刀使ノ武芸者ー修羅流転録   作:重曹とクェン酸

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16.兄妹

―― 市街地周辺 ――

 

 

 

 暖かい時期、ユスリカの大群が蚊柱を作るようにこの市街地で小型の荒魂が群れをなし、そこかしこに飛び回る。しかし、群れといっても小型。刀使そこにいる以上、着実にその数は目に見えて減っていく。

 

「オォォイッ!! なんでアタシ等の描写が省かれてんだッ!!!」

 

 声を張る黒と蜜柑色(バレイヤージュ)の髪の少女が声量を上げて次々と荒魂の中を駆け抜け、堕とす。

 自分達の状況についてどんな弁明をされてもやはり納得がいかない。白い帯は加速し続け地を、壁を、宙を、そして空を駆けショートカットが踊り、一刀二対(・・・・)の刃が舞う。

 

「お主、誰に何を言っておるのじゃ?」

 

 気の短い少女の罵声にこれまた老人語の少女が答える。

 豪快に乱舞する少女と異なりその場から一歩も動かず、しかし少女の代わりに刀身は奔る。

 

「目の前のテメーにだよ!!」

 

「はて? 儂はお主の百八十度、つまりは真後ろ、今は真上におるハズじゃが可笑しなことを言うのぉ」

 

「ハァ!? テメェ、マジでそれ言ってんのか!?」

 

「真正直じゃぞ? お主まだ若いのにもう呆けたのかぇ?」

 

 まだ十代だというのにもうボケたとは。相手の若年性認知症を疑う佐等(さとう) イチイが聞き返すがそれを煽りと受け取ったのか、裏隠居(うらいんきょ) 光枝(みつえ)が休むことなく一撃で荒魂を無力化していく。

 斬っては柄で円を描くように回転させ、時には自身も前転、側転、横転、後転を繰り返し、そしてまた斬る。

 

「ああッ!? フカシこいてんじゃねぇよチビがよォ! ボケたのはテメェの方だろうがァァァ!!」

 

「はて……これだから近頃の若いモンは。最近は耳が遠くなってのぉ、何を言ったか聞こえぬ」

 

「こんのォ…………クソがぁぁああああッ!!!

 

 

 怖い……。

 

 

 応援に駆けつけた鎌府女学院の刀使は怯えていた。荒魂ではなく味方である刀使に。

 光枝の悪評は聞いていたから多少身構えることはしていたがいざ実物と顔を合わせてみると前評判よりも数段怖ろしかったというのが彼女の感想だ。

 当たり散らすヤンキー的ないつ自分が恫喝されるかわからない。そう、ただただ恐い。

 

 

 早く帰りたい……。

 

 

 これでは中型……いや、大型の荒魂が暴れ回っている方が幾分かもマシというものだ。心の内での願望に意識を向けている間にもスペクトラムファインダーの反応は消失していく。

 

「姉御ォー! 二時の方向から十匹ぐらい接近してますぜー!」

 

「佐等さん、住民の一時避難完了しました!」

 

「しょうがない、では儂も動くかのぉ。光枝だけに任していたら終わるのがいつになか分からん。打ち漏らした荒魂はお主らに任せるでの」

 

「はい!」

 

 返事を聞くや否やイチイもまた光枝と同じく迅移で大地と空を縦横無尽に舞い始める。

 

 

 


 

 

―― 折神家 ――

 

 

 荒魂の出現により中央(なかお)達親衛隊メンバーと臨時応援の光枝とイチイが出動し、独りとなった(ゆかり)は執務室に向かっていた。

 彼と彼女らがいなくなったことで普段の喧騒さが噓のように消え失せる。

 

「始まったか……」

 

「何が、始まったと言うのだ?」

 

 執務室に辿りつくと独り言を呟き、ドアノブへ手をかけたところで背後からくぐもった声の男が言葉をかけた。

 恐らくはナニカに遮られた所為だろう。

 

「いらしていたのですか……何時こちらに? 事前に連絡をして頂ければお迎えに上がれました。わざわざ待つこともありませんでしたでしょう」

 

 後ろへゆっくりと面しその姿を視界に入れ、男を呼ぶ。

 

兄上(・・)

 

「ほぅ……このような醜い姿(ザマ)に成り果ててもまだ(われ)を兄と呼んでくれるか」

 

 そう言って紫が兄上と呼ぶ男――降魔(ごうま) 辞世(じせい)、旧姓を名乗るのであれば折神(おりがみ)  星藍(しょうらん)は相対する。

 

