刀使ノ武芸者ー修羅流転録   作:重曹とクェン酸

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6話の投稿から大分日にちが経過しておりますが、夏の熱さにやられただけで、
生存していますし執筆も行っております。
話の内容によっては投稿速度は速くもなりますし遅くもなるので
長い目で読んでいただけると幸いです。

では、風雲再起編の1話となる修羅流転録の7話のご観覧お楽しみ下さい。



風雲再起
7.初任務


折神家構内一室――

 

 中央(なかお)との立ち合いの日から半日が経った翌日。真希と寿々花、そして夜見の親衛隊三名は紫が使用している執務室に呼び出されていた。

 

「獅童です」

 

 扉をノックするが返事が返る気配は無い。

 聞こえていないかもしれないと、もう一度ノックをし直す。

 

「紫様?」

 

 それでも返事がない為、無礼と承知しつつ、真希はドアノブを捻る。

「失礼します」と、三人を代表して先頭の真希が入室の挨拶と共にドアを開く。

 

「……何をしているんだ、アナタは」

 

 執務室内に居るはずの招集主の姿はなく、そこに居るのは応接ソファーの下座で男性刀使が一人、品位の欠片もない体制で寝そべっている。

 小耳に挟んだ情報によると一応、年上という事なので真希は敬語を使う。

 

「し、死ぬ……」

 

「たかが書類整理だろう。そんな大袈裟な」

 

 昨日振りの第一声が自死を仄めかす内容に親衛隊第一席の刀使は真顔を保ち、心底呆れる。

 

「入力漏れに誤字脱字が多すぎる。それに、御当主(・・・)の承認が不要な案件が混じってるとか……お前ら公務員だろう、何でこんなにミスがあるんだよ……」

 

「……入力漏れや誤字脱字は公務員との因果関係はないと思いますが?」

 

 表情を崩さず笑顔の一つも見せない親衛隊第三席は反応して見せる。

 

「まさか、修正していたんですの? この量を?」

 

「余りにも多すぎ。一体どうなってるんだ、ここの職員は」

 

 幅広い応接テーブルに積まれた報告書を無造作に二、三枚取ると記載された内容に親衛隊第二席は目を丸くする。

 僅か短時間で寝ずに全ての修正作業をしていたのかと、横隣りに居る第一席とは違う呆れを見せる。

 そんなやり取りをしている間に、招集主たる折神家当主が紙袋とビニール袋を手にして顔を出す。

 

「全員揃っているようだな」

 

「おはようございます、紫様」

 

「……おはようございます」

 

「おざまーす」

 

 紫の入室と同時に真希と寿々花の挨拶は重なり、その後を追うようにワンテンポ遅れて夜見が続き、最後に中央がふざけた体制で締める。

 

「ああ、お早う」

 

「紫様、本日はどういったご用件で」

 

 真希が話を切り出す。

 

「ああ、そのことについてだがな。急な話になるが防衛省の書記官との会談が決まってな」

 

「日程はいつ頃になるのですか?」

 

「今日だ」と、紫が言い放ち、「今日!?」と、流れる様に直ぐに反応する真希。

 親衛隊第一席であるが故に紫への発言を率先して行ってきた淡香の色合いの髪を持つ少女は一驚を喫する。

 

「何やら急ですわね」

 

「先方も至急との要請でな」

 

 真希に比べ寿々花は落ち着いている。昨日の立ち合いからか、前日以上の驚きなどもう経験する事は無いと肝が据わる様になったのだろう。

 臙脂(えんじ)色の髪の少女は同色の赤い毛先をクルクルと指で弄りながら紫へ口を開く。

 

「相手は省庁の人間だ。こちらも早急に対応しなければならない」

 

「…‥‥少し、変ではありませんか?」

 

「今それをここで議論していても仕方あるまい」

 

 夜見の指摘については紫自身もそれを承知している。だが彼女の言う通りそのことについて議論する暇は無いし、執務室(ここ)はその為の場でも無く。

 そう反論されては白髪の少女も口を紡ぐしか無い。

 

「では、中央、獅童、此花、皐月。以上四名は私の護衛として同行して貰う」

 

「はっ!」

 

「ところで御当主(・・・)。俺はこの格好で行くんですか?」

 

 漸く応接ソファーをまともに座りだした中央が紫に問いて見る。

 

