三女神は、いにしえに存在した競争ウマ娘たちの始祖であり、今もなお崇められている存在である。

トレセン学園にもその像があり、数多のウマ娘たちが願いを託している。

ただ、この三柱は……まあ、少しばかり、自分たちの子孫に甘かったようで……

ちょっと大規模に、願いを聞き届けてしまったみたいである(白目)

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私の場合、滅茶苦茶ハマるとなんか妄想を文章に起こしたくなるらしいですね……。
ああ~~ウマ娘って面白いわ~(迫真)


スペシャルウィークの場合

あの時の事は、それなりに時間が経った今でも鮮明に覚えている。

 

かつて起こった出来事を、私――スペシャルウィークはそう振り返る。

 

あの模擬レースの日、期待に胸を膨らませ、未来に希望を抱いて走った自分。

 

今になって振り返ればまだまだ拙い所ばかりだったが、その熱意は今より上かもしれない。

 

そんな未熟な自分のレースを見て、この先ずっと支え合う事になるトレーナーさんは、キラキラと希望の籠もった瞳で自分を見詰め、是非君をスカウトしたいと言ってくれた。

 

そこからの毎日は、まさしく自分にとって最良の日々だったと自信を持って言える。

 

メイクデビューでの初勝利。

 

トレーナーさんは自分事の様に喜んでくれて、私自身も更に彼に対する信頼を深めたと思う。

 

時間は進み、クラシック三冠を賭けた皐月賞、日本ダービー、菊花賞の三つのレース。

 

私は日本ダービーを勝利し、自身の夢である日本一のウマ娘になるという目標に大きく前進し、トレーナーさんに『ダービートレーナー』という、最高に輝かしい栄誉を捧げられた。

 

それまで一年以上も献身的に私を支え、夢を応援してくれたトレーナーさんに少しは恩返し出来たかと思ったが、彼自身は私が思っていた以上に喜んでくれて、スペは俺の誇りだよ、何ていう事まで言ってくれた。

 

――振り返れば、この時点でもう芽を出していたんだなと思う。

 

クラシック三冠を賭けた戦いが終わっても、競争ウマ娘としての生活は続いていくし、むしろここからが真の勝負だと言っても良い。

 

何しろ自分と同一年度デビューのウマ娘だけではなく、先にデビューし結果を残している先輩ウマ娘とも競い合う事になるし、その次の年には年下の有力な後輩の挑戦を受ける事にもなるのだから。

 

トレーナーさんは、相変わらず私のことを第一に考え、本当に良くしてくれた。

 

私には日本一のウマ娘になるという目標があり、そのためにトレセン学園に編入したのだが、だからと言って一度も挫けなかった訳じゃない。

 

キングちゃん、セイちゃん、グラスちゃん、エルちゃん――大空に輝く星の様に、キラキラした才能を持っている私の大切な友達。

 

そして、一番身近にいて、一番負けたくない、一番勝ちたい、何度もぶつかったライバルたち。

 

四人とも本当に凄くて、夢に向かう途中の道のりで何度も勝負して、勝ち、そして負けてきた。

 

そんな中で、トレーナーさんは私の弱気が少しでも顔を覗かせると、言葉を尽くして……通り一遍の言葉ではない、彼自身の言葉で励ましてくれた。

 

トゥインクル・シリーズは、気力だけで走り続けられるほど甘いものじゃない。

 

けれど……トレーナーさんが、私の心の支えになってくれたのは間違いのない事実で、私が無事に走り続けられた大きな理由の一つなのは間違いない。

 

どうしてここまで私のことを支えてくれるのかと、トレーナーさんに聞いてみた事がある。

 

最初は、キミのトレーナーなんだから当然じゃないかと何の気負いも無く言われてしまって、そんなものなのかなとも思ったが、やっぱり納得出来なくて、繰り返し彼に尋ねる事になった。

 

トレーナーさんは誤魔化し続けていたけど、あんまりしつこく問い質す私に根負けしたのか、照れくさそうにしながらも言ってくれた。

 

――キミが輝くところを、間近で見ていたいから

 

その言葉を聞いた私も、トレーナーさん以上に照れに照れてしまい、視線を俯けるしかなかったのを覚えている。

 

この出来事で、私は無自覚な想いを完全に自覚し、自分の気持ちに向き合う事が出来た。

 

――私は、トレーナーさんの事が好き。これからも彼と一緒に居て、支え合って、幸せを分かち合いたい。

 

