刀使ノ武芸者ー修羅流転録   作:重曹とクェン酸

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25.一触即発前 ―其ノ壱―

「――――っつうワケでぇ、来たぜ」

 

 

 とある外食チェーン店。

 六人席の空いていた席へ勢い良く割り込んで着席するとテーブル席の端で汚く丼ぶりをかっ食らう女装男(おとこ)――東西南北(よもひろ) 中央(なかお)に対面席で向かい合い、ハジメは凡そ2年振りとなる言葉を交わす。

 

 今さらだ。このバカに遠慮などいらない。

 手にしたタブレットからメニューを手早く選んで戻すと中央のお冷を搔っ攫っては喉を潤おす。

 

 

「何がつうワケだボケ。意味がわからんからさっさと失せろ」

 

 

 白米を頬張りながらシッ、シッ――と隣に座る三人の視線が集まる中でも不快感を催した顔でぞんざいにあしらう。

 

 

「そう嫌がんなよ。いいじゃねぇか、減るもんじゃねぇし。それに久しぶりだろ? 面子は違うにしてもこうして一緒に飯食うのは」

 

「イラついて余計に腹が減るわ」

 

 

 そう言いながら中央の箸は休む暇もなく進む。

 一心不乱に牛肉、玉ねぎ、唐揚げ、そして白米を口中調味で胃に押し込むがその途中、にわかにタブレットを操作し出す。

 

 

「…………キミの知り合いか?」

 

「知らねぇ、ただの住所不定無職の不審者だ」

 

 

 要らぬ来訪者に食欲が増した所為で尋ねた真希に目もくれず答えた。しかし、中央がこうも露骨に毒突くのは以外だ。

 この反応から知り合いであるのは間違いないのだろうがトゲトゲしい雰囲気に包まれ否応なしに真希達の箸は止まったままだ。

 

 

「ガキの頃から互いに切磋琢磨してきた仲なんだ知らねぇワケねぇだろ」

 

「こう言っていますわよ?」

 

「知らねぇ」

 

「…………とてもそうには見えませんが?」

 

「知らねぇ」

 

「なんでそう強情になるかねぇー。自分の過去を黒歴史にでもしてぇの? だがそんなもん変わりゃしねぇぜ?」

 

 

 言葉が一区切りするとタイミングよくお盆を持った定員が近付いてくる。無言の中央は空になった丼ぶりを定員に差し出すと御代わりの丼ぶりを受け取り黙食にいそしむ。

 次いで注文した定食を今度はハジメが受け取り、箸入れから取り出しておかずを摘まむ。

 

 

「どういった御用でしょうか?」

 

 

 中央の言う通り夜見達にとっては未だ素性の知らぬ相手。だがそれ以上にこの男が来た目的もまた不明のままだ。物怖じすることなくいつも通りの無表情さで初対面の男に話しかける。

 

 

「ちょっとした野暮用ってやつだな。お嬢ちゃん方は席を外してもらえると話がスムーズにいくんだが。どうせこのバカ自分の身の上話なんて喋ってねぇだろうしよ」

 

「野暮用?」

 

「今さら用なんてねぇだろ」

 

 

 味噌汁が入っていたお椀が音を立てトレーに置かれる。こちらにはこれ以上会話する意思はないぞと意思表示のつもりなのか中央の口の中に牛肉が運ばれる。

 

 

「そうでもないさ。スカウトしに来たんだよお前達(・・・)を」

 

「スカウト?」

 

 

 普段なら不用意に口を挟むことを控えているところだが見知らぬ男からの聞き捨てならない言葉に思わず寿々花はオウム返ししてしまう。が、発言した本人も気付かないのを他所に見知らぬ男(ハジメ)は言葉を続ける。

 

 

「『間陣(まじん)』のオッサンから命じられてな。どうしてもお前をウチに引き入れたいんだとさ。理由は言わんでもわかるだろ」

 

 

 その名(・・・)を耳にすると忙しなく動いていた中央の箸が突として止まり、持ち上げていた丼ぶりがテーブルに近付き咀嚼も止まる。まだ胃が満たしきらないにもかかわらず。

 

 だがそれも間を置かずして喉を鳴らし、口を開く。

 

 

あの(・・)戦いで生き残ったからか?」

 

「オレはてっきりそのままぽっくり逝くと思ってたんだがな」

 

「早々楽に死ねるかよ」

 

 

 そう言ってケタケタと笑いながらもハジメは箸を進め、中央も胃を満たすことを再開する。

 

 遅かれ早かれいずれ来るだろうと踏んでいたことだ、別段驚きはしない。

 だが袂を分かった奴に声をかけるのだハジメの話しに乗れば当然、いや必然的にあの二人(・・・・)を敵に回すことは必至。人類の存亡やら大荒魂の問題など自身には関係などなくなってしまう。

 

 欺き、裏切りという行為を働いたモノの末路。

 

 それ即ち――死。

 

 だがまだ死ねない。死ぬべき場所はここじゃないし、闘う相手はヒトではない。

 

 だから返答はこう答えてやろう。

 

 

「じゃあ、来るか?」

 

 

 幾度目かの咀嚼の後、ハジメの目の前で箸を握りハッキリと痙攣(けいれん)でもしそうなぐらいに右中指を立てる。

 

 

「そんな拒絶すんなよ。これはチャンスだと思わねぇか? オレらの下に来れば二年前の意趣返しができるんだぜ? それにオッサンの下には各国から選りすぐりのバカ共が集まるし『島』の連中とも共闘できるんだ。二年前の様にごっそり抜けた状態で戦うワケじゃねぇし、数も質も比べ物にならねぇハズだぜ?」

 

「クドイ」

 

 

 色々と説得しようとしているが中央の答えは変わらない。今度は拒絶の形を声に変えてみせる。

 

 

「じゃあ仕方ねぇ。力尽くでわからせるしかねぇよな」

 

 

 するとハジメはアプローチを変えたらしくわざとらしい嘆息を零し言葉を続ける。

 

 

「あ~あ、折角穏便にいくと思ったんだがなー」

 

「なら次いでだ。付かなかった昔からの決着も兼ねてやるよ」

 

「フッ、いいぜぇ。あのまま白黒ハッキリさせずに終わったんだ。俺もそれは望むところだ」

 

 

 中央とハジメ、武芸者同士の視線が衝突する。

 沸き上がった闘志は固唾を吞むだけだった蚊帳の外の三人にもそれは伝わり、漸くことの顛末を理解し出す。決着と言ってはいるが始まろうとしているのは決闘。真希達三人は中央の力の一端を目にしている。恐らくこのハジメという男も中央と同じ強さを持つのだろう。身体の奥底からそれは感じ取れた。だからこう(・・)と確信を持つ。

 

 これは――――殺し合いになると。

 

 

「オ、オイ中央、なにを勝手に…………」

 

「心配すんな三分で終わらす」

 

「そんなインスタント麵を作るみたいに…………」

 

「だがその前に」

 

「ああ……」

 

 

 呼応しそれに頷くハジメ。両者の口が一斉に開き同じタイミングで声が発せられる。

 

 

「定員ッ! 御代わりまだかッ!!!」
 
「定員ッ! 御代わりまだかッ!!!」
                     

 

 

 注文を忘れた二人の強い語気がその日、店内で幾度か食器の割れる音が厨房の方で鳴ることになったことを中央達は知る由もない。

 

 

 

 

次回、刀使ノ武芸者―修羅流転録

第26話 一触即発前―其ノ弐―




公開情報の追加(ピオ・ハジメ)はあと数話投稿後に更新します。


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