刀使ノ武芸者ー修羅流転録   作:重曹とクェン酸

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32.四肢墜(ししおど)

 

――――次で、

 

 

 終わらす!

 引き出させる!

 

 

 構え直した二人の武芸者はすり足でジリジリと間合いに詰め寄る。

 前へ前へ。呼吸するのと同じようにその動きを止めることを知らず、互いに互いを吸い寄せるかの如くただ目の前の相手へと向かう。

 最大にして最上の自身が放てる最高の一撃を叩き込む為、細胞の余すところなく毛先に至るまで全身へ意識を向け研ぎ澄ましていく。

 

 そうして命の際の際でかつての自分を呼び覚ます無意識の中、纏っていた闘気とは別に男達の両眼は薄っすらと金色に発光し出したのは互いの刃先と靴音が止まった後の事だった。

 

 専心していく二人の武芸者。誰にも邪魔はさせまいと針のように細く、鋭く研ぎ澄まされた闘気と殺気が入り混じる中で中央の意識は人知れず一人落ちていく。

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 相手は元初(ハジメ)だ。何を今さら臆する必要がある? 一歩も退くな!

 

『――――でも、まだ気負っているよね? それってあの子たちがいるから?』

 

 

 中央の後ろに立ち、ぼやッと映し出された真希達の方を目している少女の発する声が耳元で反響する。が――目の前の相手が元初である以上、構うべきではない。ならば今はその雑念(こえ)は捨ておく。

 

 

 集中しろ。余計なことは考えるな。強烈な一撃をくれてやる。その為に刃先が欠けようが折れようが構うか。考えるのは二の次だ。

 

『――――ダメだよ。思っているそばからそれじゃ、どれだけやってもあのおにーさんには勝てないよ』

 

 

 先ほどとは別の、もっと幼い少女の声が横からより一層声を大きくして無意識に抱いていた恐れを否定してくる。ならば意識を向けるべきは、

 

 

 相手をよく見ろ。僅かだろうと隙を見せた瞬間ぶち込んでやる。

 

『――――それではダメ。今するべきことは、他にある』

 

 

 今度は反対側から三人目の少女の声が呼び留めてくる。

 邪魔をするなと言いたいが、この雑念(こえ)もどうでもよくなる程昂っている。

 

 

 ここで終わらせる為に、何もかも捨てて総てを出し尽くせ!!!

 

『なーに言ってるんスか、もうこんな所で終わらせるつもりッスか?』

 

 フラッ、と目の前に現れた女に言われて漸く周りの少女達の姿が視界に映る。

 よく知った女が一人。小さい二人の少女には見覚えがあるようなないような。そして背後の少女には何故だか見ようとしても見える気がしない。

 

 でも、確かにどこかで会った感覚は残っている。

 

 

『相手は元初(ハジメ)ッスよ? ケンカするには持って来いの最高の相手じゃないッスか。なのに心の底からマジになれてない今終わらせるなんて勿体無くないッスか? それに――――』

 

 

 近付いては顔を覗き込むと前兆もなくいきなり怒気を孕ませた言葉で続ける。

 

 

『アタシの親友を泣かせるのは許せないッスよ』

 

 

 手に伝わる温もりでその親友とやらの泣き顔に気付く。ガキの頃から見覚えのある着付けられたその和装の女を。

 ああ、最初に出会った時も泣かせてたな。泣き顔は泣き顔でもこんなに酷く、とても悲痛的で他人の為に流してたものじゃなかったが。

 

 震える両手に小粒の涙が零れ、より一層握る手が強くなる。

 

 

『――――どうか……私の知らない遠くへ行かないで下さい』

 

 

 俯きながら絞り出した言葉は細やかな願いだった。命令する訳でもない。変わることのない今のあなたでいてほいしと切に願った言葉。

 変わっていくあなたが怖い。あなたがあなたでなくなっていくのが悲しいし辛い。

 声に出さなくても何となくそう言ったような気がした。

 

 

『行こ、■■■』

 

 