 彼は全身を白い装束――白衣(びゃくえ)に白い袴――で装っていた。袴も光の当たり加減で大きな白い文様が映るが醜い姿(ザマ)と言うからには皮肉交じりでその服装のことを指してはいる訳ではない。

 くぐもった声の正体である頭部と顔の輪郭までをガスマスクのように覆うプラチナ製のマスク。

 例え兄妹だけで会する状況だとしても鋼の意志を貫き通し、この降魔 辞世という男は素顔を晒すことはしない。

 

「貴方は紛れもない私の兄です。戸籍上折神家から除名されても貴方は私や朱音と同じ折神の血が流れている、その事実に噓偽りで着飾るなど出来はしない」

 

「それがお前の本心だと今はそう受け取っておこう。で、だ。世間話をする為に本家に来たわけではない。お前のことについてだ」

 

 辞世を執務室内に通すと備え付けのソファに座るよう促し、辞世も促されるまま腰掛け、紫と同じ艶やかな黒色の総髪が揺れる。

 腰が深く沈んだのを目し、紫もまたエグゼクティブチェアに腰を下ろす。

 

「私の……ですか」

 

「左様。お前の護衛とし置いている刀使だが今は三人しかいないのであろう? それでは不十分だ」

 

「親衛隊に迎えた者達は四人ですが」

 

「その内の一人、(つばくろ) 結芽(ゆめ)は今もまだ病床に伏していると耳にしている。それでは席を置いていないのと同義ではないか」

 

「こちらで用意したノロを投与させます。復帰できるまでそう時間はかかりませんので問題はないかと」

 

 親衛隊への入隊が確定してはいるが病状の淵から完治の目途が一向にたたない燕 結芽の名が挙がる。通達されていない事柄だとしても折神家の分家たる降魔家、折神の長子には包み隠すこと能わずか。

 そちらの動向の一つ一つ何もかもを見透かしていると、そう釘を刺すような声と言葉が紫の心に突き刺す。

 

「ではその娘、一体いつになれば使い物になる? 直ぐに体調が万全となるわけではあるまい。なら今直ぐにでも使える人材を速やかに補充させるべきではないか」

 

「兄上の御厚意は痛み入りますがそう易々と人材を確保できるものではありません」

 

「というと?」

 

 微動だにしない辞世が視界と呼吸口の無い真っ平らなマスクの底からジッと見つめ、紫の言葉を待つ。

 精神から肉体にまで突き刺す視線はなおも紫に更なる負担となって圧しかかる。

 

「親衛隊に席をおく獅童(しどう) 真希(まき)此花(このはな) 寿々花(すずか)皐月(さつき) 夜見(よみ)、そして残る燕 結芽の四名に勝る者、もしくは同等の力量を持つ者がいないのが現状です」

 

「いるではないかその四人よりも力量が遥かに抜きんでている者が」

 

「その者というのは佐等 イチイか裏隠居 光枝、それとも金城(かねしろ) (すみれ)ですか? 彼女らには協調性というものが見られませんでしたのでコチラの判断で親衛隊への配属は見送らせました。

 あの手の者達は単独で動かした方が何かと都合がいいかと」

 

「まだいるではないか」

 

 その三人でなければ思い当たるのは絞られてくるがそれでも当てずっぽうになってしまう。次は伍箇伝外の該当しそうな者を挙げてみる。

 

「警衛大学には……いるにはいますが彼女もまた協調性に欠けます。招集に応じるとは思えませんが」

 

「いや、その者でもない」

 

 

 当てが外れたか。であれば残るは教員からの選出となるが現場を離れて久しい者が急に職場環境が変わり使い物になるかどうか。事務処理は何とかなるだろうがそれでもやはり荒魂討伐に紫の護衛、それに伴う対人戦闘など不可能である。かすりもしないだろうがと念の為聞き返す。

 

「では教員からですか?」

 

「平城にいる娘だ」

 

 痺れを切らしたのか辞世から返ってきたのは過去、戦場をともに駆け抜けた(かつ)ての戦友――吉野(よしの) いろは改め、今は五条(ごじょう) いろはが統括する平城学館、そこに在籍する刀使の名。平城で獅童 真希以上の刀使となると一人しか思い浮かばない。

 その少女の名を口にする。

 

一刀(いっとう)、ですか……」

 

「左様。あの娘ならばお前の言う協調性とやらも難はあるまい、何よりも実力でいえば親衛隊に席をおく四人よりも上に位置する。本来であればいち早く一席として迎えるべき娘だ」

 

 どうやら的中したらしく張り詰めた空気と辞世の声が僅かばかし緩んだ気がした。

 

「以前親衛隊への入隊を打診しましたが一身上の都合により辞退していますが」

 

