普通の大学生、下谷遥斗はある日、妹のお見舞いに病院へ行くととても綺麗な女性が倒れているのを見つける。
その女性を助けると、突然これから見舞いに来てくれと頼んできた。
その頼みを戸惑いながら了承する遥斗だが、その内に女性に惹かれていくようになる。
だが、その女性は余命宣告されていて――
今、たった三ヶ月の儚い恋物語が始まる。
皆さん、遂に四周年を突破致しました!いえーい!
初めて投稿した小説、無意識の恋から始まり、こんな僕に彼女は必要なのだろうか、東方魂愛想、東方現代物語など、様々な作品を書いてきました。
そして今回の話は最初期から考えていたものですが、今までずっと書かずに放置していたものとなります。
考えていたには考えていたけど、昔の自分だと上手く書ける気がしなかったんですよね。
なので、リベンジの意味も兼ねて、この四周年記念作品とさせていただきます!
一つ言うとめっちゃ長いです。約8000文字あります。
最近では珍しい僕の単発作品、どうぞご覧下さい。
それではどうぞ!
俺は彼女の目の前に来ると鞄を下ろして楽な格好になる。
「久しぶり。やっと時間に余裕が出来たから会いに来ることが出来たよ」
俺は彼女に話しかける。優しい声色だ。
「俺さ、大事なプロジェクトを任せられることになったんだよ。凄いだろ。入ったばかりなのに、こんなのを任せられるってことは俺の実力が認められたってことだからすごく嬉しくてさ」
彼女と出会ったのは丁度一年前。今日のように雲ひとつない晴天の日だった。
「俺、誰よりも最初にこのことを君に伝えたくて妹にもまだ言っていないんだぞ」
そんな俺の話を聞いて全く言葉を発することがない彼女に涙が流れ始める。
「俺、もっと頑張るから。だから、応援してくれよ。そして」
そこで俺の涙腺は決壊し、大粒の涙が流れ始める。
俺の声は目の前にある大きい石から跳ね返ってきて、虚しさを感じてしまい、同時に寂しさが込み上げてくる。
「そして……そして……
君の分まで精一杯生きるからな」
俺の目の前には墓石が一つ。
この墓には俺の初恋の少女が眠っている。
俺は
今から丁度一年前の夏、この日はとある病院にやってきていた。
家からは結構距離があるものの、この病院にはある目的があったため来ていた。
「よ、
「お兄ちゃん。いらっしゃい」
病室に入った瞬間、手を振って元気に迎えてくれたのは俺の妹の下谷冬華だ。
俺とは似ても似つかないほどの美人で学校ではモテているらしい。
そんな冬華がなぜ入院しているのかと言うと、今から一週間前に遡る。
冬華は昔から体が強くなく、よく喘息になっては通院していたのだが、遂に発作を起こしてしまったため、病院に連れていったのだが、思ったよりも状態が酷かったらしい。
肺炎も発症していたのだとか。
そのため、近くの病院ではなく、少し遠いがこっちの設備が整った病院に移動してきたのだ。
「お兄ちゃん、大学はどう?」
「卒論を作れだとよ。まだ何を書くかも決まっていない」
俺は今現在、大学4年生。4年制の大学だから今年で最後となる。
だから卒論を書けと言われているのだが、まだ全く内容が思いついていない。
「そっちは大丈夫か? 体調とかは」
「うん、絶好調だよ!」
「なら良かった」
今日も安心して帰ることが出来そうだ。
こうして遠いので毎日来ることは出来ないものの、定期的に見舞いに来て体調を確認しているのだ。
そして今日はもう帰ろうと思って病室から出た瞬間、目の前に衝撃的な光景が拡がっていた。
なんと、杖を持ちながら床に倒れている女性が居たのだ。
なんなんだ、この状況はと思いながらも見て見ぬふりをしてこの人が死んでしまったら夢見が悪くなってしまいそうだと思った俺は近くの看護師を呼んで助けてもらうことにした。
呼びに行くと、とても驚いていた様子だったけど、なんとか看護師たちが集まって元の病室に返してくれた。
「もう、病室から一人で出ちゃダメだって言ったでしょ?」
「…………」
看護師のその言葉に対して無言を貫き通す女性。
白髪だ。とても綺麗な髪をしている。
窓から吹き込んでくる風がサラサラとした髪を靡かせている。
同い年くらいか?
