刀使ノ武芸者ー修羅流転録   作:重曹とクェン酸

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5話ご観覧の読者様、先ずはお気に入りのご登録ありがとうございます。
続いて5話投稿と投稿文字数が長くなり申し訳ありません。
添削に添削を繰り返していたらこのような次第になりました。
投稿が長引いたら添削してるんだろうな~ぐらいの感覚で気長にお待ちください。

では、5話目をお楽しみ下さい。


5.S装備

S装備(ストームアーマ)装着テスト 前日――

 

 長船女学園の通用門に一台の黒塗りされたワゴン車が止まっている。

 国内外ともに人気のある車種で、公用車として使われている為か窓ガラスからホイールに至るまで汚れは見当たらず、日差しにより光沢さが際立つ。

 ルーフキャリアに固定された全長324センチある御刀も自身の主が現れるのを今か今と待ちわびている。

 エンジンが止められた乗用車の周りには三人の女性が佇んでいた。

 

「それじゃ、二人の事ヨロシク頼むぞ」

 

「はい、真庭学長」

 

 銀髪の女性は漆黒の髪を持つ女性に言う。

 次いで、隣に居る和装の女性がスーツジャケット姿の女性に声を掛ける。

 

「もし不測の事態が発生した場合は小百合さんの判断で動いて下さい」

 

「分かりました、朱音様」

 

 これから沖縄へ向かう三人の身を案じ、朱音の眼差しは真剣そのものであった。

 

「おっ、来たな……んん?」

 

 待ち人たる刀使がゆったりとした歩調で近づいて来たのを目視できた所で、紗南は目が細まる。何かがおかしい。

 エレンが後ろ歩きでこちらに来ている。

 キャリーケースやボストンバックといった滞在に必要なモノは予め祢々切丸同様ワゴン車に積んである。だから小百合を除き、手荷物となるモノは無いはずなのだ。

 だが、どうだろうか。何かを引き摺っている。

 目を凝らすと金髪の少女が髪色がピンクで染まる少女の両脇を掴み、ズルズル、と踵を擦り減らしながらアスファルトに線を描き、確実に距離を詰めている。

 そして、漸く二人の少女は通用門の前まで辿り着く。

 

「お、お待たせしマシた~」

 

「お早う、ござい、ます……」

 

「お、おう……お早う」

 

 生気が消えぐったりとした薫と熟睡するねね、それと愛想笑いを浮かべるエレンに、紗南は何とも言えない表情を浮かべる。

 任務の前日だというのにだらしのない顔の薫を怒るに怒れない。

 集合時間も遅刻した訳でもなく、定刻よりも二分程早い。途切れ途切れだが挨拶も出来ている。

 

「……大丈夫? 益子さん」

 

 ぐったりとしたピンク髪の少女に小百合は彼女の顔を覗き込む。

 誰が見ても分かりやすい黒ずんだ部分が目の下部にできていた。

 

「アハハハー。ダ、ダイジョウブ、デスよ! ほ、ほら、薫シャキッとするデスよ!」

 

「ね、眠い……」

 

 全く大丈夫そうじゃないわね……。

 

「益子さんはいつも朝は弱いのですか?」

 

「いや、夜更かしして特撮モノを見てたなありゃ」

 

 特撮モノ?

 

 聞き慣れない単語が小百合の耳に届く。

 見てたということは何かの深夜番組だろう。彼女はそう断定した。

 

「薫はヒーローが大好きなんデスよ。それが高じて刀使になったのデスから」

 

 ……ヒーロー……? えっ、趣味のお陰で刀使になれたの? この子。

 

「まぁ、益子家は代々刀使として歴史在る家系だからな。刀使としての在り方や荒魂とどう向き合うか、とか色々引き継いできた訳なんだが。コイツの場合、刀使になれたのは家柄(それ)だけじゃないんだよ。いつかヒーローに絶対になるんだ! 絶対にっ! って目を輝かせてたんだ。小さいときからな」

 

 凄い執念ね。私と大違い……。

 

「ほら、薫。シャキッとしろ、シャキッと」

 

 完全に熟睡しているねねを摘まむと、エレンに預け、寝ぐせの付いた薫の髪をわしゃわしゃと搔き乱す。

 

「あばばばば……」

 

「……昨日みたいな状況にならないのですね」

 

「今日は『S装備』のテスト任務ということもありますので真庭学長も気を遣っているのでしょう」

 

 口に手を当てクスリ、と微笑む仕草を見せ、朱音は言葉を紡ぐ。

 羨ましそうでもあり、寂しそうな、そういう表情を孕んでいた。

 