 これ以上は見ていられないと唐突に三人目の少女が手を差し出し泣き震える女を連れゆく。そのまま無言で頷き女は中央の手を離すと御刀を佩刀する少女と共にゆっくりと、先の見えない道を進んでいった。

 

 

『あ~あ、泣ーかせた泣ーかせた。■■■ー■■が■■■泣かせた!』

 

 

 呆気に取られていた中央の肩と頭に衝撃が伸し掛かる。もう一人の幼い少女が飛びついては肩車の様に中央に伸し掛かりそれを言って満足したのか頭頂部を踏み台にしてジャンプすると去り行く少女と女の隣に並び、何やら声を掛ける。

 

 

『痛って!?』

 

 

 肩と頭に続き今度は尻に強烈な一撃が伝わる。

 

 

『ば~か! 女子を泣かしてんじゃないわよ』

 

 

 最初に声を掛けた少女は尻へとミドルキックを叩き込むと直ぐに横切って振り向き、人差し指で下瞼を引いて舌を出す。言い足りないが彼女も今日はそれで満足して三人の後を追う。

 そうこうしているうちに最後に残った女が中央を横切り、

 

 

『次会ったときは説教ッスね。 …………あっ、そうだ』

 

 

 四人の少女達と中央の姿を見やりケタケタと笑っては近い将来に起こる確定事項を告げ、彼を見ず四人の後を追うように小股で歩みだす。しかし、何かを思い出したのか女は振り返って中央に目を向ける。

 

 

『なんすか?』

 

 

 まだ痛む尻を摩り最後に残った女の口癖で聞き返す。

 

 

『無断で出て行った理由は追々聞くとして、最初に成長の再確認はするッスからね』

 

『それいつものアンタ流の説教じゃん……。二度も説教受けんの俺?』

 

 

 女がぐっと握り拳を見せるとうぇー、とわざとらしく怪訝そうな顔を晒す中央。

 

 

『楽しみにしてるッスよ――――』

 

 

 やはりケタケタと笑いながらそう言って慣れ親しんだいつも通りの呼び方で中央に呼びかける。

 

 

『――――(バカ)弟子』

 

 

 師匠(おんな)は元の場所へと戻っていく。

 女と少女達、そして師と別れたあとに一人残された中央は尻を摩った手でいつの間にか口元を隠していた。誰に見られているワケでもないが自然とそうした仕草をしてしまう。

 そりゃあ、昔よりも綺麗になっていたのだ。どうしたって自分でも頬が緩んでいるのを否応なしに自覚してしまう。

 

 

『やっべー。泣き顔だったけどすんげぇ美人になってた……今の年齢でアレ? それとも前々からか? ヤバいヤバい、今会うワケにはいかんがどうしよう。チラッとでいいから生で見てみたい……』

 

 しゃがみ込んだまま自制の利かない心の声が漏れ出す。

 

 

 ――バシンッ!!!!

 

 

 だが緩んだ頬とお花畑な頭に活を入れ、自分自身の存在を正す。

 

 

『―――――(ツゥー)……ハッ、これじゃまだアンタから独り立ちできんわ』

 

 

 ポリポリ、と後頭部を掻き、師匠(おんな)と同じように口角を上げた。

 真っ赤にひりつく頬。頭部と尻の痛み。耳に残る言葉。そして手に伝わる別の痛みを噛みしめ中央は立ち上がる。

 

 

 つうワケだ、悪りな元初。まだ(・・)命は賭けれんし全部が全部、何てんなもん出し切れんわ。

 

 

 御刀(・・)で景気よくその場を払うと長巻の柄を肩に乗せ、踵を返す。

 賭けるのは命じゃない。意地だ。ただのロクでもねぇ俺の意地。

 

 だから、今一度仕切り直しだ。

 

 もういなくなった女と少女達に背を向けた顔は何も見えなかった空を見上げ駆け出す。

 平行に走っているのか、それとも駆け上がっているのかはわからないがとにかく前へ進む。

 気付けばぼんやりとした光が道しるべとなって教えてくれていた。

 

 なんとなくだが元の場所に戻っていくのがひしひしとだが感じる。

 

 

『先ずはとりあえず楽しめッスよ』

『先ずはとりあえず楽しめ』

 

 

 どこからともなく聞こえた師匠の声が口ずさんだ中央の言葉と重なった。

 

 

『――――ってことだろ』

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「――――師匠よぉぉおおおッ!!!