「本当にありがとうね。えっと」
「下谷遥斗です。こちらでお世話になっている下谷冬華の兄です」
「あぁ、冬華ちゃんの。本当にありがとう。あと少し遅れていたら死んでいたかもしれないの」
「え、」
この人、そんなに酷い病気だったのか。
たしかにさっきは倒れていたけど、今の様子を見たらそんなふうには思えない。
顔色も悪くないし、辛そうにも見えない。
「安静にしてよ。くれぐれも一人で勝手に出歩かないように」
「じゃあ、俺もこれで」
「待って」
そう言って看護師達も戻ろうとしていたので、同じく帰ろうとすると待ったがかかった。
「ん?」
「少しいい?」
不思議な人だ。
今会ったばかりの人を引き止めるなんて。
そして看護師たちはみんなも戻って行って、俺とこの女性のみになった。
改めて見て見てもとても美しい女性だ。
「えっと、君の名前は」
「……
「変わった名前だね」
「よく言われる。あなたは冬華さんのお兄さん?」
「そうだけど」
妹のことを知っているのか?
でも、確かにここは冬華の病室の隣の病室だった。知り合いでも何も不思議ではない。
「私は冬華さんの友達。ただ、それも後三ヶ月で終わるけど」
ん? 退院するって言うことか?
「そうか。仲良くしてくれてありがとう」
「ねぇ」
「なんだ?」
「これから、ついででいいから見舞いに来て欲しい」
「まぁ、いいけど」
冬華の見舞いには定期的に来ている訳だし、そのついでならば隣の病室なので、来ることが出来る。
だが、何もを思って友達の兄に見舞いを頼んできたんだろうか。そこが引っかかるものの、俺は了承した。
すると花菜さんは満足気に頷いた。
「じゃあ、俺はもう帰るわ」
「うん、じゃあね」
「またな」
そう挨拶を交わして病室を後にした。
今週末にもう一度来ることが出来るだろう。その時にでもまた会いに来るか。
そう考えながら家に帰った。
俺達に両親はいない。両親は俺が高校に入って直ぐに他界してしまった。
そのため、俺と妹は二人暮しで俺のアルバイト代で何とかやりくりしている。
アルバイトもかけ持ちしているので、なかなか時間を作るのが難しい現状だが、何とか時間を作って週末にもう一回見舞いに来た。
冬華は見舞いのペースが早くて嬉しそうだった。
そして冬華の様子を見たあとは頼まれていた花菜さんの見舞いに向かう。
「遥斗です。見舞いに来ました」
「どうぞ」
中から花菜さんの声が聞こえてきたため、扉を開けて病室に入った。
病室に入ると彼女は窓の外をじっと見ていた。白いその髪が窓から入ってくる風邪で靡いていて美しいという言葉はこの光景のために存在しているんじゃないかと思うほどに美しい光景だった。
「お見舞いに来ました」
「ありがとう。お願いを聞いてくれて」
俺の方を見ないものの、感謝してくれているのは伝わる。
だが、なんで俺に見舞いをさせたのだろうか。
俺は会ったばかりで全くお互いに知らないというのに、俺を呼び出したのにはなにか理由があるのだろう。
「どうして、俺に見舞いを頼んできたんですか?」
「どうしてって?」
「ほら、何か理由があるんじゃないですか?」
「?」
なんでこの人、よく分からないとでも言いたげな表情をしているんだよ。
まさか、なんの理由もなしに全く見ず知らずの人に見舞いにこさせたとか言わないよな。
「理由なんてないけど」
「あ、そんなことあったわ」
この人、理由もなく見ず知らずの人を呼び出す人だったのか。やばい人だな。
「そうか。じゃあ帰る」
「あ、まって」
「ん?」
やっぱり理由があったのか。
一度帰ろうと踵を返したものの、もう一度花菜さんの方へと向き直った。
「あなたは死についてどう思いますか?」
「死? どういう意味だ?」
「そのままの意味です」
よく分からない。いきなり死について聞かれたところで直ぐに答えることが出来ないし。
だけど、今少し考えて浮かんだことを答えてみることにした。
「人生の終わり。そしてとても悲しいものだと思う」
「そうですか」
「あなたはどう思うんですか?」
「……分からない」
「え?」
この人は自分が分からないことを人に聞いてきていたのか。
本当にこの人はよく分からない。
今まで色んな変な人とか変わったことはあるものの、ここまで考えがよく分からない人は初めてだ。
「……お願いがある」
「今度はなんですか?」
「これからも見舞いに来てくれますか?」
