ハリー・ポッターと黒い魔法使いの孫   作:あんぱんくん

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メルム。災厄。災い。

研究者だった父がボクに授けた名前の意味。

よく親は子供の名前に願いを込めてつけると言うけれど。

あの人は一体どういう願いを込めたのだろう? 



#017 グリンデルバルドとダンブルドア

 

 アルバス・ダンブルドアは独り、供もつけずに薄暗い螺旋階段を上がっていた。

 空気はひどく冷え切っていて、黴臭い。

 

「此処を訪れるのは半世紀ぶりかの。何もかも色褪せておる」

 

 歴史を感じさせるとはこの事か。

 建築されて半世紀が経とうとしているヌルメンガード。

 罅割れた内壁、老朽化した石造りの階段、明かりはなく、あちこちの空いた穴から湿った風が入ってくる。

 ダンブルドアの記憶と同じなのは、そこには生々しい死の匂いがあるという事だけ。

 昔、この城の主は己のイデオロギーに反した者を己の牙城である、このヌルメンガート城に幽閉した。

 そして現在、この城はオーストリアの咎人を閉じ込める監獄として機能している。

 一体、何人の魔法使いがこの監獄で死を迎えたのだろうか? 

 咎人達の孤独による澱んだ空気は老体に堪える。

 

 ────本当に行くのか? 踏み出せるのか? 臆病者のお主に

 

「……踏み出すとも」

 

 過去からの逃避にも限度があろう。

 過去の行いから目を背け、現実に目を当てることも出来ない子供の時代は終わりにしても良い頃合いだ。

 生徒達を導く教師として、大人として、ダンブルドアは一歩踏み出さなければならない。

 

 天井の吹き抜けから陽の光が射す階段の最果てに、その独房はあった。

 

 格子の前に立てば、中でベッドに寝転がっていた老人がムクリと身体を起こす。

 彼の名はゲラート・グリンデルバルド。

 魔法史にその名を刻む最悪の闇の大魔法使い。

 国際魔法使い機密保持法の撤廃を掲げ、魔法使いが大手を振って日向を歩ける世界を夢見た革命家である。

 彼は視界にダンブルドアを認めると、訝しげに眉を顰める。

 

「誰だ。老人ホームなら他所を当たれ。ここは満員だ」

 

「久しく顔を合わせていない客人に対して、その態度はどうかと思うがのう。それとも自身を此処に閉じ込めた男の顔すら忘れてしまったのかね? ゲラートよ」

 

 ダンブルドアを見つめていた灰色の瞳が限界まで見開かれる。

 訝しげな表情が見る見るうちに驚愕に変わっていった。

 けれど、彼はすぐに取り繕うように笑みを浮かべる。

 

「……まさかお前が来てくれるとは。なんせ50年間ずっと放置だ。このまま死ぬまで会えないのかと思っていたぞ。なぁ? アルバス・ダンブルドア」

 

 そう告げる彼の全身からは、未だに獣を思わせる重厚な精気と並々ならぬ魔力が感じられた。

 顔は長年の幽閉生活でやつれ、金の巻き毛は髪の色が抜けて白髪になっている。

 しかし、その狼のような瞳は変わらず鋭く尖っていた。

 ダンブルドアは、階段の端に置いてあった椅子を格子の前に置いて座る。

 

「息災にしていたかね?」

 

「お陰様でな。昔は喫煙や過食で不摂生ばかりしていたが、今は獄中生活で痩せっぱなしだし禁煙も出来ている」

 

 グリンデルバルド翁は両腕にかけられた枷を持ち上げて肩を竦めた。

 

「知っておると思うが、君の孫娘をホグワーツに入学させた」

 

「あぁ、優秀だろう? 私の孫は」

 

「少し優秀過ぎて困っておるくらいじゃよ。あの齢にして既に動物もどき(アニメーガス)を習得しておった。魔法の知識も通常の学生のそれを軽く超えておる。欠点があるとすれば、少し好戦的なところかの? お主と同じで」

 

「はは! 我が孫のお転婆はホグワーツでも変わらんか!」

 