「ああ、忘れていた。お前用の親衛隊専用の制服は用意してある。受け取れ」

 

「うをぉおお、っと、とと……」

 

 乱暴に投げ出された紙袋を床に落さずに済ますと、隙間から中身を覗き込む。

 新品同様で丁寧に畳まれた制服一式がポリプロピレンの底ガゼット袋に包装され収納されていた。

「それからこれもだ」と追加で放り投げられたビニール袋をこれまた取っ手部分のところで掴むと一足のタクティカルブーツが確認出来た。

 

「直ぐに出立する。獅童、此花、皐月は私と共に車へ、中央は着替え終えたら直ぐに来い」

 

「はっ!」

 

「りょーかいでーす」

 

 四人の女性刀使が退出すると残された男性刀使は紙袋とビニール袋から親衛隊服と靴を取り出し、制服に着替える。

 既に成年に達した身である為、僅かながらの抵抗や疑問が残る。制服といえど学生服。本当に着て良いのか、と。

 だが興味が無い訳ではない。

 二十数年の歳月の中、学校という世間一般の教育施設に一度も通った事のない身ではあるのだが結局、こう結論付ける。

 

 まぁ、いっか……。

 

 特注制服の袖を通して髪を簡単に結い、身支度を終えると御刀と脇差を携え外へと向かう。

 

 

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 

 

 一台の黒塗りされたLLクラスのミニバンタイプの公用車に乗り込んだ五人の刀使達は新宿区内に入る。

 運転席では中央がTを変形させたエンブレムのハンドルを握る。当然自動車免許を持たない未成年が車を運転する訳にもいかず、かと言って護衛される人間が運転する訳にもいかない。

 必然的に、消去法とも言えるが成人した中央が運転する事になる。

 助手席のシートには綺麗さを保ち、後部座席の一列目には真希と寿々花が。二列目に紫と夜見が座る。

 不慣れな都内である為、カーナビの音声とルートに従い公道を四輪駆動の後部マフラーから排気ガスを排出する。

 

「なぁ、お前らよ……」

 

 無言で走らされる車内から中央はバックミラー越しに声を掛ける。

 

「何だい?」

 

「何ですの?」

 

「……何ですか?」

 

 三人の同僚へ話しかけると、同じくして三人の声がタイミング良く被る。

 

「……これで本当に、ホントーーっに、俺が女として見えると思うか?」

 

 言い方が良くないのは自分でも認めよう。今の発言は自分でもどうかと思うが致し方ない。自分のボキャブラリーの無さが悔やまれる。

 折神家を出発してからもこうして運転している訳だが、果たして知り合って間もない女性陣達はこの出で立ちが女性として認識しているのか。

 

「まぁ、見えなくもないことはないかな。黙っていれば

 

「ビジュアル的にはそう見えますわね。黙っていれば

 

「……言葉を発さなければ女性の方に見えます。黙っていれば

 

 ハハハー結構辛口なコメントだことで。

 

 タイムラグも無い素早い返答が直ぐに返って来る。こうしてみると三人の女子中学生の仲は良くも悪くもなく、可でも不可でもない。

 思春期真っ只中の難しいお年頃の少女達に、青年は取り敢えずこの任務での最悪な事態は避けられそうだと思い至る。それにしても。

 

 黙っていれば、か。

 

 三人の少女達からのコメントに運転席に座りながらも、男はもう一度自分の身なりを確かめる。

 制服は彼女らと同色の黄枯茶を基調とした色合いなのだが、大幅に違うのはそのデザインである。

 所謂学生服、と呼ばれる様な代物ではなく半着と呼ばれる和装。

更にその下にはタクティカルブーツと何方も慣れるには少しばかり時間が掛りそうな恰好で。

 髪型もどこぞの第8感に目覚めた龍星座の聖闘士だったり、どこぞのSF時代劇コメディーの指名手配犯の様なストレートヘアーでは一目で男だと看破されてしまう為、どこやらの日本刀を使うエクソシストだったり、どこやらの中世風の異世界に召喚された弓の達人よろしくポニーテールにしてみたのだが。

 

 今更だが、この髪。一々邪魔だな。

 

「…………それより、東西南北(よもひろ)さん」

 

「んあ?」

 

 珍しく夜見から声を掛けて来る。切ったハンドルを戻しながら抜けた声で返事を返す。

 