また見舞いに来てくれという願いらしい。
本当によく分からない人だけど、悪い人ってわけじゃないし、冬華の友達となればその願いを一蹴することは出来ない。
「分かりましたよ、お嬢様」
「ありがとう」
そういう俺に対して満面の笑みを見せてお礼を言ってきた花菜さん。
そしてこの日以降も、冬華の見舞いついでに花菜さんの病室へと顔を出した。
ずっと会っている内に、彼女のことも少しずつ分かってきた。
花菜さんと冬華が友達になったきっかけは俺と同じく、廊下で倒れていたところを助けられたことが理由らしい。
それからたまに冬華がこっちの病室に来ているのだとか。冬華はだいぶ体調も戻ってきたので、病室の移動くらいなら認められているらしい。もうすぐで退院出来るそうだ。
そしてこの関係が一ヶ月続いたある日のこと。
「もうすぐでお見舞いに来てもらうのも終わりになりますね」
「ん? どういう事だ?」
「だって、遥斗さんは冬華ちゃんのお見舞いのついでに来ているんですよね。聞きましたよ。あと一週間で冬華ちゃんは退院することができるって。そうなったらもうこの病院に来る理由は無くなるじゃないですか」
花菜さんが言っているのは至極単純な事だった。
冬華が退院するなら俺が見舞いに来ることはなくなる。
確かに俺は冬華の見舞いのついでに来ているだけだし、理屈で言ったら冬華の見舞いがなくなったらもうここに来る意味はなくなって、見舞いに来ることはなくなるだろう。
だけど、俺はこの一ヶ月、彼女と会って彼女の色々なことを知ってある感情を抱いていた。
「……そんなことは関係ない」
「ですが」
「だって、これだけの期間、会っていたらもう友達と言っていいんじゃないか? 友達なら見舞いにくらい来るだろ」
「遥斗さん……」
もっとこの人と話していたいという感情があった。
最初は妹の友達として接していたものの、この期間で俺は彼女のことをもっと知りたいと思っていたのだ。
「だから今後も見舞いには来る。まぁ、迷惑だと言うならもう来るのは辞めるが」
「……いえ、大歓迎です」
「よかった。じゃあ、またな」
「はい、また」
そしてこの日は家に帰った。
最後に見たリンゴのように顔を真っ赤にさせた花菜さんの表情が気になったものの、顔をそらされたので何も聞かずに帰ることにした。
そして俺は冬華が退院した後も花菜さんの見舞いに行き続けた。
「お兄ちゃん、最近こそこそと病院に行っているみたいだけど、何しに行ってるの?」
「え、バレてたのか」
「お兄ちゃんの行動は私には筒抜けなんだよ」
最近、病院に行く時になんか視線を感じると思ってたんだけど、まさか俺のことをつけていた訳じゃないよな。
「多分だけど、花菜さんのお見舞いに行っていたんでしょ」
「な、何故それを」
「前、お兄ちゃんが見舞いに来る約束をしてくれたって花菜さんが話してくれたんだ」
そういえば二人は友達だったな。
友達だったらそういう話題が上がっても仕方がない――のか?
「もしかしてお兄ちゃん、花菜さんのことが好きなの?」
「はぁ!? なんでそうなるんだよ!」
「だってお兄ちゃんが後にも先にもここまで優しくしているの見た事がないんだもん」
確かにあの人は素敵な人だとは思うけど、そんなんじゃないはずだ。
「っていうか、お前には関係ないだろ」
「関係ありますぅ〜。私の将来のお姉ちゃんになるかもしれないんだから」
「将来のお姉ちゃんって……」
でもこうなった冬華を止めることは出来ないんだよな。
仕方がない。でも、そんな気は無いんだし、普通に見舞いに行けばいいか。
そう考えて普通に見舞いに向かった。
「ねぇ、なんか様子が変だけどどうしたの?」
「いや、なんでもない」
あれがあった後に普通に接するなんて無理だった。
冬華に言われたことによって意識してしまう。意識するなと言われても無理な話だ。
「それならいいけど」
「そういえばさ、最初に三ヶ月で終わるみたいなこと言ってたけど、どういうことなんだ?」
恥ずかしくなった俺は話を変えることにした。
その直後、俺はその話題がとんでもない地雷だったことを悟った。
「私、余命あと一ヶ月半なんです」
「え、余命?」
一瞬、何を言われたのか全く理解が出来なかった。
だって今この瞬間も俺の目の前で元気そうにしているというのに、あと一ヶ月半しか生きられないというのか?