「それなら案ずることはない。コレを平城学館の五條 いろはに渡せ」

 

 座っていたハズの辞世が瞬きをした瞬間、音もなく近付き目の前に迫っていた。差し出されたA4用紙を受け取ると文頭には太字で辞令書の三文字が書かれその下に異動の旨が定型文として記されている。だが右下には誰の名前も書かれてはいない。

 

「辞令書……後は私のサインと捺印をするだけとは、随分と用意周到なのですね」

 

「あの娘の実力をこの目で見ていたときからお前の側近にと既に目を付けていた。それが御前試合の結果の有無に限らずにな」

 

「検査した際にノロとの適合率は余り高いモノではありませんでしたが……それでも、ですか?」

 

「ノロを使わずとも充分な戦果は期待できよう。それに万が一の事態が起きたときお前にとって有益となる人材だ……これでもまだ不服と申し立てるか?」

 

 紫が座したままとはいえ辞世が見下ろす様はマスクも相まってか見下す様な威圧感を与えてくる。故に一時的に弛緩した空気は緊迫感が執務室内に再び漂わせた。

 それに伴ってエグゼクティブチェアの肘掛けに置いた手と辞令書を掴む手から滲み出る脂汗がジワリと出てくる。

 

「いえ。兄上からの進言、謹んでお受けします」

 

 スッと立ち上がりお辞儀の為、上半身を四五度に倒す。

 それを承諾の意と受け取り踵を返すと辞世はドアへと向かう。

 

「ああ、宜しく頼むぞ。では(われ)は失せるとするよ。多忙なお前をこれ以上拘束しては執務に差し支えるだろうしな」

 

 そう言って重くもなければ軽くもない足取りからドアノブを掴みその去り際、一つ思い出す。

 身体を反転させ、再び紫に声を掛ける。

 

「ああ、そうだもう一つ」

 

「何か?」

 

 まだ何かあるのか。そう思いながらも上体を引き起こし辞世の言葉に耳を傾ける。

 

大荒魂(タギツヒメ)にも宜しく伝えておいてくれ。ああいや、聞いているのだったな。聞いての通りだ大荒魂(タギツヒメ)もう一人(・・・・)新たに配属されるが気にせず貴様が成したいことに励め。(われ)は邪魔立てはせぬ。だが……」

 

 圧が膨らみ。

 

(われ)の邪魔をするのであれば容赦はせぬ」

 

 瞬く間に室内をソレ(・・)が支配した。

 

「貴様を態々(わざわざ)生かしているということ、くれぐれも忘れるでないぞ。いくら(われ)が貴様を祓うことができないからといっても延々と痛みと苦しみを味わいたくはなかろう?」

 

 隠れた目から発せられる視線は紫の頭を、首を、心臓を握り潰す様に先ほどとは比べ物にならないくらいの息苦しさが彼女を蝕む。大荒魂(タギツヒメ)が中にいるといってもこれが実の妹へ向ける視線なのか。強張った身体は瞬きすら許させはしない。

 

「では、失礼する」

 

 

 ――

 小さく鳴ったドアラッチと元の位置に戻ったドアノブを見届けると息苦しい空気から解放され脱力し、前触れもなくエグゼクティブチェアに身体を預ける。

 その拍子で辞令書も床に滑り落ちたが先ずは解放されたいという気持ちが勝り、白い縦縞模様の入った紫色のスーツインナーの第一ボタンを開けフゥー、と息を漏れ出す。

 大荒魂(タギツヒメ)の存在がいる以上安閑(あんかん)としていられないがその大荒魂(タギツヒメ)も内側に引っ込み普段よりも存在感は薄れている。

 

「――――」

 

 大荒魂(タギツヒメ)と実の兄。内側と外側に問題を抱えたまま過ぎた人生も一八年、辞世()のことであればそれ以上の歳月が過ぎた。女系家族である折神の家に生まれてきた以上どうにもならないし、どうにかするにしても自分はまだ若輩者の小娘で辞世()を救うことなどできはしない。

 嘆きたくなるのを抑え、落とした辞令書を拾いあげるとサッと机にそれを落とす。

 

「兄上が認めた刀使、か……」

 

 辞令書に書かれた名を見て呟く。一刀(彼女)辞世()にとってはきっと道具(コマ)と同じ扱いなのだろうとそう思いを巡らすが結局、一刀にも辞世にもどうしてやることもできない。

辞世()朱音()とはまともに喋ることもなくなった。辞世()と同じく自分ももう元の兄妹姉妹には戻れない。だからせめて、辞世()は救われてほしいと願う。

 

美奈都(みなと)…………(かがり)…………」

 

