TSしたら足が動かなくて親友が過保護になったけど、優しくされると惚れちゃいそうなので乱暴に扱って欲しい。 作:貯水庫
5日後。水曜日。
そろそろブラを付けるのも慣れてきた。委員長の言いつけ通り朝とお風呂上がりには美容品を使うのも欠かさないようにしている。だんだん女の子の生活が身についてしまっている気がするな。
土日は中島と一緒にだらだらと過ごし、月曜日からはとても憂鬱だったがちゃんと学校に行っている。
クラスメイトは俺によく気を使ってくれるが、やっぱり、俺を見る目は以前と変わってしまったと思う。
特に男だ。
仲は悪くなかったがそんなに話さないような奴がよく話しかけてくるようになったり、逆にそこそこ仲良かった奴がよそよそしくなったと思えば俺の体ばかり見ていたり。
俺が元男とわかっていて気安く話しかけてきて、あわよくばで狙われているような。あるいは、俺に優しくすれば自分でもいけるかもなんて身勝手な妄想でも抱かれているような。
俺は男とそういう関係になる気はないので、色目を使われても俺自身は気持ち悪いだけで、しかし下心でも優しくしてもらっているのは事実なので、文句は言えないし、望むものを返してやれないことに申し訳なさも感じる。
女子は女子で、なんとなくだが俺を見る目が変わってしまった気がする。
多分、クラスの男がこぞって鼻の下を伸ばして俺に近づいていることを面白く思わないのだろう。
女子も表面上はとても俺に優しくしてくれているけど、それももしかしたら男の目を引くためだったり......
以前から女子とは別に仲良くはなかったが、それにも増して距離が開いてしまった気がする。
俺は元々は色恋沙汰に疎くて、人の目線なんて全然わからなかった。しかし実際にそういう目線を向けられて気にするようになってしまい、女子の目線の変化にも気付けるくらいには敏感になってしまったのかもしれない。
そういうわけで、クラス内は本当に居心地が悪い。中島が居なければとっくに心が折れていたと思う。
学校の中では中島の傍に居る時だけが安心できる。ここが俺の居場所というか、そうしていないと息が詰まりそうなので休み時間は他の奴に絡まれる前に中島と話しているようにしている。そうしているのが一番楽しいし、周りの奴に"俺は今中島と話している"とアピールすることもできる。
結局、中島は毎日俺が起きてから寝るまでだいたい俺の家で過ごしている。当たり前のようにいろいろしてくれていて、心配しなくていいと言っても聞いてくれない様子だ。
やっぱりこいつは俺に対して過保護になっている気がする。俺が何かするたびに心配して手伝ってこようとしてくるし、ずっと心許なそうに俺を見ているし......
「清水、どうした?大丈夫か?」
「ん、なんでもないよ」
こうして少し回想に入っているだけで心配されるしね......
別に煩わしくはないのだが、そもそも心配をかけているという状況が面白くないのに、こんな小さなことですら気にかけられるとますます自分が弱々しい存在になってしまいそうで......
しかしいつもそれに助けて貰っているのに文句を言うのはありえないので何も言えていない状況だ。
「そうか。じゃあ、今日はどうする?」
「んー、たらこスパゲッティおにぎりで」
「あいよ」
昼休みなので、中島が昼ご飯を買いに行ってくれる。その間俺は委員長にトイレに連れていってもらうのが習慣になってきている。
「委員長、お願い」
「はーい」
用を足し、手を洗っているところでせっかくだし中島のことを委員長に相談してみる。委員長は女の子の生活以外にも親身になって聞いてくれる。この子は元々面倒見のいい人で、俺に対して善意で動いてくれるだろう数少ないクラスメイトだ。
「中島くんが過保護っぽい?」
「うん」
俺は最近の中島の様子を委員長に伝えた。
「そ、それは確かに心配し過ぎだね」
だよね。よかった。俺の感性が変になっていたんじゃなくて。
「でもわかる気がするな。なんか、清水くんの顔ってすごく庇護欲を誘うっていうか......守ってあげたくなる感じがするもん」
「えぇ?」
確かに俺も自分の顔を最初に見た時はそんな印象を抱いたけど......それで中島があんなになっているのか?
