曇り後晴れ。時々豪雨。(タキオン編開始)   作:にゃす

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 ダイジェストゥ。


sideテイオー(回想.2)

 トレーナーの作るトレーニングメニューは…びっくりする位ボクにぴったりだった。

 

 何でこんなしっくり来るトレーニングをぽんぽん思い付くの? って聞いてみたら、曰く。

 

「テイオーは足首の柔軟性がスパートのバネに直結してるから」

 

 と言うことで。主にそれを重点的に伸ばすようなトレーニングが多かった。もちろん、基礎トレーニングも毎日欠かさずやったけど。

 

 …よく見てくれてるなぁ。

 

 ボクはそんな調子でトレーニングを続けて…メイクデビューして、トゥインクルシリーズでは無敗のまま…三冠の一冠目、皐月賞を無事に手中に収めた。

 

 …皐月賞に勝ってからは、ボクはトレーナーの作るトレーニング、指示を手放しで信用するようになってた。

 信用してなかった訳じゃない。ただ、これはこうの方がいいんじゃないかな〜、って個人的に口を挟んだりする程度はしてたから。

 元々、皐月賞はボクでも苦戦は必至、って考えてたんだけど…トレーナーの指示通り走ったら結構良い運びで勝てたし、トレーニングの成果も実感できたし…もう全部トレーナーに任せちゃっていいやって。

 

 ……トレーナーはボクよりもボクのカラダに詳しいみたいだったし。

 

 …この辺りから、ちょっと左足首に違和感を感じ始めてた。違和感そのものは…ほんっとーに小さかったし、大したことじゃないって思ってたから、トレーナーには黙ってた。

 

 続く日本ダービーも…もちろん手中に収めた。…ちょっとかっこつけたくて、観客に向かってカイチョーみたいに二本指を掲げてみたりしたなぁ。

 …だけど、走り終わった後……足首の違和感がすごい大きくなってることにに気付いた。……ボクはまだ三冠を目指してる最中。トレーナーに休め、回避しろと言われるのが怖くて、黙って練習を続けた。……ボク、悪い子かな…。

 

 案の定、左足首の違和感は日に日に大きくなって行って……ついに。

 

「ぁあっ!?」

 

 練習中に、急に来た左足首の痛み。それに思わず脚を庇うため、体を丸めて地面に倒れ込んでしまう。

 

「テイオー!?」

 

 ああ、どうしよ、トレーナーの焦った声が聞こえる。黙ってたこと、怒られちゃうかな。

 

「だ、だいじょう…」

 

「保健室! 保健室行こう!」

 

「あぁ、待って…大丈夫だから」

 

「ごめん、テイオー…! 気付いてあげれなくて…」

 

「ぁっ…」

 

 トレーナーはギリッ、と歯を噛み締めながらボクを姫抱きして、保健室へと飛んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………折れかけていますね」

 

 …保健室の先生からそう宣告される。

 

「ずっと、足首に負担を掛け続けないと…こうはなりません」

 

 この一言でトレーナーの雰囲気が変わるのがわかった。

 

「……テイオー」

 

「ぅ……」

 

 …責めるような口調じゃない。だけど、お腹の奥がキュッて締まるような感じがした。

 

「…いつから…?」

 

「…ダービーに…勝ってから…本格的に…」

 

「…菊花賞までに回復するのは難しいでしょう。回避するべきです。無理に出たら…選手生命も危ぶまれます」

 

「! そんな! ボク、三冠を目指して…!」

 

「落ち着いて…落ち着いて…」

 

 トレーナーの横槍が入る。

 

「一回、トレーナー室に戻ろうか」

 

「……う…ん…」

 

 …先生に挨拶をして、保健室を出た。そのままトレーナーに支えられて…トレーナー室に。

 

________トレーナー室へ。

 

 今、トレーナーと向かい合う形で椅子に座っている。

 

「…どうして、黙ってたの?」

 

「………菊花賞に……出たかったから…」

 

「……うぅん…」

 

 トレーナーが眉間を右手で押さえて俯いてしまった。

 

 ……次に掛けられる言葉を、何となく予想できた。

 

 回避しよう、止めておこう、って。

 