 そして悔やむ。

 もう何もかも放り投げてしまいたいなどとマイナスな思考に囚われていると背後に何者かの気配を感じ取る。

 

「……鳥……?」

 

 

 何故このような場所に……。

 

 

 ノックするようにコンコン、と窓ガラスを小突く音と微かにパタパタと動く音とともにレースカーテンに映る影。掌に深く突き刺さった爪先を解き、立ち上がる。

 背後にある湾曲した窓ガラスに近寄りレースカーテンを開くとそこには小さな燕がこちらを見下ろす……いや、見つめるようにその場でホバリングしていた。

 

「燕か……入りたいのか――」

 

 入りたそうにしている燕をなんとなしに迎え入れようとし窓を開くとホバリングしていた燕は枠に降り立ち羽を休める。

 観察する間もなく口ばしに目がつく。咥えていたのは一輪の花。

 燕はクイクイ、と口ばしを上下させる。

 

「これを私に……?」

 

 無警戒で百合の花を受け取ると黒い翼をはためかせ燕は羽ばたく。

 女が知ることのないどこか遠くへと。

 

 

 


 

 

―― 折神家表門 ――

 

 

「あら、話しは終わったのかしら?」

 

 強固な表門を通り抜け、赤い木橋を進む途中で声が掛かる。余程待ちわびたかのか欠伸まじりの声で美濃関学院の制服だと判る赤紅のセーラー襟スリットの入ったスカートを着た()が言うがしかし、男は歩みを止めず小股で進む。

 だが決して無視を決め込んでいるワケではない。

 

「ホゥ、随分と早く終わったのだな。首尾は如何様か」

 

「ダメね。全然(ぜんっぜん)ダメ。隠し部屋や隠し通路やらを手当たり次第に探ってみたけどそれらしいモノは見当たらなかったわよ」

 

 背もたれ代わりに木橋と同じ赤色の欄干(らんかん)*1に身体を預けたまま折り返しのあるニット帽(ダブルワッチ)を被った女は返答しながら手を無造作に振る。

 

「ホントにあんの?」

 

「以前は本家(ここ)に保管してあったのだが紫が持ち出せぬ以上、朱音が持ち出したか或いは何者かに吹聴された第三者か……」

 

「じゃあ、舞草(もくさ)に向かう? 折神 朱音が持ち出したのなら舞草の、確か里だったわね。そこのどこか、もしくは誰かが隠し持ってるでしょ」

 

「可能性は無きにしも非ずだが朱音ならいざ知らず、今リチャード・フリードマンと邂逅するのは得策ではないな。なによりお前をその二人の前に晒すワケにはいかない」

 

 曖昧なまま適当に女は発するが危機感の無さに自分の認識を改めさせる為、女に今一度釘を刺す。

 

「じゃあどこ探すのさ」

 

「まだ伍箇伝内を探しておらぬから、次は五校の内のどこかになるな。だが美濃関に平城、長船は後回しだ。行くとしても貴様は連れて往かぬ。その三校へ赴くのであれば使い捨てにできる者だけだ」

 

 互いに顔は合わせずに言葉を交わすが見ている先は両者はともに同じ。であれば急ぐ必要性などは皆無。故、消去法で対象物の在り処を探る。

 

「鎌府と綾小路の二択しかないじゃない。まぁ、美濃関にはあのジジイがいるみたいだし、長船には折神 朱音とリチャード・フリードマン、つまりは舞草と癒着してるから分かるんだけど平城はなんでさ」

 

「平城に関しては紫が使いを出すかもしれぬ。それに関わりのない五条 いろはに感付かれてでもしたら厄介だ。昼行灯を気取ってはいるがあれで感が鋭い」

 

「そん時は始末してあげるわよ? 折神 紫と伍箇伝の学長ら五人がジジババ共に鍛えられたとはいえ相模湾の一件から鍛えるのを止めた連中だもの、万に一つの可能性なんてありはしないわ」

 

 空を仰ぎながらヘラついた顔で自分の首元に四指を伸ばし爪を立て、スパッと斬る動作をしてみせる。それがいとも容易いかのように。

 

「仮に鍛えていたとしても素人に毛が生えた程度よ」

 

「この国にとって重要な教育機関の学長だ。まだこの国の行く末が決まらぬ以上騒ぎを大きくする必要もあるまい。それとも、やはり己が『子』に会うのは(はばか)られるか?」

 

 突如、一瞬にして辞世の身体はプラチナのマスクだけを残して天河石(アマゾナイト)グランディディエライトの輝きを放つ結晶体が覆いつくす。

 発生源を辿れば辞世と話していた制服姿の女、その足元から地面を侵食し、形成されていた。

 

