刀使ノ武芸者ー修羅流転録   作:重曹とクェン酸

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21.変わりゆく世界の変わらない朝

 

 

 雨が嫌いだ……。

 

 あの日を思い出すから。

 

 

 午前三時を過ぎた頃、ぴしょぴしょと外から鳴る音に気が付きベッドに横たわる女は瞼をゆっくりと開きそのままカーテンの方へと見やっていた。

 

 やはりか。こういう日に限って嫌に長い夢を見せられる。

 

 カーテンの隙間から見える薄暗さに入り雑じった音が案の定、直ぐに雨声だと分からせられる。

 せめて驟雨(しゅうう)であってほしいがどうにも止む気配のなさにうんざりし、前腕で目を覆い隠した。

 

 

 不規則だけど変わりなく聞こえる耳障りで不快な音。

 髪や衣類が濡れれば肌にへばり付き奪われる体温。

 ぼやけた視界はあの光景を記憶から呼び起こす。

 

 

 嫌な日……。

 

 

 薄暗く静寂に包まれた部屋で白無地の寝間着姿の女は不快な音をなすがまま受け入れる。

 どうにかしたいものだが如何せん耳を塞いでやり過ごしてもこれは自然が起こすもので何をしてもその時、空の気分次第、どうしようもなく時間だけが過ぎていく。なら諦めるより他ない。

 

 

 …………ほら、そうこうしているから殺風景な自室があの日(・・・)の光景に切り替わろうとしてる。

 

 余計なモノが見える前に女は洗面台へと向かった。

 

 

 

 

 

 身体を預けた洗面器の天板からひんやりとした感覚が両手に伝わる。

 水栓金具の蛇口から一定量の水が排水口に吸われ続けることと顔に付いた水滴が稀に落ちるのを幾度かただ眺めては意識と思考をどこかに忘却させていた。

 そんな特に意味のない行為に飽きたのか女は化粧鏡へと視線を向ける。

 

 

 酷い顔……。

 

 

 生気の薄れた、言い換えるならば草臥(くたび)れた顔を晒す女が一人。

 

 その隣でもう一人のダレカが女の耳元に近付くと鏡の中で口が開く。

 

 

 

 ―

 

 

 

 発したダレカは女を見ず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―

 

 

 

 能面のようにニコリともせず、ただ目の前を目し。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―

 

 

 

 女に言い聞かせ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―

 

 

 

 血肉と化して女の一部とする。

 

 

 

 

 自分の為だろうと他者の為であろうとそれはあってはならない。無機質なままそれは呪詛のように何度も唱える。

 

 己を殺せ。

 感情を殺せ。

 未来(あした)を望むな、現在(いま)など否定しろ。

 

 お前にそこにいる資格はない。

 

 過去に沈め。

 

 日々摩耗していく中で自らを縛り己を希薄にしていくその強迫観念は破滅願望を植え付けるためのルーティン。

 

 そう教え込まれ生きてきたのだから、そうしなければならない。

 

 瞬きを数回繰り返して自分を直視する。

 右目の光彩はセピア色でそれ自体は至って普通。しかし左目に映るのは鮮やかで、けれどルビーのように真っ赤な光彩。視界を何度暗転させてもこの異常なオッドアイは変わらない。

 

 試しに変色した瞳を手で覆い隠して、退ける――――が、この現象(・・)、瞳の色素を失っている以上、不変的でそれは変わるはずもなく。

 

 仕方ない……と、諦めが小さな嘆息と成して吐き出される。

 嘆きや憂いもただの時間の浪費。仕方なしに収納棚から常備している抑制薬(ヘリオギュレ)を無針注射器にセットし、それを躊躇なく打ち込む。

 2年も経てば打つ場所、恐怖心は薄れて慣れていく。しかし痛みだけは別だ。無針注射といえどこれは慣れない。ほんの僅かに顔をしかめ、握っては放す――――を繰り返して心身ともに異常がないことを確かめるとコンタクトレンズを付け、また自分を見つめ直す。

 映るのは光彩をセピア色にした双眼の女。異常はどこにもない(・・・・・・・・・)

 

 そう言いきかせてクリスタル状の蛇口ハンドルを捻り、洗面台を後にする。

 

 

 


 

 

―― 警察署 敷地内 ――

 

 

 駐車場に車を止めてから何時間経っただろうか。「自分で連れ戻す」と苦々しい表情で玄関に向かった同乗者の背中を見送ったまま百合園(ゆりぞの) 小百合(さゆり)はハンドルを握った両手に額を付け瞑想する。

