刀使ノ武芸者ー修羅流転録   作:重曹とクェン酸

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ご観覧ありがとうございます。

20話投稿のハズがキャラ設定を投稿してしまったので投稿し直しました。

申し訳ないです。


20.餞別

―― 平城学館 教室 ――

 

 

 姫和(ひより)が平城学館に編入してから早二週間が経った。だというのに少女には友人と呼べる学友が一人もいない。それもそのはず。彼女が平城学館に来たのは剣を学び、己を磨き、血濡れた道を進むためである。決して友達百人をつくり青春を謳歌するためではない。

 

 一匹狼となる状況になったのも思い返せば編入時の当日。編入してきた珍しさもあってか姫和の周りには編入初日から人だかりと質問攻めにあう。

 だが姫和の素っ気ない態度はシャイで物静かな性格ないしクールな人だと周りに印象付けた。

 

 そこから少しずつ亀裂が入り、溝ができ、やがて不和が生じていく。

 

 剣術の授業でも直ぐにそれは視覚化されていた。

 息も乱れぬ所作で行う素振りに始まり切り返しや基本打ち、打ち込み稽古にかかり稽古、果ては地稽古でさえも他を圧倒する。

 

 その剣速は雷の如く、振るう圧は苛烈でなにより一撃一撃が受けるには重い。

 

 

 

 氷のように凍てついた姿勢が周囲に伝染し、声をかけてきたクラスメイトは一人、二人、三人…………と数日足らずで距離を置かれるようになっていた。

 

 孤立。

 

 わずか数日足らずで積もった塵は山脈となり村八分の状態を生み出す。

 その決定打ともいえるのが一刀 雷花の存在が一番といっていいほど大きい。

 

 

 いつものように(・・・・・・・)奏でられた楽曲が段々と音量を増して近付いてくる。本人の気分なのだろうか、ショパンの夜想曲の次となる本日四度目の楽曲はトルコ行進曲が反響する。

 

 

「十条はいるか?」

 

「またお前か……」

 

 

 溜息を吐き出す原因となる刀使が一人、打楽器や弦楽器の奏でる音を引き連れ研究用の白衣が驚きの白さで引き戸をスライドさせる。

 二学年上の雷花が断りもなく入室してきたが編入してから一日毎、それも数時間毎にくる先輩刀使の要件は決まっている。

 

 

「また雑務を私に押し付ける気か?」

 

「それもあるが次いでに荒魂討伐だ。さっさとついてこい」

 

 

 緑のラインが入った白いセーラ襟を引っ張られズルズルと上履きを引き摺り、姫和の意志とは関係なく強制連行が執行される。

 

 

「あッ、オイ! 制服を引っ張るな」

 

「なんだ、髪を引っ張られたほうがよかったのか? このマゾヒストめ」

 

「そんなワケがあるか! とういうか荒魂の討伐を次いでとかいうな」

 

「次いでは次いでだ」

 

 

 諦めたのか観念した姫和が「わかった、わかったから。手伝うからその手を放せ」とついていく姿勢を身振り手振りを交えながら訴え、雷花もその言葉を受け止めてはセーラー襟をスパッと放す。

 

 

「…………で、荒魂討伐を蔑ろにしてまで優先させる事とはなんだ」

 

 

 乱れた制服を正しながら問いただす。

 前回、前々回のように校内の修繕作業や学び舎を一周して清掃するなんてことは御免であるが……と内心思って後をつく。

 

 

「学長が食べる茶菓子のストックがきれかかっていてな、それと(わたし)も時々食べさせてもらっているんだ補充しないとマズい。」

 

「そんなことで荒魂討伐を片手間で済ますつもりか」

 

 

 今度はお使いか……。

 

 

「授業を受ける時間が減っていくのだが」

 

「気のせいだ。仮にそうだとしてもお前の学力なら問題あるまい」

 

「いや、大ありだろ。鍛錬の時間が減る」

 

「なら勉学のうち予習か復習、もしくは両方の時間を減らせ。いや、もういっその事剣術以外の時間は削れるだけ削れ。寝るな、食うな、飲むな、吐くな、排泄するな、喋るな、聞くな、息をするな。何だったら剣以外なにも持つな」