「警護陣形はどうするつもりですか」

 

「ああ、そういえばまだ決めてなかったな」

 

「ああ、って重要な事じゃないか」

 

「まさかまだ考えていない、と仰るつもりではありませんよね?」

 

「ワハハハ……ソンナワケナイジャナイデスカー」

 

 図星を突かれ思わず窓の景色へと視線を泳がせる。誰が見てもわき見運転そのものである。

 

「考えてなかったのか……」

 

「ふぅ、呆れましたわ」

 

「……流石にそれはどうかと思います」

 

 女子中学生、辛辣ー。

 

「まぁ、取り敢えず、俺が御当主(・・・)の後ろ横でお前ら三人がその後ろな。んで、配置順は皐月が真ん中で、更にその後ろに獅童と此花な」

 

「その根拠を聞こうじゃないか」

 

 お、突っかかってこないな。

 

「大まかに四つある」と、前方に神経を集中しながら左手の甲を後部座席から見える様に親指を折り、四本の指を晒す。

 

「一つ目。後方のお前らだが、真ん中の皐月は護衛はしなくていい。索敵にのみ集中してくれ。護衛中の索敵マジ大事」

 

 続いて人差し指を折る。

 

「二つ目。獅童と此花を最後尾に置くのは攻撃、遊撃、守備のどれも熟せれて思量出来るだろう」

 

 次いで中指が曲がる。

 

「三つ目。後方にお前ら三人を集中させることで俺が前と左右の警戒がし易くなる」

 

 最後、小指だけが真希達に見える形となる。

 

「四つ目。この短時間で俺とお前らとじゃ連携もクソもねぇからな。下手な連携を取るよりも伍箇伝で学んだ者同士のほうがまだやり易いだろう?」

 

 後な、と中央は言葉を続ける。

 

「変に俺の方をカバーしようとするなよ? 仕事(・・)となれば俺は少しでも気配(・・)があれば斬りかかるからなー」

 

 左手をハンドルに戻すと信号機が青色から黄色に切り替わるのが見えた為、ブレーキペダルを押し込み減速する。

 横断歩道のしましま模様の前の白線に前輪のタイヤが乗りかかり停車した。

 

「……東西南北さん、いいですか」

 

「何だ?」

 

「……紫様の護衛時の襲撃者の扱いですが、どうしますか」

 

「それはその時々の状況で俺が指示する。だが、どんな状況であれ人で在れば殺すな。俺が許さねぇし、それは俺の役目(しごと)だ」

 

 信号機の三色のLEDが赤色から青色に変わるとブレーキペダルから右足を放し、アクセルペダルを徐々に踏み込むと徐々に速度を上げ、法定速度のギリギリまで加速する。

 

「紫様、護衛の陣形は今話した通りとなりますが」

 

「ああ、構わん。それで良い」

 

「なぁ、ところでよ。もう一ついいか?」

 

 更に尋ねる。

 

「どうかなさいまして?」

 

「何で免許持ってねぇ俺が運転しなきゃならねぇんだ?」

 

「え゛?」

 

「えっ?」

 

 何を言っているんだこの男は、と三名の刀使達は真っ先に思った。

 無言の車内が急に重苦しい雰囲気に包まれる。

 赤い三角形マークのボタンを押し、路肩に寄せるとハザードランプが一定のリズムでカチ、カチ、カチ、カチ……と左右のウィンカーバルブがアンバー色に点滅を繰り返す。

 公用車が路肩に停車しているのを不信に思ったのか、偶然通りかかったパトカーに乗る警察官がコチラに視線を向け凝視してくる。

 職務質問をされない為、この後、めちゃくちゃ祈った。

 

 

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 

 

 祈りが天に通じたのかパトカーも通り過ぎ、難なく指定された場所に辿り着いた折神紫一行。

 隣接されたコインパーキングに公用車を駐車し、パワースライドドアを開くと目の前には閑静(・・)なビル群等が広がる。

 本来なら防衛省の一室で会談を行うのであるが、先方からの要望(・・・・・・・)によりとあるビルを借りての会談となった次第。

 

「お待ちしておりました、折神局長」

 