 彼女の性格なら少なく見積もっても連れ戻すのに三十分は容易にかかるだろうか。しかし、学生時代とは異なり彼女も今や成人を過ぎた身。それなりにコントロールはできているハズ……だと思いたいのだが現状は悪化の一途をたどっている。

 その証拠に腕につけたミリタリーウォッチの短針と長針があと30分もすれば12の上に丁度重なる。

 

 口は悪い、だがそれでも親しい者には親身になって口と手が動く……訂正、先に手が動き、後から説教という名の罵詈雑言が飛び交う。

 

 小百合から見ればそれも彼女の美徳と悪癖の表裏一体。

 そこまで人に真摯に向き合えるその人格やら性格やらは正直羨望している。

 

 だがそれにしても――――

 

 

「遅い……」

 

 

 ポツリと言葉を漏らしてから然程時を待たずして右隣の窓ガラスがゴン ゴン ゴン ゴン ゴン、と強めに数回叩かれた。

 

 漸く来たか。

 

 顔を上げると案の定、数時間前まで車内にいた紺色のリクルートスーツを着るドイツ人女性――――ヒルデガルト・V・リッターの剣幕を視界に捉える。

 

 

「はよ開けーや」

 

 

 暗いブロンドの髪を纏う女はその容姿に似つかわしくない関西訛りの低い声が怒気を孕まし窓ガラス越しの小百合の耳に入る。

 

 

「随分と時間がかかったようね。人目もくれずまた説教?」

 

 

 ドアロックを解除し、エンジンをかけ直すとヒルデガルトの代わりに入ってきたのは黒い髪がウニのように尖り切った毛先を持つ鎌府女学院の制服を着た少女に尋ねる。

 

 

「そーなんですよー。ヒルちゃんがガミガミ、ガミガミと。それも大声で! しかも次第にヒートアップするものだから歯止めがきかなくってー」

 

 

 どっこいしょ、と半身で乗り出しては後部座席にその身を投げ出した制服少女は主観を口にする。相手のリアクションなど求めていないのか指を組んだストレッチの最中にふと気掛かりが口から言葉として紡ぐ。

 

 

「あれ? そういえば今日は何でごっつい車なの? いつもの高そーな車はー?」

 

「貴様もう忘れたのか」

 

「うわ、クサッ!」

 

 

 ドアを開けっぱなしにしていた所為で瞬く間にふかした紫煙と先ほどと変わらない声音が車内に入り込む。

 小百合に尋ね返した制服の少女は侵入してきた臭気を察知しては鼻を摘まみ、臀部(でんぶ)を使ってそそくさと隣の座席へと移動、そのまま行き止まると――――キョロキョロと逃げ口を探す。

 「乗ったならさっさと閉めろや」と言葉を発して後部座席のドアを閉めたあとヒルデガルトは助手席に乗り込む。

 

 

「消臭スプレー、消臭スプレー…………あれ? ゆりちゃん、消臭スプレーはー?」

 

「無いわよ」

 

「えぇ……」

 

「少しぐらい我慢せえ」

 

「えぇ……」

 

 

 年上達からの無慈悲な発言に少女はやや困惑しだす。

 

 

「じゃー換気しますよーだ」

 

 

 仕方なしにドアのスイッチを全開に窓ガラスをスライドさせ、そのまま顔を覗かせる。

 

 

あ゛あ゛あ゛あ゛~~~~空゛気゛が゛ウ゛マ゛い゛ーーーー

 

「そんな急いで吸わなくてもよかったのに」

 

「ウチがこのバカに教戒してた所為で時間が狂った。贅沢は言えへん」

 

 

 カチッ、とシートベルトタングがバックルに嵌まり小さく嘆息してから後部座席へと顔を向けた。

 

 

「出発できへんから、貴様もさっさとシートベルト締めーや」

 

「へぇーい」

 

「出してええで」

 

 

 少女がシートベルトを締めるのを見届けるとヒルデガルトが出発を促す。後に続き、小百合が運転席と助手席の間にあるレバー式のサイドブレーキを解除、シフトレバーをパーキングからドライブへと切り替え、アイドリング状態に飽きたクロスカントリー車がじわりと進んでいく。

 

 

 

 

「それで、今日()なにをやらかしたの? (ひじり)

 

 

 ハンドルは固定されたままバックミラーに視線を寄越さずに小百合は声だけをかける。

 

 

「やらかしたもなにも聖は人助けしただけだよ?」

 

アレ(・・)のどこが人助けや。加害者がほぼ半死人状態やないか」

 

 