 

 

 意識を戻すと柄を握っていた両手から幾つもの青緑色のケイ素で形成されたが叫びとともに砕け散る。

 装飾品のように輝かしい鉱物が床に散らばり落ちて彼等に相応しいバトルフィールドへと作り直した。

 

 

 目だけじゃねぇ。さっきまでの変な力みも、圧も、消えた?

 

 

「――――ハッ、いいじゃねぇか。さっきまでゾンビみてぇな腐った目をしてたっつぅのにどういうワケか生き生きとしやがって。目は覚めたかよ?」

 

「お陰様でな」

 

 

 気負っていた余計なモノは取っ払い本当の意味で対峙し合う。

 とっくの昔に開戦(オープニング)は始まったんだ。笑えもしねぇ喜劇だかB級だかが始まった物語は終わらせなきゃな。俺の人生の結末(エンディング)は決まってんだ。サクサクと行こうぜ。

 

 

 無茶でも無理でも知ったこっちゃねぇよ! 障害になった以上――――

 

 

(ワリ)ィが、元初(テメェ)は喰らい尽くす!!」

 

「ハッ!! 悪いだなんて一度たりとも思ったことねぇだろうが!!」

 

「そうだよ! 思っちゃいねぇよ!!」

 

「だろうなぁ!!」

 

 

 嬉々として悪魔のような笑顔で再び構えた中央と元初。

 インターバルも終え、今度は元初だけが前へと飛び出す。気配の一切を感じさせない動作はただ真っ直ぐに、閃光のような速さが見物人に徹していた真希達の目に二つの光景が映った。

 

 一つは飛び出した元初と微動だにしない中央。

 そしてもう一つ、脱力された中央の身体から正中線上に薄っすらとほのめく光を。

 

 

「これで決まる……勝つのは――――」

 

 

 ポツリと真希が呟く。彼女の第六巻が働いたのか、それとも武芸者たる中央や元初と出会ったお陰なのか。本人の自覚無しに物事の終わりを――その見開いた目へ映るであろう確定する勝敗を口にした。

 

 間合いを詰めた元初が振りかぶり二槍ある西洋槍(パルチザン)の穂先を後ろに向ける。

 

 西洋槍(パルチザン)という武器は他の長柄武器と比べ扱いやすい。農民も扱えたぐらいなのだから。

 だからこそ、熟練した槍術を会得した元初が本来の得物と遜色なく扱えるのは別段不思議な話ではない。

 

 

「――――フ」

 

 

 平常心を保ち脱力した身体から筋力を解放させる。

 

 左右両方からの横一文字。

 先ほどとは打って変わり刺突からの攻撃は斬撃へと切り替わる。

 紅蓮旋とは違い威力は段違いで劣るだろうが今はそれでいい。殺すのが目的ではないのだから。

 中央に戦いの――激闘や死闘と呼ばれるモノに対する感や空気を思い出させる、いや、取り戻させる。

 

 

 これで死ぬようならそれまでの武芸者だっただけのこと。墓には名前じゃなく好敵手失格と彫っておいてやるよ。

 

 

 互いに使用する武器が違う以上、威力、速度、精度の上限は未知数。そして、中央のことだから次に決めるのは得意とする水龍型(ミズチノカタ)その三式――連回転(れんかいてん)。 

 伊達に二槍を扱っていないのだ。どの軌道で来ようとも長巻ごと粉砕してやろう。口角が上がり平たい穂先が切り刻まれた血塗れの中央の身体に迫る。

 

 

「――――」

 

 

