元々短編でしたがこれから広げていきます
一人で眠るのが怖い。
電気を消して寝ることが怖い。
暗闇の中にいると、そのまま、悪いものに包まれてしまいそうだから……
だけど、今日だけは――
「ねぇ、園ちゃん……」
乃木園子ちゃん、最近勇者部に入部してくれた同学年の女の子。
一緒にいると楽しくて頼りになって……いつからか私は、園ちゃんの事を目で追うようになっていた。
「ん〜?」
そんな子が今日、家に泊まりに来てくれた。
理由はわからない、不安もあった。だけどそれでも来てほしいと思ってしまう私は、いけない子なのかもしれない。
「どうしたの?」
園ちゃんの顔がこちらへと向けられる。そんな何気ない動き、そして何気ない言葉、それだけで今の私はとても安心してしまう。
だけど、まだ安心したい。あと少し感じてしまっている不安が、全部無くなるくらい、もっと……もっと。
園ちゃんを、もっと近くで感じたい。
「あのね……」
だからこれは、少し、自分勝手なわがまま。
「手、握ってほしい、なんてっ――」
だめかな? 私がその言葉を口にしようとした時、園ちゃんはそれよりも早く手を握ってくれる。いや、それだけじゃなかった。
「ゆーゆ、大丈夫だよ~」
園ちゃんはそういいながら、空いているほうの手で頭を撫でてくれた。その動きはとてもゆっくりで、優しくて、まるであやされているみたいに思える
そして、それがなんだか、少し恥ずかしい、
そんな恥ずかしさから私は、顔を見られないよう、園ちゃんの胸元へと頭を移動させる。
「おっ!! ゆーゆ、甘えん坊さんだねぇ、いいよいいよ〜甘えて甘えて」
その声とともに私はさらに抱き寄せられ、視界は真っ暗になった。
園ちゃんの少し速い心臓の音が、よりはっきりと聞こえる。
「これ、落ち着くかも」
「そっか……ならもっとしてあげるね」
2人で抱き合う、静かな時間
会話は少ないけれど、決してそれが嫌という事はなかった。むしろありがたいとさえ感じてしまう。
まだ撫でていて欲しい、ずっと一緒にいたい、離れたくない。
そう思い始める自分がいるのがわかった。
私の中の全てが園ちゃんで満たされていくような感覚。園ちゃんが私に触れれば触れる程、私は園ちゃんの与えてくれる気持ちよさに抗えなくなっていく。
そして、それがとても幸せだった。
しかし、そんな幸せな時間は、園ちゃんの手が止まると同時に終わりを迎えた。
「園ちゃん……?」
「あ、ごめんねゆーゆ、ちょっと考え事しちゃってた」
疲れてしまったのだろうか。もしそうであれば、ここで園ちゃんを休ませてあげないといけない。
そう、普段の私なら絶対そうする。
だけど――
「園ちゃんお願い」
――この時の私は、かなり、わがままだった――
「もっと……撫でて……」
それからの私は、まるで赤ん坊のように甘えた。
頭を撫でられ、背中を優しくたたかれる。
そして頭上では、園ちゃんのささやき声。
その声はまるで赤ん坊をあやすかのようで、とても恥ずかしいはずなのに、それが嬉しくて、気持ち良くて、心地良い
すごくすごく幸せだった。
今までの生きてきた中で、最も幸せな時間だった。
「園ちゃん……ありがとう、来てくれて」
いつもとは違う夜、暗闇の中で、園ちゃんに包まれて……
「大好きだよ……園ちゃん」
今はもう、怖くない
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「…………ゆーゆ、寝れたのかな」
ゆーゆが寝たのを確認した私は、ある確認をするため、ゆーゆから少しだけ身体を離そうとする。
「あれ?」
ゆーゆのの方から捕まられているらしく、私は離れる事ができなかった。
「ゆーゆ?」
名前を呼んでも反応がないことから、寝ているのは確かだと思う。
無意識に私を求めてくれているのかは、誰にもわからない、だけど、もしそうだとしたらたまらなく嬉しいことだ。
「けど、ごめんね」
罪悪感はあった、しかし、どうしても確かめなければならないことがあったため、少し力を入れて、ゆーゆから少しだけ身体を離した。
「やっぱり……」
ゆーゆは、泣いていた。
その理由がなぜなのか、わからない、けど予想することはできた。
今のゆーゆは何かを隠している。
いや、
隠していた。
私はそう確信を持っている。その理由は、ゆーゆの左胸にある『赤黒い何か』
見つけたのは本当に偶然だった。はっきりと見ることはできなかったが、触れてはならない物だと、勇者としての経験で積上げた勘がそう告げていた。
多分、直接ゆーゆに聞いても答えてはくれないだろう。わっしー達も知っているとは思えない。
大赦の人なら知ってる可能性は高いけど、おそらく教えてくれないだろう。教える気があるならばもう伝えているはずだ。隠しているということは何か事情があるに違いない。
情報が必要だった。
その日から私は、なるべくゆーゆのことを目で追うようにした。
ゆーゆの挙動、発言、その全て。
そうしていると、思ったより早く手掛かりを集めることができた。
ゆーゆはたまに、左手で左胸を強く抑えることがあった。もしかすると、アレは一時的に痛みが発生しているのかもしれない。
そして、最近のゆーゆは明らかに口数が少ない。
偶然かとも思った。だけどこちらから話しかけても、いつもと違い会話が続かないということが多かった。その変化は、多分皆気づき始めていると思う。
最後に決め手となったのは、ゆーゆの発言だ。
「アリが、キリギリスの借金をこっそり肩代わりしたとしたら、その後、どんな問題が起こるでしょうか?」
多分、これに気づけたのは私だけ、ゆーゆがくれた、精一杯のヒント。
この一言で、ゆーゆの身に何が起こっているのかを理解した。
多分、見張られているんだと思う。
相談しない事であの子達は大変な目にあっている・
それをわかっていて相談しないと言う事は、できないと言う事で間違い無いはず。
悟られないよう、こちらも気付いてないフリを続けないといけない。
皆にも、そして、ゆーゆにも。
だから、これは私の中だけに潜める想い。
ーー絶対、貴方を守ってみせるーー
私は再度、ゆーゆを抱き寄せる。絶対に手放すことがないよう、強く、強く。
そうして、目の前で眠る、弱り切っている少女の耳元まで顔を近づけた。
優しく、しかし想いは強く、この一言に全ての気持ちを乗せてーー
「ゆーゆ、愛してる」
【包み込む愛 乃木園子】
ゆーゆを守る
この発言がカギとなります