いつもなら仲介屋を通してくるのだが今日に限っては俺達の許に直接依頼が転がり込んできたのだ。

 依頼人はスーツを着た若い男で。

 一枚の紙を俺達に差し出し、男はこう言い放つ。

 

「この依頼を引き受けてくれるなら、その紙に書かれた額を支払おう」

 

 男は床に立てていたアルミ製のアタッシュケースをテーブルの上に丁寧に置くと、オープンボタンを両外にプッシュし、ケースを開いて俺達の方へ中身が見える様にそれを回転させる。

 受け取った紙とケースの中身を見て瞳孔が右往左往するのが自分でも分かる。

 前金と書かれた金額と成功報酬と書かれた金額が可笑しいのだ。

 今まで得た金額と今回提示された桁が違い過ぎる。

 成功報酬も前金よりも桁が一つ増えている。

 新手の詐欺にでもあっているのか?

 だってそうだろう?

 この紙に書かれたターゲットは日本人で、そいつは日本からは動こうとしない。

それだけの相手を殺すのだから。

 日本人の暗殺依頼など滅多に来ないから最初は妙だなと訝しんでいたが読み続けると下に対象の名前が記され、納得した。

 

 

 ユカリ オリガミ。

 

 

 この名は何度か聞いた事があった。

 日本のアラダマとかいうモンスターを退治する専門家集団の頭目。

 それもただの専門家ではない。

 噂では並外れた戦闘力を持つアラダマと同レベルのバケモノだとも聞く。

 故にそのバケモノを殺せ(ヤレ)ば日本の防衛能力も自衛隊だけとなり、かなりの打撃を喰らうのだとか。

 元々の依頼主(クライアント)がどこの国のどこの誰だが分からないが国際紛争の引き金と成り得る依頼に傭兵を使うのは失敗した事も考慮にいれての事なのだろう。

 

 

 自分には荷が重過ぎると思った。

 だが提示されたのは今まで受けた依頼なんか比べ物にならない位の金額で、天秤の秤は揺れる。

 金を取るか。

 命を取るか。

 二つの秤が上下に揺れ続ける。

 しかし、傾きかけた秤は何の前触れもなくまたたく間に沈む。

 引き受けるか、それとも断るべきか。そう迷っていると、隣で聞いていた相棒がOKの一言で快諾した。してしまった。

 依頼人の目の前で口論になり掛けたが、書かれた依頼料を相棒の口から聞かされる。

 

「相手はただの『人間』だ、銃弾が効かない訳じゃない」

 

 そう諭されると完全には納得していないが男も渋々依頼を引き受ける事にした。

 男は相棒(おとこ)に言う。

 

「この依頼で廃業(さいご)だ」

 

「ああ、引き受けてくれるならそれで良いよ」

 

 金額が金額である為、これが引き際だと、男は殺し屋稼業から身を引くことを決めた。

 

 

 

 暗殺の当日。

 時間通りにターゲットを乗せた車が到着すると、双眼鏡のレンズに不可解なモノが映り込む。

 事前報告には折神 紫(ターゲット)の他に護衛の少女が三名(・・)いると聞いていたのだ。

 だがあろうことか護衛の少女は四名(・・)いるのだ。

 情報と違う事に男の防衛本能がけたたましく警鐘(サイレン)を鳴らす。

 作戦の中止を狙撃銃に取り付けられたスコープを覗き込む相棒に言い聞かすがしかし、相棒は聞く耳を持たない。「構うものか、このまま殺す(やっちまおう)」と引き金に指を掛ける。

 こうなっては致しかないと男はフィールドスコープに切り替え、観測手(スポッター)としての役割を全うしようとする。

 念入りに標的までの距離と角度を測定を済ませた。風も今は吹いていない。天候も問題はない。

 後は相棒を信じ、死体を確認するだけ。

 使い慣れた狙撃銃の引き金が引かれると発砲音が鳴り響き、弾頭が発射される。

 発砲の直前、ターゲットの前に一人の少女がスコープ内に入り込んでいた。

 何かの雑誌で見たことのある。確か、ユカタだったか。

 少女の身なりに一瞬気を取られた刹那、男の視界はターゲットのいる地上ではなく、空を見上げていた。

 額には何か(・・)が貫通し、一本の空洞が出来上がり穴の入口から血液が溢れ出る。

 殺し屋業を引退する男の最後の末路は母国の土を踏む事なく、戦争の無い異国の地で血に塗れたその生涯を終えた。

 

 

「ちっ……! 観測手(相棒)が殺られちまった。まさかアレ(・・)がいるとはな。なら、もうコチラから手を出すのは無意味だな。金は惜しいがサッサと退却するさせて貰――

 

 不意に強烈な突風が男の身に吹き荒れる。早々に撤収作業に取り掛かり始めていると物影と共に二つの物体が宙を舞う

 

「――へぇあ……?