確かに顔色が悪いなと思ってたけど、そんなに悪かったのか。体調が悪いというのに俺に気取られないように普通に接していたというのか。
「まぁまぁ、そんな暗い話はやめて違う話をしよう」
「あ、あぁ、そうだな」
そう言ったものの、この余命一ヶ月半という言葉が頭から離れなかった。
この日はこれで帰ったものの、帰ったあともこのことばかり考えていた。
そうなると、この前聞かれた死についてどう思う? という問いの重みが変わってくる。
「お兄ちゃん、なんか元気ないね。もしかして花菜さんにフラれたの?」
「…………」
「……お兄ちゃん、どうしたの?」
俺が冬華のからかいに反応出来ずにいると本当に何かがあったんだと察したようで、真剣な声色で聴いてきた。
だが、これを勝手に言っていいものなのか分からない。
多分、自惚れじゃなかったら俺を信頼して言ってくれたことなんだろうから、これを勝手に言うのは信頼を裏切ることになるんじゃないのか?
「……いや、なんでもない」
「何かあったら直ぐに相談してね。私はお兄ちゃんの味方だから」
「ありがとう」
軽く冬華の頭を撫でてやると嬉しそうに微笑んだ。
それから一ヶ月が経った。
未だに前教えられたことが引っかかっていた。
あと一週間程度で死んでしまうという。
この前行った時もすごく元気そうに見えたし、あと一週間で死んでしまうと思えない。
今も俺の目の前で静かに本を読んでいる。
何も会話がないものの、特に居心地が悪いとは思わない。むしろ、この時間が続けばいいとすら思える。
だけど、後一週間で終わってしまうんだよな。
「どうしたの?」
「いや……あのさ、一つ聞いていい?」
「いいけど」
「……死ぬのって怖くないんですか?」
「……怖くない、っていえば嘘になるけど、今は怖くないって言うのが正しいね」
「今は?」
「昔は死ぬのが怖かった。私は肉親が居ないんです。父親は物心着く頃にはいなかったし、母親も少し前に……」
「そうだったのか」
そうなると、余命を告げられて死ぬとしても看取ってくれる人が居ない。
それは悲しいことだ。死ぬのが怖くて当然と言えるだろう。
だけど、それは昔の話といった。
「今は?」
「今はあなたがいるから」
「え?」
「あなただったら私の最期を看取ってくれるかなって」
「え、え、えぇぇぇぇぇぇっ!!??」
驚きのあまり思考が停止してしまった。
今、この人は俺に最期を看取ってくれといったのか?
「ちょっとまて、なんで俺なんだよ!」
「ふふっ、素の口調が出てるよ」
「あ」
驚きすぎて素の口調が出てしまっていた。それくらいに驚きのセリフだったのだ。
「で、どうしてあなたに頼むか、だったよね」
「あ、あぁ」
「あなたは覚えていないようだけど、前に私とあなたは会ったことがあるのよ」
「え? あ!」
そう言われて思い出した。
以前、大学に行こうとしている時に道端で倒れているのを発見して救急車を呼んだことがあった。
「あの時の……」
「そう、あの時は黒髪だったから分からなかったんでしょ」
あの時は黒髪だった。だが今は白い。
染めた色には見えないから、恐らくこれはストレスによって白髪になってしまったのだろう。
病気で余命を告げられてしまったらそりゃストレスにもなるよな。
「で、あの時、優しくしてくれて……その……一目惚れを」
「はぁ!?」
「だって……この冷めた日本社会で実際に人を助けられる人って何人いると思いますか? だけど、あなたは私を助けてくれた。これは誰にでもできることではありません」
「そ、そうか?」
急に褒められて照れくさくなる。
「だから、好きな人に最期を看取って欲しいと思って」
「そうか……」
悲しくなるセリフだが、これが彼女の願いなんだとしたら。
「じゃあ、俺も言わせてもらうな。俺も、好きだ」
「え?」
「この三ヶ月、関わってみていい人だと思った。で、気がついたら好きになってたみたいだ。今気がついたばかりだけどな」
「じゃ、両思い?」
「そういうことになる」
すると、若干頬を朱に染めて俯く花菜さん。