「叱咤激励をするだけが上司の役割ではありませんから」

 

「エレン、薫。快く引き受けてくれたんだ、あまり小百合に迷惑かけるなよ」

 

「分かってマスよ!」

 

「うぉ、おお……」

 

「では、改めて。小百合さん、お二人を宜しくお願いします」

 

「はい」

 

 公用車に乗り込むと三人の刀使と一匹の荒魂は二人の元刀使に見送られる。

 

 

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 

 

沖縄県とあるホテル内――

 

 地域間輸送用旅客機(リージョナルジェット)の車窓から一人を除き景色を楽しむことなく沖縄県に到着した刀使一行は空港に着くと、これまた沖縄の繫華街や海を楽しむことなく宜野湾(ぎのわん)市のとあるホテルに直行することとなった。

無論、ホテルの移動にはタクシーやハイヤー等ではなく、真庭学長が手配した研究施設が保有する公用車である。

 

 ロビー内で受付を済ましフロントクラークから部屋のキーを受け取ると、小百合はロビー内に備え付けられたソファーに座るエレンと思う存分ソファーに体重を乗せ、睡魔から覚醒することに成功した薫、そして充分な睡眠時間を得て主と同じように寛ぐねねの待つ方へと足を進める。

 

「ごめんなさい。少し時間が掛かったわ」

 

「No problem,大丈夫デスよ」

 

「ここのソファ、中々の座り心地だぞー。先輩も少し座ってみたらどうだー」

 

「ねー」

 

「部屋は何階なんデスか?」

 

「部屋は3階のトリプルルームね」

 

 カードキーに書かれた4桁の数字を見せる。

 確かに下3桁に3の数字が印字されている。

 

「何だ、スイートじゃないのか。あのオバサン、ケチってんじゃねぇよ」

 

「薫、遊びで沖縄に来てるんじゃないんデスよ。それに、ビジネスホテルじゃないだけでも有り難いデスよ?」

 

「分かってるよ。ただ、公務員とはいえオレ達肉体労働している学生なんだ。少しぐらい贅沢してもバチは当たらんだろ?」

 

 少々、辛口な事を言って見せると、近くで待機していたベルスタッフが近づいて来る。

 小百合はベルスタッフから荷物を預かる様声を掛けられるが、「有難う御座います。大丈夫です」と、片手で断り遮るかの様に手に持っていたアタッシュケースを遠ざける。

 それでも笑顔を崩さずにベルスタッフはエレベーターまで三人と一匹の案内を続け職務に努める。

 

 

 エレベーターから降りると、先導者の如く床を蹴るベルスタッフに小百合は、「有難う御座います。此処からは大丈夫ですのでお引き取り願います」と、伝える。

「何か御座いましたら何なりとお申し付けください」そう笑顔を絶やすことなくベルスタッフは一礼を持ってフロントへと向かう。

 

「良かったのデスか?」

 

「真庭学長が手配してくれたホテルとはいえ、何が起こるか分からないわ。念の為よ」

 

 カードキーをドアノブの上にタッチすると小さな丸状のLEDが青緑色に点灯し、ドアロックの解錠音と共にチューブラ錠を開ける。

 

「ちょっと此処で待ってて」

 

 そう言って同行者を制止すると年長者である彼女は客室へと入る。

 室内の安全を確認すべく素早く行う。

 玄関を、バスルームを、並べられたベットの下を、備え付けられた冷蔵庫を、果ては天井まで隅々と。手早く安全を確認すると二人と一匹に入る様促す。

 そんな神経質にならなくてもいいだろうに、そう思いながらも小百合の用心深さに感心する薫はボストンバックを放り出し、一番手前のベットにダイブする。

 

「とぉっ!」

 

「あっ!? 薫、ズルいデス!」

 

 薫に負けじとエレンも彼女と同じベットに勢い良く突入する。

 二人分の体重がベッドに寄りかかり、悲鳴を上げる様に小さく軋む。

 女性しかいない為かそれとも彼女自身の性なのか、スカートが捲り臀部にフィットした空色の布地が顔を覗かせる。

 

 若いわね……。

 

「先輩もどうだー?」

 

「私は遠慮しておくわ。それに……見えてるわよ、下着」

 

「What!? あ、ありがとうございます……」

 

 指摘した途端、頬と耳が紅葉ししおらしくなる様は年相応の羞恥心を持ち合わせているようで少しばかり小百合は安心した。

 小百合の中ではエレンと出会ってから今の今までの印象は天真爛漫でとにかく明るい。中等部の中でも体つきが良い為、少し心配にはなっていた。

 

