言峰綺礼(偽)は愉悦したい~Painlessness~   作:アイス&コーン

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お前はもう、死んでいる

side リオン

 

 素晴らしい。

 

 俺はロストアイテム【ルクシオン】を見つけて、理不尽な結婚から逃れた男、リオンだ。

 

 

 なぜいきなり自己紹介なんだ? だって?

 

 なんだかそうしたい気分なんだ。

 

 俺は今めちゃくちゃに機嫌がいいからな、今なら前世の妹だって許してやれそう―――いやそれは無理だわ。

 

 

 まあそんな意味のない語りは端折って、今俺は自分が手に入れた浮島にいる。

 

 特徴がない浮島で、大きさ的にも準男爵領ほどだが、それでいいのだ。

 

 なんてったって俺の夢は適当な田舎でスローライフを送ることだからな! だからこのぐらいでちょうどいいんだ。

 

「あ~、夢が広がるな~。……学園に行って婚活するということさえなければ、な」

 

『マスターは冒険者で成り上がった期待の若手ですが、それ以外には特筆すべきものは何もありませんからね。下手に有名である分、結婚は苦労しそうです』

 

 こいつは俺が手に入れたロストアイテム【ルクシオン】だ。

 

 今は球体にレンズがついたようなヘンテコな形だが、本体は700メートルほどの巨大戦艦だ。

 

 いわゆるチートアイテムだ。

 

 俺がこいつを手に入れるのにどれだけ頑張ったか……。

 

 

 なのにこいつときたら、俺に嫌味しか言わないかわいそうな人工知能なのである。

 

「なあお前、俺のこと嫌いすぎない?」

 

『新人類は全員嫌いですから、そういう意味で言えばマスターのことも”嫌い”なのでしょうね』

 

「あっそう。まあお前が俺のことどれだけ嫌いでも、俺はお前を使っちゃうけどね! ねぇどんな気持ち? 嫌いな奴に使役されるのってどんな気持ち?」

 

『最低ですねマスター。生来の品性の無さ、そして腐りきった性根がよくわかります』

 

「俺はそんな自分が大好きだけどね」

 

『マスターのような方が世界に蔓延っているのは問題ですね。ということで新人類殲滅しませんか?』

 

「いやそれは嫌だ」

 

 訂正。こいつは危険なやつだった。

 

 いきなり新人類殲滅とか、いやだよ俺は。

 

 

 

 

 と、そんな感じでルクシオンと談笑(?)した後、家――バルトファルト男爵家――に戻ると、兄貴がこっちに駆け寄ってきた。

 

 そんなに慌ててどうしたんだろう?

 

「リオン! お前どこいたんだよ! あいや、それより急いで親父のとこに行ってくれ!」

 

「親父? なんでだよ、俺は別に何にもやらかしてないぞ」

 

「いやお前は既にいろいろやらかしてるんだが、それもいい。話は親父から聞いてくれ! ……あと、あんまり感情的になったりするなよ?」

 

「いや、本当になんなんだ」

 

 俺は兄貴に付いて行って、親父がいるであろう部屋の扉を開く。

 

 そこには三人の人間がいた。

 

 二人は俺のよく知る親父とお袋だ。

 

 そして三人目は、俺が知らない人間だった。

 

 そいつを見ていると肌が妙にピリピリするが、同時に凄まじい安心感も覚える、不思議で気味の悪い青年だった。

 

 年は俺と近いだろう。透き通るような銀の髪を短く切り揃え、顔の左側を眼帯で大きく隠しているが、片方の顔は恐ろしく整っている、まさに絶世の美青年のようだった。

 

 だが、それよりも俺が気になることがあった。

 

(こんなイケメンな奴、ゲームにはいなかったよな。俺と同じモブ? いや、だがこんな雰囲気あって濃い奴がモブなわけないよな……)

 

 こんな奴は俺は知らない。

 

 これが俺の気になることだ。

 

 

 一体、こいつは何者なんだ?

 

 と、俺がそんな思考に囚われていると親父とお袋が寄ってきて叩かれる。

 

「いてっ!」

 

「馬鹿お前、ちゃんと挨拶しろよ!」

 

「リオン、相手の方は神殿からやってこられた神官の方よ。ボーッとしちゃダメよ!」

 

 神官? 神官が俺に何の用があるんだよ?

