刀使ノ武芸者ー修羅流転録   作:重曹とクェン酸

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27.御刀(・・) ト 西洋槍(バルチザン)

「よくこんな場所を用意できたな」

 

 

 ハジメに連れられるがまま中央(なかお)は辺りをざっと見渡す。

 足を踏み入れたのは大型のショッピングセンター。かつては賑わっていたのも久しく、今ではテナントも全て撤退し廃モールと化した寂れる商業施設のなれの果て。

 

 男二人が先へと進む中、真希達三人はというと事の次第を見届けようと何も言わず中央の後に連れる。

 

 

「幾つか解体が決まったモールだったりビルだったりとかは避難や待機場所としてオレ等が所有しててな。今日みたくバトる時には持ってこいなんだよ。警察(サツ)に来られても相手にすんのは面倒だからな」

 

「…………」

 

 

 耳をそばだてながら寿々花は思考する。

 

 

 幾つか所有してる、という事はこの方とその関係者には余程の後ろ盾があると見るべきですわね。しかし、一個人や一企業が援助することになんのメリットが? 一度調べてみる必要がありそうですわね……彼を含めて。

 

 

 ハジメに、ではなくその後ろの中央を一瞥する。

 紫様の知り合いということで受け入れてはいるが分かっているのは御刀(・・)を扱える男であることと遥か高みにある強さを持つこと。それこそ紫様に肩を並べる程に。

 中央の方は要らぬ心配だとしても念には念を。コッソリと二人の男に向けて取り出したスマホの写真へ収めている間にも二人の会話は続く。

 

 

「その方がお前も回りを気にしなくて済むだろ?」

 

「まぁ確かにな」

 

 

 中央がそう言い終わると男二人は立ち止まり、つられて三人の刀使も止まる。

 到着先はイベントスペースで使用される広場。集団で戦闘をするには少々せせこましいが一対一には充分な広さを有している。

 

 

「それじゃあ、おっぱじめるか」

 

「だな。時間もねぇし。……もう一度確認するがコイツ等に手出しする気はねぇんだよな?」

 

「やりゃあしねぇよ。オレ等とじゃ天と地、雪と墨ってな具合いに雲泥の差があるんだからよ。それこそお前が一番わかってることだろ? 大体、嬢ちゃん方殺してもオレになんのうま味もねぇしな。それに、んなことされたら集中できねぇだろ」

 

「ああ。横やり入らねぇなら俺も気兼ねなく全身全霊で()れるよ……お前等、そこを動くなよ」

 

 

 確かにハジメ(コイツ)以外の気配は感じられない。

 そもそも策を練って罠に嵌めるような策士でもなければ下らない嘘を言う性質でもないのだ。不要な気掛かりを回す必要がない以上これで、昔のように自分のことだけに集中できる。

 

 

 真希達には目もくれずに周りを探っていた意識をハジメだけに神経を注ぐと、その場の空気がほんの一瞬でガラリと変わり出す。

 それでも我関せずな態度でハジメは片隅に予め置かれていた長器械ケースを手に取ると2本の槍が露わとなる。脱ぎ捨てられた長器械ケースが床に沈みきる頃には右と左の手、そのどちらも菱形に形成された平たい穂先――西洋槍(バルチザン)を構え終えた武芸者(ハジメ)が先ほどまでの態度から一変し、中央から発する空気と馴染むように一体化していた。

 

 

「悪りぃな、お前の御刀とやらと違ってコッチはロンギヌスだのアキレウスの槍だの大層な名もないただの槍で」

 

「気にする必要はねぇよ。どうせお前ごと砕くんだ、名槍だったら作ったヤツに申し訳ねぇよ」

 

 

 2本の穂先が差し向う先――相対する中央も構えを見せるがこれまでとは違う構え方を見せた。

 

 腕を曲げ、御刀(・・)である長巻を八相の型に近い形で持ち上げて、長い柄を顔に寄せる。

 西洋剣術の構えの一つである雄牛(オクス)――切っ先を牛の角のように見立て相手の顔に向ける構え――に近しい状態は長巻の刃先を天へ、反りは地を、そして相手(ハジメ)へと切っ先は向く。