「んー、でも、甘えておけばいいんじゃない?実際助かってるんでしょ?多分、慣れればどうってことなくなると思うし、その方が中島くんも嬉しいはずだよ」
「そ、そうかな」
やっぱり、委員長って真面目そうに見えて結構大ざっぱなところあるよね。
慣れればどうってことなくなる、か。確かに一概に違うとも言えないし、今は委員長の言う通り中島の好意に甘えておくとしようか。
ーーーーーーーーーー
その日の帰り。
今日も中島に車椅子を押してもらって下校している。
委員長は俺の顔を庇護欲を誘うと言っていたけど、中島もそう思っているのだろうか?
直接聞いてみよう。腰をひねって中島の方に振り返る。
「なあ中島」
「なんだ?」
「今の俺の顔ってどう思う?」
「......え!?」
中島は何やらひどく当惑した様子。
「え、えー、と......か、可愛い、んじゃないか?」
「は?」
何言ってるんだこいつ?俺が聞きたいのはそういうことじゃなくて......
――プルルルル
突然、俺のスマホに着信が。
「おっと、悪い」
「あ、ああ」
スマホ画面には何やら見覚えのない電話番号。とりあえず出てみる。
「はい、清水です」
『もしもし清水さん、僕だよ』
こ、このおじさん声に独特な気安さは。
『DNA鑑定の結果が出たっていうお知らせだよ。大事な話もあるから、来れるときに病院に来てね』
「......!」
あの時の医者のおじさんだ。
どうやら、DNA鑑定の結果が出たらしい。突然のことに心臓が早鐘を鳴らす。
「い、今から行きます」
『はい、じゃ、結果もその時に伝えるよ。よろしくねー』
と言って電話を切られる。
「どうした?」
「中島、病院まで運んでくれないか?」
「......ああ、わかった」
DNA鑑定の結果が出た。つまり、俺のこれからのことがここで決まる。
もし一致したら、前の俺と今の俺が同一人物だという科学的な保証が得られるが......一致しなかったら、これからかなり苦労することになるだろう。
戸籍や経歴のこと。保険や年金のこと。そういう書類の面だけじゃなくて、もしかしたら周りの人に俺は清水じゃないと思わせる材料にすらなってしまうかもしれないし、俺も自分が清水であるという自信が揺らいでしまうかもしれない。
もしかしたら最悪、前の俺と別人として生きることになるかもしれない。というか、医者のおじさんが言う大事な話というのがこれな気がしてならない。ダメ元だったし、見た目が違うんだから当たり前だが、やっぱり怖い。
俺はどうなってしまうのだろうか。
制服のままだが、不安で気が気じゃないのでこのまま送ってもらう。
ーーーーーーーーーー
「あっ清水さんね。いやー、すごいことになってるね」
「はい?」
「まず、DNA型は間違いなく一致しているそうだよ」
「......!」
一致!?一致した!?ってことは......
「でもね、」
聞けば、ヒトの染色体が23対あるのに対してその中の1対である性染色体は男女で異なるそうで、俺の場合は他の22対の中のDNA型が一致したにも関わらず性染色体のみが正常にそれぞれの性別のものになっていたという。
「おかしいよね。だから僕は最初異性一卵性双生児の可能性を疑ったんだけど、清水さんが産まれた病院に連絡しても清水さんは間違いなく一人っ子だというし、そもそもこれは確率が極めて低いのね」
医者のおじさんは少し楽しそうな顔で続ける。
「だから、清水さんが元から女の子に生まれていた、ってよりは、後天的に体を女の子に作り変えられたって方がしっくりくるね」
......と、いうことは?
「てことで、同一人物ってことの証明ができたよ。戸籍や年金関連で診断書が必要になってくるから、窓口で手続きしてね」
「......!はい!」
証明ができた......!
俺はちゃんと俺だったんだ!
精神だけじゃなく、科学的にも!
よかった。これで、前の俺が消えることはない。同じ清水として過ごすことができるのだ。
中島が言った通りだ。誰がなんと言おうと、俺は清水だった。信じていてよかった。信じていたから、ここまで来れた。
「よかったな、清水」
「ああ......!」
まあ、それでもこんな体になった状況がどうにかなるわけでもないし、これは不幸中の幸いと言ったところだろう。でも、とにかく本当に、ほっとした。
それから診断書をいくつか発行してもらい、病院を後にした。戸籍などの手続きはそんなに急がなくてもいいそうなので、週末にいろいろするとしよう。
医者のおじさんの独り言
「いやーこんなことってあるんだねえ。しかし、なんで性染色体だけ変わったんだろう?女の体に作り変わるだけなら遺伝子まで変わる必要は......いや、前のままだとY染色体を持つ卵子ができてしまうかもしれないのかな?もしY染色体同士で受精したら子は......ふふっ、だとしたら――」