 

 聖女関係か? いや、それは早すぎるし、何より俺に尋ねる問題でもないもんな。

 

 

 って、これ以上黙ってたらまた叩かれるな。

 

「お初にお目にかかります、リオン・フォウ・バルトファルトです。お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

 

「おや、そういえば挨拶がまだでしたね。これは失礼、ワタシは神殿から派遣された『神官』キレイと申します。本日はバルトファルト男爵にお願いがあり、参上致しました」

 

 キレイ、またゲームで聞いたことない名前だな。

 

 どうやら本当にただのモブらしいな。

 

 

 ところで、『お願い』?

 

 なんか一気に胡散臭くなったな。

 

「お願い、ですか。それはどのようなものでしょうか」

 

「すぐに本題に入っても良いのですが、バルトファルト男爵は先程ここに着いたばかりなのでしょう? あまり長話をするつもりはありませんが、座って話しませんか?」

 

「ああ、ではそうしましょうか」

 

 俺が座ると、相手の神官キレイも椅子に座る。

 

「それで、話の続きをお願いします」

 

「はい、今回ワタシがこちらに赴いた理由なのですが、端的に言えば寄付を受け取りに来たからです」

 

 うわー面倒くさいのきた~。

 

 なんとなくお願いと聞いた辺りで想像できていたが、できれば外れて欲しかった。

 

 これだから俺は宗教が嫌いなんだ。

 

「寄付、ですか」

 

「はい、勿論これは任意であり、するかしないかはお任せします。ですが貴族の方ならばほとんどの方が行っていることであり、言わばマナーのようなものです。今までは、少し失礼ですが寄付をする余裕もなさそうだったので、我々も寄付を求めていなかっただけです」

 

 なるほど、今までは貧乏で見逃されてたけど、俺がロストアイテムを持ち帰ったというのを、大金を手に入れたと勘違いして、寄付を得ようとしてるってことか。

 

 いやまぁ、ルクシオンで金なんていくらでも作れるから、全く勘違いではないけど――。

 

「ちなみに、いくらほどでしょうか」

 

「目安程度であれば、ワタシでもお答えできます。男爵や子爵家であれば白金貨10枚程で、それ以上となると白金貨50や100枚ほど毎年寄付を頂いています」

 

「白金貨10枚!?」

 

 お袋が悲鳴を上げるように叫ぶ。

 

 親父も難しい顔をしてこっちをちらちら見てくる。

 

 ――兄貴が言ってた「感情的になるな」ってこれのことか~。

 

 一体兄貴は俺をどう思っているのか、今度しっかり話し合うべきだな。

 

 

 ま、俺にとって金はそこまで重要じゃない。

 

 だってルクシオンがいるからね! あいつがいれば金儲けの手段なんて山ほどあるからな。

 

「わかりました。白金貨10枚、即金で支払わせていただきます」

 

「ほう、即金で払われるのですか? 別に催促をしているわけではないので、いつでもいいんですよ?」

 

「いえ、今まで滞っていた分、早く払わないと俺も落ち着かないんです。どうぞ、お納めください」

 

 これ以上は絶対払わないけどな!

 

 ていうか、なんかあれだな。

 

 こういうイベントものって、大抵もっと悪そうなやつがくるとか、もっとテンプレっぽいものとか想像してたけど、やっぱそういうのは漫画の世界だけだな。

 

 現実はそんなことはなく、結構あっさりしている。

 

「―――なんと誠実な心の持ち主なのでしょうか。アナタに、主の導きが在らんことを……」

 

 神官さんはそう言って椅子から降り、地に膝を付け祈りを始める。

 

 これは俺も真似しなきゃいけないのかな?

 

 俺はそう思い椅子から立って神官さんを真似ようとしたが、

 

「ああ、これは癖のようなものでして。真似をする必要はありませんよ」

 

「あ、そうなんですか」

 

 ……ちょっと恥ずかしい。

 

 親父もお袋も変な奴を見るような目で俺を見るなよ。

 

 しなくていいなら教えてくれればいいだろ! ……いやそれは無理か。

 

『この方は酷い勘違いをされていますね。もしマスターが誠実と呼ばれるような世界なら滅んだ方がマシですね。やはり殲滅します』

 

 

 ……なんだかルクシオンに馬鹿にされた気がしたが、気のせいだろうそうだろう。

 

