刀使ノ武芸者ー修羅流転録   作:重曹とクェン酸

13 / 34
ご観覧並びにご登録ありがとうございます。

タグ:キャラ改変追加しました。


11.正道から外れた道――荒魂変異体

「――ギシャァァァァッ!!」

 

 どこからともなく断末魔の叫びがあがると同時に少女が放つ一太刀が土瀝青(アスファルト)を木っ端微塵に砕け散らす。

 砕く衝撃音は断末魔と同じボリュームかそれ以上に響き渡った。

 こんな真っ昼間の住宅街から騒音とも呼べるレベルの叫び声をあげるモノなど野良の犬や猫、まして人にできるハズもなく、そうなると必然的に声の主は荒魂に限定される。

 

 必定――荒魂がいて、そして荒魂が祓われる。

 

 『彼ら』の悲痛にも似た悲鳴はただ虚空へと木霊していった。

 群れを成して行動していた最後の一体が起こした抵抗も空しくその存在は有から無へ。『ノロ』をまき散らし最終的には飛散する。

 『彼ら』を祓ったのは当然とある一人の刀使。

 

「――では、ノロの回収お願いします……ん?」

 

 何時ものつまらない事務的な連絡を済ましスマホをスカートに忍ばせようとしたところでスマホが震えだす。

 見知った相手からの連絡ゆえにコレといって警戒する必要もなく画面をタップすると、少女は「はい」と短く返事をする。

 

「ああ、スミレー? もうすぐ神奈川の市街地ら辺にデッカい荒魂が出現するんだけどさー(それ)につられて得物も掛かるみたいだから興味あるなら行ってみたらー?」

 

「了解です」

 

 短く、ただそれだけ言うとまた画面をタップする。

 お陰でタイミング悪く通話主からの「私は別の場所で遊ぶからー」と、無邪気さを拭えない少女の声が遠ざかってしまう。

 しかし今度のは間に合ったのか、タイミング良く間髪入れずに一通のメールが少女のスマホに届く。

 メッセージに目を通し、尚且つ親指をスライドさせながら片手間で御刀を宙に上げる。

 

「……次は……神奈川、か……」

 

「ンフフ……」と、無造作に置かれた巨刀と同じサイズの鞘を拾い上げると、ソレに御刀を納めて刀使は駆けだす。

 

 人目も(はばか)らず無我夢中で。

 

 今日も今日とて、少女は征く。

 写シを纏い、紫の髪とマフラーをなびかせながら。

 ただ、我欲を満たすために。

 

 

 


 

 

―― 折神家講堂 ――

 

 

 

「この放送、今郊外()ったか」

 

 余程緊急性のある事態なのだろう。焦燥感に駆られた、ところどころ詰まる発声音を聴取した中央(なかお)の声は宙を舞う。

 誰を指名する訳でもない中央の聞き返す問いに真希は未だスピーカーがある天井を凝視し続ける中央、改め中子へ答える。

 

「確かにそう言ったね。付け加えるなら市内とも言ったよ。

荒魂が出現した以上、ここでぼさっとしていないでボクらも現場に駆けつけなければならないよ」

 

「そうだな」

 

 短く返すと漸く真希達の方へ顔を下ろし、クルッ、と反転させた身体につられて黒の三つ編みが踊る。

 

「……どうやら荒魂は三か所に分散しているみたいですね」

 

 既にスペクトラムファインダーを起動させていた夜見は荒魂の場所を把握するとまだスマホを取り出していない中央に画面を(てい)する。

 「ですわね」と夜見の言葉に同調するように寿々花は頷き「どうされますの?」と続けた。

 

「お……わたし達は刀使だ、親衛隊といえどもそれは変わらない。やる事は決まっているんだ此処にいる全員で事にあたるぞ」

 

「なら儂らはお主の指揮下で動けばよいな」

 

 既に納刀を済ませたイチイが歳月人を待たずと言わんばかりに即席部隊に加わる事を提案してきた。

 老人染みた少女のその片手にはリード紐よろしくジャージ袖を引っ張られる光枝の姿も当然のようについてくる。

 

「行くんだったらサッサとしろよ、クソが」

 

 アタシはコイツのオマケじゃねぇんだぞ、なんて言いたげな見るからに不機嫌さのふの字も隠さない陰気なしかめ面でこの部隊長たる中子を睨む。

 

「じゃあ、お前等二人も戦力として数えさせて貰うわ」

 

「どこから対処するつもりなんだい?」

 