 二槍の穂先が迫る中、それでも中央は動かない。

 この状況下で後の先を取ろうとでもいうのか。それとも口ではああ言いつつもそれは虚勢で既に諦めたのだろうか。しかし、中央の顔を見るにこの武芸者(おとこ)の目は死んでいない。寧ろその逆。闘志に満ち、命の灯を燃やす男の目をしていた。

 

 例え負ける気がなくてもそれはコチラも同じこと。待ちでも構わない。動く気配のない中央に遠慮はもういらない。

 武芸者が死ぬのは自己責任。なれば心置きなくと元初は穂先の軌道を加速させた。

 

 

 ああ、無茶でも無理でも知ったこっちゃねぇ。これから先、やらなきゃならねぇことをやるだけだ。腕の一本でも二本でもくれてやるよ。邪魔はさせねぇ。だから喰らっときな。俺の、俺だけの、必殺の一太刀。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*

 弐式――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*

四肢墜(ししお)どしィィイイイッ!!!

 

 

 

 

 

 紅蓮旋にも勝るとも劣らない斬撃速度と質量で二槍の西洋槍(バルチザン)の柄は四分割にされ宙を舞った。

 上段から下段に高重量の長巻の刃が袈裟切りの軌道で落雷にも似た速さで落ちる。かと思えば継ぎ目のないV字状の右斬り返しが中央の筋肉から断裂させた音を立てて刀身を天に振りぬく。

 

 

 四肢墜どし――水龍型を極めた後、編み出した東西南北 中央の必殺の奥義。

 

 天魔と修羅は同質と聞いていた中央は修羅の個体防壁をよく知っていた。

 なにせ中央の師である彼女も修羅に到ったその一人だからだ。その修羅にして師たる彼女自身が言い放つ。自分を斃せる術技の一つや二つぐらいを編み出すようにと、そうして命じ会得させ術技の名は師が名付けた。

 

 丁度、修練中の庭にあった鹿威(ししおど)しと動きが似ていたという至極単純な理由で。

 

 そして、本来は対天魔用に編み出した奥義だが対人にも応用できるよう師以外に元初もその場で立ち合い術技の完成に立ち会っていた。

 

 

「なァッ!?」

 

 

 だからこそ中央にはまだコレがあると知っていたから余りの事態に元初は驚愕の声を漏らす。

 長巻で――普段使いで使っている得物以外で中央がコレをやるハズがないと甘い考えでいた。

 その結果、宙に舞う柄の欠片と天に振りぬかれた長巻の刃を見送ってはこう思う。

 

 

 バカじゃねぇか!? そんな重量物でソレ(・・)やるかフツー!?

 

 

 自分の目を疑った。そりゃそうだ。長巻でやるような技ではないのだから。なにより今の状態の中央(バカ)にとっては身体への負荷は相当凄まじいハズだ。

 

 だが、こき下ろすと同時に元初の心臓が跳ね上がって喜色混じりの顔つきを見せる。

 

 

「前々から思ってたんだがバカじゃなくてアホだろ」

 

「アホはテメェだろがボケてんのか」

 

「いるよなー。本人が自覚することもなくそういう常套句言うヤツ。もう確定だな。丁度いい機会だから自分はアホです、て確定申告してこいよ税務署辺りにでも」

 

「確定申告ってそういう意味じゃねぇだろうが」

 

 

 ハァ、ハァ、と息を切らし中央は思考を巡らす。

 二年振りに、しかもやたら重量のある御刀(・・)で四肢墜しを決めたのだ。

 激痛で意識を落とすことはないが両腕が次に耐えれなくなってしまった。一太刀を振るうことすら危ぶまれる状況の中、次の一手を模索し出す。

 

 

「なら代わりに写真付きでSNSに発信しといてやるよ。ポーズはどうするよ」

 

「勝手に話しを進めてんじゃねぇよ。これ以上ワケわからん事しようものなら師匠を呼ぶぞ」

 

「なら止めておくか」

 

「即決かよ」

 

「当たり前だろ? あの人のシゴキは未来永劫二度とゴメンだぜ」

 