 

 

 立ち眩みのような感覚が襲い掛かる。だが一月以上の共同生活下で雷花という少女の言動(こと)はわかってきたのだが如何せん慣れない。仕方なく聞き流すだけに留め言葉を続ける。

 

 

「お前もう無茶苦茶だぞ。補習を受けるどころか剣を握る時間…………いや生活することすらままならない。それでは本末転倒じゃないか」

 

「フッ……それぐらいなら如何様にもできる。いやどうにかしてみせろ、自己管理と時間管理は社会人なら当たり前のことだぞ。今さらなにを言っている?」

 

「それには同意だが、私もお前もまだ学生だろ」

 

 

 目の前を先導していた研究用の白衣が急に止まる。

 

 

「え?」

 

 

デルタ六面体のイヤリングが宙で跳ね上がるとメガネチェーンが白い裾とともに翻り、キョトンとした表情が姫和を見つめる。

 

 

「……ウソだろ?」

 

「ウソではない。私もお前も刀使で学生だ。一体なにを言っているんだ?」

 

 

 翠色の目が見開き文字通りのきょとんとした表情を向けてくる雷花に対し、姫和も真面目な表情と声をもって答える。

 

 

「……あーそうか。そうだな、うん。これは夢だな。そうに違いない」

 

「――――ッ!?」

 

 

 突如として雷花の手が姫和の胸部を捕らえる。

 

 

「なにをしている……」

 

 

 なすがままされるがままに胸部を包む五指が不規則に動き続ける。

 

 

「いや、なに。今この時が夢か現か確かめたくてな……ふむ、この形やはり馴染む――」

 

フンッ!!

 

「――オッと、以前よりも速い挙動だ。修行の成果が出てきているな、いい傾向だ。だが拳であれ剣であれ無言で繰り出せ、フィクションじゃないんだから一々声を発するな」

 

 

 触れるか触れないかの紙一重で上体を反らすと今度は姫和への啓蒙とともに反対の手が再び胸部を覆う。

 

 

自分ので試せッ!!!

 

 

 何事かとまばらに各教室のドアが開き生徒達が顔を覗かせ、騒ぎの中心部たる女子生徒達に視線が集まったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

―― 平城学館 敷地内 ――

 

 

「荒魂の討伐、それと買い出しに行くんじゃないのか」

 

 

 雷花に連れられて外に出たはいいが歩くこと数分、二人は校門を出るどころか学内を今だ歩き続けていた。

 答える気がない雷花に変わり姫和はスペクトラムファインダーを立ち上げ荒魂の出現位置を見ようとするも反応らしいモノは何一つとして浮かび上がらない。

 

 

 騙した……?

 

 

 信用に足る人物ではないが言動がアレ(・・)なだけで今さら不意打ちをかますような実力でも性格でもない。あるとすばセクハラか突拍子もない思い付きか。

 なんにせよ、雷花が口を開くのを待つほかない。

 

 

「先ほどは買い出しに荒魂討伐と言ったがあれはヒ素だ。あ、間違えた嘘だ」

 

「だろうな。スペクトラムファインダーに一切反応が出てないんだ、それでこんな人気のない所に連れ込んで一体なにをやらかすつもりだ?」

 

 

 またロクでもないことでも思い付いたのだろうと睨む。何故そうやって直ぐふざけるのか。精神的にもくたびれた身体から溜息が無意識に吐き出された。

 肩肘張るのもいい加減バカらしくなってくるので一人でに仰いでは空を流れていく雲を赤紅の瞳で流し見る。

 

 

「ああ、この度卒業することになってな」

 

「…………………………は?」

 

 

 適当に聞き流そうとしていたら聞きなれない単語が唐突に耳へと入り靴底が地面から離さないでいた。

 

 

 今、なんて言った? 聞き間違いか? 今雷花(コイツ)は卒業と言ったのか? この時期にか!? 何故だ……何故このタイミングでッ……!