「歩きながら指示を出すがとりあえず三か所同時に対処する」

 

 真希の問掛けに脊髄反射するように答え、クイッ、クイッと、手招きするように数回人差し指を屈指させて付いて来いと言わんばかりに刀使の少女達をけん引する。

 構内の通路を早歩きで進むと中央につられるように真希やイチイ達もそれにならう。

 

「対処するにあたり二人一組でことにあたるぞ」

 

「それで、その組み合わせはどうするつもりじゃ?」

 

 背中からかかる老人語に答えるべく中央は口を開く。

 

「佐等と裏隠居は一番近くの市街地。わたしと皐月は一番遠い郊外で獅童と此花は残りを担当する」

 

「あァ? 市街地だァ……って、オイ待てよ。何でアタシがこのクソチビと一々組まなならねぇんだ! 一人で祓う(やらせろ)! ダメならせめて獅童か此花のどっちかと組ませろや!」

 

 

 毎度毎度声デケェなコイツ。

 

 

 徐々に徐々にと拡大された声量が鼓膜へムダなダメージを蓄積していく。

 

「まぁとりあえずスペクトラムファインダー見てみろ」

 

 「あァ?」と、今になってスペクトラムファインダーを立ち上げた光枝のその顔は発声に比例して更に不機嫌さを増した。

 携帯端末からの表示は場所もバラバラで、その点滅する団々たる三つの円は大きさもそれぞれが異なる。

 真希と寿々花の担当する場所の円は大きく、中央と夜見が向かう先はその次に大きい。

 なら光枝とイチイが対応する場所はというと。

 

「ちッ……群れが相手かよ」

 

 光枝達の担当場所は画面上、円の大きさは一番と言っていい程大きい。

 だがその形は(まば)らで幾つもの点が重なったものであった。

 正確な数は把握できないがこの円の出現は小型の荒魂が群れを形成していることに他ならない。

 

「因みに聞くが、オメェらがデケェのやってアタシらが小せぇのを祓う(ヤル)理由はなんなんだよ」

 

 「荒魂祓う(ヤル)のにそんな実力差ねぇだろう」と険しいままの表情で最後に付け足す。

 

「消去法だ」

 

「…………は? 消去、法?」

 

 短い返しに光枝も短く途切れながらもオウム返しのように呟く。

 

「獅童達の実力は大体把握してるからな。だからデカい反応は獅童と此花に任せれる。一番遠くのヤツは個人的にチョット気になることがあってな」

 

 「それにな」と中央は間を開けることもなく続ける。

 

「立ち会ってみて分かったんだがお前等、獅童達よりも迅く討伐できるんじゃねぇか?」

 

 「なぁ?」と顔ごと真希の方へ向けるとピクリッと、中央の首筋から僅かに空気が張り詰めるのが漂う。

 

「ああ、確かにそうだね。実際、彼女達の荒魂討伐はボクらよりも迅いよ」

 

 答えるべき問いに真希が割って入り代わりに答えた。

 その声から発せられる言葉は彼女達の今までの積み重ねを肯定する。

 

「数が多いなら最短時間で効率よく祓う。被害を最小限に抑えるためなんだ、当然のことだろう?」

 

 然もありなんと言わんばかりに女装した刀使はあっけらかんと言う。

 言っていることは刀使として正しい。

 正しいのだがそれでも心が納得しない。

 こうしている間にも秒針は否応なしに休むことなく進む。

 すると煮えたぎる光枝を見兼ねたイチイが握っていた杖もとい鞘を軽く振り下ろした。

 

「ア゛ダ゛ッ゛!」

 

「グダグダ言っておらぬとさっさと移動するぞ」

 

「何度も何度も……何しやがる……」

 

「数や個体の大きさ、そして強さ。儂らが刀使である限り荒魂とは何れ出会う。それも否応なしにな。森羅万象出会いは一期一会、人だろうと荒魂だろうと、そして御刀だろうとそれは変わらんよ。ただ今回はそういった縁がなかっただけのことじゃ、わかるな?」

 

 光枝が言葉を発しようと口を開いたところでイチイの神速ともいえる迅さで光枝は胸倉をつかまれ引き寄せられる。

 

「わかるな?」

 

 追い詰めるように四文字の言の葉を口に出す。

 しかし反応がない以上、言葉が理解できていないかもしれないと今度は側頭部をガッチリと鷲掴み、鼻先が触れるか触れないかまで顔を引き寄せ、そこでハッキリ聞こえるようしっかりと発音する。