 不審人物、不審物の有無を確認していると面談場所のビルから自動ドアが開かれる。

 硝子張りで外側からも内側からも互いが見える作りの為、その出で立ちに刀使だと気付くのはこの国で生活する人間にとってとても容易い。

 エントランスホールから出て来た背広姿の男性が近付いて来る。

 

「初めまして書記官殿。刀剣管理局局長を務めます折神 紫です。後ろにいるのが本日の護衛を務める四名の刀使達になります」

 

「さあ、立ち話もここではなんです、こちらへ」

 

 ああ? このオッサン、もしや……。

 

 ここで中央は違和感を感じる。

 会談相手が自己紹介をしてきたのにも関わらず自分は挨拶どころか自己紹介すらなく話を進めようとするその姿勢。

 どことなく書記官の表情も顔色も不自然であった。

 何より僅かな視線を感じ取る。

 確証はない。だが、やるべき事があるのは確かだ。これは仕事(・・)で。

 

御当主(・・・)、ちょっと待った」

 

 今の彼女は(・・・・・)、守るべき雇用主(クライアント)なのだから。

 

「どうした、中央」

 

 彼の呼び掛けに紫は立ち止まって振り向く。

 相変わらず表情が読み取れない為、何を考えているのか分からないポーカーフェイスが中央の瞳に映し出される。

 それと同時に中央の脳が、身体が、反応を始めると、即座に腰に差した脇差を抜き出し一閃を放つ。

 空からは乾いた音が、陸では鉄が鉛を弾く音がオフィス街に響き渡る。

 

 いるのは三人(・・)か!

 

 人どころか車さえ通らない道路と建物を一瞥すると、周囲を見渡し状況を把握する。

 隠す気が無いのか、存在しない場所からの殺気で気配(・・)が丸判りである。

 踵を巡らすと一組の男女が五体満足のまま佇んでいる。

 雇用主(クライアント)よりも書記官の動向が気になり、即座に彼を捉える。

 護衛を務める少女達ですら何が起こったのか分からず動きを停止している、にも拘らずこの書記官は「何をしているのですこちらへ」と、紫を促し喋り続けている。

 

 

 ッチ! やっぱ操られてやがるな!

 

「獅童! 書記官(そいつ)を取り押さえろっ!!」

 

 中央からの大呼にハッとし、真希は身体の五感を取り戻す。

 言われるがまま刀使の少女は駆け寄り書記官をねじ伏せた。

 

「此花! 皐月! お前達は抜刀して写シを張りつつ警戒と索敵!」

 

 残る二人にも呼び上げる。

 呆然と立ち尽くす二名の刀使達もこれは襲撃だと理解する。

 早早と御刀を鞘から抜き出し、写シを発動して護衛対象者の許に駆けつける。

 

御当主(・・・)は写シを張ってそこから動くな! それと、獅童! 書記官(そいつ)は殺すな、絶対に!」

 

 握っていた脇差を放り、御刀(・・)に巻き付けた布カバーを剥ぎ取りながら駆け出す。

 向かう場所はただ一つ。

 

 今の時点で二発目が無い以上襲撃者(スナイパー)は一人のみ。時間差で射殺しようとしない以上、後は接近戦(・・・)で殺しに来る。ならば先に邪魔な襲撃者(スナイパー)を殺る!

 

 一定の条件下(・・・・・・)で発動することが出来る写シを張る。白い靄を身体全体に纏わせ自身をエネルギー体へと変換する。

 写シが張れたのなら刀使である強みを生かす。

 幾ら襲撃者(スナイパー)だろうと僅かな殺気の残滓は残る。それを辿るだけ。

紫を襲おうとした弾頭の射線は彼女の頭部だった。

 幾ら技術が発達していようがあの短時間からの演算で機械によるリモート射撃は不可能。

 それ故に最速で始末しなければならない。

 迅移を発動すると駆けだした身体が更に加速し予測は確信へと変わる。

 

 居たぁっ!!!

 

 迅移の発動の甲斐もあり襲撃者(スナイパー)の気配を知覚する。

 殺意をばら撒く男は刀使から武芸者へと変貌する。

 殺そうとするモノは殺す。攻撃を許すという事はコチラが死するも同然。故に指一本とて動かさせはしない。故に――

 

 ――殺す!!! 確実に!!!

