刀使ノ武芸者ー修羅流転録   作:重曹とクェン酸

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先ず始めに15話から読まれる方へ。
前話である13話の末尾を加筆致しましたのでそちらを読んで頂き、それから15話を読むか読まないか判断して下さい。



15.紅蓮旋改

 ほんの一瞬、気を失う。気付いたのは風が凪いだ所為なのかそれとも人工的につくられた風圧が迫りきた所為なのか。

 別段ハイになっている訳でもないがただ一つ言えることがある。そんなことをするのはバカ者のすることで、もひとつ言えば戦場(ここ)では自殺行為である。

 

 チッ、意識が吹っ飛びやがったッ!

 

 幸か不幸かまだ紅蓮旋(ぐれんせん)は始動していない。まだ始動していないということはタメ(・・)を作っているということ。

 紅蓮旋の軌道はほぼ真横一直線。軌道は読みやすいがその術理の特性上、始動時の初速に加速された斬撃とその破壊力は凄まじい。オマケに(すみれ)の扱う御刀――破邪(はじゃ)御太刀(おんたち)は全長が四六五センチメートル、重量も七五キロもある代物。並の武具や御刀であれば一刀のもと、いとも容易く両断されるのは必至。

 付け加えてコチラは背に三人も人質(・・)がとられている以上回避もできないしなにより殺せない縛りがある。ならば防御一択。互いのこのリーチとタイミングでは土公型(あらがみ)も中途半端で終わり最悪の結果に至る。故、中央(なかお)も両前腕を十字に交差し、菫の挙動に合わせる。

 

 

 殺すつもりでぶっ壊す!

 

 へぇ、アナタもそうくる。まぁ、でも……喰らう(勝つ)のはワタシだ!!

 

 

 女装男(中央)も腕を交差させ菫と同じ十の字を作る。相手が使えるのは百も承知であるからこそ勝ちを確信していた。剛と剛。威力と威力がぶつかり合うこの戦いにおいて誰にも負けはしない。

 だが中央(相手)もそれは了承して二式を構えている。

 相手の体躯に御刀はかなりの重量級、加えて焔燃型(カグツチノカタ)を完全に使いこなすとなると生半可な破壊力じゃ防げない。よってこの一撃に加速を乗せる。

 

 

 ――ッ!? 身体が沈んだ!?

 

 

 身体のありとあらゆる部分を脱力し、地面に吸い込まれるように重力に身を任せる。倒れこむ身体、しかし視線はしっかりと正面の金城 菫を逃さない。

 膝が曲がり事前準備は完了する。そっちが純粋な焔燃型(パワー)で向かうのならばこちらは雷電型(最速)焔燃型(最大)の複合で狙う。

 

 

 テメェは今勝ちを確信したんだ。そこからそのデカブツで雷電型(イカヅチノカタ)虚空型(オボロノカタ)の発動は間に合わねぇだろう。仮に出来たとしても、この紅蓮旋改(一撃)は防げねぇわなぁ!!

 

 面白い……面白い、面白い、面白い!! これでこそ武芸者! それでこそ東西南北 中央!! ようやくメインディッシュが食せる!

 

 叩き斬れるもんなら、叩き斬ってみせろやッ!!!

 

 アナタの望み通り、叩き斬ってアゲル!

 

 

 互いに最大の一撃を放つ為、限界ギリギリまで見定め、溜める。

 さあ、届け。

 

 

 絶対に――――――――喰らう!!

 絶対に――――――――壊す!!

 

 

 バチッ!!!

 

 

 腕を弾いた衝撃が響く。同時に放たれた大太刀と長巻は水平に奔った末、止まなかった剣戟の狂乱は終わりを迎えた。

 

「――なあぁっ!?」

 

 呆気ない幕切れに最初に声を出したのは巨刀を振るっていた菫。肉の感触がない。こんな事は今の今までなかった、故に口を開いて目を見開く。

 

「止め、た…………のか?」

 

「止めました…………わよね?」

 

「…………確かに止めました」

 

 

 金城の本気の一撃を止めた……今日会ったばかりの東西南北が、そんな、この僅か短時間で。

 

 ワタシの紅蓮旋が通らない(負けた)!? 何故!?