 

 片やかつて百千万億流で中央とともに武を学び、己を鍛え、今では明神(みょうじん)流四神槍が一人にしてその頭首を務めるまでに至った若き槍使いの武芸者――尾張(おわり) 元初(はじめ)

 

 片や幼少期から百千万億流で育ち、その武芸を骨の髄にまで宿し戦に身を投じ、そして何の因果か今では御刀(・・)を扱える武芸者にして女装する刀使――東西南北(よもひろ) 中央(なかお)

 

 ともに両者の技術、技量、術理、思考は知り尽くした仲であり、互いの力量を認め合うのは言わずもがな。それ故、恨みつらみも無し。状況次第では互いが互いに殺し合うのも致し方なしと今こうして闘気と殺気を全身に纏い視線がぶつかる。

 

 

 これが、あの中央……?

 

 

 警戒することを忘れ中央と元初、二人の武芸者から押し寄せられる圧に真希達の身体には戦慄が走る。身動きが取れないこの状況、金縛りにでもあったというべきか。

 そしてこの状況には身に覚えがあった。これはあの時――金城(かねしろ) (すみれ)が暴走し、殺気を向けられた時の、ヒトならざる血に飢えた獣が醸し出したときの、それ以上の殺気が少女達三人の全身を絡み取ってその場から動けなくしていた。

 

 張り詰める空気の中、互いに言葉は不要。今まで吐いて捨てるほど見てきた様に何かが音を立てることもなく両者の目、呼吸、纏う空気が重なり合って交わり何百、何千、何万、何億と繰り返された様に一瞬でタイルカーペットの欠片が音を立てて宙を舞い、殺意の塊りが弾丸となって弾けた。

 

 蚊帳の外である真希、寿々花、夜見の耳に打ち付けられた轟音が鳴り響いた時、漸く三人は実感する――――始まったのだと。

 

 

「――――チッ!」

 

 

 初撃である上段からの一太刀が躱され中央が次の斬撃の動作に移ろうと床にめり込んだ長巻を起こした瞬間――西洋槍(パルチザン)の穂先が目と鼻の先に迫る。

 

 

「――――ッ!」

 

 

 間に合わない。

 考えるまでもなく直ぐに意識を攻撃から回避へ。全神経と身体操作を注ぎ、寸前のところで躱すも穂先は眼球を逸れ耳を切り裂く。

 この程度の切り傷など精々蚊に刺された程度と同じ。耳から肌に伝う出血が煩わしいが相手は引きの動作でワンテンポ遅れる。お返しだと言わんばかりに中断していた両腕へ意識を向け、攻撃に転じる。

 

 だが普段の(・・・)槍一本であったならそれも出来ただろう。しかし今元初が扱うのは2本の西洋槍(パルチザン)。もう片方の槍がお留守なワケはなく――薙ぎ払うような斬撃が中央を襲う。

 

 

「オイオイオイオイ、ニ槍でやり合うのはこれが初めてだろぉ? あっさり避けてくれてんじゃねぇよ」

 

 

 しかし中央も追撃(コレ)は読んでおり斬撃の軌道を柄で剃らすとすかさず虚空型(オボロノカタ)一式 影縫(かげぬい)で元初の死角に移動――反撃の一太刀たる下段からの左逆袈裟斬りを繰り出す。

 

 

「――――ハッ!!」

 

 

 薄皮一枚を斬られるも元初は怯むことなく片手一文字で斬り返す。

 少し遅れてベチャッ、と吹き出た血潮がタイルカーペットへ音を立てるがそれだけでは満足しないと元初は半歩踏み込み右手の西洋槍(バルチザン)を逆手に持ち替え腕を引く。

 

 だが怯むことを知らない中央も削られた胸部の肉のことなど構うものかと土公型(ドコウノカタ)一式――荒神(あらがみ)を上段真一文字で元初の頭蓋目掛け回転する刃を振り切った。

 流石にこればかりは防ぎきれないと判断したのか床に叩き込まれた轟音が鳴り響く前に槍使いは 粉塵が立ち込める中、縮地法の数歩で後方へと退いていた。

 

 しかし、距離など取らせはしない。

 

 長巻に対して西洋槍(パルチザン)の方がリーチは長い。だからここで――

 

 

 ――――畳み掛けるッ!!