「遠慮すんなって。二度あることは三度あるって言うだろ。今がその時だ」

 

 

 決めた。

 不毛な会話のキャッチボールの真っただ中、中央の次の一手が決まる。

 元初も得物が使えなくなったのならステゴロになるだろう。故にやぶれかぶれの突進、そして、喉元を嚙みちぎる。不本意なやり方だが腕以外での戦闘なら機動力を確保しつつ戦闘不能に至らせるのはこの方法ぐらいだろうと隙を伺う。足が満足に動けるのは僥倖というべきか雷電型(イカヅチノカタ)の速さを用いれば喉元に食らいつくのは造作もないことだ。

 

 

「やけに食い下がってくるな……オマエひょっとしてコッチ戻るときあの人に修行つけられる約束でもされたのか?」

 

「…………」

 

 

 あの戦いの後、師匠には黙って出て行った。もう会うハズはないと思っていたのだが向こう側(・・・・)で説教が確定してしまったのだから近からずも遠からずのコイツの発言につい無言で答えてしまう。

 

 

「ブフッ! オマエ、マジかよ! まだ独り立ちすることなくあの人に修行つけられてるのかよ」

 

「るっせぇ! テメェの所と違ってコッチはそういうの厳しいんだよ! しかも俺の場合、どうするかは師匠のさじ加減ってのぐらいテメェだって知ってんだろうが!」

 

「さてね。記憶にねぇなー」

 

「ハァ!? んなわけねぇだろ!! あんだけアホみたいに師匠らにボコスカと鍛えられておいてお前どういう記憶力してんだ!?」

 

「ヴ――――」

 

 

 白を切る元初の口元が言葉を止める。そして――

 

 

ウ゛ォ゛ォ゛オ゛オ゛エ゛エ゛ッ!!

 

「汚ったねぇなオイ!!」

 

「…………折角記憶の隅においやっておいたのに思い出しちまったじゃねぇか。あの修行という名の地獄の日々をよぉ」

 

「んなもん知ったこっちゃ――――ウ゛ォ゛ォ゛オ゛オ゛エ゛エ゛ッ!!

 

 

 元初以上に同じ地獄の日々を延々と繰り返してきた中央も例にもれず胃が消化しきれていない吐しゃ物を床にぶちまける。

 

 

 

「テメェも思い出してんじゃねぇか。貰いゲロするほどオマエもトラウマになってんのか」

 

「…………クソッ、余計なモン思い出しちまった」

 

「…………」

 

 

 黙り込む二人の男。その動向から目を離さない三人の少女。数瞬の短い沈黙の中で開口するのは男の内の一人。

 

 

「あーヤメだヤメ。折角お前がヤル気出してくれたのにもうヤル雰囲気じゃねぇよ」

 

「なんだもう引くのか?」

 

「そうだよ。場がこんだけシラケちまったんだ。これ以上ヤル意味はねぇな。オマエだってそうだろ?」

 

 

 短く切断された二槍の柄を投げ捨てると今度は自分の腕に向かって大きな軌道の楕円を指で描く。もう大して使えないだろ、という意味を込めて。

 

 元初の意図する通りやっぱりバレるわな、と嘆息して中央は青紫色の腕を見やる。闘争の灯はどうにも付きが悪くそれどころかしぼんでいく。

 

 

 今のままじゃ俺もこれ以上は無理か……あいつ等にチカラを見せるワケにもいかんし。

 

 

「…………ああ、そうだな。ここはお前の提案に乗ってやるよ…………行くぞお前等」

 

 

 いとも簡単に元初に背中を見せ見届け人の三人に近付いていく。

 

 

「…………よろしいのですか?」

 

「いいんだよ。本日の営業はしゅーりょー。残業無しの閉店だ閉店」

 

 

 夜見の問いかけに答えながら御刀(・・)である長巻の柄を肩に乗せ支える。流石に出入口までは移動距離がある為これは仕方ないし、刀使とはいえまだ成長期の生娘には重いであろうからこれも仕方ない。そもそも自分の得物を他人に預けるなんて風習も感性もありはしないのだから多分これがベストなのだろう。