 

 

 菫の目に映ったのは鍔と(はばき)が破損し、そして刀身がひび割れている破邪の御太刀。力では自分よりも劣る男に止められ、その男の御刀(・・)の刀身はひび一つ入っていない。

 

 

 紫電閃(しでんせん)と紅蓮旋のかけ合わせか……まさかワタシの破邪の御太刀に対してそれをやるとは、これは見事と言わざるを得ない。それに……この状態じゃ三式、はキツイな……刀身自体も修復しないとマズい、かな。

 

 

 冷静になり「ふぅー」と、菫は一息ついて纏っていた闘気をスーッと引っ込めて半歩後退る。長巻に触れていた刃先も離れ、刃文(はもん)が後頭部へと移り峰を左手で支えるとこれ以上の攻撃はない、と菫なりの意思表示する。

 圧が消えた? 伝わっていないのか中央は訝しみ菫の動向を注視しるが菫色の目が前髪に隠れて視線が分からない。

 まだ警戒しているのを悟り菫は一言告げる。

 

「終わり」

 

「……何?」

 

「そのままの意味。今日はもう終わり」

 

「……ほぉ、そうか」

 

「納得してないみたいだね、不満? それともまだヤリ続けたい?」

 

「いや、そっちがその気ならそれで構わねぇよ、コッチは続ける理由はねぇしな。だが、お前さんが止める理由はやっぱ御刀が欠けたからか」

 

「んんー秘密。楽しみはまた今度(・・)にでもとっておく。それに次ヤル時は本当の姿(・・・・)がいいからそれまでとっておく

 

 前髪とマフラーで表情は見えないがその声は弾んでいるのは間違いなかった。ウキウキと胸を躍らせた姿を目にすると真希たち三人は戸惑いを隠せなかった。

 

「金城、君――」

 

「じゃ、獅童(しど)此花(のはな)、それに皐月(さつ)またどこかで」

 

 三人には目もくれず言葉だけを残すと大股で進み、拾いあげた鞘に破邪の御太刀を納めると嵐の如くその場から過ぎ去る。伸ばした手に掴むモノなどなく、遠くから微かだが断続して聞こえるカッコー、カッコー*1という音や排気音、それに足音やしゃべり声が耳に入ってくる。

 

「――は」

 

「……行ってしまいましたね」

 

「嵐そのものですわね」

 

「大したものだよアナタは。あの金城から無傷で退かせたのだから」

 

「……………………」

 

「……東西南北?」

 

 音を立てて中央は崩れ落ちた。力尽きたのか握っていた長巻も間髪入れずその場で横たわっている。

 

「――!?」

 

「東西南北!!」

 

「東西南北さん!!」

 

「大丈夫か東西南北(よもひ)――」

 

 ――

 

 駆け寄った三人は 横たわる中央を囲うが真希が言いかけたところで何らかの擬音が彼女の言葉を遮る。突っ伏した男は絞り出したか細い声で「……は……」と漏らし言葉をつなぐ。

 

「腹、減った……」

 

 白目をむき口から白いエクトプラズムをゆらゆらと放出しながら中央はふり絞り食料を寄越せとジェスチャーする。

 連続する緊張感から解き放たれたことと中央の姿が滑稽だったこともあり、それぞれ笑い声を吹き出す三人。

 

「……あれだけ激しい戦闘を繰り広げましたから無理もありませんね」

 

「むしろそれだけで済むのですから。まったく、今までの緊張感を返していただきたいですわね」

 

 全く格好付かない年長者だが危機的状況を覆した命の恩人であることには変わりない。呆れた言葉で声をかけてはいるが心底呆れているわけではなくその表情は明るく、どこか安心しきった顔を向けている。

 

「ホント、大したヤツだよキミ(・・)は」

 

 

 色々とアレだけどホント、キミは……。

 

 

 寿々花や夜見のように真希もまた口角を上げ穏やかな表情で中央を見下ろす。和んだ空気の中でも硬い土瀝青(アスファルト)に頬がへばり付き、一度として顔を上げることのない中央は懇願する。

 

「誰でもいいから、飯……早く、食わせてくれ……」

 

 凪いでいた風が再び吹く。

 それに併せて羽を休めていた一羽の燕*2が遥か大空へと翼を広げ飛び立つ。旅立つ日に備える為に青く、白く、広く、深いあの蒼穹(そら)へと。

 

 

 

次回、刀使ノ武芸者―修羅流転録

第16話 兄妹

 

*1
音響信号機

*2
巣立ちは8月頃




フラグポイント 増減値 累計
獅童 真希√     +1   1

同僚からの借金-
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