 首を傾け、鎌府女学院の刀使――――新木(あらき) (ひじり)は真面目に答えてみせるがヒルデガルトが即座に否定を口にする。

 

 

「えぇーースリの現行犯を捕まえたんだから人助けでしょー?」

 

「ならなんで留置所に拘束されてんねん貴様は。警官もまたかって呆れとったで」

 

「またか、ってなんですかー。聖は犯罪者撲滅という悪即斬で社会貢献活動をしてただけですよー」

 

 

 ひょっとこの様に口を尖らせ聖は不満を漏らす。

 

 

「なら手加減ぐらいせーや。犯罪者だろうと相手は武装もしとらんただの人間やろ」

 

「ちゃんと手加減しましたよー? あれぐらいでダメになるなんて人間失格ですよ?」

 

貴様等(・・・)と一緒くたにすんなや。小百合からも言うてやれ」

 

「一先ずそれは置いておいて」

 

「置くなや」

 

「ププッ……! 流されてやん――――アギャッ!?

 

「余計な茶々言うな。それで、小百合は何言おうとしてんねん」

 

 

 スカスカになったKooLと印字されたタバコの空箱が聖のおでこを弾く。

 

 

「聖……貴女御刀はどうしたの?」

 

「ちょッ――――ヒルちゃん、ゴミ捨てないで……へ? 御刀?」

 

 

 今の今までその存在を忘却していた刀使は制服を弄り、プリーツスカートをめくり上げて覗き込む。あるのは当然の如く布地の手触りと瞳に映った黒色のショートスパッツのみ。

 

 

「…………ああ、御刀…………御刀………………ね…………………………聖の御刀って今ドコ?」

 

 

 壊れんばかりにブレーキペダルを踏み込む小百合。

 配慮する間もなく周囲に甲高い異音を撒き散らし段階的な減速をすっ飛ばして数十メートルもの距離をタイヤは無回転で進む。

 どうやらハンドル操作だけは間違えなかったが道路には黒いタイヤ痕が帯状に記し、標識のついたスタンドを通り過ぎて路肩に停止する。幸いなことに後続車と対向車線からは一台も通り過ぎなかった。

 直ぐに聖を見やるが急ブレーキへの対処が間に合わなかったのか頭を抱え悶えている。

 

 

「ゆりちゃん……なにやってんの…………」

 

「貴女こそ何をしているの?」

 

 

 現役の刀使、しかも任務中である貴女が何故御刀を忘れてしまっているのか。問いただそうとするが聖は痛みと戦ってそれどころではない。

 この事をヒルデガルトは知っていたのか。もしくは知ってて放置したのか。今度はヒルデガルトに言葉を飛ばす。

 

 

「ヒルデ、貴女何故最初に言わなかったの?」

 

 

 しかし、彼女も彼女で聖と相違した状態で頭を押さえていた。

 

 

「ウチが知るワケないやろが、いてまうぞ……!」

 

「…………ごめんなさい」

 

「止まるなら止まると先に言えや。で、なんで御刀ないねん」

 

「ないというか、忘れた? みたいな?」

 

 

 最後にウィンクと舌を出し、てへっ、と付け加えたが言うや否、マズルフラッシュとともに乾いた音が鳴る。それなりのスペースがあるとはいえほぼ密室内でのけたたましい発砲音の直後、対応が遅れるが小百合は耳孔に二本の人差し指を入れて左右の外耳道を塞ぐ。

 

 

わぁあああッ!!!

 

 

 お茶目さを演出してみせたがそんなものは不要と断じられた弾丸は聖の肩――――三角筋付近をあと数センチ程のところを通り過ぎる。

 この体勢では射線に入らない為、仕方なく利き手ではない左手で撃ったのが失敗だったか。やはり(・・・)狙いは定まらない。どうあがいても聖は避ける。

 

 

「はよ思い出せ」

 

「出す! 出す!! 思い出すからッ!! 撃つのヤメテッ!! てかこの車、ゆりちゃんの車でしょ!? ボロボロにしていいの!?」

 

「いいわよ。襲撃に遇うの想定しているから、多少キズが入っても問題無いわよ」

 

「イヒぃイイイイイッ!?」

 

 

 法令違反を犯す加害者と自業自得な被害者に呆れハザードランプを仕方なく点滅させる。

 

 

「それとヒルデ、撃つなら撃つでサイレンサー付けてくれない? 近くで撃たれると音響障害で難聴になるわ」

 

 

 ドアポケットから常備していた耳栓を取り出し二人を目することなくそれを嵌めて更なる発砲を許可するこの車のオーナー。

 