 

 

 粉塵のカーテンが出来上がり元初の視界はぼやける。

 こういう時、相手は背後から攻めるのがセオリーなのだろう。しかし、背後からは中央の気配は毛ほども感じる間もなく真正面からむき出された殺意が風圧でそれを破いて姿を見せる。

 

 

ギッ!!!

 

「へッ!」

 

 突っ込んでくる中央は長巻を反転させ、柄頭を切っ先に見立て迫る。

 

 

 また上段か?

 

 

 半身の所為で刀身は見えない。なるほどこれなら次の斬撃の始動はどうくるか判らない。だが今のヤツならば連撃で畳み掛けるよりも一撃で仕留めることに重きを置いている。

 

 となると上段からの袈裟斬りなら確かに威力は出しやすいがそう思わせて中段から繰り出す真一文字。ヤツが狙うのならその二択。さらに紅蓮旋(ぐれんせん)等の術理が加わることを見越して選択肢を絞るがしかし、ハジメの予測は大きく外れる。

 

 中央の右手はボウリングのテイクバックのように引き、長巻の間合いに入った瞬間――半転と共に長い柄を滑らせ斬撃を奔らせた。

 

 

 焔燃型(カグツチノカタ) 第三式で――刀身は弧線を描き――下段から切り上げる。

 

 焔燃型第三式その最終形たる朱円月(しゅえんげつ)

 

 繰り出されたこの斬撃の迅さには防御など間に合わないし防いだとしても中途半端な防御は無意味である。最悪、防げば得物ごと胴が真っ二つになるのは明白。斬撃の伸びに加え長巻に変わったと言えど左右に避けた時の追撃もある程度わかる。故にハジメは更に距離を取ろうと後方に退く。

 

 だがそれが悪手だった。

 

 

 あ、いけね。ちょいマズった……。

 

 

 繰り出された朱円月の切っ先が眼前を通り過ぎる前に中央は左手で柄頭を握り左片手突きに移行――薄皮一枚に届かさせずこれを難なく躱すが中央の一太刀は終わらず、ハジメもそれがわかっていた。

 

 攻撃は最大の防御とはよく言ったものだ。

 

 長巻は野太刀の部類に入るが破邪の御太刀や祢々切丸のように刀身が長いワケじゃない。その長さは柄がほぼ占めている。柄の長い打ち刀と思えばいいだけだ。それなら懐に入れば後はどうとでもなる。

 

 

「――――ハッ!」

 

 

 管槍(くだやり)の様に一瞬で引き戻せれるワケでもない。なら今度はコチラの番だ、と床を蹴り出し今度は中央が元初の間合いに入り込む。

 

 

 喰らいな、これが――

 

 

「オレ流双槍刺突連舞!」

 

 

 繰り出した術理は到ってシンプル。右の西洋槍(パルチザン)で突くと即座に引き寄せ、左の西洋槍(パルチザン)が二撃目の突きを繰り出す。どこぞのラッシュのようにそれを息継ぐことなく繰り返すだけ。

 今まで中央には見せる機会の無かった双槍術の高速刺突、これなら中央も一溜りもないだろうと一太刀目を放つ。

 

 

「――――――」

 

 

 穂先が肉を抉った直後――視界に映る中央に違和感を感じた。

 

 ああ、そうか。長巻を使うのも髪の毛が無駄に長いのも服が違うのも戦い方が違うのも挙げればキリがねぇがそうか、何もかもが違和感だらけだったがその正体はコレか――

 

 

 コイツ、長巻をどこへやりやがった?