 

「わ、か、る、な?」

 

「わ、わかった……」

 

 プラチナブロンドの髪を身に纏う少女はその身に不釣り合いな無表情さを持ち合わせて圧力をかけだす。

 無表情にもかかわらずその凄まじさに(さなが)ら彼女の背景から……と、オノマトペが羅列されるのが容易に見えてしまう。

 血統書付きの狂犬も飼いならされた忠犬とまではいかないがこの数瞬で躾けを施される。

 飼い主に屈する様を目撃していた各々が異口同音に折れたなと心でひっそりと呟く。

 

「もう寸劇はいいのか?」

 

「いや、寸劇じゃねぇよ」

 

「遅らせてしまいすまんのぅ」

 

 ハハッ、と穏やかな表情を見せるがイチイの声は先ほどと変わらぬ怒気を孕んでいる。

 桑原桑原。

 触らぬ神に祟りなし。

 YESロリータ、NOタッチ。

 神ではないがロリの皮を被った鬼をこれ以上怒らせないよう背筋を立て身を引き締める五人の刀使達。

 

 


 

 

―― 郊外荒魂出現地 ――

 

 

 

 甲高いブレーキ音がけたたましく鳴り響き機械音が止まってから数秒ほど経った後。

 その発生源から二つの帯状の線が路面を黒く焦がしていた。

 折神家が所有する光沢のある黒色のミニバンが急停車した跡がその正体。

 車内は既にもぬけの殻だがドライバー達は割とすぐ近くにいた。

 

「……近くに反応ありです」

 

「だが視認できねぇ」

 

 短い白髪の刀使と長い黒髪の刀使が左右交互に足を動かす。

 そこから変わらぬ歩調で二人の後頭部が微かに下がる。

 

「なら上空か?」

 

「……いませんね。使いますか?」

 

 指示を待つまでもなくスペクトラムファインダーを握った方の袖を捲り柔肌を晒す。

 色白の肌からは想像もつかぬ見ていていたたまれない痛々しい切り傷が共に露出するが夜見自身の性格の所為か目など気にも留めることなどはしない。

 

「いや、今はいい。まだチラホラ人がいる」

 

「……見える範囲にはいませんが」

 

「今はわからなくてもその内わかるようになる」

 

 

 答えになっていませんが……。

 

 

 つい言いそうになった言葉を喉元で留め、何事もなかったかのように捲った袖を伸ばし次の言葉を紡ぐ。

 

「そういうものですか」

 

「ああ、そういうもんだ。何事も経験だ経験。

 俺がどうやって周囲を把握しているのか自分なりに考えてみたりその場の空気を感じるだけでもいい。何だったら見よう見まねで真似したりと、とにかく行動して実践を繰り返せばいい。

 ヤルかヤラナイか、それだけでも違いがでてくるハズだ」

 

 軽い口調と声で言ってみせるが近寄り難い雰囲気を醸しだす中央に夜見は薄っすらと脂汗を滲ませた。

 全身の肌がひり付く感覚が突き刺ささり喉を鳴らす。

 

「逃げ遅れた人がいるのであればこの前のように避難誘導を行う必要がありませんか?」

 

「その辺のことは警察に任せればいいさ。俺等には俺等のヤルべきことがある。刀使の本分を見失っちゃいけねぇよ。

 まぁ言っちゃ悪いが人間なんていつか死ぬ。天災だろうが人災だろうがそれは変わらねぇ、そいつに運が無かっただけのことだ気に留めるな」

 

「……随分と達観していますね」

 

「……」

 

 彼が無声を貫いてから十数秒ほど経つ。

 矢庭に一言も喋らなくなった中央に夜見の心の奥底に一抹の不安がじわじわと押し寄せてくる。

 中央なら何かしらのアクションを投げ返すハズなのだが依然として周囲の森閑(しんかん)さに同調したかのように中央は沈黙を続ける。

 

「……東西南北さん?」

 

「……」

 

 護衛の時では彼は指示を出し、素早く行動を起こしたが今日に限っては違う。静かすぎる。

 今回は荒魂の討伐だからだろうか。

 だからといって別段任務に支障はない。荒魂と遭遇すれば中央(かれ)のサポートに徹するだけだ。

 

「今からする荒魂の討伐、俺は手を出さないからな」

 

 

 

 

 ……。

 

 

 

 

 …………。

 

 

 

 

 ……………!?