 あいつはあれで真面目なんだ、そんなこと言うはずが……なくもない。

 

「失礼しました。それでは早速寄付金の方をよろしくお願い致します」

 

「あ、はい」

 

 俺は手持ち、はないから少し席を外し、ルクシオンに作ってもらった後、戻り神官さんに白金貨10枚を渡した。

 

 

「――はい、白金貨10枚確かに確認致しました。要件はこれだけですので、ワタシもすぐにでも帰らせていただきます。まだ仕事が大量に残っていますので」

 

 少し微笑むように神官さんは言った。

 

 俺と同い年ぐらいで既にワーカーホーリック気味なのは、悲しすぎて涙が出そうになる。

 

 俺、宗教は嫌いだけどこの人、キレイは嫌いじゃないわ。

 

「あ、雑談程度に少しリオン様にお尋ねしてもよいでしょうか?」

 

「ズッ……は、はい。何ですか?」

 

「お前なんで泣いてるんだ……?」

 

 な、泣いてない。俺は泣いてないぞ!

 

 まあ、ちょっとウルっとは来たけど、断じて泣いてないからな!!

 

 

 ところで、神官さんが俺に聞きたいことってなんだろ?

 

 浮島とか、ロストアイテム関連、それとも意外と冒険譚とか聞きたいのだろうか?

 

 それだったら俺いっぱい語ってあげるけどな!

 

「いえ、別にそう大したことではないのですが―――()()()()()()()()()()()()は何でしょう?」

 

 

 

 ―――――は?

 

 今、なんて?

 

 肩のあたりに浮いてるモノ?

 

「えっと、リオンの肩にはなにかゴミでも付いていたのでしょうか? それならばすみません、今までこいつは外にいたのでそれくらいは許していただけると」

 

「いえ、恐らくゴミではないですよ? というよりも、はぁ、なるほど。もしかしてそれは隠さないといけないモノなのでしょうか?」

 

「―――親父、お袋。悪いんだけどさ、部屋から出てもらえる?」

 

「は? リオン、お前何言って……」

 

「後で説明するから、今は何も聞かず出て行ってくれないか? 神官さんと話し合いたいことがあるんだ」

 

 親父とお袋は豹変した俺の態度に驚き、困惑の表情を浮かべながら部屋から出ていく。

 

 

 俺はさっきので確信した。

 

 こいつにはルクシオンが見えている、もしくは何らかの方法で感知していると。

 

 ルクシオンは普段、俺の肩辺りで『光学迷彩』をして常に俺の傍にいる。

 

 今まで一度もバレたことはない、いや、バレるわけがないと思っていたが、こいつには見破られた。

 

 別に俺はそれが悔しいとか、そういうのはない。

 

 一番の問題は、他にある。

 

「ルクシオン、出ろ」

 

『――はい、マスター』

 

 俺はルクシオンを呼び、光学迷彩を解除する。

 

『お初にお目にかかります、新人類の方。私はルクシオンと言います。よろしくはできません』

 

 開け口一番に敵意全開のルクシオンだ。

 

 普段ならやめろと言うところだが、今だけは止めない。

 

「あぁ、なんだか懐かしいような感覚を覚えたのは『ソレ』が原因だったのですね」

 

『!! 私を知っているのですか?』

 

「いや、正確には君は知らない。だが、同じモノは見たことがある」

 

 同じモノは見たことがある? どういうことだ?

 

 他にルクシオンに似たロストアイテムがあるということか? それともこいつ自身が保有しているのか?

 

『それはどういう意味でしょう? あなたは私と似たような人工知能を知っているのですか?』

 

「ああ、知っているとも。お前のような存在をワタシはよく知っている。そしてワタシの役目は――主に変わり、人を守護することだ」

 

 瞬間、顔の横側に強風を感じる。

 

 目の前にはいつの間にかキレイが拳を振るった形で、【ルクシオン】を破壊していた。

 

 

「お前達の目的は深くは理解していないが、それが『悪』であることは明白だ。故に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それだけだ」

 

 

 無表情に、無感情に、キレイはそう言う。

 

 その瞳には何も映っていないように見えるが、俺は確かに感じた。

 

 

 

 その奥の奥に、燃え滾るような、深い執念のようなものを。

 

 

 

 

 

 




???「久しぶりに燃える展開になりそうで、ワクワク」
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