 遠出したのと女子同士だから、というのもあるのでしょうけど、羞恥心があって良かったわ。もし無かったらホント、どうしようかしら。

 

 おもむろに腕時計に目を向ける。メンズタイプのミリタリーウォッチを身に着けている。短針と長針が1の字を重なり掛けていた。

 

「少し遅くなったけど食事にしましょうか」

 

「ハイ、ハイ! ワタシ、ゴーヤチャンプルーがいいデス!」

 

 赤面していた少女はいつも通り太陽のような明るさを取り戻すと、目一杯腕を伸ばす。

 

「ラフティーが食いたい」

 

「ねねー!」

 

 ……そういえば。

 

 小さな疑問が芽生える。

 

 荒魂のこの子は一体何を食するのかしら?

 

 まさに三者三様。いや、十人十色と言うべきか。

 スマホからグルメ情報サイトを検索する。

 なるべくホテルの近隣にある方がいいだろう、画面をスライドさせ目を泳がす。数分も掛らずして数件の店がヒットした。値段も先ず先ずといったところだ。

 

「では、行きましょうか」

 

 三人と一匹は繁華街へと繰り出す。

 

 

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 

 

S装備装着テスト 当日――

 

 

 予定されていた時間に予定されていた場所へ何事もなく辿り着く引率者兼保護者とその同行者達。

 山吹色と桑茶に近い二色のジャケットと焦茶のプリーツスカートをビシッと着こなす二人の長船女学園の刀使と、彼女達同様にシワ一つ見当たらないグレーのスーツジャケットとボトムスの他にロングカーディガンを着用する一人の元美濃関学院の刀使。

 当然ながら今回は薫もキチンと御刀を帯刀している。

 彼女の身長が135センチと中等部どころか初等部高学年の平均身長にも満たない所為もあり、祢々切丸は腰ではなく背中で帯刀することとなる。

 小百合も研究施設の職員を含む警護任務の為、御刀の柄の(かしら)が天を差す形で帯刀してる。

 

「ここが『S装備』の開発場所かー」

 

「以前はグランパが責任者だったんデスけど、今はパパとママが責任者になってマス」

 

 昨日の羞恥心が噓の様に恥ずかしげのない、寧ろ誇らしげな表情を見せる金色の長髪娘。

 腕を組み、口角を上げ、ムフー、と白い鼻息がマンガの表現の様に吐き出される。

 所謂ファミコン。ファミリーコンプレックスと呼ばれるものなのだろう。勿論、良い意味で。

 

「――直ぐに迎えの方が来るそうよ」

 

 入口に居る守衛にアポイントメントがある旨を伝えると、職務を遂行する制服姿の中年者は固定電話の受話器を耳に当てる。

 数分も掛らず受話器がカチャリ、とフックスイッチを鳴らし定位置に収まる。

「少々お待ちください」と抑揚のない声でそれ以上の言葉を紡ごうとはしない。

 だから小百合は待たせている二人と一匹の許へと足を向けたのだ。

 守衛所近くで待機する自衛隊も特に彼女達、それと小さな荒魂を気にする事はない。

 時たま見える長船の刀使が軽く手を振るが任務中ということもありみだりに彼女達に接触してこない。

 

「お待たせしました。こちらへどうぞ」

 

 若々しい声が鼓膜に届く。

 待たされた感覚がない程の短い時間で研究所職員は姿を現した。新品同然かと思われる真っ新な白衣の出で立ちをした若年者が。

 彼に先導され、火の点いた導火線の様に後ろをついて行く。

 中に入ると外の温かさが嘘の様に薄れていくのが分かる。

 少し歩くと迷彩色の制服と自動小銃を携えた二人が巡回している。警護内容に含まれていないのか立ち止まっての挨拶や会釈は今の所ない。

 米国との協力を経て『S装備』を作り上げているのだから彼ら米軍が見回りをしていても不思議ではない。

 通路内は厳重で、二人一組(ツーマンセル)で施設内の確認や連絡を取り合っている。誰も彼も職務に忠実でサボるような挙動は見受けることがない。

 見渡せばまた(・・)米軍の一組が通り過ぎ、まるで此方が監視されているかの様な錯覚を覚える。

 そうこうしているうちに若い職員が扉の前に立つと首に掛けたネックストラップに入ったカードを扉の端の端末に翳すとREDランプが解除音と共に変色する。

 

「バートランド部長、長船女学園の方々をお連れしました」

 

「ああ、ありがとう」

 