 

 

 彼は何を言ったのだろう。

 行動を共にしてからの日が浅いがこの非常時に冗談でふざけたことを言ったりする様な人ではないハズだが。

 

「……東西南北さん」

 

「何だ?」

 

「それは何の冗談ですか? 笑えませんよ」

 

「別に、冗談なんか言ったりはしてねぇよ」

 

「……私の実力は把握しているのですよね」

 

「ああ、獅童達に会う前に渡された資料と前日までの立ち合いでな。モチロン、お前が無数の荒魂を使役できるってのも含めてな」

 

「なら尚更私一人で、というのは些か無謀ではないですか? 獅童さんや此花さんに比べ私では――」

 

「どうしてだ?」

 

 言いかけていた言葉が遮られ、そこで私は言葉に詰まってしまう。

 そこから先程と変わらない口調と歩幅で彼は淡々と続けた。

 

「初めから強いヤツなんていないだろ。 御当主(・・・)や俺だって生まれたときから強かった訳じゃないんだ。

 鍛錬のときから試行錯誤して今に至る。何でもかんでも使えるモノは使い、己の糧にすればいいんだよ」

 

「そういうモノ、ですか……」

 

「そういうモンだ。何だったら毎日俺の寝込みを襲い(・・・・・・)寝首を搔くぐらいしてもいいぜ。そうすれば日常から気配や殺気の消し方とかイロイロ身に着くしだろうしな」

 

「物騒な話ですね……」

 

 数秒程積雲を眺めてから反芻し、私は決意する。

 ひっそりと仰ぎ終えてから再び彼を視界に収め口を開く。

 

「……では、前向きに検討させてください」

 

 言い終えたのを見計らったかのようなタイミングで彼の左手背(しゅはい)が目に映り、そこでピタリと止まる。

 

「それじゃあ、そのポジティブさが続いているうちにアレ(・・)を祓うか」

 

「――!」

 

 祓うか――その言葉で直ぐに身体がこわばった。

 指の隙間からその輪郭を認識するまでもなく、その巨体の存在感に自然と後ずさる。

 アレが中型? 大型の間違いではないのか。

 こちらの見解などお構いなしに短く息を切らし、ギラリと血走る眼でコチラを睨み付ける二足歩行の荒魂。

 手は無いがいくつかに分かれた尻尾を持つその形姿には見覚えがあった。

 狐型と呼称される中型の荒魂――のハズなのだが夜見の目が確かであればそれは今までに確認されたサイズを一回り……いや、二回り三回りも大きくその場で実在しているのだ。

 それに違うのは大きさだけじゃない。

 荒魂特有のオレンジと黒の配色以外に所々痣や血管のようなスジが金色に煌めいている。

 

「……」

 

 荒魂に対しての恐怖心は無い。

 あの方の為(・・・・・)。総てはそこに集約され行きつく。

 だからこそノロも受け入れることは容易く、そこに苦などなく寧ろ喜ばしかった。

 けど、それは今までだけであって、今日この場この瞬間においては違う。

 否定したいが否定しようにも右手が動かない。それどころか指一つすらいう事をきかない。

 

 

 何かが違う……。 ――では何が違う?

 

 

 どこが違う?   ――サイズの問題ではない。

 

 

――月

 

 

 なら何が違う?  ――これは本当に荒魂なのか?

 

 

――い――月――見

 

 

 このままじゃ……何も――

 

 

「夜見ッ!!」

 

 ハッ、と忘却の彼方から意識を連れ戻し感覚を取り戻す。

 

「…………東西南北、さん……」

 

「任務中に何やってるんだお前は」

 

 目の前で御刀である長巻を晒してた彼がひとつ息を吐き出した。

 鈍く輝くそれとは別に地面へ二つ三つと焼痕が見受けられる。

 

 

 焦げ、跡……? 攻撃されていたのですか……?

 

 

「荒魂見るなりボーっとして、考え事でもしてたのかよ」

 

「あ……いえ……あれは、キツネ型……なのですよね」

 

「狐だな。あの形はどこからどう見ても」

 

「……荒魂、ですよね」

 

「荒魂だな。あの特有の身体の配色は。ついでにそのデカさも」

 

 再び夜見は貝殻のように口を閉ざしだす。

 個体ごとで多少の誤差はあるが狐型は中型。

 だが目前の荒魂のサイズは中型というカテゴリーをとうに超えており大型の枠に収まるほど。

 

「ひょっとして、一人で討伐しろってんで緊張でもしてんのか?」

 

「……いえ、そういう訳では……」

 