 

 物体の正体は狙撃手の商売道具。つまりは人の腕。それが物理的に切り離されたのだ。

 では一体何がそうさせたのか。

 元々千切れかけていた?

 第三者からの狙撃で吹き飛んだ?

 否。答えは人間。但し、人と形容するには憚られる殺意を身に纏った武芸者と呼ばれる存在。

 何をどうしたらこの殺意を垂れ流す武芸者はこの短時間で地上からこのビルの屋上まで登って来たというのだろう。

 一つしかない出入り口には邪魔されない様、簡易的ではあるが施錠を行っている。

 なら上空からなのか? しかし、ローター音は聞こえない。

 飛行物は存在しないし、腕も上に舞い上がることから上からの襲撃では無い。

 下からの狙撃か? だが聴覚が刺激される事が無い以上、それもあり得る事は無い。

 

 男が理解する事のない現象の正体――それは刀使が迅移を発動させた事によるパルクールのウォールラン――つまり、壁蹴りでビルを駆け上がって来たのだ。

 殺意には殺意を。

 着地と共に身体を反転し、間髪入れず直進する。

 誰から見てもその形相は、武芸を修めた者というよりも最早殺戮者である。

 

「ひぃっ……!」

 

 

 バケ、モ――

 

 

 男がそう形容しようする瞬間、殺戮者の御刀が放つ一閃が男の目下をスルリと通り過ぎ、上口唇と下口唇を分離させる。

 襲撃者とはいえ人間である以上、国籍人種に限らず裂けた断面から色鮮やかに見える鮮血が勢い良く噴き出す。

 

 

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 

 

「んんー? まさかこうも簡単にやられるとは。バイト程度じゃ無理もないかー」

 

 重傷を負った襲撃者達を捕縛し、一か所に集めた所で一人の男がすっと姿を現す。

 その形状は誰がどう見ても剣だと分かるソレを右手に持つが、隠そうともしないあたり一目で襲撃者だと分かる。

 

「まだ襲撃者が残っていますの? 今ので力の差が解ったでしょうに」

 

「此花、油断するな。襲撃者(ヤツ)から発せられる圧は先程のヤツ等の比じゃないぞ」

 

 凡そ普通ではない圧に「ええ、(わたくし)も先程から感じ取っていますわ」と、寿々花は返すが先刻の二人に比べ、現れた一人の男から醸し出される異様な圧は二人の刀使を身構えさせるには充分過ぎる程であった。

 

「二人掛かりでやろう」

 

「ええ、願っても無い提案ですわ」

 

 真希は寿々花を、寿々花は真希を。

 一瞬だけ、両者が互いに視線を交わした瞬間だった。

 視界を戻した先に、襲撃者(おとこ)の姿が消える。

 

「ッツ――!?」

 

 寿々花との二人掛かりによる挟撃の為迅移による移動を敢えて行わなかった。

 しかし間合いを読み違えた訳ではない。

 両者互いに射程距離には程遠いと捉えていたのだ。

 だが突如として腹部に激痛が走り正眼の構えが崩される。

 真希の腹部に打ち込まれたのは襲撃者(おとこ)が持つ皿上の柄頭。

 

 

 なっ!? いつのまに!? それ、に……この重さ!!

 

 

 あの距離から瞬時にここまで!? 刀使でもないのに!?

 

 

「フッ、邪魔なガキどもだな。家に帰りな。オレはそこの折神 紫に用があるんだ。大人しくしてれば見逃してやるよ」

 

 

 まぁ、ウソなんだけどね。

 

 

 二人の刀使を相手にしても尚、本音と建前を使い分けれる程の余裕をこの襲撃者は持ち合わせる。

 

「ぐっ、賊の言う事など……信じられるものかぁ!」

 

「ああ……そう」

 

 真希と寿々花をスルリとすり抜ける襲撃者。

 通り過ぎた刹那、彼女達に張られていた写シが何の前触れもなく剥がれる。

 纏っていた白い靄が塵となり四散し、吸い付くように少女達は重力に従い身体が地面に沈む。

 授業で行った模擬試合で御刀に斬られた時とは比べ物にならない程の痛みが彼女達を襲う。

 右腕を抑えその場で蹲る寿々花と背部への衝撃に辛うじて耐えながらも背後の襲撃者を追う真希。

 

「なっ……紫、様……!」

 

 

 何としても紫様はお守りしなければ!!