 

 

 ほんの数瞬、左手から消えた長巻に気を取られるがそれでも西洋槍(バルチザン)の刺突速度は緩まない。むしろミクロ刻みでその速度は増していく。

 

 この秒毎に傷口を増す中、辺り一面を血紅色で染め上げる中央だが迎撃体勢を整え怯むことなくその姿勢を維持する。その眼前が捉えているのは元初の後方で落ちた長巻でもなければ元初自身でもなく彼の両手。

 

 いつの間にか中央の圧が静かになる。だが諦めて完全に消えたわけじゃない。ロウソクの火の如く確かにソレは今も燃えている。

 

 だがそれも風前の灯火というやつだ。

 この出血量では長くは持たないだろうと行方知れずだった長巻をチラリと流し見る。

 

 

 ……変わった様子はねぇか。

 

 

 若しやと思い気にかけてみる。長巻が意志を持ったり、刀身が伸びたり、分裂したり、別のナニカに姿を変えたり、そんなひょっとするとが中央や元初の中では日常茶飯事当たり前ではあるがそれは杞憂に終わる。

 戦いの最中、武芸者として己の得物を放つのは自殺行為だがそれでも――

 

 

 面白れぇ……! それでこれをどうやって凌ぐつもりだぁ?

 

 

なぁ、中央ォ!!

 

 

 西洋槍(パルチザン)が中央目掛けて奔る。

 肉で受け止める防御か、また影縫いで回避するか、それとも白刃取りか。何れも一撃目を逃れたところで二撃目は喰らわせる。虫の息になるまで槍の円舞は終わらない。

 

 

 先ず―― 一撃目ッ!

 

 

 相も変わらず微動だにしない中央の肩を穂先は切り裂き西洋槍(バルチザン)の刀身は血を浴びる。

 

 

 まだ何もしない?

 

 

 二撃目――今度は足へネライを付け射出したがしかし、これにも中央は何もアクションを起こさず穂先に喰われる。

 

 三、四、五、六、七撃――

 

 傷だらけの血だらけ、制服など最早その原型を留めておらず女装男の血飛沫は止まらない。だが元初が目した中央の目には灯した闘志は衰えるどころかその逆、高まるばかり。諦めてはいないハズだ、この状況を覆す為に一体何を企んでいるのか。僅かな警戒心がハジメの刺突速度を鈍らせる。

 

 

 ――ここッ!!

 

 

 西洋槍(パルチザン)が引くと刺すを繰り返し鉾先(ほこさき)が手の下を通過した瞬間――中央が掴んだ鉾先はガッチリと彼の手の中で微動だにしない。

 

 

 ヤロォ~初めからこれが狙いだったなぁ? だがそれじゃあ攻撃は防いでもオマエから攻撃するなんざ――

 

 

ウゴォッ!?

 

 

 室内に響く唸り声とともに新たな血飛沫が上がる。両者ともに額から血飛沫を出すが唸り声を上げたのは先ほどまで攻勢に転じていた元初。一体何が起きたのか。二発目の頭突きを喰らって答え合わせをすることができた。

 

 

 なんだよ、もうやけくそじゃねぇか。

 

 

 これでは闘いではなくただの喧嘩。喧嘩といえばやはり――

 

 

「そう来るよなぁ!?」

 

「いい加減、堕ちろやッ!!!」

 

 

ブフォッ!!
 
ブフォッ!!
                     

 

 

 見飽きる程定番のクロスカウンターが両者の頬に炸裂する。

 殴られた衝撃で吹き出た歯を置き去りにして後退る両者、静まり返るモール内に落ちた固形のカルシウムが小さく音を立てるが衰え知らずの戦意は今だ失わず。

 

 

()ってぇじゃねぇか……!」

 

 

 切れた咥内の血を吐き出し手の甲で口を拭う中央。

 

 

ブフッ――お互い様だろ? それより結構無茶するじゃねぇか。刀なら未だしも使い慣れねぇ長巻で朱円月からの湍流飛瀑(たんりゅうひばく)に切り替えるなんざ、今さらだが言わせてもらうぜ。オマエ結構アホだろ」

 

 

 ハジメも同じように血を排出すると手首の辺りで拭う。

 

 

「アホなのはテメェも同じだろが。なに酒飲んで殺すか殺されるかのやり取りしてんだ。俺だって飲むの我慢してんだぞコノヤロ」

 

「ガキどものお守りしてりゃあそうだろうさ。そんなに飲みてぇのならオレ等のとこに来いよ、酒飲み放題のつまみ食い放題だぜ?」

 