 連れて来られた一室に入ると若い研究所の職員とは違い、部長と呼ばれた男はキーボードを叩くのを止め落ち着いた声で返事をする。

 ブロンドの短髪でスーツに白衣を羽織っており、日本人離れしてはいるが年相応の顔つきをしている。室内には彼一人しかいない。

 

「初めまして。『S装備』開発部長のミツヒロ・バートランドだ。宜しく」

 

「初めましてバートランド氏。私は――」

 

 差し出された手を握り返そうとしたが、

 

「――ああ、知っているよ。『特剣(とっけん)』に所属する百合園 小百合さん、だろう?」

 

 敵対している訳じゃない。敵意もない。此処では彼らは協力者だ。確かに掌同士合わさった。

 だが、この言葉で遮られる。

 『特剣(・・)』――その二文字で。

 折角組み上げたパズルが崩される。いや、もっと言い換えるならば鏡が、そこに映る自分(・・)が割れるような錯覚が襲う。

 小百合が言いかけた所でミツヒロは遮る様に小百合の情報を口にしたのだ。開示しなくても良い情報を。

 国外の人間だから知っているのは当然で、研究職の人間なら尚の事だろう。

 しかし、国内の人間は知らない。知る事は先ずないし、世界の事など知らなくていい。

 特に、刀使の娘達には。

 

「……よく、ご存じで」

 

 一瞬、ピクリと時が止まった――ハズは無く、けれども彼女の心は凍てつく。

 ここ数日で後方にいる彼女達刀使に見せていた表情が嘘かの様に冷たいモノに変わり果てる。

 生気など無い、無表情ではなく無感情そのもの。それが今、百合園 小百合というかつて刀使として従事した者が見せる顔。

 それを知ってか知らずか、青年期の刀使達はヒソヒソと声を抑える。

 

「……薫、『とっけん』って聞いたことありマスか?」

 

「……イヤ、初めて聞いたぞ」

 

「ねー?」

 

 『特剣』というワードと小百合という女性が刀使を続けられている理由。これは繋がっているんじゃないか。

 そして、何かヤバい事に係わっているんじゃないか。

 憶測ではあるがそう断定したくなる何かが、エレンだけじゃなく薫にも刀使としての、いや、人間として沸々と第六感が訴えかけてくる。

「ふぅ」と、一呼吸置いた後、

 

「それと、今回の『S装備』開発に協力するテスト装着者の古波蔵 エレンさんと益子 薫さんです」

 

「ああ、宜しく頼むよ。エレンさんは古波蔵所長、並びに副所長のご息女だと伺っている」

 

「ハイ、デス!」

 

 先程の、短時間とはいえ重苦しい空気を壊すかの様に明るく返事をしてくれるエレン。

 この時ばかりは底抜けの明るさが有り難く、時折お姉ちゃんと呼びたくなる位には何だかんだで頼りになる。実際には口が裂けても言わない事だが。

 そして薫には真似のできないことだ。

 

「では、案内するよ」

 

「あの~一ついいデスか?」

 

「何かな?」

 

「パパとママは」

 

「何でも、外せない急用(・・)が出来たとかで内地に向かったよ。ああ、いくら君が古波蔵所長達のご息女で、協力してくれている刀剣管理局の刀使だとしても業務内容を話す訳にはいかないからね。聞くんだったら直接所長達に聞いてくれ。こちらも職務上の守秘義務があるのでね」

 

「分かりマシた」

 

 しょぼくれる事なく、古波蔵夫妻の娘は特に深い意味もなく、ただ確認した。

 それから「バートランド氏。私からも宜しいですか?」と小百合が声を掛け、「何だね?」と、ミツヒロは答える。

 

「研究所の内外の警備についてですが、施設外で巡回しているのが派遣されている刀使と自衛隊の方々で、施設内には米軍の方々しか見えませんでしたが、何か理由がおありでしょうか?」

 

 この施設に足を踏み入れたときから感じた違和感。警備する人間の違い。それと雰囲気。

 あからさま過ぎる区別に小百合は問てみる。

 

「ああ、その事ですか。なぁに簡単な事ですよ。日米、お互いに協力関係を築いていてもこの研究が終われば研究所の警護も軍はお役御免。『S装備』の生産も国内であれば内地で、国外(・・)であれば……ともすれば態々連携が拙い状態で警護して貰うよりも連携の取れ易い状態の方が良いでしょう」

 