 

 

 もう既に襲撃者の持つ片手剣は紫の首を捉えていた。

 たった一撃。されど一撃。

 最早戦力外となった少女達にとってこの一撃の代償は大きく、そして重い。

 這いつくばって立とうとするも御刀を握る指は弱々しく、それは叶わない。

 

「首、も~らい」

 

 首と言いつつも狙いは肩や胸といった上半身。

 上段から斜めに襲撃者の片手剣から薙ぎが放たれる。

 

 しかし、寸前でその一撃は阻まれる。

 

 異なる金属同士の衝突する音の響き。

 白色の髪の人影が紫の前と襲撃者の間で立ち塞がる。

 夜見に授けられた御刀――水神切兼光(すいじんぎりかねみつ)が西洋の剣を防いでいた。

 

「皐、月……!?」

 

「……紫様には触れさせません」

 

 間に合ったハズだった。

 だが、じりじりと惜し負けそうになり水神切兼光の(むね)が今にも夜見の身体に触れようとしている。

 

 男女の差、ではない。

 これは力量の差そのものと言える。

 相手は悠々と夜見を追い詰める。

 

「ハハッ! そう言えばもう一人居たんだった(・・・・・・)な」

 

 情報通り(・・・・)、と言わんばかりに襲撃者は尚も片手剣に力を籠める。

 

「ところで良いのか? アンタ、そのまま棒立ちのままかい?」

 

「ああ。私が(・・)手を下すまでもないのでな」

 

「へぇ~言うねぇ。だったらその言葉、死体が転がってもそう振舞え続けれるかな?」

 

 途端に片手剣を後方の自分側に引き、水神切兼光は行き場を失いあらぬ方向へと御刀が空を斬る。

 その所為で夜見の姿勢は維持できなくなり、身体は無防備な状態を晒す。

 

「ハハッ!」

 

「ぐっ……!」

 

 突如としてわき腹に激痛が走り痛みに耐えられず瞬時に片目が閉じた。襲撃者(おとこ)の左足の甲が夜見の右わき腹に入り込む。

 強烈な中段回し蹴り。

 対人戦の経験があるとはいえ、それは御刀を扱う刀使同士での話。

 剣術の心得があるとは到底思えない相手、ましてやテロリストとの武力衝突など想定していない。

 予想外の方向から攻撃されたことにより、それに対する防御の準備すら出来ておらず夜見は膝から崩れ落ちる。

 だが幸いにも水神切兼光を手放さずに済んだ為、写シが剥がれずに済んだ。

 

「皐月、くっ! この――ガハッ!」

 

「獅童さ――オゴッ!」

 

 まただ。

 決して遠すぎるといった距離ではないがこの襲撃者(おとこ)は即座に詰め寄り一閃を放つ。

 平然としてやってのけるが刀使以外で唯の人間が出来るのか。

 身体に纏わせ直した写シも奮起空しく景色に同化した。

 

「んん?」と、襲撃者(おとこ)は不思議と首を傾げる。

 斬った手応えは在った。間違いなくこの二人の少女達を切断した。

 だがどういう事なのか、

 

「胴が千切れていない? ああそうか、刀使(トジ)の能力だったな。忘れていたワ。」

 

 だが殺し損ねた理由が明確になり納得した。

 『刀使』という日本のみ存在するティーンエイジャーを寄せ集めた戦闘集団だという事を。

 

「まぁ、いいか。暫く立てねぇだろうし、本命に行くか……」

 

「ま゛、待゛て゛……」

 

 

 今の、一撃……で、呼吸が……!

 

 

「……紫様、お逃……げ、下さい……」

 

「皐月、その必要は無い」

 

「んじゃあ、三人目」

 

「……グッ!」

 

 今度は標的を別の刀使に切り替えると片手剣が制服を斬り、夜見の左肩に衝撃が加わる。

 先程の蹴りとは比べ物にならない程の痛覚が斬られた(・・・・)箇所から染み渡り全身から力が消え失せた。

 それと同時に白いエネルギー体の身体は生身の肉体を取り戻す。

 

「アンタ、随分余裕だな。大人しく殺されてくれるの? それならそれでコッチは仕事として見れば楽だからイイんだけどさ」

 

「何が言いたい?」

 

「何かこーう、張り合いが無いんだよ。依頼とはいえ折角、強者と殺し(ヤリ)合えると思ってたのにさ」

 

「そうか、ならその願いは叶うぞ。直ぐに(・・・)

 

「……お引き、下さ……い」

 