 だから、そんな言葉を聞きたくなくて、ボクは先手を打った。…本当に、ワガママな先手を。

 

「……ボク、出る。出たい」

 

「菊花賞、諦めきれない…!」

 

「何が何でも、絶対に…出てやる…!! せっかく、ここまでやったんだから…!!」

 

「…スゥゥゥゥ……」

 

 トレーナーは目を瞑りながら大きく息を吸った。

 

「…そう、だよなぁ…」

 

「出たいよなぁ……」

 

「でもな、テイオー…」

 

「…カイチョーが、通った道なんだ。カイチョーを越えるためには…まず三冠から抑えないといけないの!!」

 

「こんな所で…躓いてられない!」

 

 椅子から思い切り立ち上がる。それで弾かれた椅子がガタン、とトレーナー室に大きな音を響かせた。

 

「脚の痛みなんて、休めば治るもん!」

 

「それに、多少痛くたって走れる! トレーニングはそのままで大丈夫だから!!」

 

 これでもかと捲し立てる。それで、足首が治る訳でも、状況が解決する訳でもないのに。

 

「…ダメだ」

 

「っ!」

 

 …やだよ、そんな……。

 

「……そんな状態じゃ全力を出せない」

 

「…へ」

 

「テイオーが全力を出せるようにしなきゃだめだ」

 

「…! そ、それって…」

 

「あぁ、まだ諦めるには早い。今日から全力で足首のケアをしよう」

 

 さっきまで黒ずんでいた視界がパァァァッ、晴れてくような感じがした。

 

「と、トレーナー…! ありが」

 

「ただし。激しいトレーニングは禁止」

 

「…ぁぅぅ…」

 

 それは…しょうがない…よね…。トレーナーからしたら、これ以上譲れない位ボクに……。

 

「そこはわかって…」

 

「……うん…」

 

「…………」

 

「…………」

 

 ここで一旦冷静になって……。トレーナーに、あんまりなこと言っちゃった。

 

 ……トレーナーに謝らないと。

 

「…トレーナー」

 

「?」

 

「黙ってて……ごめんなさい」

 

「……………」

 

 …トレーナーの手が突然ボクの頭に伸びた。

 

「わひゃぁ!?」

 

 ぐわしぐわしと頭を撫で回される。……トレーナーの手、おっきい……じゃなくて!

 

「や、やーめーてー!」

 

「これでおしまい。ほら、さっそくマッサージを試してみるぞ」

 

「あ、う、うん!」

 

 この日からトレーナーとボクのケア生活が始まった。マッサージ、鍼治療、足ツボまで何でもして……菊花賞まで後一ヶ月、という所で左足首は回復した。

 保健室の先生に無理だと言われた菊花賞。…奇跡…って言うか、そういうのって起こせるんだ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 肝心の菊花賞は…無事に三本指を掲げることができた。…これで一歩…カイチョーに挑むに相応しいウマ娘に、一歩近付けた。

 

「おっ、テイ」

 

「とれーぇなぁーー♪」

 

「うぐぉぉぉ!?」

 

 菊花賞後、ボクは急いで控室に飛び込んだ。無事にボクを三冠ウマ娘に導いてくれたトレーナーにいち早く会いたかったから。

 

 トレーナーがボクに振り向いてくれるなりぴょーんとジャンプしてトレーナーに抱き着いた。

 

「て"…テ"イ"オ"ー…」

 

「トレーナー! ほんとにありがと! ボク、トレーナーがいなかったら……」

 

「…俺の方こそ…三冠を取ってくれて、ありがとう」

 

 背中をトレーナーの手が撫でてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 菊花賞から数週間後の夜。マヤノがまた何か雑誌を読んだのか、唐突に恋バナ? することになった。内容はどんなタイプの人が好きー? とか、そんな感じ。

 ボクも多少興味がある内容だったから、マヤノがペラペラと早口で何か言ってる間に、モワモワとちょっと頭の中に好きなタイプを思い浮かべてみる。……すると、輪郭が少しずつはっきりして行って…トレーナーの姿が頭に現れた。

 

 …ボクの好きなタイプってトレーナーみたいな感じなのかな。どうなんだろ……。でも浮かんだのがトレーナーだったってことはそうなのかな……わかんないや…。

 

 トレーナーがボクの好きなタイプだとしたら。じゃあ、ボクはトレーナーが好きってことなのかな? 

