【アンチ・ヘイト】
今後も必要であればタグの追加があります。
「……随分とまぁ、高そうな店に連れて来ましたね」
とある食事処のとある個室にて一組の客が通された。
店内にはその一組だけの貸し切りとなり店の外には臨時休業の看板が掛けられている。
「食事をしながら、と言うのがお前の要望だからな。それに周りに人がいない方がいいだろう」
「まあ、確かに言いはしましたが……」
イヤ、
個室はやけに広く、モダンで落ち着きがある内装となっており出入口は引き戸の作り。
中央と紫は椅子に腰かけ、刀使と思わしき少女は扉の出入口に目を閉じ待機している。
「依頼内容を話す前に何か聞きたい事はあるか?」
「あー、んじゃあ、そっちの刀使の
顔と視線を白髪の少女に向ける。
「
「ええ。伍箇伝の制服ではないにも関わらず刀使見たいだし、側近か何かですか?」
「皐月は私直属の親衛隊だ。皐月以外にも後二人いる」
互いに互いを見合う少々重苦しさを感じさせる空間の中、それでも皐月と呼ばれる少女は目を瞑り微動だにしない。
「後の二人については折神家に戻ってから紹介することになるが、皐月。簡単な自己紹介をしてやれ」
「……はい」
今まで沈黙を貫いていた寡黙な少女が紫の後方、数歩下がった場所に歩み寄る。
「……
「ああ、俺は
互いに軽い自己紹介を済ますと中央は紫に意識を戻す。
「それで、仕事についてですが……」
「ああ、言い忘れてたが食事が済んだら次はホテルで身体を洗い綺麗にしろ」
置かれていたグラスに手を伸ばし、口元で傾けて水を一口飲むとテーブルに戻す。
ふぅ、と一息つくと。
「……この距離からでも臭う」
「……ええ、臭います」
「いや、二人してそこ強調しないで下さいよ………………そんなに臭います?」
自分の身体から多少臭う自覚はある。だがどうだろう。そこまで気にする事なのか。
「ああ、案内してくれた店員も数秒程だが顔を引き攣っていた。成人でああなのだから
未成年の者達には余計に堪えるだろう」
「……直ぐに手配します」
そう言って夜見は個室から退室した。
二人の会話の邪魔にならない様に出入口から少し離れて携帯端末を操作する。
「では注文をするぞ」
「え、いや、俺まだメニュー表貰ってn――」
中央の端に置かれたボタンを押すと数秒も経たず男性定員が失礼します、と落ち着いた声で
入室して来るが今度の定員は中央から漂う異臭にも眉一つ動かさず紫の側に歩み寄る。
「この特上黒毛和牛の鉄板焼きと――」
フム、イヤ、絶食は良くないな。異議を唱える前にしても先ずは腹ごしらえからだ。
生物として生きとし生けるものとして空腹には抗えない。
ならば流れに身を任せてみるしかない、中央はそう自分自身を納得させた。
畏まりました、と一礼し、男性定員は個室から退席した。
― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
「――それで、仕事というのは?」
運ばれた料理を全て平らげ、口の中で租借が終わりかける頃。話を切り出したのは中央の方からだった。
「刀剣管理局の刀使として私の親衛隊に加わってもらう」
ピタッ、と手に持っていたグラスが止まる。
紫から放たれた言葉に耳を疑う。
刀使として……だと? 親衛隊と言ったな。公の場に男の俺を晒し出すのか?
「主な依頼内容は私の護衛と事務処理、親衛隊の指示などだ」
「刀使として、ですか?」
「不服か?」
「不服も何も、何故オレが刀使として活動しなければならないんですか? 男であるオレが」
「お前の持つ
「伍箇伝の関係者や刀使達にはどう説明するつもりですか? まさか説明もなしに男であるオレを秘匿し続けるつもりで? ハッ、それともまさか女装でもしろというつもり何て言うんじゃ――」
「――ああ、お前には女装して貰う」
「フォワアアアアッ!?」
「丁度髪も長いし髪型次第では中性的な顔立ちに見えなくともない。服装も露出を抑えたモノであれば男だと判らんだろう。体型など個人差があるものだ、然したる問題でもないだろう」
冗談や聞き間違いじゃなかったかー!
「き、拒否権は……」
「拒否したいならしても構わんぞ。お前の胃に詰めた品々を寸分の狂い無く元の提供前の状態に戻してくれるならな」
彼女の言葉に中央は皿を見つめ想像する。鉄板や小鉢へ一面に広がるモザイク処理を施された光景を思い浮かべ額からは脂汗が流れ落ちる。
中央の脳内にはその先の情景が容易に思い浮かべる事が出来た。
クレームの雨霰。清掃費の請求による借金。それに伴う借金返済生活。
仕舞いにはスタッフが美味しく頂きましたなどと定型文のテロップが流れる始末。
まさに飯テロ。この場を逃げ出そうものならその他十数件の容疑で指名手配される未来が見え、そして、ここにいる二人の刀使によるゴミを見るかのような視線に晒されること間違いなし。
あ、それは良いかもしれない。クールな女性達に蔑まされる、何故か嫌じゃない……寧ろ心地良いかもしれない……。
ゾクゾクッ、と身体と精神が高ぶりを肌で感じていると中央が不純な事を考えている事を悟ったのか、夜見はジト―ッ、と目を細め彼を見据える。
「それに、ここの支払いは経費で処理するからな。手をつけてない状態ならその分はキャンセルできる。こちらもムダな金を出す訳にもいかんのでな」
それに、と続け、
「もし引き受けるというのならお前の今後の生活や
何だったら妹の朱音を嫁なり何なり好き勝手にしてもいい。何より好きだろう? 年上の女は」
そのとき中央に電流走る。
刹那、紫の言葉――妹の朱音を嫁なり何なり好き勝手にしてもいい――を反芻する。
いい。何をしても。
中央の脳裏に一糸纏わぬ折神朱音の姿が浮かぶ。
耳まで真っ赤にしながら猫耳メイドで萌え萌えキュンなんて言う折神朱音。
畳の部屋の中、膝枕で耳かきをしてくれる折神朱音。
一枚の布団の中、身体を寄せて耳元で囁いてくれる折神朱音。
裸エプロンで朝食を支度する折神朱音。
恥じらいながらも刀使時代の制服に身を包む折神朱音。
急な夜這いにも応じてくれる折神朱音。
自分から求めて来る折神朱音。
・
・
・
・
・
・
など、108の煩悩では足りないくらい中央の思考は色欲に支配された。
兎に角、朱音が恥じらう顔を、姿を、唯々見たい。
その欲望と衝動が中央を突き動かす。
それと同時に、ある事象が起きた。
体内の血流が一気に駆け巡り下半身に集中する。
この
存在する小刀が大太刀へと変貌する。
スペツナズナイフの如く今にも刀身を射出しそうな勢いである。
煩悩? 除夜の鐘? 何それ美味しいの?
「是非!」
「お、おおぅ……返事が早くて助かる」
若干表情が引き攣っている紫を気にも留めず中央は立ち上がり彼女の眼前に顔を近づけると。
「契約書は何処っすか!?」
次回、刀使ノ武芸者―修羅流転録
第2話 初めての立ち合い