「おお、浅く斬ったとはいえ頑張るね、ガキ」

 

 武器も持たぬ丸腰の少女に対しこの襲撃者(おとこ)は慈悲と言う言葉を持ち合わせていない。

 代わりに彼の辞書に書かれているのは一文字付け加えられた無慈悲と言う言葉のみ。

 

「ハハッ、じゃあ、望み通り先に死んど――ッツ!?」

 

 寸前のところで一筋の彗星が襲撃者(おとこ)の真上から降り注ぐ。

 特殊な金属とコンクリートの地面が衝突した事により、衝撃音が抉りだされた無数のコンクリート片を押し上げ(つんざ)く。

 

 

 

「テメェ……俺の同僚たちに何してくれてんの?」

 

 小規模ながらも小さなクレータが落下地点に出来上がり、そこから音の発生源である殺戮者(なかお)襲撃者(おとこ)睨み付ける。

 

「何って、ただの仕事……」

 

 突如として降ってわいたこの状況に驚くことがなかった襲撃者(おとこ)は飛来者たる中央(おとこ)の形相からある武芸者(おとこ)を思い出し、言い淀む。

 

「お前、まさかあの(・・)東西南北か? だとしたら、だとしたら。クハ、ハハハッ……アハハハハ!! ツイてる! ツイてるぞぉ!! お前を殺せば(やりゃあ)、充分過ぎる程のお釣りがくるんだからな!」

 

 中央を見るや否や襲撃者(おとこ)は歓喜し顔を歪ませる。

 

「質問に答えろや」

 

「あ? ああ。弱者(ザコ)だったから斬っただけだが? それが何か?」

 

「ああ、そうか。ならテメェが斬られても、文句ねぇよな?」

 

「あ? ほうほう、言うね~」

 

 でも、と付け足し、

 

「勝てるかな? 今のお前が。見た所お前の得物(ソレ)、本来の得物じゃねぇよなぁ?」

 

 (かつ)て中央が使用していた武具をこの襲撃者(おとこ)は知っている。

 何故ならこの襲撃者(おとこ)も武芸者で在ったのだから。

 

雑魚(ザコ)がゴチャゴチャと言ってねぇでさっさと来な」

 

 引き寄せる様にクイクイ、と人差し指で手招く。

 

 

 ふん、易い挑発だな。だが、まあ、乗ってやるよ。その誘いによ……!

 

 

こねぇなら、さっさと行かしてもらうぞ

 

 戦闘の開幕を中央は自ら宣言する。

 だが、この言葉を襲撃者(おとこ)は聞き漏らす。

 

 

 間合いに入ったら即、カウンター決めてやるよ!

 

 

 長巻と片手剣(イルウーン)

 間合いでは此方に不利がある事は理解している。

 だが目の前の武芸者(おとこ)は嘗て数年前に持っていた武具とは違う武具を扱っているのだ。

 幾ら武芸者といえど僅か数年で違う武具を短期間で同レベルに扱うなど在りはしない。

 故にこの殺し合い、勝てる。

 だからなのか。目の前の女装野郎(おとこ)を如何料理してやろうか、返り討ち出来ると踏んだ襲撃者(おとこ)は戦闘中だというのに考えに耽る。

 相手はあの(・・)東西南北 中央。

 しかも、本来の武器とは違う長巻を使用している。

 自身の勝ちを確信した男は精神的な余裕が沸々と沸き上がる。

 

 

 

 余裕という名の慢心が。

 

 

 

 

「――なっ……!?」

 

 襲撃者(おとこ)がまだ得ぬ勝利に酔いしれて瞬きをした咄嗟の出来事である。

 

 何を勘違いしたのか。

 どうして勝てると思い上がったのか。

 襲撃者(おとこ)の意表を突く袈裟斬りが薄く肉を削ぐ。

 曲がりなりにも殺しに武術を使う者である以上襲撃者(おとこ)は反応してみせるが、それでも中央の長巻は血を啜る(・・・・)

 

 卑怯だと? 正々堂々とヤレ?