 狙いはソレ(・・)か……。幾ら向こうにいる大半が活動を休止している状況とはいえあからさまな……。一体『S装備』に何を(・・)組み込んだ? ……彼ら米国側の思惑が分からない。日本国民への情報統制とはいえテスト当日に責任者である古波蔵氏両名を外させるなんて事、普通じゃ考えられない。

 

「さぁ、着きましたよ」

 

 疑念が膨らむ中、ミツヒロに連れられて来られたのはある研究室の一室。

 先程のミツヒロが居た研究室とは違い、重々しい扉が目の前に広がる。

 扉の右隣に設置された液晶モニターに手を翳すとテンキーが浮かび上がり暗証番号を慣れた手付きで打ち込む。

 その様子を小百合はミツヒロの背中越しから凝視する。

 打ち終わると直ぐに数字を反芻する。

 

「ドクター日野。協力して頂けるテスト装着者の方々が来てくれましたよ」

 

「ああ、済まない……『S装備』開発を担当する日野(ひの) 洋治(ようじ)だ。宜しく頼む」

 

 ミツヒロと同じ様に右手を差し出す。白髪の連珠毛を生やし白衣を着用する洋治は少なくともミツヒロよりかは歳をとっているだろう。

 

「初めまして、日野博士。刀剣管理局より護衛任務を承りました百合園 小百合です。そして――」

 

 軽く上半身を捻り、紹介を進める。

 

「――本日の『S装備』テスト装着者で刀剣管理局に所属する刀使、左に見えるのが古波蔵 エレンさん。と、同じく右に見えるのが益子 薫さん。彼女の頭に乗っているのが荒魂のねねさんになります」

 

「ヨロシクお願いしマス!」

 

「あーよろしくお願いしまーす」

 

「ねー!」

 

「ああ、こちらこそ宜しく。では、早速テストについて話をさせて貰うが、今回は『電力稼働型』と『珠鋼搭載型』の二種類の『S装備』を装着して貰うよ」

 

 『S装備』には開発当初から二つのプランが立案されていた。『電力稼働型』と『珠鋼搭載型』の二種類である。

 

 『電力稼働型』――その名の通り、電力を使用して作動させるタイプの物であるが、短所が立案当初から懸念されていた。それは刀使としての戦闘術の発動と引き出せる能力についてだ。

 刀使以外の戦闘訓練された者が装着すれば絶大な効力を発揮する事が可能となるだろう。戦闘機や戦車よりも遥かに優秀な兵器と成り得る。歩兵の時代に遡る事になる。

 だが、今までの試験評価により刀使がこの『電力稼働型』を装着して戦闘術を発動しても一段階、若しくは二段階までが限度であった。更にそれだけではない。何よりの問題点は稼働時間の短さである。バッテリーの容量に対し稼働開始から三〇分も持たない事が今日までのテストで判明している。

 

 『珠鋼搭載型』――御刀の素材である珠鋼を使用するタイプの物。珠鋼からエネルギーが供給される為、無尽蔵で稼働できる、その点でいえば『電力稼働型』に対して大きなアドバンテージを得ている。

 暴走(・・)という最大の欠点を除けばではあるが。

 

 安全性を重視した短期運用か、はたまた暴走を容認した長期運用か。

 開発者も現場(・・)の人間も頭を抱える内容であり、表向き(・・・)はその二種類が開発されている事となっている。

 

「今回『S装備』装着時の八幡力と金剛身、迅移の発動と荒魂との戦闘データを採る」

 

「では、先ず『電力稼働型』からテストを行おう。準備してくれ給え」

 

 洋治とミツヒロの両名が言い終わると待機していた彼らの助手が二人の被験者に歩み寄り、『S装備』装着の補助を行う。

 

 

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 

 

 つつがなく『S装備電力稼働型』のテストを終え、二時間の休憩の後、『珠鋼搭載型』のテストへと再開される。

 

「ところで……」

 

 『S装備』テスト最中だというのに背広姿の男性は同じくスーツジャケットの女性に声を掛ける。

 

「何でしょうか?」

 

ミツヒロは小百合に話しかけるも、当の本人は横に居る彼を見ようとしない。モニターを注視したままだ。

 

「『百千万億(つもる)』氏は今どうしているのかね?」

 

「……貴方方に守秘義務があるように此方にも守秘義務がありますのでお答え出来かねます」

 

「そうか、それは残念だ」

 

 一瞬の間、僅かだがただならぬ気配を感じ取る。気配の正体はモニター内――つまりは『S装備』からである。

 

 荒魂とは違う……でも、これは知っている(・・・・・・・・)

 

「ねねさん、貴方は此処で見張っていて。貴方の主人とお友達は私が守るから」

 