 何気ない孫娘の近況報告だが、グリンデルバルド翁はそれすらも嬉しいらしく肩をゆらゆらと揺らす。

 その姿は純粋に孫の成長を喜ぶ祖父のようであった。

 外見は変われど中身は変わらない古き友の姿は喜ばしい。

 

「メルムには私の過去の愚行のせいで散々な生活を送らせたからな。これで少しは楽しみを覚えてくれると良いのだが」

 

「ホグワーツでは友達も出来ておった。中々に社交的じゃよ。彼女は学業の成績も……」

 

 そこまで言ってダンブルドアは咳払いをした。

 どうにも逃げ癖がついているようだった。

 メルム・グリンデルバルドの話も良いが、本題はそれではない。

 そんな話をする前にグリンデルバルド翁とは話しておかなければならない事があるのだから。

 

「すまぬの。わしはどうにも世間話が苦手なようじゃ。飛ばして重要な本題に入っても構わんかね?」

 

「……もちろんだ、どういう重要な本題かな?」

 

 そう言いながらもグリンデルバルド翁は、半ばその内容が分かっているようだった。

 先程までの笑みを消して、硬い表情でダンブルドアを見つめている。

 

「────彼女からお主の伝言を聞いた。儂がお主に終ぞ聞けなかった”あの時の真実”を」

 

「……そうか。メルムはちゃんと伝えてくれたか」

 

 そっと目を伏せるグリンデルバルド翁。

 やがて顔を上げた彼は、真っ直ぐにダンブルドアのブルーアイを直視し口を開く。

 

「改めてもう一度言わせて貰おう。あの時はすまなかった。お前には守るべきものがあるというのに、革命の旗を掲げる事しか頭に無かった私はその事実から目を逸らした。それどころかお前の大切な者達を踏み躙って、取り返しのつかない事態を引き起こしてしまった。若気の至りでは済まない過ちだ」

 

「……何故、あの時その言葉を言ってくれなんだ? どうして儂に何も言わずに逃げるようにして去ったのじゃ」

 

「怖かったのだよアルバス。私は恐ろしかった。アリアナ・ダンブルドアを殺した事がではない。お前の大切な者を奪ってしまった事がだ。そして、そんな私をお前がどんな目で見るのか。それがとても恐ろしかった」

 

 静かにそう言った後、グリンデルバルド翁は薄暗い天井を仰ぐ。

 彼が静かに見据える先にあるのは、かつての己の罪。

 

「此処に閉じ込められてから考える時間は腐るほどあった。過去を振り返る時間も。恐ろしい話だ。私には光に満ちた世界が、その確かな道筋が見えていた。この景色を他の人にも見てほしい。そんな気持ちで私は数多くの人間を地獄の底に叩き落としたのだ」

 

「それは……」

 

「狂気だ。狂気なのだよアルバス。あの時の私には、周囲の人間がまるで少し賢いだけの猿のようにしか見えなかった。彼らが私と同じ人間であると考えもしなかったのだ。まるで塵芥のように思い、そして事実そのように扱った」

 

 確かに全盛期のゲラート・グリンデルバルドは冷徹無比で悪辣そのものだった。

 己に逆らう者は洗脳するか部下に殺害させ、従う同士すらも蜥蜴の尾のように切り捨てる。

 彼の歩いた跡には、必ずといっていいほど無数の亡骸が散乱した。

 絶望を絶望で覆い、昨日の嘆きをさらに濃い今日の嘆きで満たしていく。

 その邪悪な姿は未だに欧州諸国の御伽噺で語られる程だ。

 

「ひもじいと笑いながら息絶えた子供もいた。我が子を背に庇い泣きながら死ぬ女もいた。恐ろしい事に何も感じることはなかった。此処に幽閉されるまでは」

 

「……」

 

「人には人の数だけ想いがあり、守るべき誰かや小さな理想がある。そんな単純な事も理解出来ない男が、この世界を救ってやるなどと驕ったのがそもそもの間違いなのだろう。魔法族の為、その輝く未来の為、そう謳っている私が一番何も見えていなかったのだから」

 

 この城に幽閉されてから半世紀、彼はずっと苦悩し続けていたのだろう。

 妹を殺めた事で友を苦しませてしまった事実、自分の夢見た理想の為に他者の命を浪費した事をずっと。

 幽閉される前には無かった、額に刻まれた深い皺がそれを物語っている。

 