 そんな矜持は競技(スポーツ)の世界だけでいい。

 そんなモノは生き死にの掛かった戦場では何の意味も持たない。

 

 予想外の攻撃速度に襲撃者(おとこ)は怯む。ならば勢いは殺さない。攻め続ける。

 袈裟斬りからの遠心力を利用し、中央は車輪の様に弧を描く。

 御刀である長巻を片手で振り被った体勢から、空いた腕で持ち手側の肘裏を弾き上げ――

 

「……へぇあ?」

 

 

 百千万億焔燃型(カグツチノカタ) 第一式

 

 

 ――鞭のようにしならせ振り下ろす。

 

 

 火 柱(ひばしら)

 

 

 ()や――

 

 

 襲撃者(おとこ)が思ったのも束の間。

 反応する隙を与えられず、垂直に両断される。

 

「一点だ、ハゲが」

 

 そう言い放つと長巻を天高く振り上げる。

 刀身には血が付いていない(・・・・・・・・)が念の為と、手慣れた動作で振り下ろし血振りを行う。

 

 

 ボクらが三人掛かりでも打ち取れなかったヤツをあんなに簡単に……。

 

 

 紫様の話は眉唾物でしたが、どうやら実戦の件は本当の事ですわね。

 

 

 あーやっぱ、師匠(・・)みたいに上手くやれんか……。

 

 

 放り投げていた脇差を拾い上げ死体の切断面を凝視する。

 綺麗な直線を描き見事に両断されている。だが、それは遠目から見ればの話しである。

 目を凝らし間近で見ると所々線が歪曲しているのが分かる。

 師匠(・・)ならこうはならない。武術の、こと斬撃において彼女の正確さは威力を含め折り紙付きである。

 溜息を零し、覗き込む様に夜見へ手を差し伸べる。

 

「ホレ、立てるか?」

 

「……ありがとう、ございます」

 

 差し伸べられた左手を素直に受け取り、中央の助力を経て立ち上がる。

 

「いいものを見せてもらった」

 

 夜見を引き上げた直後、紫が中央に語りかけて来る。

 

「そりゃあ、どうも」

 

 耳だけを傾け、紫の僅か後ろで拘束された書記官を瞳に映し出す。

 

「それより、そこのオッサンはまだ生きてるんだろうな」

 

 クルリと上半身を捻じり、真希に問う。

 

「あ、ああ。この状況だというのにまだ何か独り言を喋っているよ」

 

「どれ、見せてみ」

 

「その方がどうかしたですの?」

 

 

 ……コイツは。

 

 

 うつ伏せのまま同じことを口にする(・・・・・・・・・)書記官の身体を隈無く見渡し手探る。そこである一部に触れると、弄っていた手が止まる。

 書記官の頭部に(・・・)イボの様に小さく腫れてる(・・・・・・・)箇所を見つけたのだ。目を凝らすと僅かに変色している。

 これを目にした中央は充分過ぎる程、ある確証を得た。

 書記官のこの症状を中央はよく知っている(・・・・・)からだ。

 

 

 幻術、だな……。なら、もう襲撃者は十中八九アイツ等(・・・・)で間違いないって事か。厄介だな。よりによってアイツ等(・・・・)御当主(・・・)を狙ってくるとは。

 

 

 百千万億流で武術を学び数十年。最後まで自分には修得出来なかった技術。

 師匠(・・)は気にするなと言っていたが、誰に似たのやら。

 これだけは特殊過ぎて中央どころかその師もこの技術を修得できていない。

 

 

 御当主(・・・)が狙われたって事は、何れコイツ等も……刀使全体が狙われるって事だよな、コレ。

 

 

 だが幻術(これ)に関しては素質や才能が無いだけで、知識が無い訳ではない。解術する術を一応は心得ている。

 そこで解術に取り掛かろうとすると疑問が中央の中で浮かび上がる。

 

 

 襲撃者達(コイツ等)、明らかに御当主(・・・)を殺そうとしていたが、アイツ等(・・・・)が欲しているのは武芸者だろ。死体は必要ないハズ……。

 

 

 考えれば考える程、憶測が憶測を呼ぶ。

 このままでは埒が明かない。

 襲撃者がコイツ等だけとは限らないのだ。

 この件は一旦保留にする事とし、後方の少女達に声を掛ける。

 

「怪我してるところ悪いがお前等、このオッサンは俺が如何にかするからまだ周囲の警戒解くなよ」

 

 負傷している以上お互いが埋め合わせ出来る様、距離詰め三人は御刀を其々構える。

 依然として人や車両の通行はないが、先程の事もあり予断を許さない状態が続く。

 

「…………」

 

 ビルとビルの隙間から覗き込み、刀使達の戦闘を見ていた少女がその場から立ち去る。

 

 

 

次回、刀使ノ武芸者―修羅流転録

第9話 模擬戦 ―其ノ壱―

 




キャラ公開情報について
オリキャラはこれからも増えていく事になると思いますので
後書きではなく設定もしくはキャラ公開情報として投稿する形を取ります。


皐月 夜見√フラグポイント +1

フラグポイント 累計
折神 朱音√    1
此花 寿々花√   1
皐月 夜見√    1

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