その様子がとても可愛い。だけど、この時間もあと僅かなんだ。
「じゃあ、もう一度お願いするよ。私の最期を看取ってくれる?」
「もちろんだ」
そう言ったものの、俺自身は覚悟ができていなかった。
だって今、思いが通じ会ったばかりなのにもう最期が近づいてきているなんて。
「大好き……」
「あぁ、俺もだ。最期は俺が必ず看取ってやる。だから、安心しろ」
「うん」
それから俺は毎日お見舞いに来た。
一秒でも多く最愛の人の近くにいたかったから。だけど、無情にもその時は来た。
「ここのところ毎日来てるけど大丈夫なの?」
「あぁ、ちゃんと単位は問題ない」
「そういう問題じゃなくて……」
俺の言動に心配の声を上げる花菜だが、俺にはそんなこと関係ない。
必要な単位数は足りているのだから、何も問題は無いだろう。それよりも重要なのは一分一秒でも長く花菜と一緒に居る事だ。
その時だった。
「う、ぐ……」
「花菜!!!」
突如、花菜が苦しみ出したのだ。
さっきまで普通だったのに急に、こんな突然。
と、とりあえず看護師さんたちを呼ばないと!
そしてナースコールをしようとすると、その手が止められた。
「な、なんで止めるんだよ。早くしないと!」
「……無理だよ。時間が来た、それだけのこと」
「時間って、まさか」
「そう、もう助からないんだよ。だけど、今は全く怖くないんだよ。あなたがいるから。もう死ぬって言うのに あなたがこの場にいるだけでなんだか物凄く幸せな気分になれる。看取ってもらえるってだけで、こんなにも幸せなんだって……」
「もう、何も言わないでくれ……。頼む、お願いだ。生きてくれよ……」
「だからさ、ありがとう。私のお願いを聞いてくれて……ありがとう……。幸せだったよ」
そこで俺の腕を掴んでいた力が抜けたのを感じた。
ぶらりと落ちていく腕。
俺はその腕を掴むと手首に軽く触れてみる。
脈が無くなっていた。この時、この瞬間に……。
「…………」
俺は俯きながら受話器を手に取る。
『どうしましたか?』
「野良花菜さんが……死にました」
その後、葬儀が執り行われた。
俺もその葬儀には参加したものの、その後一週間はまともに人の目を見て話すことも出来ないほどに落ち込んでしまっていた。
「お兄ちゃん!」
「……冬華……」
落ち込んでいると冬華が俺に話しかけてきた。
「花菜さんが死んじゃって悲しいのはわかるけど、そこまで引き摺ってお兄ちゃんが暗くなるのは望んでいないはずだよ!」
「冬華……そうだな」
やっと目が覚めた。
そうだ、花菜だってこんな俺を望んでいるわけが無い。花菜を悲しませる訳には行かないな。
「花菜の分も精一杯生きる。これが今の俺のできること」
「うん、それでこそお兄ちゃんだよ!」
「だけど、あの後も立ち直るのに苦労したよ。でも、今は元気に仕事をしているんだ」
墓石に俺は水をかける。
「今でも覚えているよ。花菜の笑顔、花菜の雰囲気。花菜の分も精一杯生きてみせるからな」
「お兄ちゃーん!」
そこで冬華の俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
うん、妹も呼んでいる事だし、今日は帰るか。
「お兄ちゃん、本当に花菜さんが好きなんだね。三十分もずっと固まって何かを語りかけていた様だけど」
「そ、そんなに経ってたのか」
一人で墓に向かって三十分もずっと語りかけてるって傍から見たらかなりヤバいやつだな。
「んじゃ、帰るか」
「うん」
俺は忘れない。あの日見せてくれた笑顔を、仕草を、口調を。
絶対に、だって俺が忘れなければ彼女は死なないんだから。
みんなが忘れても、俺の心の中で生き続けている。
はい!どうでしたか、今回の話は。
いつもよりもずっと長くなりましたが、結構いい感じにかけたのではないかと思います。
これで四周年記念は終了したいと思います。
ここまでご愛読くださり、ありがとうございました。
これからもミズヤをよろしくお願いします。
それでは!
さようなら