 

 …もう寝よっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。練習場のコースにて、ボクは無表情でトレーナーと対面していた。

 

「ねーえー。他の子のこと見てたの? ボクが走ったばっかじゃーん」

 

「い、いや、ちょっとテイオーの走りの参考にならないかなって」

 

「……むぅ」

 

 昨日の夜、あんな話をしたせいでちょっと意識しちゃう。今まではなんとも思わなかったのに。

 腕を組んで見せてボク不機嫌でーす、ってアピールしとこ。

 

「トレーナーは誰のトレーナー?」

 

「テイオーの…」

 

「そうだよねー、ボクのトレーナーだよねー?」

 

「ならさ、もうボクの走りの凄さはわかってるよね。見るべきはボク? それとも他の子?」

 

「…そりゃあ、テイオー…だよ」

 

「……ふふーんっ! わかってるじゃん!」 

 

「…じゃあ、もう一周走ってくるから。目に焼き付けてね! 他の子よりもボクが凄いって、上書きしてあげる!」

 

「が、がんばれー」

 

 この日は一周多く走ってみせた。…トレーナーの記憶に他の子の走りが残ってるって考えると、なんとなく気持ち悪かったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこからは特に何も起きず、マックイーンとMT対決をしたり、秋天に出走したり、ジャパンカップに出走したりで、トレーナーと一緒にテイオー伝説を紡いで行った。

 

 ボクにもある程度箔が付いてきた頃。ついに…カイチョー自らボクの所に来てくれて…ボクと戦いたいって…宣戦布告、されちゃった。

 これはボクがカイチョーへ挑戦する権利を得たということ。カイチョーがボクを戦うに相応しい存在だと認めたということ。…ついに、ここまで来たんだね。

 

 この話はすぐにMT対決の時みたいに話題となった。帝王vs皇帝だー! ってね。

 

 決戦は有マ記念となる。だから、本当に死ぬ気でトレーニングした。

 

 有マ記念前日のコンディションは絶好調。……だけど、ボクはここで思い知らされた。帝王最大の弱点は、脚の脆さにあったんだって。

 

 カイチョーと雌雄を決する有マ記念で…ボクはとんでもないアクシデントに見舞われた。ゲートから飛び出すと同時に、左脚全体に痛みが広がったんだ。筋肉、そして骨を巻き込んだような痛みだった。本当に突然のことだった。いつ、こんな爆弾を抱え込んでたの…!?

 もちろん、そんな状態でボクが全力を出せる訳もなく…脚を庇いながら走ったせいで…ボクはレース人生で初めて…11着の惨敗。さらに初めて掲示板を外してしまった。

 

 カイチョーはレース後にすぐ駆け付けてくれて…これはしょうがない、勝負はお預けだと言ってくれたけど……負けは、負けだよ。何の慰めにもならない…。

 

 レース後、ボクは筋肉の損傷と骨折の両方を言い渡された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅぅぅぅぅぅ………」

 

 病院のベッドの上でグズグズと唸る。

 

 せっかく、カイチョーと最強決定戦をするチャンスだったのに…。こんな…こんな……。

 

「テイオー…」

 

 隣にいるトレーナーが両手でボクの肩を擦ってくれた。

 

「ボク、何か悪いことした…?」

 

「ボクはただ、最強無敵のウマ娘を…目指しただけなのに…!!」

 

「……神様は…いじわるだよ」

 

 病室に恨み辛みの籠もった怨嗟が木霊する。

 

「…俺がもっとちゃんと…テイオーの脚を管理できてたら…」

 

「トレーナーのせいじゃない!!」

 

 思わず大声を出してしまう。

 

「…トレーナー。…ボク、このままで終われない」

 

「……………」

 

「…菊花賞のこと、覚えてる?」

 

「トレーナーとボクならさ。また、菊花賞の時みたいに、奇跡、起こせるよね?」

 

 半ば押し付けるような、呪い染みた一言。だけど、トレーナーは…。

 

「……ああ。やってみなきゃ、奇跡は起きない」

 

