短い月日は過ぎ去り、今しがた
通り過ぎた門には表札が二つ。縦書きと横書きの物で特別祭祀機動隊奈良支部と平城学館中等部 高等部、と文字で記されている。
ここは所在地を奈良県のとある場所に構える特別刀剣類従事者訓練学校の一つ、平城学館。
二人は並ぶことなく、けれど歩く速さは一定。迷うことなどはない、慣れ親しむ母校なのだから。
そうして先導者として前を行く一人は革色に染まる平城学館の制服から研究用白衣を帯し、追従していくもう一人は平城とは別の他校の制服を着用し、竹刀ケースを握りボストンバッグを肩にかけている。
「ここが平城学館……」
僅かだが左右に首を動かして敷地内を赤紅の瞳で映す。中等部と高等部の両立させる刀使育成機関というだけあって一般校よりもかなり広く建てられている。
まだ授業中ということもあり喧騒もなく玄関口はしんと静まり返っていた。
校舎に足を踏み入れ、校内を見回す。
「何をしている十条、ぼさっとしていないで歩け」
「ああ、すまない」
立ち止まった姫和に気付くと青と水のミディアムヘアーの少女――
「ここがそんなに気になるか?」
「いや気になるというかあまり変わりがないんだな、と思って」
「それはそうだろ。刀使育成機関とはいえ中身はただの中高一貫の訓練学校なんだ。一般校と違うのは精々御刀と
率直な感想を述べると少しズレたメガネの位置を直し、雷花がそれに答える。
姫和も濡羽色の髪を小さく揺らしながら言葉をつなげる。
「それはそうだが」
「なんだ、復讐以外に何か興味が湧いたのか? あれか、男か。そうかよかったな
「何をいっているんだお前は」
「そうなった場合、十条は絵になるな。艶やかな黒い髪、サラッサラのロングヘア―、そして時たま見えるうなじ。なによりボディソープじゃなく石鹸で身体の隅々まで洗っているというのがポイント高い」
「おい」
三ヶ月という短い共同生活を経て雷花は思い出す。晴れて同校の後輩となった少女の裸体。そして
猥談のスイッチが入ったことに気付き、すかさず姫和が止めに入るが。
「それからマイクロビキニが似合う貧しい双丘、そしてなんと言ってもツンデレ。これもポイント高い……が、いや待て、お前の身体だと旧型も捨てがたいが新型のスク水。それも脇から腰にかけてラインが入った背面部の
「やめろ」
常識人の皮を被った変態メガネの妄想は十条 姫和という少女を燃料にヒートアップし色欲と煩悩まみれの脳内妄想を膨らませた。
標的とされた姫和の顔は朱色に染めてはプルプルと身体を震わせ握り拳に力を込め、制裁の為の準備を完了させる。
「よかったな十条よ、男女問わずモテモテになりそうで…………ハッ! そうか……
「おい、やめ――」
止めようと声量が上がりかけたその一瞬で視界が黒く覆われると同時に姫和の顔、特に鼻先と鼻筋あたりに衝撃がかかった。
反動でわずかに後退り鼻を押さえると雷花を見やる。
「
「着いたぞ。ここが学長室だ」
目的地に着いた二人は立ち止まった。
雷花の言った通りそのドア上に掲げられたプレートには学長室の文字が掲げられている。
「ん、なんだ緊張しているのか? 吐くなよ」
「三ヶ月前のことを蒸し返すな! 大体あの大惨事についてはお前のスパルタと意味不明なドリンクの所為でもあったんだぞ! 大体、毎食毎食炭水化物中心で組み合わせなんて――」
「はいはい。じゃ、入るぞ」
「あ、おいまだ話の途中――」
姫和からの抗議の声を右から左へ流してコン、コン、コン、とドアを軽くノックする。
今日は編入の為に来たこと、今の今までヒートアップしてしまったことを即座に思い出し、コホンと小さく咳払いをして背筋を正す。
「はぁい?」
「一刀です」
「どぉぞ~」
入室の許可を下したのは柔らかな関西の方言で返す女性の声。取り敢えずは高圧的な人物ではなさそうだとホッと胸を撫で下ろす。
「失礼します」
「失礼します」
雷花の入室から一歩遅れて姫和も一言断りをいれて続く。
「あら、雷花ちゃん、長期出張ご苦労様。予定より随分お早い到着やね」
「ええ、思っていたより彼女の筋がよかったものですから。あっコレ頼まれてた」
迎え入れたのは
「おおきに。それでその子が」
「ええ。十条この人がお前を平城に編入できるよう取り計らってくれた五条 いろは学長だ」
五指を開き、差し出すようにその手をいろはに向け学長たる彼女の名を口にする。
「初めまして、十条 姫和です。よろしくお願い致します」
「初めまして、十条 姫和ちゃん。ここの学長をしてます五条 いろはです。どうぞ、よろしゅうなぁ」
自己紹介とともに姫和は三十度ほどに頭を下げ、いろはもまた姫和と同じように自己紹介に続き頭を下げる。
「ここに来る前に学内のことは一通り説明済みですので本題に入ってもよろしいかと」
「おおきに。でもな、
「はい!」
互いに姿勢を正した状態でいろはからの言葉にタイムラグの生じない言葉が返る。
真っ直ぐな瞳に意志の籠もった言葉。生半可な覚悟でここに来たワケではないのはそれが証明してくれている。なにより雷花が姫和を自分のもとに連れてきたのだ、決して中途半端で匙を投げるなどはしない。いろはもそこは雷花という少女を信用している。
「決意は……もう固まっているみたいや、ね…………」
「どうかしましたか?」
言葉に詰まるいろはに疑問符を小さく浮かべる姫和。
「わたしら、こうしてここで会うの初めてやよね?」
「そうですが」
妙な沈黙が室内を漂うとお互いに気まずい時間が流れる。ただ一人、手で口を押さえて声もない欠伸をする雷花を除いて。
結局、違和感の正体がなんなのか掴めぬまま何事もなかったかのようにいろはは表情を少し崩して喋り出す。
「ほな、これを腕に通してみ。姫和ちゃんも今日から
透明な包装紙に包まれた平城の制服を受け取ると姫和はそれを見つめる。
母が着ていたモノとは違う制服。それに学校も違う。だけど、これで、漸く同じ刀使となることができた。漸くスタートラインに立てた。後は――――
「ありがとうございます」
今度は深々と頭を下げる。
濡羽色の後ろ髪がサラリと撫でるように背中から零れて垂れ下がると、そしてゆっくりと静かに赤紅の瞳が見開く。
待っていろ、