 

 

 過去の自分とはなんだったのか。雷花の指導で今では別人のように成長している。錯覚などではない。これは紛れもない強さ、その入り口から漸く踏み出し、そして歩き出せた。

 自分はまだまだ強くなれる。なのに、その矢先に指導者が不在となる事態。

 

 いつの間にか拳をつくり、今にも音が鳴りそうに聞こえてくる。

 卒業なんてまだ先の事だと思っていたのに。どうしてそうなってしまったのか理由を探そうとしている姫和を尻目に雷花は口元はまだ動く。

 

 

(わたし)自身全くと言っていいほどめでたくはないんだがどうにも仕方なし否応なしにな……こうしてめでたく親衛隊入りとなってしまった、今日はその報告というワケだ」

 

「いや、ま、ちょッ、待て……」

 

 

 また質の悪いおふざけなんだろ? いつものふざけたBGMはどうした。こういう時に使わないでどうする。

 

 

 どう取り繕ってやればいいのか、気まずさを微塵も隠そうともしない困り果てた顔が晒された。

 普段の言動からは想像できない表情にあてられ言葉に詰まる。

 

 

 どうしてそんな顔をするんだ。まるで本当の事を言っているみたいじゃないか。

 

「いやはや、まさかお前の敵対する側に回ってしまうとは……」

 

待てって!!!

 

 

 その態度がどこまで本気なのか。腰に手を当ててポリポリと青色の後頭部を掻いていると怒鳴り声が正面から迫りくる。人気のない場所を選んだのだから当然、目の前の姫和が発したモノだ。

 

 

「それは……嘘じゃ、ないんだな?」

 

「ああ」

 

 

 (うつむ)く姫和から出される声は弱々しく、相対する雷花も彼女に感化され活気は打ち消されていた。

 とてもじゃないが感情の処理が追い付かない。喪失とは違った感情が姫和の心をかき乱す。

 

 

「断ることはできないのか……?」

 

 

 か細くなるがそれでも声を絞り出した。

 

 

 ようやくスタートラインに立つことができた……まだまだ教えてもらうことが山ほどある…………それなのに……それなのにこんなッ!!

 

「顔を上げろ十条 姫和」

 

 

 ハッキリとした声が姫和の耳に入り込む。

 その声に俯いていた顔はゆっくりとだが上げて雷花を視界に入れる。

 

 

「なに泣きそうになっているんだ」

 

「泣きそうになどなっていない」

 

 

 いわれのない指摘から潤みだしていた赤紅の瞳を彼方へと反らすが、それでは彼女の言葉を事実だと認めてしまいそれはそれで癪だと、時を置かずに翠色の瞳を再び捉える。

 

 

「まったく、このツンデレ娘は……まぁいい。決まったことはどうにもならん以上、利用させてもらうだけだ。十条」

 

「……なんだ」

 

(わたし)はこのまま親衛隊に入るが何かしらの情報が入ればお前に報じてやる」

 

「ありがたいが、それは結構リスキーじゃないか? もしバレでもしたら」

 

「伝える手段なら幾らでもある、そこは安心しろ。だが……その為にはこちらが提供したことに対してお前は享受しなければな」

 

「なんだ?」

 

 

 普段よりも低いトーンで話すことからこのタイミングでふざけだすことはないだろうがそれでもやはり警戒はする。何せここに来るまでに幾つも前科があるのだ、どうしても必要以上に身構えてしまう。

 

 

「ああ、今から見せる技を会得しろ。それも暗殺する御前試合までに」

 

 基本となる五つの型(・・・・)はある程度形になるぐらいには習得させられたが別の新しい型か……それとも今まで覚えた型その先があるとでも?