 

 

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 

 

「紫様。索敵の為、皐月の荒魂解放の許可を」

 

「待て獅童。まだここの職員が居る。それに監視カメラもついている、中央が戻るまで待て」

 

 逸る真希に紫は正面玄関から微動だにせず、言葉で制す。

 

「……分かりました」

 

「獅童、そいつは捨て置いて抜刀、戦闘態勢に移れ。来るぞ」

 

 一瞬、何を言っているのか分からなかった。

 だが、直ぐに脳が理解する。

 

「……なっ!?」

 

 建物の物陰から人がスッ、と音も無く姿を現した。数は二人。それ以上は出て来る気配は無い。

 Tシャツにジーパンとラフな格好の者とスーツ姿の者がニヤニヤと不気味な笑みを作り、此方へ距離を詰めて来る。

 どうやら単なる通行人ではないらしい。

 彼らの手には鉈や短剣(ダガー)といった武器を握り、殺気を振り撒く。手慣れているのだろう、とても一般人が出せる様なモノではない。

 襲撃者の歩調は互いにバラバラで、しかし、確実に彼らとの距離は縮まる。

 

「此花は獅童と連携し応戦しろ。皐月はここにいる一般人の避難誘導だ。済み次第戻れ」

 

「……はい、紫様」

 

 事態を呑み込めていない数名の応接係や警備員に呼び掛けると、夜見は周囲に注意しつつ身振り手振りで避難誘導を始める。

 

「全く、どうなってますの? 東西南北さんといい、この方達といい御刀以外は銃刀法違反でしょうに」

 

「国外の人間のようだね。この国の警察も信用ならない、という事だね。まぁ、ボク達もその警察組織の一部だけど」

 

「全くですわ」

 

 この国のテロ対策は如何なっているのか。テロリストの侵入を許すとは。管轄は違えど同じ警察組織の人間として刀使の少女は不甲斐なく思う。

 そう思惑しているとじりじりと殺気が肌に纏わりつく。でありながら構えを崩さない二人の刀使は攻撃に備える。

 刀使とはいえ十代の少女。日本にいる少女達が経験する事などない殺気に、この二人は怯むどころか立ち向かう気概を見せる。

 昨日味わった恐怖と痛みに比べれば今感じる殺気などどうという事は無い。

 この程度なら。と、御刀を向ける刀使達は自分と相手との間合いを図る。

 

「ああ? マジでガキじゃねぇか」

 

「これなら早く終わるな。簡単な仕事で助かったぜ」

 

 トントン、と鉈を肩で弾ませるスキンヘッドの男と短剣(ダガー)を刃先をねっとりと舌先で舐めるスキンヘッドの男。

 どちらも少女達よりかは一回り大きい。

 

「んじゃあ、さっさとこの仕事を終わらせてこのガキ共引ん剝くか」

 

「いいねぇ~ガキとヤルのは久々だぜ!」

 

 不気味さは不快さへと変わる。

 この異国の密入国者達はあろうことか人としての尊厳を踏み躙ろうとするのだ。

 下劣な様に中央ですらここまでは酷くはなかったと思う真希。

 

獅童さん」「何だ此花」と両名の刀使は声を抑え。

 

「何やら不愉快且つ不快感極まりない言葉を前方の二足歩行で立つ動物から聞こえて来ましたが、人間ではなく人の皮を被った下衆ですから叩きのめすのは(わたくし)達が行っても何ら問題には至りませんわよね?」

 

「そうだね此花。東西南北(かれ)には殺すなとは言われたが叩きのめすなとは言われてないからね」

 

「ええ、(わたくし)もそう記憶にありますわ」

 

「紫様、宜しいですね?」

 

「ああ、あの程度なら私も自衛可能だ。問題無い、ヤレ」

 

 刀使の頂点に君臨する者から許可が下る。

 

「ヒャッハー!!」

 

 威勢のいい三下の雄叫びが断末魔となり、都会の喧騒に木霊する。

 

 

 

次回、刀使ノ武芸者―修羅流転録

第8話 ()(ばしら)

 




次回から我間乱よりあの技がでます。が、
我間乱ファンの皆様が読まれているかどうか分かりませんが、スミマセン。先に謝らせて頂きます。
大亀流という流派は出て来ませんのでどうかご容赦ください。

だって、リアルで真似したくなる技なんですもの、大亀流の五剣。
リアルで真似したくなるから二次創作でも使いたくなるですよ、大亀流の五剣。

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