「くどい」

 

「他人の金でもか?」

 

ウ゛ッ゛

 

「揺らいでんじゃねぇか」

 

 

 くつくつと喉で笑い今までの殺伐とした空気が嘘のように弛緩する。

 

 

「違ぇし! 揺らいでねぇし!」

 

「それより」

 

「ああん!?」

 

 

 ハジメの近くにあった中央の長巻を掴むとそれを放り投げる。中央も何の疑いもなく宙に放り投げられた長巻を掴み、柄を肩に寄せハジメの声に耳を傾ける。

 

 

「いくらなんでもチョット必死過ぎじゃねぇ? なりふり構わなさ過ぎ。久しぶりの死合いなんだ、もうちっと楽しめよ」

 

「今のこのなり(・・)でテメェと()りあうんだから楽しめる余裕なんてあるはずねぇだろうが」

 

「そうかい。まぁいいや。じゃあ」

 

「第2ラウンド……」

 

 

始めようか!!!
 
  「始めようか!!!」
                     

 

 

「……何故、なんだ。なんで、中央は殺し合いができるんだ……彼とは知り合いなんだろ…………?」

 

 

 今の今まで口を閉ざしていた三人の刀使達から最初に声を漏らしたのは真希だった。

 知り合って間もない青年が殺気と血飛沫を撒き散らして殺し合いに興じる。かと思えば他愛のない雑談をし、また殺し合いに戻る。相手の男が犯罪を犯したワケでも何かの理由で復讐したいワケでもましてや憎んでいるワケでもないだろうに。

 

 理解できない。

 

 相手方もそうだ。殺し合いをしているのに折角手放した武器を中央(相手)に渡しては闘っている。

 

 

 なんなんだこの二人は、楽しんでいるのか……? この殺し合いを?

 

 

 中央(かれ)は動くなと言った。確かにボク達は動かなかった――いや、動けなかった。止めることも出来ない悔しさよりも正真正銘の怖さが身体を支配したからだ。

 

 踏み込めない……いや違う、踏み入れれない。

 次元が違い過ぎるのだ。人の領域などとうに超えてしまっている。

 

 

 彼は、本当に人間か……? これではまるで――

 

 

 同じくそう思っていた寿々花も真希の隣で呆然と立ち尽くす。

 言葉にしようにも言語化ができないからだ。何を言えばいい? 何んと言ってほしい? 言葉など出ようはずもない。形容できるならとうの昔にしている。

 

 独り言だと思われる真希の言葉に返事すらできず息を呑むことしかできない。血塗れになっても嬉々として死闘を繰り広げ続ける人になにをどうやって、どんな言葉を掛ければいいのか、ただ口元を抑え静かに終わることを待つだけとなった二人と違い後ろに控える白髪になりかけの少女だけは違う思いを抱いていた。

 

 

 …………これが、東西南北さんの本当の実力ですか。

 

 

 ジッと中央と元初の動きを目で追い夜見は観察する。震えながらもいつもの通りプリーツスカートの前で手の甲を抑えて佇む。

 自分でも獅童 真希や此花 寿々花のように強くなれる、その可能性を示唆してくれた人の言うことだ身体の使い方、呼吸、視線、斬撃を放つタイミング、攻撃の幅、手数。実際に体感できなくともこの闘いの場で経験を積むことは出来る数少ないチャンスなのだから何としてでも自分の糧にする。

 

 あの御方(・・)の為にも。

 

 それだけ。ただそれだけの為にジッと、幾度も見てきた(・・・・・・・)闘いの行方を見入り、小さく呟く。

 

 

「…………まるで修羅のようですね」

 

 

 


 

 

 

 ――――化け物じゃないか。

 

 真希達から見ておおよそ四十を超えた斬り合いから漸く長巻と西洋槍(バルチザン)の柄で鍔迫り合いに持ち込むまでに至る。無言を貫き、息つく暇さえなかったがどうにかして体勢を立て直す状態を確保できたのだが。

 

 

「エライきつそうじゃねぇの。やっぱ最初に斬られ過ぎたのがまずかったんじゃねぇの、ああ?」

 