 ────もう良いか

 

 ダンブルドアは不思議とそんな吹っ切れた気分になった。

 全てはあの日の過ちから始まった。

 しかし、もう良いのではないか。

 あの時失われた絆を紡ぎ直しても良いのではないだろうか。

 

 臆病者だった自分がメルムの一言で一歩踏み出せた(救われた)ように、彼も救われても良いのではないだろうか。

 

 穏やかに目を細めたダンブルドアは、格子の中に紙袋をスっと差し入れる。

 

「友よ。もう良い、もう良いのじゃ」

 

「アルバス……?」

 

「納得してこそ初めて受け入れられるのじゃ。受け入れてこそ初めて回復がある……辛かったじゃろう。独り孤独の檻の中、その苦悩と長年向き合っていることは。でも、もう良いじゃろう」

 

 彼は己の罪を受け止めて苦しむ事の出来る人間だった。

 死んでしまった者達はグリンデルバルドを許さないだろう。

 それは彼の罪であり、これから先一生をかけて向き合っていかなければならない事実だ。

 ならば、生きている自分だけでも彼を楽にしてやりたい。

 少なくともダンブルドアはそう思ったから、紙袋を差し出したのだ。

 

「百味ビーンズじゃ。昔、一緒によく食べたじゃろう。お互いに積もる話もあろう。今日は語り明かそうぞ」

 

「……私にその資格はない」

 

「1つ言っておこう。やり方こそ間違っておったが、お主が歩んだ道に余計な贅肉がなかった事は儂が一番知っておる。お主が持つ、世の理不尽の闇の中から同胞を助けたいという気持ちは本物じゃった。儂はそう信じておる」

 

 壁に書き込まれたイデオロギーをダンブルドアは見つめる。

 

 ────”より大いなる善の為に”

 

 思えば、これもグリンデルバルド翁にしてみれば枷だったのか。

 きっと彼はダンブルドアと共に掲げた旗を律儀に守ろうとしただけなのだ。

 あの短いながらも楽しい日々を嘘にすることが、彼には出来なかった。

 

「儂が止めるべきじゃった。過去の真実に囚われず、友が間違った道に進んでいるのならば一目散に駆けつけ止めるべきだったのじゃ。心の弱かった儂は保身ばかり考えて、真に大切な事を見失い君に罪を犯させ続けてしもうた。本当に申し訳なかった」

 

「何を……お前が謝る必要などない。寧ろ止めてくれた事に感謝すらしている」

 

 グリンデルバルド翁は格子の外に手を差し伸べようとするが、できない。

 とうとうダンブルドアは泣き始めるが、悟られまいとした。

 感情に飲み込まれた二人の間に無言の沈黙が降りる。

 お互いがお互いを見つめ合う。

 まるで瞳の奥に込められた思いを見透かそうとするかのように。

 先に現実に戻ったのはダンブルドアだった。

 

「儂はいい加減、この複雑かつ感情的な関係を終わらせたいと思っておる」

 

 その蒼の瞳には決意の色。

 ダンブルドアは改め囚人の方を向き直ると真剣な目をして告げる。

 

「ゲラート・グリンデルバルド。儂はお主を許す」

 

 そしてグリフィンドールらしい勇気を持って、まるで挑みかかるように最後の言葉を言った。

 

「だから、前のように百味ビーンズを取り合う仲に戻ってはくれんかね?」

 

 肩を震わせながらもグリンデルバルド翁は何も答えなかった。

 否、もはや言葉など必要はないという方が正しい。

 牢獄には不釣り合いな感情の滴を胸に、彼は紙袋の中から取り出したこんがり茶色のビーンを口に放り込む。

 

「……最近のビーンズはクソだな。耳くそ味な上に……涙の味までする」

 

 久々にむせ返る親友の姿が見れた事に、ダンブルドアはニコッと笑った。

 

 

 

 

 

 ──────……

 

 

 

 

 