「ねねー?」

 

 自身の肩にちょこんと佇んでいたねねを丁寧に作業台に乗せると、小百合には性別がまだ分からない小さな性別不明の彼彼女の頭を軽く撫でる。

 すると、小百合の言葉を理解したのか「ねね!」と、敬礼して見せる。

 その姿を見せられ、氷は僅かながら氷解し、小さく微笑むと行き来した扉とはまた別の扉を解錠する。急いで彼女達の許へと向かう。次々と鋼製の足場板を蹴り出し、奔る。

 ステップを一段、二段、と飛ばし飛ばし下る。

 だが、それでも彼女達の許には遠い。

 

「何か異常は見受けられるかね?」

 

 マイク越しからスピーカーを伝い、テストルームに日野博士の声が循環される。

 

 これでは遅い!!

 

 その判断が、一人の人間として、刀使の先輩として、かつて戦場に起ったモノの一人として行動を起こさせる。

 踵が足場板に着くよりも前に手摺りを掴み、身体を引き寄せる。

 全身が宙に浮くがそんな事は関係ない。

 片方のつま先のみで全体重を支え、そしてまた、蹴る。前へと。

 足はバネ。向かう方向(さき)は対角線上の下。

 同じ形状の銅管を繰り返し蹴る。

 下に進む度に心臓の鼓動が、血流が早くなる。バクッ、バクッ、と。

 これは落下による恐怖ではないし、自死が身近に迫っているのでもない。誰かの死(・・・・)が間近に迫っている、その感覚だけが全身を纏わりつく。

 

 もう誰も、死なせない……!

 

 脳裏にあの日(・・・)の光景が甦る。

 老若男女問わず、人間の――

 

 

 

 

 ――血と、

 

 

 

 ――死肉と、

 

 

 

 ――砕け散った欠片の山が辺りに広がる、戦場となった一面を。

 

「先程と同じでno problem!デス!」

 

「右に同じーく」

 

「評価項目は先程と同じだ。始めてくれ給え」

 

 日野博士は続ける。雪景色の様に無菌状態が保たれた一室で二人の被験者は御刀を構え写シを張り直す。

 

「いっき、マス! ―オヨ?」

 

「キエエーえ……?」

 

 本来なら猿叫が木霊したハズであった。

 

 セーフティーが働いたのか、ピクリとも動かない。

 

 

 

「コ、コレ、マズくないデスか……?」

 

 『S装備』の駆動部分から金属が無理矢理擦れる音が断続的に鳴り続ける。

 

「チョッ!? オイ! どうなってるんだ、コレ!?」

 

 オペレーターである彼女達から制御を離れた『S装備』は命令系統を無視し、新たに駆動し始める。AIが埋め込まれているのか、『S装備』はSF映画を彷彿とさせる様にAIが自己判断で演算、行動を起こしているんじゃないかと思わせる程、内部からは勿論、外部からの信号も受け付けない。

 お互い、対面へと向き合う。

 制御が利かない。ならやる事は一つ。少女は冷静に頭を働かせる。

 

 自分(オレ)の所為で相棒(とも)を傷付かせはしない。

 

 薫は八幡力の発動を試みた。

 薫は伍箇伝の高等部に極僅かしかいないとされる八幡力の最大値、限界である五段階目まで引き出せれる逸材。

 中等部であれば尚の事、そこまで引き出せれる者などいはしない。

 一芸の限界に到達できたからこそ、命の際の際で試す。

 たかが機械、されど機械。

 これから近い将来、何れ必要とされる『力』。

 先の未来の為、ここが踏ん張りどころ。

 

 『ヒーロー』だろ? オレは……『ヒーロー』、なら……! 諦めんなっ!!

 

 上段で構えは固定されていることに変わりはない。

 ならば少しでも身体を、向きを横へずらす。腕は遥か後ろへ。

 

 出来なくても、ヤレッ!!