 ギロリと殺意にも似た視線が刹那で向けられ空気が張りつめられる。殺意とはいえ漸く辞世へ視線を向けた。先刻、執務室で辞世が紫と大荒魂(タギツヒメ)に向け与えた恐れが二人の空間を包み込み怒り、憎しみといった負の感情が今度は辞世自身に向けられる。

 だが留まったのはわずか一瞬であって直ぐに結晶体とともに霧散した。目の前の辞世()は敵ではないのだからと落ち着きを取り戻すと女は短く嘆息する。

 

「あんなのはただの失敗作よ、わたしの子供じゃないわ。わたしの才を一欠けらも受け継がなかったのだからアレはただのゴミ………………にも…………劣る」

 

「どうした?」

 

 珍しく歯切れの悪い女に辞世は声を掛ける。ひねくれた性分だがこれまで言いよどむことはなく、物珍しいこともあるものだと見ているうちに女は要領を得たのか目を見開き開口する。

 

「いや、アレら(・・・)の保管場所だけどひょっとしたら分かったかもしれない」

 

 過去の記憶から女は掘り起こす。

 代わり映えのない見慣れた場所。嗅ぎなれた空気。興味の失せた奴らとの他愛のない会話。

 不必要だと切り捨てたモノがこんな形で役立つとは正に僥倖というべきだろう。褒めてやってもいいとすら思える。

 

「何、それは真か?」

 

「ええ、心当たりがあるわ。子供の(くだり)でね、ピンときた」

 

 制服の上からスウェットシャツを被り女が運転席に乗り込むと辞世もすかさず助手席に腰を下ろす。

 

「なら、ここからは別行動とするか。念押しだ。(われ)はこのまま鎌府に行った後、綾小路へ赴くとする」

 

 エンジンを始動させようとしたところで女の手が止まり、「はぁ?」と語気を強めてぼやきだす。

 

「いやいや、だったら着替えさせてよ。女学生のまま移動するなんてイヤよ。一体どんな羞恥プレイ? コスプレ趣味なんて冗談じゃないわ。大体別行動つったって、アンタ運転できないでしょうよ」

 

「なら誰か変わりの者を寄越そう。次いでだ、お前も自分の愛車の方がよかろう。貴様の車と一緒に着替えも持たせる」

 

(そこ)で着替えろと?」

 

 サムズアップで二回、三回と窓を指す。コスプレ趣味の次は露出と視姦による恥辱をご所望とはこのオッサン、まだ性欲が減退していなかったのかと呆れる。

 だが返ってきた言葉は女に追い打ちをかけた。

 

「裸如き今更恥じらう歳でもなかろう」

 

「全裸はまだ夫にしか見せたことないんだけど?」

 

「貴様まるで自分が淑女かのようなことを言うな。これまでで恥じらう場面があったとしてその都度、気にしたことがあったのか?」

 

「いや無いな。うん。そうね、そういえば無かったわ」

 

 考え込むまでもなく、即答による一刀両断。

 

「………………」

 

「………………」

 

「では呼ぶぞ」

 

「ええ、そうしてちょうだい」

 

 沈黙の後、辞世は然るべき相手に連絡を入れる。通話中の辞世の隣で女は物思いにふけた。

 

 

 ああ……愛車が恋しい。

 

 

 

次回、刀使ノ武芸者―修羅流転録

第17話 雛鳥は雷花(かみなりばな)のもとで

*1
墜落防止の手摺り




キャラ公開情報

※オリキャラとなります。

氏名……降魔(ごうま) 辞世(じせい) (旧姓:折神(おりがみ) 星藍(しょうらん))
一人称……(われ)
備考……折神 紫と折神 朱音の兄。
折神家の長子だったがある事情と女系家系ということもあって折神家の分家たる降魔家に出家する。
頭部と顔の輪郭までをガスマスクのように覆うプラチナ製のマスクを着用している所為で発声はくぐもる。
紫の中に潜む大荒魂(タギツヒメ)の存在を認知しているが刀使としての能力がない為、見逃しており、
本人曰く、祓うことは出来なくとも苦痛を与えることはできると言う。
ナニカを探している為、変装した女と共に暗躍している。


氏名……?? ??(美濃関学院の生徒に変装した女)
一人称……わたし
備考……既婚者。だが恥じらいは皆無の模様。
伍箇伝のどこかに子供がいるが、自分の才能を全く受け継がなかったという理由でその子供をゴミ扱いしている。
愛車を保有しており、運転は可能。辞世と何かを捜索している。
天河石(アマゾナイト)グランディディエライトといった青緑色の結晶体を足から形成することが可能。
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