 

 

 剣術の基礎とともに半ば強制的に仕込まれた一刀 雷花による剣技――その五つの型。

 

 

速さの雷電(イカズチ)

       威力の焔燃(カグツチ)

              体捌きの虚空(オボロ)

                      変化の水龍(ミズチ)

                              そして、破壊の土公(ドコウ)

 

 

 この数ヶ月で五つの型はそれぞれ一式までは形にすることができている。雷花自身も時期を見て二式を教えると明言していた。であれば後者である二式を、もしくはこのタイミングで全ての型式を伝えようとしているのかもしれない。

 なればこそと姫和は雷花の一挙手一投足、ありとあらゆる挙動を見逃すまいと全身を強ばらせる。

 

 

「これから教えるのは今まで教えた型じゃない」

 

「なに……?」

 

「いや、正確には一つの型を三式まで。そこからプラスアルファで(わたし)のオリジナルを見せる」

 

「オリジナル……お前、一体いくつの剣技をもっているんだ」

 

「既存の術技なら十五……実戦(・・)に使えるオリジナルであれば八つほどだな」

 

 

 その数に戦慄するほどではないが、やはり異常に思える。荒魂相手にこれほどまでの剣技を必要とする理由はなんなのだろうか。大荒魂(タギツヒメ)の存在を容認しておいてもなお戦いの準備をしている。

 

 

「よくもそんなに考えつくものだな」

 

 

 短い嘆息とともに言葉が吐き出された。

 

 

「フ、とうとう尊敬……いや敬愛してくれるようになったか?」

 

「これは呆れだ」

 

「嬉しさのあまり嬉ションしたくなったか?」

 

「これは呆れだ」

 

「校門をバックにブレイクダンスを踊りたくなったか? フラッシュモブの一人として出演してもいいぞ」

 

「これは呆れだ」

 

「世界の中心で愛を叫びたくなったか?」

 

「…………これは呆れだ」

 

「美濃関、鎌府、綾小路、長船、そして平城(うち)に盗撮したお前の着替え――」

 

「――教えるなら早くしろぉッ!!!

 

 

 袋小路に陥りしびれを切らした姫和が遮る。その直後、彼女の頭の中で不穏な二文字が反響しだしインテリメガネの皮を被った変態に問い詰める。

 

 

「というかいつ盗撮したんだ!」

 

「知りたいのか? ちょっと待ってクラウドデータから引っ張って……」

 

「オイ、本当に盗撮したのか!?」

 

 

 研究用白衣からスマホを取り出しかけたところでその腕に姫和の両手が力強く掴んだ。

 

 

「……ナンノコトダ?」

 

「目が泳いでいるぞ」

 

「コッチを向け」

 

「…………」

 

「コッチを見ろ」

 

 

 放そうにも逃がす気はないらしく、万力の如くジワリと締める力は増しだす。

 レンズ越しに映る翠色(すいしょく)の瞳が明後日の方へと動くも赤紅の瞳がそれを許さず目と鼻の先まで詰め寄る。

 

 

「…………」

 

「オイだんまりするな」

 

「………………いいだろがッ! 裸やパンチラ、ブラチラの一つや二つ!! 胸以外にもアソコとケツの穴の小せぇヤローだなァッ!!!

 

「なッ、自爆した当人がなんでキレてるんだ! ホント汚い言葉を使うよな!?

 

そこに奇麗な柔肌が無防備で転がってるんだ、画像と動画に収めたくなるのが人間の(さが)ってもんだろがッ!!

 

なんでそんなキャラがブレブレ……グフォ――」

 

 

 言いかけたところで雷花の姿が消えだすと次の瞬間――には右腕が掴まれ、姫和の足が払われた。音も無い技の前に身体は地面に沈む。

 所謂柔道の出足払(であしはらい)をかけられただけに留まらず今度は腕挫(うでひしぎ)十字固による雷花の攻勢は続く。

 

 

「官能の偉大さ重要さを理解できんとは嘆かわしい、なッ!

 

「お、前のォは……ただの性欲だろ。大体、女が女に欲情してどうす――」

 

「こ、れ、は、か、ん、の、う、DAッ!!

 

 

 語尾を強める度に締め付ける力は増し、その威力は上限というものを知らない。

 

 

「そしてぇ……性癖とは自分で扉を開くもの、今がそのときッ!!!

 

「――――いッ、痛い痛い痛い痛い痛い。ギブだギブッ! 私が悪かったッ!!