 

「そういうワケや。一数える間に言わへんなら大人しく往生せえや」

 

「はやい、はやい、はやい!!! 数える意味ッ!!」

 

「いーーーーちぃ……」

 

 

 取り出したサイレンサーを手早く取付け、銃口、そして照準を小憎らしい後輩に向け、二度目のマズルフラッシュが起こった。

 その後も複数回にわたり銃声と叫び声が交わされるが蚊帳の外たる小百合は額をハンドルに預け溜息を漏らす。

 

 あちらこちらに車体が揺れ傾くのと硝煙の匂いに微かに顔を(しか)めて弾倉(マガジン)が再装填されないことをただ願った。

 

 

 


 

―― 数時間後 ――

 

 

「――――聖……」

 

 

 停車した車内で御刀を両手で抱え大きく開口する聖の肩をゆらしながら小百合は彼女の名を呼ぶ。

 

 

「んん……」

 

 

 しかしながら小さく吐息を漏らし反応はするものの刀使の少女は絶賛、夢心地を満喫している。

 

 

「仕方ないわね……ヒルデ、まだ弾は残っている?」

 

「ああ? ちょい待ち……――――」

 

 

 短い嘆息の後、ヒルデガルトに視線を向けると何の疑問も持たずにヒルデガルトは拳銃を取り出すとそのままリリースボタンを親指で押してグリップ内から弾倉が滑り落ちる。

 碧眼に映る弾殻と弾倉の重さで銃弾の総数を把握し――――刹那で答える。

 

 

「――――まだあるで」

 

「じゃあ、一発お願い」

 

了解(Alles klar)

 

 

 小百合と入れ替わったヒルデガルトは躊躇なく聖の耳元から僅か数センチ離れた場所へとけたたましい音を放ち、弾痕をシートに刻み付ける。

 

 

「…………ドゥヘへへ……zzz……」

 

「コイツ、マジか」

 

「駄目みたいね。なら次は煙草で試して」

 

「根性焼きでもするんか?」

 

 

 首だけを小百合に向け、尋ねる。意図して狙いを外したとはいえ躊躇なしに銃口を後輩に向けた自分が言うのもなんだが流石にそれはほんの僅かばかし憚られる。

 

 

「煙草の臭いで起こすのよ」

 

「ああ……じゃあ、遠慮なく」

 

 

 そう言ってWeViuSと印字されたパッケージを逆さまにして五、六回ほど掌で叩いては、透明セロハンを開封――――銀紙を破くと箱の上部を人差し指でトントン――――と叩き、飛び出したタバコを人差し指と中指で掴みそれを口元へ運ぶ。フィルターを咥え、(きざみ)と巻紙に百円ライターの火が灯る。

 吸った煙を口の中で溜め、フィルターを口から離し深く息を吸う。すると聖の眼前に近付き――――彼女が副流煙に害されることなどお構いなしに溜めた紫煙を一気に吐き出す。

 

 

クッサぁアアア!!!

 

「おはよう、ウニ頭。このまま焼きウニにしたろか?」

 

ゴッホ!! ゲホッ!! ガッッッ…………ヒルちゃん!? いや、クッッッッサぁあ!!!」

 

「で? 返答は?」

 

「……いやどゆこと?」

 

 

 質問の意図が読み取れず助手席に体重を預け、ヒルデガルトの傍に控えている小百合に尋ねた。

 

 

「もう目的地に着いたのよ」

 

 

 グレーのスーツジャケットに触れ、腕を組み右手の人差し指で辺り一面の暗闇を指し示す。

 

 

「へ? もう空港についたの?」

 

「貴様がぐっすり眠っている間にな」

 

「おおー流石ゆりちゃん……って、暗ぁッ!? 今何時!?」

 

 

 

 嫌味ったらしく語気を強調して聖を見下ろすがそんなこと意に介さずといった具合でスカートからスマホを取り出し、ディスプレイに表示された時間を確認する。

 

 

「わぁーお、おもっくそ十時過ぎてらー」

 

「時間食ったのは大概が貴様の所為だからな」

 

「サーセーン」

 

「搬出準備できたそうよ」

 

 

 スマホを耳元から離した小百合は二人に告げるが反応を待たずして運転席へと歩を進める。

 

 

「なんだ、時間ピッタリじゃーん」

 

「ウチが遅らすよう連絡しといたんや」

 

「ひゅーひゅー」

 

「できとらへんで」

 

 