 此処二十年程で気づいた事だが、歳を取ると感情というものは些細な出来事では動かなくなる。

 若い頃に激動の日々を過ごしたグリンデルバルド翁ならば尚のこと。

 喜悦も、憤怒も、悲哀も、全ては遠い出来事のようで、今となっては懐かしさすら感じられるほどだ。

 しかし、目の前で百味ビーンズを口に含んでいる老人だけは、今の自分を喜悦させるのには充分過ぎるものだった。

 久方振りに感情を揺さぶられる。忘れかけていた生を思い出して心地が良い。

 

「それにしてもヴォルデモート卿か。まさか生きていたとはな。一体どういう絡繰りで生き延びたのやら」

 

「まったくじゃ。犯行後のポッター家は半壊しておった。凄まじいまでの威力の死の呪文じゃよ。あれが反射したのならば肉体すら塵になったはず……それでも彼奴は生きておった。力を失い、魂だけの霞のような状態ではあったが」

 

「驚くべき生命力……というよりは不死性だな。そこまでの不死性を付与する闇の魔術となると凡その見当は着く。人を人とも思わん悍ましい魔法だ」

 

 あえてグリンデルバルド翁はその名を口にしない。それくらいの分別はあった。

 凡そ魔法の歴史において、最も邪悪な発明とされている闇の魔術であるその魔法は、その名前を口に出すこと自体が強く禁じられている。

 実際、グリンデルバルド翁が目を通した高度な闇の魔術の蔵書の数々ですら、その魔法についての言及は避けられている節があった。

 

「奴が復活し、闇の帝王としての活動を再開するような事になれば、今のイギリス魔法界は根底からひっくり返ってしまうじゃろう。今の魔法省に奴の闇の暴力に抗える程の力はない。簡単に掌握され、その掌で弄ばれる暗黒時代へと逆戻りじゃ」

 

 そう語るダンブルドアの顔は昔よりも少し窶れたように見える。

 半分程に減った百味ビーンズの袋の中をまさぐりながらグリンデルバルド翁はニヤッと笑った。

 

「年月とは面白いものだ。月日が経てば、お前の命を脅かす者すら現れるか。半世紀も昔には想像も出来なかったことだ。しかも、それがあの青二才というのならば尚のことな」

 

「おや……お主もトム・リドルの事を知っておったのかね」

 

 少しだけな。

 そう呟くとグリンデルバルド翁は過去を見透かすように目を僅かに細める。

 才に溢れた少年だった。

 カリスマ性に富み、闇の魔法の知識に飢えていた。

 その中でも印象的なのは目だ。

 周囲の全てを憎んでいるような赤の瞳は今でもよく覚えている。

 

「あれは環境が生んだケダモノだ。純血主義を掲げてこそいるが、奴は魔法族とマグルの両方を憎んでいた」

 

「……儂も教師として導こうとはした。じゃが、どうにも力が及ばなかったようじゃ。君は奴をどう思うかの?」

 

「ああいう手合いは単純だ。まず色々なものを憎んでいる。理解出来ないのさ、人の善意や好意をな。世の中にそんな綺麗なものがあると思いもしない。故に対等な関係を築こうとするのではなく、支配的な態度を取る」

 

 昔のグリンデルバルド翁がそうだった。

 言葉とは分かり合う為のものではなく、調略し己に靡かせる為の武器でしかなかった。

 愛だの恋だのは感情を持つ人間ならではの一時的な病気で、永遠に続くなどと夢見るのは片腹痛いとすら思っていた。

 

「気をつけろアルバス。ヴォルデモートはなりふり構わず全てを巻き込んで吹き飛ばすぞ。昔の私のように。一番強いのは何も失うものがない人間だ。お前の話が本当ならば、奴は灯火のような命以外の全てを失った。過去の栄光や力を取り戻す為なら、それこそ屍の山すら築くだろう」

 

「分かっておる。分かっておるが、正直なところ策の練りようが無いというのが現状じゃ」

 

 苦悩の顔を浮かべるダンブルドアを見て、グリンデルバルド翁は呵呵大笑する。

 

「必要以上に考え過ぎる悪癖は変わらんな。頭を凝らすよりも考え無しに行動した方が良い結果を生み出す時もある」

 

「そう気楽に言うでない。儂が生み出す結果で被害を被るのは儂だけではないのじゃ。儂はもう己の短慮が引き起こした結果で嘆く人々を見たくはない。大切な者を失った事実から逃げるのは沢山じゃ」

 