 

 

 大空に唾液が飛散するほど大口で発した言葉に骨が軋み悲鳴は増幅する。

 常人ならばとっくの昔に折れてもおかしくない腕挫十字固だが雷花の度を越えた修行(シゴキ)自家製飲み薬(プロテイン)を強制的に服薬を強いられた姫和の肉体強度は十代とは思えないほどに高めてくれた。

 

 

「そうか、giveか。仕方ないなこの欲しがりさん、め☆」

 

(ちが)ッ、違うと言って――――」

 

 

 誰が言ったか怒りは力となる。ネガティブに捉えられるがスポーツや勉強、遊びでもなんでもいい。とにかく何かしらの原動力となるには違いない。その瞬間が十条 姫和にも訪れる。

 

 

「――――るだォオがぁァァァアアアッ!!!

 

「ファッ!?」

 

 

 猿叫じみた叫びが雷花の胸をお返しと言わんばかりに容赦なく鷲掴む。

 

 

 この状態で(わたし)の胸を掴むだと!?

 

「フッ、やるな十条……だがこの一刀 雷花、この程度の痛みに屈するな――――」

 

 

 この程度の痛みは余裕だとすまし顔を見せる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!

 

 

 が、そんなものは30秒と持たなかった。

 

 

「HA☆NA☆SE」

 

「誰が放すか」

 

「わかったわかったわかった(わたし)が悪かった」

 

「もうしないな?」

 

「しないしないから、早く力を抜――力を抜けェエッ!! 乳房がもげるッ!!!

 

 

 

 

 

 

 じゃれ合いもほどなく終わり両者のボルテージは右肩下がりに急降下した。

 

 

「…………なにをしているんだ私は」

 

 

 両ひざをついて跪く姫和はどうにかして正気に戻る。

 

 

(わたし)も一体なにをしていたんだ……」

 

 

 雷花も自我を取り戻し大の字で空を仰ぐがやがて乱れた呼吸も落ち着きをみせ上半身を起こす。

 

 

「……話しを元に戻すぞ…………」

 

「……頼む…………」

 

 

 

 

 盛大な時間浪費の後、漸くまともな思考をすることができるようになった二人は当初の目的へと軌道修正を行い、五つの型――二式、そして三式とその身で受け、身体と脳に刻む。

 教授できるタイミングは今日この一度だけしかない。それ故にそれぞれの術理の特性を把握した上で受ける。雷花が加減したお陰もあってか小烏丸の刀身は刃こぼれ一つしなかった。焔燃型(カグツチ)土公型(ドコウ)もあったというのに雷花が本気で型を繰り出していれば今頃は小烏丸もただでは済まなかっただろう。

 

 

「さて、次が(わたし)のオリジナルだ。心して受け取れよ」

 

 

 そう言い終わると御刀を真下に向け切っ先を地面へ垂直に突き刺す。

 

 

 素手? 一体どういう。

 

「お前が言いたいことは分かる。だがこれは安全の為だ、納得してもらうしかないな」

 

「……それほど危険な技なのか?」

 

「ああ、コレは容易に防ぐことなどできなくてな」

 

「写シで防いだとしてもか?」

 

「写シなど意味を持たない。決まれば必殺にして絶命。例え御刀で防いだとしても御刀(それ)ごと人体を余裕で貫く」

 

「――――!?」

 

 

 言葉が一瞬出なかった。彼女の言っていることを言葉通りに受け取ればそれはつまり――――

 

 

「……試した、のか?」

 

「荒魂討伐のときにな。駆けつけた時には手遅れ、既に荒魂に成り果てていたよ」

 

 

 過去――自身のした行為の肯定。

 

 

「知り合いだったのか?」

 

「仮に知り合いだったとしても然程深い仲というワケでもなかったな」

 

「後悔してるか?」

 

「さて、な……まぁ、後悔ならとっくの昔に別のことでしたがな」

 

 

 言葉を濁しメガネを外してレンズを拭き、空に(かざ)す。

 今まで見せなかった感情を悟られぬよう顔を隠している所為で雷花が今何を思いどんな表情で言っているのかわからない。

 

 