「ハッ、言ってろよ。テメェの方も身体がユラユラふらついてんじゃねぇか。今になって頭突きが効いてきたんじゃねぇか?」

 

「別にぃ。コレはただの二日酔いだよ。あーあ、こりゃ追い酒が必要かね」

 

「そんなに飲みたけりゃ自分の血でも啜ってな」

 

「ああそうかい。でもな、そう言う今のオマエはガキのしょんべん啜るのがお似合いだぜ」

 

「じゃあテメェは血の肴にテメェでテメェの吐しゃ物でも喰らってろよ」

 

 

 拮抗する状態での口喧嘩の最中、保っていた均衡は中央が柄を引くことで崩れ去る。崩すタイミングを見計らっていたハジメだったが中央にしてやられてしまう。

 僅かな隙、逃す手はない。刀身が後方から宙で弧線を描くなか床を蹴り出す。相手(ハジメ)の体勢は崩れたまま、ならコレ(・・)で決める。

 柄頭で突きを繰り出すと目したハジメがそれに合わせて攻撃ではなく防御に転ずる。やはり先ほどの頭突きは馬鹿にできない。なにより中央の纏う空気が一段変わった。これは決めにくると確信を持つ。長巻を使うとはいえ二槍での交差法(カウンター)はまだリスクが高い。ならばここは防御一択として構え直す。

 

最速で繰り出すにはやはり重力落下を加えれる上段から、そして自身が最も鍛え上げ抜いたこの術理の一撃以外にない。

 

 

 ――――喰らえよ! 水龍型(ミズチノカタ)第一式――――逆鱗(げきりん)

 

 

 水龍型第一式 逆鱗――五つの型式の中でも太刀筋を変幻自在に繰り出すことができる百千万億流の術理の一つ。第一式の逆鱗は斬撃中、振り下ろす瞬間に左右の握りを入れ替えて斬撃の軌道を変化させる。中央が鍛え磨き上げ、そして極めた最も得意とする術理。故に急激な変化を起こすのも自由自在思うが侭。

 

 しかし、それはともに傍で研鑽し続けたハジメも理解している事。この術理であれば癖は分かるし、変化のタイミングもほんの僅かな動作で見抜ける。それが長巻や刀に変わろうとも。

 

 

「――――なッ!?」

 

 

 変化の方向も切り替わるタイミングも間違いなかった、防いだハズだった……なのにこれはどういうことだ足が斬られてやがる! と、無事五体満足でいられたが挙動は止まり思考する。普段の闘いならそんな時間はないのだが中央が息を切らし追撃してないからだ。

 

 刀身の身幅が幅広く重量も一般的な長巻に比べ倍以上。術理と斬撃、それと防御と体捌きに読み合い。短時間であろうが神経をすり減らせば体力も筋力も衰えはする。

 

 

 コイツ、ここまで負傷してこのキレとは……しかも長巻でだぜ? よくやるよ。

 

 チィッ!! 今ので腕一本も持ってけれねぇとはな。

 

 けど、まだ測れきれてねぇ。贅沢は言わねぇがもう一手、コイツの全力が欲しいよなぁ。

 

 貰いすぎか……流石に血を流し過ぎたな。なら仕方ねぇ――――

 

 だが手負いの獣だ、次こそは出してくれるなこりゃ。ならオレも――――

 

 次で終わらす!

 次で引き出させる!

 

 

 

 

 

次回、刀使ノ武芸者―修羅流転録

第27話 赤ト黒、刈り取られる花




公開情報

東西南北 中央
術技……焔燃型三式 朱円月(しゅえんげつ)
    虚空型(オボロノカタ)一式 影縫(かげぬい)
備考……中央の御刀(・・) 身幅は幅広い


ハジメ
氏名……尾張(おわり) 元初(はじめ)
武器……西洋槍(バルチザン)×2 、 ???
流派……明神(みょうじん)流 → 百千万億流 → 明神流(頭首)
術技……自己流双槍刺突連舞
備考……明神流の頭首であり、四人いる四神槍の内の一人。
    明神流頭首となる前は中央と共に百千万億流で鍛える槍使いの武芸者。
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