「逃げるのではない、一度足を止めるのだよ。お前の速度では誰もついてはこれない。周囲を見渡すのだ。お前の周りにいる人々は、ただお前に守られるだけの弱い存在ではない。人間というのは理由などなくとも大切な人の為に戦える。特別な力などなくとも守りたい者の為なら、手を取り合って闇に立ち向かう気高き心を秘めているのだ」

 

 そうだ。闇の魔法使いゲラート・グリンデルバルドは、かつてそんな人間の善性に敗れた。

 アルバス・ダンブルドア一人ならば脅威ではあるが勝算はあっただろう。

 だが、彼の周りにいた人間が、世界最強の闇の魔法使いの勝算を零にしたのだ。

 

「驕るなアルバス・ダンブルドア。お前は所詮、たった一人のちっぽけな人間に過ぎん」

 

 その言葉に、ダンブルドアは目をゆっくり見開くと席から立ち上がり、それから独り言のように告げた。

 

「……儂は己の中の正義を貫いてきたつもりじゃ。じゃが正義とは他者の命を犠牲にするものではあるまい。ならば、儂の貫いたモノはなんだったのか……この歳になってもこうして迷う」

 

「おかしな事を。貫くべきは正義ではない。そんなものは立ち位置で幾らでも変わる不確かなものだ。真に貫くべきもの、貫かざるをえないもの。それは”生き様”であり”誇り”だ」

 

 グリンデルバルド翁は何もない掌から一本の杖を生み出すと、それを天へと向ける。

 

「杖は生き様や誇りに似ている。マグルを見ろ。そんなものが無くても彼らは立派に生きている。寧ろ無い方が楽かもしれない。マグルによる科学の光が世を照らすこの時代では。だがこうして我らは杖を持ち、魔法使いとして生きている。それは何故なのか」

 

「……」

 

「捨てられないものだからだよ。曲げられないものだからだ。それを失ってしまえば、我々は我々でなくなる。逆説的に、我々が我々である為には(誇り)を持つしかない」

 

 杖を置き、グリンデルバルド翁はダンブルドアの瞳を真っ直ぐに見つめる。

 

「そのままでいい。己の生き様を貫け。後悔の無い選択肢など存在しない。ならば少しでも後悔の少ない方を選べ。己に嘘だけは吐くな」

 

「……お主の要望は昔から難解じゃな」

 

「愚かな振りはよせ。鏡と話す趣味はない」

 

 ダンブルドアは天井の吹き抜けの、更に先にある空を見上げる。

 降り注ぐ太陽の光で目を焼きながら、その瞳は雲を捉えた。

 

「ゲラート、お主には昔から聞こうと思っていた事がある。そもそもお主は何故、革命家を目指そうと思ったのじゃ?」

 

「はは、若者特有の愚かな妄執だよ。硬直したものが壊れて、時代がどう揺れ動くのかを見てみたかったのだ」

 

 ダンブルドアは呆れたように嘆息する。

 それを横目に、グリンデルバルド翁は楽しげに笑って、仰け反るように床に倒れ込んだ。

 

「アルバス、お前もある種の革命家なのだぞ? 私にはあんなやり方しか思いつかなんだが、お前なら出来る筈だ。未来ある若者達を導き、魔法界を救え。その心に正しい革命の火を灯せ。私達は時代の残党だ。しかし、だからこそ出来る事もある。善道を説き、一人でも多くの魔法使いを明るい未来へ連れて行ってやってくれ」

 

 明るい未来。

 我ながら具体性の欠片もない、漠然とした言葉だ。

 そもそも、そんなものが本当にあるのかも分からない。

 少なくとも、グリンデルバルド翁の掲げた魔法族にだけ優しい世界は違った。

 恐らくヴォルデモート卿の掲げる純血主義に支配される歪んだ世界も違うのだろう。

 人の幸せなど人の数だけ存在するのだから、正解など無いのかもしれない。

 しかし、だからといって諦めるのは早すぎる。

 

「そう。少なくともお前の抱える嘆きは、やるべき全てを行ってからするものだ。違うかね? アルバス・ダンブルドア校長先生」

 

 




感想大量に戴きありがとうございます泣
これからも頑張っていくので応援よろしくお願いいたします!
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