「お前が私に構うのはそういった経緯があるからなのか?」

 

「悔やんで感傷的になったワケじゃない。立ち合ったとき、ただお前に剣の才能があると感じたから(わたし)の技術を教えただけだ」

 

 

 メガネを掛け、佩刀金具から鞘を取り外すと今度は太刀緒(たちお)金具から鞘を抜き、それが土に沈む。

 

 

「お喋りが過ぎたな。さあ、写シを張って構えろ」

 

「安心したよ」

 

「何がだ?」

 

「このまま素手の技を教えられるんじゃないかと思ってな」

 

(わたし)は剣術以外は知らん」

 

 

 突き立てた鞘尻が正面の姫和へと向く。

 

 

「今から教えるこの技は突きに分類されるモノだ。十条、お前の『一つの太刀』が防がれるあるいは回避された場合、次の手立てはなにか考えているか?」

 

「正直考えていなかったな。柊の人達からは使えば必中と教えられてきたから」

 

「荒魂にならそうだろうな。だが人、それも一度その技を受けた大荒魂(タギツヒメ)が憑依している刀使に使うんだ、防御や回避といった行動を執られたらあのレヴェルの武芸者(・・・)なら刹那の瞬きで命をとられる」

 

 武芸者……?

 

 

 姫和の耳に聞きなれない言葉が混じるが一先ずの疑問は置き、技を会得することに専念し雷花の言葉に耳を傾ける。

 

 

「その為にコイツ(・・・)を餞別代わりに教えてやる。どう使うかはお前次第だ」

 

「……この場合、私が送り出すのだから餞別じゃなくて寸志じゃないか?」

 

「こまけぇことはこの際どうでもいい……気張れ」

 

 

 吹き出される圧に気圧されて無意識の内に土を擦った音で気付かされる。

 

 ああ……こんなにも遠く、まだ高いのか。

 

 強さに近付こうとする度に思い知らされることを。強者の頂へと続く道のりが如何に嶮しいことを。でも、進む。乗り越えてみせる。

 

 

「いつでも」

 

 

 全身の脱力により両膝の関節を僅かに曲げ半身で構える雷花と正眼に構え正面を晒す姫和。

 姫和の目には刀文の模様と平地が目に映り、雷花の目には両刃の煌めきが映る。

 水龍型(ミズチ)のような変化を加えなければ鞘尻は直線的にくる。問題はその威力だが関係ない、チャンスは今日この一度きりのみなのだから。故に物にする。

 

 

「では、行くぞ」

 

「ああ」

 

 

 姫和の短い返事が終わるとともに雷花は地面を蹴り、踏み出す。右肘が下がり小さな溜めの後鞘尻(切っ先)が姫和の胸元に迫る。

 

 来る。

 

 噓偽りのない圧を孕んだ突きが奔る。

 自分が成長しているのは実感していたが、だからこそコレは防げないと理解する。

 突きの速度と雷花の発する圧が相乗し小烏丸での防御が間に合わず、鞘尻がめり込む胸の激痛がそれを思い知らす。

 突きの衝撃が2メートル程にわたって二筋の(わだち)を作り出した。

 

 

「気絶はしなくなったか。上出来だな」

 

「バカを、言うな……呼吸、する、のがやっとなん、だぞ……」

 

 

 肩が上下に動き続けながらも小烏丸を杖代わりにしてかすれた声で答えるが素直な身体は悲鳴をあげ、直ぐに膝と地面は密着しスカートを汚す。

 

 

「そうは言うが写シは剥がれていない。昔のお前だったら今ので死んでるか、よくて失神していた。これほどの成果が出ているのは喜ばしいことだ」

 

 

 差し出された手を掴みなんとかして地面から膝が離れた。

 

 

「途轍もない、突きだな」

 

「物に出来そうか?」

 

「――――」

 

 

 ほんの一瞬――言葉に詰まる。

 起き上がった拍子に顔を直視したが声のトーンもそうだが起伏のない表情で見つめる雷花には言いようのない怖気を姫和は肌で感じる。

 

 

「どうかしたか?」

 

 