私が想いを自覚した後も、トレーナーさんと二人三脚で支え合い、日々の練習や話し合い、レースへの出走と、全身全霊で歩んでいった。

 

そして、その集大成として、理事長がその理想を形にした全ての競争ウマ娘の祭典である、URAファイナルズへの出走を、私は認められた。

 

予選、準決勝、決勝戦と激闘を勝ち抜き、私はURAファイナルズ・中距離部門の初代王者として君臨し、トレーナーさんもそんなウマ娘を育て上げた

名トレーナーとしての栄誉を手にした。

 

本当に幸せな、輝かしい黄金の日々。

 

私はそんな日々の中にあって、トレーナーさんに想いを伝えるタイミングを計っていた。

 

今すぐにでも彼に自分の想いを打ち明けてしまいたかったけれど、なかなか伝えられずにいたある日。

 

トレーナーさんは、私に伝えたい大事な事があると言って、その言葉を発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スペ、あのさ。……俺、結婚するんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タキシードを着たトレーナーさんと、ウェディングドレスを着た女性が――トレーナーさんのパートナーの女性が、二人で神父さまの前に立ち、

誓いの言葉を問われている。

 

トレーナーさんに対する問いかけに、彼は毅然と、誠実に、誓いますと言葉を紡ぎ、そして新婦も同じように宣誓している。

 

あの日に衝撃的な言葉を聞いた私だったけど……その時にすんなりと、おめでとうございますと、にこやかな笑顔で言えた事には自分ながら驚いた。

 

今思えば、頭が真っ白になってしまい、一般的に最適である行動を無意識にとっていたのかもしれない。

 

それから私は、トゥインクル・シリーズからドリームトロフィー・リーグへと移籍し、更なる激戦の日々へと身を投じた。

 

私は、逃げたのかもしれない。

 

レースに関する事へと打ち込めば、トレーナーさんは親身になって私に接してくれるから。

 

その時だけは、人生のパートナーとして選んだヒトではなく、私だけを見てくれるから。

 

そんな甘い誘惑を私は振り払えず、彼との関係は、トレーナーとその担当ウマ娘というものに過ぎないままだった。

 

人生のパートナーという関係と比べると、到底及ばない位の差がある。レースにおける、一着と最下位くらいには。

 

私が過去の出来事をつらつらと考えていると、二人は宣誓を終え、そして神父さまは次の行動を促した。

 

それを受け、二人はお互いに向き合うと……トレーナーさんは、花嫁のベールをめくり、そしてその肩に手を添えた。

 

そして、彼と彼女は。

 

――誓いの口付けを、交わした。

 

その瞬間、バキン、と。

 

自分のココロが、割れ砕けたのを、確かに感じた。

 

 

 

 

 

 

トレーナーさんの結婚式の後、私はトレーナー室に居た。

 

不思議なもので、ココロがバラバラになりながらも、私は普段通りの笑顔を見せ、明るく振る舞う事が出来た。

 

トレーナーさんにも、彼が選んだヒトにも、お祝いの言葉を贈れた。

 

そうして何事も無く式の間は振舞い、終わった後はここまで真っ直ぐ来た。

 

彼と私が歩んできた日々が詰まった、大切な空間。

 

ぼーっとしながら辺りを見回すと、あるフォトスタンドが目に入ってきた。

 

それに近づき、手に取ってじっと見つめる。

 

日本ダービーを制したあの日に撮影した、私とトレーナーさんが映っている写真。

 

私も彼も満面の笑みを浮かべ、勝利の栄光に輝いている、これからの幸せを思わせる、そんな一枚。

 

どこかから嗚咽が漏れるような音がして、不思議に思って周囲を見回したが、ここには自分しか居ない。

 

何の事は無い――自分が漏らした嗚咽だったのだから、目に映るはずも無く……自覚したら、もう耐えられなかった。

 

あの日の、あの瞬間が切り取られた写真を胸に抱き、私はその場に崩れ落ちて涙を零した。

 

あの日、トレーナーさんは『ダービートレーナー』の栄誉を手にしたが、だからと言って彼は変わらなかった。

 

変わったのは彼の周囲の人達で、若くしてトレーナーとして最高位にある名誉を手にした彼の恩恵にあずかろうと、節操も無く群がったのだ。

 