 

 歯を食いしばる。その拍子で下唇を切り、小さな血流が靴を跳ねる。

 

 前など振り下ろすものか。絶対に。例え腕や肩が砕けても入院するだけだ、構うもんか。後のことなんざ知ったことじゃ――

 

 金属音は更に軋みを増す。

 

「――ねぇーっ!!」

 

 咆哮と軋む音が真っ白なテスト場に響く。

 

「制御が、聞きま、セン……!」

 

 どうにかして制御を取り戻そうとしているがビクともしない。

 (とも)は? 彼女を見やる。

 互いに正面を向いていたハズだったのだが、僅かに切先が斜めに向いている。無理矢理体勢を変えているのだ。

 今自分が動かそうともアンカーを地面に打ったかのようにビクともしない。

 しかし(とも)は動いている、動かしたのだ。無理矢理。

 導き出される結論は一つ。八幡力だ。

 相棒(とも)も藻掻いている。ならばコチラがやる事は決まっている。

 エレンが考え実行に移したのは金剛身による防御。

 写シと『S装備』に身を包んでいるとはいえ、防御性能は完全ではない。

 『S装備』の制御下でとはいえ祢々切丸の一太刀は八幡力で限界値を引き上げられた

状態であり、(とも)の繰り出す一太刀(モノ)でなくても唯では済まされない。

 それにこの距離であれば彼女の、祢々切丸の間合い。

 今から横に動いても数ミリが関の山。

 ならば、持てる技術、持てる能力全てを防御に費やす。回避など以ての外。

 金剛身を五段階目まで引き上げる。

 気休め程度にはなるだろう。

 

 薫は、泣かせませんよ……!!

 

 自分は傷ついても良い。でも(とも)の心に傷は負わせはしない。何としても。

 身体の傷は時間と休養でどうとでもなるが、心まではそうはいかない。当事者がどうこう言っても一生残る。

 

 薫は大切な親友!(my best friend!) 守り抜く!!

 

「クッ、ソガ―ァ゛ッ゛!!! マジでヤベェって!!!」

 

 極めた八幡力も、極めた金剛身も、機械をせき止めるには限界があった。

 彼女達の意図しない反する挙動が実行される。

 祢々切丸は地面へ、越前康継は天井へ振り放つ。

 

 

 『S装備』の悲鳴音とは比べ物にならない程の金属音が火花と共に鳴り響く。

 

 

 

 

 

 何とも、ない……?

 

 御刀を振るう瞬間、二人の刀使は貝のように目蓋を閉じた。

 親友をこの手に掛ける瞬間を、親友に罪の意識を植え付ける瞬間を、見たくない。

 その思いがまだ未熟な刀使らを幼い少女に戻した。

 

 でも、何も起こらない。起こらなかった。

 確かに御刀と御刀が触れ合っているし、その感触はまだ続いている。『S装備』が振りぬけと身体に命令する。

 今だってほら、自分が打ち負けている。

 壁にぶつかった様に御刀が前に行こうしない。

 

 う、うん……?

 

 御刀が押し返されるのに自分の身体に痛みが無い。

 斬られて、いない。だが、そんなハズはない。

 何かがおかしい。状況が整理出来ていない。

 恐る恐る、少女は目を開く。

 

 目の前には薫の祢々切丸が自分の頭上で止まっている。

 そして、見覚えのある漆黒のポニーテールの女性が左手の『短刀』を逆手で越前康継を止めている。いや、抑え込んでいる。それも微動だにせずに。

 

 ああ、良かった……。

 

 心の底から安堵し、大粒の涙が雨のように溢れ出る。

 

 そして、薫は薫で驚愕の表情で唖然としている。

 何が起きたのか事態を飲み込めていないらしい。

 彼女が放つ祢々切丸の一太刀は割って入った女性の介入により止められたのだから。

 エレンと同様に右手で受け止めているそれは『剣』(つるぎ)で、小百合が帯刀している鞘から抜けられている紛うことなき御刀。

 

 エ、レン……? 無事、なの、か……?

 

 薫の目にもエレンの五体満足の姿が確認された。

 

 

「サ、ユ、リン……?」

 

「――ふぅ……」

 

 御刀同士均衡が保たれている状態を良しとしない小百合は硬直状態の『御刀』を弾く。お陰で二つの『S装備』ががら空きである。

 

 そこ……!

 

 二つの一閃が胸部を覆う『S装備』に入る。

 ノロを収容している強化ガラスが割れ、勢いよくノロが溢れる。

 

 

「え、ア、アリガトウ、ゴザイ……マシタ?」

 

「助かっ、た……のか?」

 

 安堵に浸かるが薫は口元の痛みと共に疑念が生じる。

 

 この先輩、オレの祢々切丸とエレンの越前康継を片手で、それも金剛身無しで防いだぞ。写シ張ってねぇし、『S装備』のウイークポイントを見破って一撃いれて機能不全にした。マジで何者だこの先輩。

 

「不測の事態が起きました。今回の『S装備』装着テストは此処で終了とします。宜しいですね?」

 

 強化ガラスで覆われたモニター室を見上げると小百合は鋭く睨む。

 

「ああ、構わない。ご苦労だったね」

 

 あっさり引くのね。

 