「じゃあ何だよ。声かけてなかったらあの火の塊が直撃してたぞ」

 

 言葉に詰まる。

 強者たる彼に言っても理解してくれるのだろうか。冷ややかな目で笑い飛ばされる光景が頭の片隅によぎる。

 紫様の昔からの顔見知りとはいえ元々彼は部外者なのだから。

 信頼するにはまだ不安が残る。

 言うか言うまいかを考えあぐねている間にも中央は尻尾から放たれた狐火を弾いていた。

 しきりに増える黒い痕とともに臭気が鼻につきうとましくなる。

 

「……東西南北さん、少しいいですか」

 

「ん? 漸くヤル気にでもなったか?」

 

「はい……ですがその前に話しておきたくて。東西南北さんは荒魂についてはどこまで知っているのですか」

 

「何でこのタイミングでんな事聞くよ。質問の意図が見えねぇんだが」

 

 夜見の今までの人となりや声色からもふざけている訳ではないと伺える。

 だからここは素直に答える為、中央は至って真摯に返答をした。

 

「まぁ、本職のお前等の知識には劣るがそれでも相模湾のことや今までどんなタイプのヤツ等がでてきたかぐらいまでなら記憶してる」

 

「でしたらキツネ型についてもご存じですよね」

 

「ああ、今目の前にいるヤツがそれなりに異常だってのも理解しているつもりだ。

まぁ、なんであそこまでデカくなってるのかは大体の原因は検討がついてる。そこに至った過程はわからんがな」

 

 

 検討がついてる……?

 

 

「ああ、ちなみに御当主(・・・)に訊いても無駄だぞ。御当主も口止めされてるからな(・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 紫様が、口止めされている……?

 

 

 一体いつから。

 誰に。

 どうして。

 なんの為に。

 この人は何を知っている。

 溢れ出る疑問をこのままにしてはいけない。きっと手遅れになる(・・・・・・・・・)

 

 

 手遅れ……?

 

 

 

 

 

 どうしてそう考えるのか。思考があらぬ方向へと向かいそうになった時、ダレかの声がハッキリと聞こえた。

 

 

 

 

 

「――――」

 

 息を呑み、目を見開く。

 鏡などどこにも無いはずなのに瓜二つの自分がそこにいる。

 ノロを投与し過ぎた所為なのか。

 

 

 東西南北さんは気付いていない? では目の前の彼女(わたし)は一体。

 

 

 見たことのない白い制服を着ているがあれは間違いなく親衛隊の制服。

 その彼女がさらにこちらに語りかけるのを止めず――

 

 

 

 

 

 静かに――

 

 

 

 

 

 言の葉を紡ぎ。

 

 

 

 

 

 それだけ言うとドッペルゲンガーは消えていく。

 それは警告というにはそぐわず穏やかで。そう、ただ穏やかに語りかけていた。

 

 

 幻聴……それに幻覚ですか。でも……。

 

 

 反芻する。

 

 

 

 

 

 ……そう、ですね。

 

 

 意外なことに不思議とすんなりと受け入れられている自分に驚かされた。

 目の前の背中を瞳に映す。

 恐らく彼から指南を受ければ獅童さんや此花さんと同じ場所に立てる。

 根拠はないし倫理的な裏付けなどない。

 でも、それでも。

 彼女に必要とされるのであればこそ。

 

 瞳を閉じると一拍おいて、開く。

 

 目には力強さを宿し、僅かに身体を脱力させると漆黒の鞘から御刀を抜き写シを張る。

 と、同時に夜見の身体から白いオーラの他に僅かながら陽炎が揺らめいた。

 

「どうやら決意は固まったようだな」

 

「いえ、決意は固まっていません。ただ、決心はつきました」

 

「じゃあ見えせてみな、お前の決心(それ)を」

 

「……はい」

 

「行ってきな」

 

「……行きます!」

 

 左腕の裾を再び捲ると色白の柔肌に水神切兼光を当て、引く

 一切の躊躇なしに行う自傷行為。

 切り開いた傷口から血は流れず代わりに噴出したは無数に発光するオレンジとブラック。

 それによって生み出された蝶――小型の荒魂――が宙を舞い一斉にキツネ型へと迫る。

 無数の蝶が進軍し夜見もまたそれに次いで迅移で駆け出す。

 「行きなさい」と号令がかかると指令を受けた蝶型の荒魂達が標的目掛け突撃に繰り出した。

 

「――はッ!」

 

