この子は唯一手を出していなかった公営競技の競馬で初めて推しになった子。最近もなかなか厳しい結果が続いていますが、是非応援していただければと思います。
うちの担当の子は非常に小柄だ。走る距離からかよくライスシャワーと比較されることがあるが、それよりも小さい。
しかし、いざレースとなるとそれをものともしない力強い走りでファンを魅了し続けている。
レースの時の本バ場入場では誘導バという先導役がいるがその中でも一際大きなウマ娘と並んだ時にはあまりのサイズ感に姉妹を通り越して親子や進〇の巨人の登場人物とさえ言われていた。
彼女には悪いが少し面白くて笑ったのを覚えている。
そんな彼女と歩んできた3年間。クラシックレースは目立つ成果を上げる事は叶わなかったが春の天皇賞や宝塚記念等数々のG1を制してきた。
そして今日。URAファイナルズ長距離部門決勝。何度も比べられてきたライスシャワーとの決戦。生憎とここまでのレースで出走機会が重なる事はついぞ無かったこの勝負。世間では小さな勇者と黒い刺客の一騎打ちとまで言われ、注目を集めている。
「調子はどうだ?楽しめそうか?」
彼女に問う。水色の勝負服に身を包んだ彼女からは思いがけない言葉が返ってきた。
「今日は勝ちに来てるんだ、あの子には負けないの。楽しめたかはそれ次第かな」
普段の穏やかでのんびりとした彼女から発せられた闘志。私は少し驚いたが確かに笑いながら彼女の背を叩いた。大丈夫、負けることは無い。彼女には私が付いているのだから。
「わかった、わかった。レースが終わってからまた聞くよ。勝ってこい。」
彼女はゆっくりと立ち上がると控え室を出た。我々トレーナーは地下バ道へは行けない。あそこはレースをする者のみが立ち入ることを許された神聖な場所。パドックやコースと同じぐらいに大切な場所なのだ。彼女は言う。地下バ道は寂しいけれど、みんなから伝わる熱気で凄いやる気が出るんだ、と。
残された私にただ1つ出来る事は彼女の無事を信じて待つこと。今日は客席には向かわない。これは私が大レースの時に必ずしている事。
よく同僚からは
『担当のレースから目を逸らすだなんてトレーナーとして3流どころか、トレーナー失格だ』
なんて言われる。
もし、彼等がそう考えていて、そう見えているのであればきっと私はトレーナー失格なのだろう。
しかし、私は信じているのだ。私の愛し、夢を見て、共に励んできたあの子であればきっと、必ず。
大歓声が聞こえる。きっとレースが始まったのだろう。結果は後でいい。後でいいのだ。彼女が笑顔で帰ってくる。その名に負けない数多の音色とともに。その想像を膨らませながら、私はいつもの場所へ向かうのだった。