「それに俺にだって……まだテイオーが止まる所を見たくない」

 

 首を縦に振ってくれた。

 

「…えへへっ。やっぱりボクのトレーナーは……トレーナーしかいないや」

 

「ボクと一緒にまた…奇跡、起こそ?」

 

 トレーナーに向かい、にかっと笑って見せる。…トレーナーはどうしてか苦笑いを返してくれた。

 

 不思議と、自分の脚は治ると思い込めた。何故か、奇跡は起こると信じることができた。トレーナーなら、ボクをきっとより良く導いてくれるって…妄信してたから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …ボクがリハビリをしてる間に。ボクのライバル、メジロマックイーンはボクの後を追うように、繋靭帯炎と宣告された。まるでボクの次はマックイーンだ、と言わんばかりに…狙い撃ちされたような怪我だった。

 

 …神様って、酷いんだか、優しいんだか。名誉の分だけ、奪うっていうの?

 

 この不条理に納得できなかったのか…それとも悲観的にならなかったのが功を奏したのか。ボクは…決して短くない時間をリハビリに掛けて…ついに、有馬記念までに傷を完治させることに成功した。…トレーナーが付きっきりで面倒を見てくれたのも大きいし、ファンの皆の応援と、マックイーンとか、ダブ…ターボの応援も大きな助けになった。

 

 ……リハビリ期間中、トレーナーはお給料がもらえてない。…そこまでして、ボクに掛けてくれたんだから…感謝しか、ない。

 

 レースで返さなきゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 有マ記念前夜。最後の慣らしトレーニングも終わり、明日に備えてお風呂にも入ってトレーナーとの最終ミーティングも終わった頃。

 

 トレーナーは未だパソコンに向かい合っていた。

 

「トレーナー。まだ仕事終わらないの?」

 

「ん? いや、テイオーの今までのタイムだとか勝ち方を見てシミュレーションしてるんだよ。もっといい作戦を思い付くかもしれないし」

 

「…………」

 

 …トレーナーはよく、ボクのためにパソコンや書類とにらめっこしてくれる。

 三年前から、ずっとボクのために、こんな感じに夜遅くまで働いてくれていた。

 仕事時間外でもボクのために色んな事をしてくれた。ボクとウマッターで適当に会話してくれたりとか。ボクのワガママで遊園地に一緒に来てくれたりとか。

 たまに言い合いにもなって、いつの間にか仲直りして…ボクにとっては気の抜ける相手。

 そんなトレーナーが…はっきり言って好きだった。恋愛的な好きか、家族愛的な好きかは区別が付かない。だけど……とにかく好きだった。

 

 …トレーナーの座ってる椅子の後ろから…ぼふっ、とトレーナーに抱き着き、両腕を首に回して、左肩に顎を乗せる。

 

「おあっ………テイオー?」

 

「…トレーナー。ボクのためにずっと頑張ってくれて、ありがと」

 

 ぺた、とほっぺた同士をくっつけ、すりすりと頬擦りしてみる。…トレーナーのほっぺ、ちょっとかたーい。

 

「……これからも…ずっと、一緒にいてくれる?」

 

「…………テイオーが。走り続けるなら、側で支え続けるよ」

 

「…………………」

 

 …頭の中が幸せいっぱいになって、抱き締める腕に力が籠もる。

 

 トレーナーはボクの手を握ってくれた。

 

「…約束だよっ」

 

「うん」

 

 …その後はお互いに何も言わず、いい時間になるまでずっと一緒にいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 当日。有マ記念では…カイチョーと、トレーナーと、マックイーンが控室から送り出してくれた。

 かなり久しぶりのレースで…ボクは受けて立つ立場ではなく…皐月賞や日本ダービー以来の、挑戦者として戦った。

 ボクはこれまでに無い位我武者羅に走って……今日の勝利の女神がボクに口付けをしてくれた。

 

 復活の有マ記念。奇跡を願って、奇跡を起こし…帝王は泥だらけになって帰って来た。

 

 …ボクはこれで一生分の運と奇跡を使い果たしちゃった。




 次回、テイオーの病み始めその2。

 回想を分割しないと1話で2万字になりそうだったので3分割することになりそうです。
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