 キツネ型へと群がる蝶型の中に紛れ夜見は側面に回り込み一太刀たる唐竹を浴びせる。

 だが空しいかな、放つ一閃は空を斬るだけでキツネ型は健在なまま。

 

「くッ――」

 

 回避されたのならこのまま左切り上げに切り替えるため、握り手を持ち替える。

 だが相手は荒魂。人ではない。

 獣の防衛本能が夜見の動作を上回り頭部から急激な熱を感じとる。

 先ほど起きた中央の焼痕が記憶から甦るとすぐさま呼び寄せた荒魂を壁にしてバックステップ染みた迅移を何度となく繰り返す。

 尾から繰り出される火球により肉壁だった無数の蝶型は活動を停止した。

 

 距離を置いても火球が迫りくる。

 次の一手を決め、またしてもキツネ型の側面へと白霧の線が駆ける。

 水神切兼光が振り上がったタイミングで夜見の反対側から残った蝶型がキツネ型へと加速し向かう。

 

 

 ――ッツ!

 

 

 ゴリ押しとも見てとれる荒魂の特攻と夜見の挟み撃ち。

 しかし挑んだ蝶型も健闘する間もなく尻尾でいなされ、空中、あるいは地面へと叩きつけられる。

 ならばと、挟撃を封じられた次の一手。

 昨日中央が繰り出し寿々花が受けた技。

 一朝一夕で会得できるモノではないにしろ目にした限り威力は申し分ないハズ。

 

 間合いに入るやいなや下段から絞るようにして柄を回転させる。

 どこの流派かも分からぬ見様見真似の土公型(ドコウノカタ)その一式 たる荒神(アラガミ)で目標を叩き斬る。

 

 が、やはりその場しのぎの技術では結果など火を見るよりも明らか。

 刀身が弾かれ天高く水神切兼光の切先は空を見上げた。

 

 自身の技術不足に実戦経験のなさ。

 結局、初めからわかりきったことを再認識させられただけだった。

 最早打つ手がない。

 

 

 ……効かない。何もかもが。

 

 

ここで打ち止めか

 

 

 やはり私では届かない。私では――

 

 

 折れかけた心に諦観さが身体を縛りつけ、纏っていたハズの写シが全身に圧し掛かり御刀も酷く重く感じる。

 スーッと、肉体と精神が離れ、虚脱感に陥る感覚が自覚できた、その時。

 

「――ッ! 東西南北、さん……?」

 

「今日はここまでだ、皐月。後は俺がヤル」

 

「…………わかり、ました。後は、お願いします」

 

「応、任せな」

 

「さて……と、いい加減楽にしてやるか」

 

 そう言って中央は数歩ほど歩を進めると間合いを測ることなくキツネ型の懐に入る。

 写シを纏ってない以上迅移の使用は当然していない。

 純粋な身体能力のみで距離を詰めたのだ。

 

 認知したが最後。

 

 迎撃態勢に動くさ中、長巻の刃文が獣皮に沈み摩擦抵抗を感じることなく(むね)が血肉を通り過ぎる。

 刃筋から遅れて血液に似た液体が噴き出し呻き声とともに霧散する。

 

 

 一振りで、ですか……。東西南北さんにとって人か荒魂かなど然程関係ないようですね。

 

 

 マズイ状況になった。

 ただの荒魂であればどんなに良かっただろうか。

 日本に来てわずか数日で問題が山積みになってしまった。

 こんなことになるのであればギリギリまで向こうにいるべきだったと後悔の念と焦燥感が募りながら横たわる死骸を見つめる。

 ここから先は自分一人では手に負えない。

 キャパオーバーなのは目に見えることだから。

 だから助力を乞おう。

 

 手持ち無沙汰な手を腰に置き、ほんの小さく気息をととのえると、気配がする背後に首を向け。

 

「……もう出てきていいぞ――」

 

 ある男の名を呼ぶ。

 

「――『ノア』」

 

 

 

次回、刀使ノ武芸者―修羅流転録

第12話 その来訪者は相識ではあるが




公開情報

『荒魂』

キツネ型……本来は中型であるが何故か通常よりも二回り三回り大きくなっている。
      配色も荒魂特有のオレンジと黒以外に金色の痣や血管のようなスジができている。その理由について中央は見当をつけている。

蝶型…………皐月 夜見の体内から生成された荒魂。
      自傷行為により体外へ放出、使役が可能となる。数は無数に存在する。


各種荒魂が出てきたらキャラ公開情報のように個別で投稿していく予定です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。