 小百合にとって洋治の一言が『S装備』開発に不信感を募らせる。

 

 

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 

 

研究室――

 

 

 

 装着テストが行われてから半日程が過ぎた頃、研究所内では二人の研究者が議論を交わしていた。

 

アレ(・・)を組み込んでいても『電力稼働型』は八幡力と金剛身の発動が、やはり二段階までが限界……稼働時間も『珠鋼搭載型』と比べ大幅に短いまま」

 

「『珠鋼搭載型』はまぁ、暴走も想定の範囲内であった。今回は被験者の意識が保たれていたな」

 

「だが、やはり、どちらも相性(・・)は良くなかったか」

 

ガリガリ――ガリガリ――

 

 とどこからともなく何かを削る音が小刻みに聞こえて来る。

 話を邪魔したいのか、続けさせたいのか分からない。だが、話の輪に介入しようとする意志は感じさせられる。

 

「ああ、我々が予測した通りの結果だった。だが計画に変更はない。これ程の装備を刀使だけ(・・)に使用するなど愚か過ぎる」

 

 ミツヒロは口を滑らす。得られたデータに目を通して。

 今回のテストは彼らにとって成功したモノとなった。

 

 

 なぜなら。

 

 

「では、予定通りテストで使用した『S装備』から『自爆装置(フェンリル)』並びに『光子結晶体(ミール)の欠片』を取り除き保管場所へ戻そう」

 

 長船女学園並びに刀剣管理局、引いては折神家にすら申告していない『モノ』を組み込んでのテストが自分達の予測した通りの結果内容だったからだ。

 

「次の『S装備』のテストは刀使である彼女達本来(・・)の『珠鋼搭載型』でテストを行って貰おう」

 

「じゃあ、サンプルの『S装備』(ソレ)はもう持って帰っていいの?」

 

 若い、まだ声変わりしてない少女が突如として中年者達に問う。

 何故少女なのか。それはその風貌が彼女を未成年者だと認識させるからだ。

 日本では珍しくもない、伍箇伝の制服。それも長船女学園の制服である。

 

「いや、今日はデータだけを持って行ってほしい」

 

「なんで?」

 

 自身の爪を弄っていた少女は視線を動かそうとしない。

 

「今言った『自爆装置(フェンリル)』と『光子結晶体(ミール)の欠片』は『S装備』に搭載されていたとしてもキミ達が運ぶには危険過ぎる。後日、コチラから完成品を送るとするよ」

 

「ふ~ん。じゃあ、さっさとデータ寄越せ(ちょうだい)

 

 爪を弄るのにも飽きたのか数歩分彼らの許へ近づくと手を差し出す。

 脱力した手首を上下に揺らし年長者を急かす動作をワザとらしくしてみせる。

 

「まだ取り纏めが出来ていないんだ。少し、待っていてくれないか?」

 

「あ~そう。んじゃあ、それまで遊んで来る。そろそろ交代の時間(・・・・・)だろうし、良いでしょう?」

 

「ああ、処理(・・)はコチラでやっとくよ」

 

「そ、ありがとさん」

 

 そう言って御刀を携えた少女は扉から出ると通路を進む。

 施設の構造、交代時間、巡回ルート、全て頭に入っている。

 スカートに巻かれたベルトに手をやると、ベルトから布を剥がし、左手にそれを巻き付ける。滑り止めの代わりにするかのように。

 照明から照らされる光がベルト(・・・)をキラリ、と反射させる。

 手持ち無沙汰の左手で柄巻を擦り、次に人差し指でトントン、トントン、と一定のリズムを刻む。

 御刀の感触をしっかりと確かめ、刀使(・・)は行く。

 逸る気持ちを抑えながら、今日もこの刀使は歩き回る。

 生贄(エサ)を求めて。

 

 

 

 

次回、刀使ノ武芸者―修羅流転録

第5話 

 

 




ご観覧しているであろう竜宮島島民の皆様、お待たせしました。
赤字ですよ、赤字(白目)
誰がどうなるかは次話で明らかになります。
そして、ファフナー(無印)から大人組二人の出演となりました。
この二人が出るということは……。

キャラ公開情報
女主人公
氏名……百合園 小百合
年齢……??
御刀……七支刀(形状に変化あり)
一人称……私
備考……元美濃関学院のOG
所属先……『特剣』?


フラグポイント 増減値 累計
古波蔵 エレン√  0   -1



氏名……ミツヒロ・バートランド
役職……部長
『S装備』開発担当


氏名……日野 洋治
役職……??
『S装備』開発担当





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