 だがそれも時を待たずして治まる。今のはなんだったのだろうか。やはり任務中とはいえ同じ刀使を殺してしまった話を聞いた所為で雷花に対して妙な偏見を心の奥底で抱いてしまったのだろうか。

 

 

「……いや、なんでもない」

 

「そうか」

 

 

 怪しむ素振りを見せず何事もなかったかのように振る舞う雷花にそっと胸を撫で下ろす。

 

 

「伝えることは伝えたし、行くとするよ」

 

「ああ…………なぁ」

 

「なんだ?」

 

「まぁ、その、なんだ……ありがとうな」

 

「礼を言うのはまだ早い。なにしろこれから先は前途多難なのだから、復讐を終えるまでは誰も彼も使用するな。復讐の妨げとなる」

 

「肝に銘じておく」

 

「じゃあな、十条 姫和」

 

 

 まともに名前を呼ぶこともなかった所為で躊躇いが生じる。こんな時はなんと言って送り出せばいいのか。

 

 一刀? 雷花? 先輩? 先生? 少なくともお姉ちゃんとは言わないし逆に向こうからお姉ちゃんと呼ばれたくもない。

 おちゃらけた行動も、真面目な顔も、過去を想う姿も、冷たい表情も、強大な圧を纏う姿もどれが本当の一刀 雷花なのか。

 尻込みしている間に雷花の姿は小さくなっていく。

 

 

「雷花!!」

 

 

 ヤメだ、ヤメだ。今さら他人でもないし、だからといって特別親しいわけでもない。こんなことで躓いてどうする。出たとこ勝負だ。

 聞き返されないようめいいっぱい声をあげる。

 

 

「なんだ!!」

 

 

 雷花も同じように声量をあげ聞き返してくる。けれどこの距離では姫和の視力をもってしても彼女の表情は伺えれない。

 

 

 精一杯声を張り、もう一度感謝の言葉を声にする。

 伝わったかどうかわからないが雷花の表情が微笑んだような気がした。

 

 

 

 

―― 平城学館 寮 ――

 

 

 

「なんだコレは……」

 

 

 雷花から技の伝授を施されてから寮の自室に戻ると部屋には幾つか段ボールが山積みにされていた。ガムテープを破くと中には一本一本がカラフルな液体の保存瓶や粉末状にされたナニカを詰めた透明な袋がこれでもかと段ボールにぎっしり入っている。

 そして次に目に入ったのは十条 姫和へ、と書かれた一枚の封筒。取り出すと筆跡から誰がやったのかを察する、などという労力はしない。この平城でふざけたことをするのは一人だけだ。

 

 

 どうせこれもわたしなりの演出だ、などと言うのだろう。

 裏向きにしてみると案の定、ふざけた名前が書かれていた。

 

 ジェネリック・(バイ)胡坐(アグラ)(用法用量は守れよ) より。

 

 

 人の名前ですらないな……。

 

 

 どうやって解錠と施錠をしたのか、そしてこれ程の段ボールをいつ入れたのか等言いたいことをグッと堪え封筒を開封し、便箋に目を通す。

 

 書かれていたのは長ったらしい挨拶の定型文の後に各薬の内服についてだ。

 ぷるぷると全身が震え、そこで姫和は絶望する。

 

 

「全部、飲むのか……!?」

 

 

 もう一度便箋に目を戻し続きを読むが最後の二文で生気を失う。

 

 

 

 追伸、継続して飲めば効果は絶大だ(当社比)。だが次会ったときなにも変化が見当たらず今日のようなザマを晒すのであればお前の未使用の尻にリンゴを捻じり込みピー〇□×△ピーして〇□×△ピーする。

 

 追伸、お前の為に味は改悪――ゲフンゲフン、改良しておいた。後日品評を聞くから存分に味わうがいい。

 

 

 姫和の中で謝辞を述べたことの後悔とともに何かが盛大に折れる音が聞こえたきがした。

 

 

 

 

次回、刀使ノ武芸者―修羅流転録

第21話 変わりゆく世界の変わらない朝




公開情報には一刀 雷花の加筆済みです。
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