トレセン学園の関係者ではないが、それ以前から彼と関りのあった人達が、自分の手にした名誉に目がくらむのを目の当たりにし、トレーナーさんは酷く傷ついた。

 

そして、そんなトレーナーさんがその時期に出会ったのが結婚相手の女性ということだ。

 

トレーナーさんの状態を心配した同僚の人が色々と気分転換に誘い、その縁で知り合ったと、馴れ初めを尋ねた私に彼が教えてくれた。

 

……なんのことは無い、私はトレーナーさんがそんな事になっているなんて気付きもしなかった。

 

ただ自分の夢が叶い、無邪気に喜んでいた子どもだった私。

 

トレーナーさんの苦しみを癒し、支えた献身的な女性。

 

彼がどちらを人生のパートナーとして選ぶかなんて、考えるまでも無い。

 

私は、彼の伴侶としての選択肢にすら上らなかったのだろうから。

 

零れ落ちる涙は止まる気配を見せず、既に他のヒトのものになってしまったトレーナーさんを未だに想っている滑稽な自分。

 

レースと同じく……既に結果の出てしまった物事の『もしも』を想像すること程、無駄な事も無いけど。

 

でも、それでも――

 

トレーナーさんに、彼に……もっと早くに想いを伝えていれば、何かが変わったのだろうかと。

 

そんな『もしも』を思って、後悔に身を焼きながら、私は泣き疲れて意識を失っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――全く、世話の焼けること

 

――そんな貴女に、一度きりの機会を与えましょう

 

――望みが叶う事を、私達は切に祈っていますよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は――スペシャルウィークは――寝ぼけた頭を強烈に刺激する大音響によって、強制的に覚醒させられた。

 

あまりの音量に飛び起き、すぐさま目覚まし時計(・・・・・・)のベルを止め、息を吐いた。

 

そう……今日は選抜レースの日だから、しっかり準備しておかないといけない。

 

最高のパフォーマンスで出走し、最高の走りを彼に見てもらって……。

 

そして、二人で一緒に日本一のウマ娘と、日本一のトレーナーになるんだ。

 

そうして、決意も新たに走った選抜レースでは、他の娘たちとは明らかにモノが違う走りを見せつけ、二着に四バ身差の快勝という結果を残した。

 

彼以外のトレーナーの人達もスカウトしたいと声をかけて来たが、丁寧に対応しつつもしっかりとお断りした。

 

そうしてしばらく待っていると、前の時間で最後に見た時より、少しだけ若い彼が私に声をかけて来た。

 

前回よりも少し遠慮気味なのは、模擬レースの結果が前よりも圧倒的なものになったからかな?

 

そんな彼を愛おしく思いつつ、私は彼の手を取って両手で包み込んだ。

 

そして、宣誓の言葉を紡いだ。

 

 

 

 

 

 

「トレーナーさん! 私と一緒に、日本一のウマ娘に、そして日本一のトレーナーになりましょうね!」

 

 

 

 

 

 

そう――ダービーだけなんて、そんな温い事は言っていられない。

 

トレーナーさんには、『ダービートレーナー』以上の、最高の輝きをプレゼントしたいから。

 

現会長他、数名のウマ娘しかもたらせていない、至高の称号を――私も、トレーナさんにあげたいから。

 

それだけじゃなくて、トレーナーと担当ウマ娘としてだけじゃない関係も、きっと築いてみせる。

 

だって、トレーナーさんの事は、『本当に』良く知っているから。

 

前の時に、私が知りえた事以外にもいっぱい知っているから。

 

ここに戻ってくる前、あの方達に、教えて貰ったから。

 

それと――前にトレーナーさんを支えてくれた方。お疲れ様でした。貴女の出走登録は取り消されたので、もう二度と会う事は無いです。

 

そうして、色々と考えながらトレーナーさんと彼が貰っている仕事部屋へと行く途中。

 

その前を通りすがったので、膝をついて頭を下げ、無心に祈りを捧げた。

 

トレーナーさんは少し戸惑っていたみたいだったけど、私に倣って同じように祈りを捧げてくれた。

 

あはは、良いですよ、トレーナーさん……きっと御三方とも、私達を祝福してくれるはずですから。

 

 

 

 

 

 

 

「――感謝いたします、三女神様」

 

 

 

 

 

 

私の言葉を受けた三女神様の像が、陽光を受けて神々しくも温かく輝いた。




このネタで、テイオーでも書けそうだと思いました(小並感)

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