 両手で頭を支えつぼめた口で吹かすも空気の振動が上手くいかず口笛は失敗する。ヒルデガルトが指摘してもなおそっぽを向いて口笛を試みるがやはり結果は変わらない。

 二人のやり取りなど特に気にすることもなく座席に着いたのを見計らい小百合がサイドとシフトのレバー操作後、クロスカントリー車はヘッドライトとテールランプを灯し数十メートルを走行する。

 

 

 貨物機(フレーター便)をバックに再び停止したクロスカントリー車から刀使に関わる三人の女と少女が出ると先ほどまでの弛緩した空気とは一転――――ひりついた空気を纏い、それぞれが周囲を警戒する。

 

 最初に降りた女――――小百合が自身の御刀――――七支刀(しちしとう)の柄に手をかけ、自分達が通った車轍(しゃてつ)を注視する。

 

 次に降りた少女――――聖はドアステップを使わずにルーフに乗り手庇(てびさし)すると目を凝らし、しゃがんだ体勢を維持しながらフィギュアスケーターのように180度ほど回転した。

 

 最後に降りた女――――ヒルデガルトは右手に拳銃を、左逆手で持ったライトを持って貨物機(フレーター便)に向かい、そこにいるライフル銃を携えた男たちへと向かう。

 

 

 命令口調で男たちに指示を出し終わると身体を反転、かっぽり開いた前面(レドーム)内を左手のライトで数回点滅させた。

 ヒルデガルトから異常なしのサインだ。

 

 

「引き続き貴女は周囲の警戒をお願い」

 

了解(らじゃ)ッす」

 

 

 夜目でも獣並みに利く聖を警戒に置き小百合はヒルデガルトとともにメーンデッキの中へと入っていく。

 

 

 

 

 

「コレが……」

 

 

 ヒルデガルトが解除コードを入力し終え、見るからに強固で分厚そうなコンテナがその中身を晒すとセピア色の瞳に収めた小百合が見開く。

 彼ら(・・)の技術は他の追随を許さず圧倒的に群を抜いている。しかし、こうも短期間で形にできるとは思っていなかった。なにせ互いの技術が違いすぎるのだから。都合よく完成品が来るハズなどない。精々が御刀にフィッティングするよう武装を再形成、S装備(ストームアーマー)も上半身の胸部と腕部ないし下半身の脚部だけが関の山だと蓋を開けるまではそう思っていた。

 

 

「まさかあの(・・)馬鹿デカいサイズをS装備に合わせここまで縮小させるとは」

 

「一月も掛からずに仕上げれるのだから流石は『西尾博士』と『島』のスタッフ達、と言ったところかしら」

 

ウチ(・・)からも資金(かね)人材(ひと)も出した。当然やろ」

 

「そうね。後はコレが稼働できるかどうかね」

 

「できるやろ」

 

「そう…………できるかしらね」

 

「できな困るのは貴様やで」

 

「そう……ね……」

 

 

 人類(わたしたち)に時間は残されていない。

 この国に住まう人間だけが何も知らずに取り残され、自由と平和(当たり前)を享受している。

 楽園(かご)の中の鳥たち。世界はそれを許さないだろう。

 

 それでも、せめて……。

 

 

 

 『複合改造試作機 S装備(ストームアーマー)改・ティターンモデル』

 

 

 ――――プレートアーマーの様に全身を装甲で覆われた人型の棺桶に異常がないことチェックし、扉を閉ざす。

 

 S装備が保管されたキャンピングトレーラーをリアにセッティングし終え三人を乗せたクロスカントリー車もとい牽引車は空港を後にし、静かに夜道を走る。

 

 

 

次回、刀使ノ武芸者―修羅流転録

第22話 武装試験




氏名……ヒルデガルト・V・リッター
一人称……ウチ
備考……元刀使のドイツ人女性。暗いブロンドの髪で碧眼
相手を貴様呼びし、関西訛りで喋る。
紺色のリクルートスーツを着る。
喫煙者で銘柄の好みは特にない。
・KooL
・WeViuS
国内にサイレンサー込みの拳銃を所持している。
かなりの金持ちの可能性。



氏名……新木 (ひじり)
一人称……聖
備考……鎌府女学院の刀使。
人助けと称しては暴力沙汰を起こしその度に警察にお世話になっている。
御刀を忘れることがある。
夜目でも獣並みに利く目と銃弾を回避できる身体能力の高さがある。



S装備(ストームアーマー)改・ティターンモデル
備考……S装備と元は馬鹿デカいナニカを複合させた機体。
外観はプレートアーマーの様に全身が装甲で覆われている。
入手経路は現在不明。

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