 

 

「後ろから攻撃されませんか?」

 

「アイツはそんな子悪党みたく恥知らずなことはしねぇよ」

 

「…………」

 

 

 寿々花に追い越されると歩き出していた足を止め、真希は振り返る。

 閉ざした口で無言を貫きその視線の先を槍使いの男へと向けていた。中央と刃を交えた後だ、金城みたく不完全燃焼の男が背後から襲ってくることを見越しての警戒か。ひとつ言えるのは一目惚れという明後日の方向などでは断じてないということだが、

 

 心の奥底でつっかかる言語化できないこの感覚を抱えたまま、身支度を済ませようとする彼の動きを追う。

 

 

「獅童さん? どうなさいましたの?」

 

「…………いや、なんでもないよ」

 

 

 寿々花の声に数瞬遅れて返事をする真希。ゆっくりとした歩幅も次第に三人に追いつき、歩調を合わせる。

 

 

「――――あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッッ!!!!

 

「どうした中央!?」

 

 

 突如として声を上げながら頭を抱えてしゃがみ込む中央に真希が掛け寄ったのは床に落とした御刀(・・)が鳴り終えたころだった。

 

 

「ああ……ああ…………し、師匠の……師匠の顔が……」

 

「師匠? 顔?」

 

「無茶苦茶ニヤツキながら滅茶滅茶煽ってくる姿がさっき脳裏に過ぎった」

 

 

 わなわなとそこにいる筈のない師の姿に弟子は狼狽える。

 自体を飲み込めない真希を他所に中央は左右に頭を振ってはみたものの一向に消えることのない幻覚(ソレ)幻聴(コトバ)を放ち続けた。

 

 

「いやダメだ、もう頭から離れないでいやがる。クッッッソ! だぁーオイ、耳元で囁くように煽るな!」

 

「電話して文句の一つでも言えばよろしくなくて?」

 

「物理的に無理なんだよォ……」

 

 

 その発言でなにかを察した少女達は顔を見合わせた。そして、数瞬の後、恐る恐る探り出した言葉で中央に尋ね出す。

 

 

「……非常に言いにくいのですがもしかして、もう既に他界してるとか――」

 

「いや、それはない……殺しても死なない……いや、アレはもうゴリラを越えた霊長類最強の座に君臨する頭幼女の皮を被った未知の……いや違うな」

 

 

 まだ頭を抱え込む中央は即座にそれを否定する。ぶつくさと師の人となりを捻り出そうとしてみるが如何せんどうにも言葉がしっくりと上手くハマらない。

 そして、とうとう形容することが面倒くさくなりそこで考えるのを止め、簡潔に伝えることにした。

 

 

「……アレだ。ただの大人になれない大人だ」

 

 

 

 

次回、刀使ノ武芸者―修羅流転録

第33話 ミヤコ

 

 




公開情報


師匠
東西南北 中央の師匠。
性別:女。
修羅に到った一人。語尾にッスと付け、中央を愛弟子(バカでし)と呼ぶ。とある女性の親友。
身体は大人、頭脳は幼児。


????
中央をおにーさんと呼ぶ少女。


????
泣き震える和装の女の手を引いて何処かへと行く少女。
御刀を佩刀していることから刀使と思われる。


????
和装の女。中央の師匠の親友。
中央が子供の頃出会っている。


????
中央を背後からミドルキックした少女。



設定情報


 術技
●弐式 四肢堕(ししお)どし
 備考……中央の師と元初が立ち会う中完成させた東西南北 中央の奥義にしてその弐式。
     庭の鹿威(ししおど)しの挙動に似ていたという理由で中央の師がそう命名した。
 種類 : 斬撃
 挙動 : 上段から下段に落雷の如く落ちる袈裟切りから継ぎ目のないV字状の右斬り返しで
     刀身を天へと振りぬく。

 使用者:東西南北 中央

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