曇り後晴れ。時々豪雨。(タキオン編開始)   作:にゃす

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 UA6万達成ですと…。総合評価も700に…読者様様…。



sideテイオー(回想.3)

 復活の有マ記念。ゴールラインを走り抜けた後、ボクはターフに倒れ込んだ。…そして起き上がることが、できなかった。

 …今回の有マ記念に向けて大分休んだけど、ボクの左脚は耐えられなかったみたい…。レース中に分泌されたアドレナリンやらで、一応走り切るまでは誤魔化せてたけど…走り終わった後、ジワリジワリと、左足首が痛みだした。

 

 さすがのボクも顔が青くなったよね。

 

 ボクは有マ記念で復活して、終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボクは今病室、そのベッドの上にいる。

 

 …まぁ…多分骨折だろうなぁ。もう三回目だよ…。

 

「テイオー。脚の調子はどうかな?」

 

「うぅーん。まだジンジンするかなぁ…」

 

 有マ記念後、ボクは急いで病院に運び込まれて治療を受けた。今、左脚は包帯でぐるぐる巻きだ。

 

 それから一日過ぎた今日、カイチョーとマックイーンが急いでお見舞いに来てくれた。

 

「……有馬記念、お見事でした」

 

「…へへーん! ありがと、マックイーン」

 

「本当に、奇跡を引き起こすなんて…」

 

「…うん。何かね、嫌じゃん。気に入らないじゃん。ボクとマックイーンが怪我して、そのまま終わりなんて。だからちょっと、噛み付いてみたの」

 

「……………」

 

「その…さ。マックイーンは……」

 

「…………………」

 

 マックイーンは首を横に振った。

 

「……ごめん」

 

「いえ………繋靭帯炎は誰にでも起こり得ること。私も、覚悟はしておりました」

 

「…最後に、あなたの走りを見れて…私は満足です。諦めないことの大切さを…多くの人が学べたはず」

 

「……ありがとね、マックイーン」

 

「ええ。では……私はこれで。ごきげんよう、会長。…トウカイテイオー」

 

 マックイーンは麗しくスカートの端を掴み一礼する。

 

「ばいばーい」

 

「ああ」

 

 ボクはぶんぶんと右手を振り、カイチョーは右手を胸元にまであげ、小さく振った。

 

 マックイーンは最後に僕を見て軽く微笑み…少し脚を引き摺りながら、病室から退出した。…静かな病室に扉の音が響いた。

 

「……カイチョー」

 

「?」

 

「怪我が治ったらさ、本当の決着、着けようよ!!」

 

「…っはは。テイオー。もうその話か。気が早いな」

 

「だーってー。あんな情けない姿をカイチョーに見せちゃったんだからさー。リベンジしたいじゃーん!」

 

「でも、そうだな…テイオーと全力で競えなかったのは、私としても残念至極だ。怪我が治れば…それもまたいいだろう。望むところだ」

 

「おっ。じゃあ? じゃあ?」

 

「…そのリベンジマッチ、受けて立とう」

 

「…聞いちゃったからねー。ばっちり聞いちゃったからねー? 今度は…ボクから宣戦布告させてもらうよっ!!」

 

「ふふふ……だが。まずは怪我を治すことを優先してくれ」

 

「ん…うん」

 

 そこから一旦会話は途切れて……沈黙は扉の開かれる音により破られた。

 

「テイオー……あれ、ルドルフ」

 

「やぁ、トレーナー君。ちょっとテイオーのお見舞いをね」

 

「ああー、それはお疲れ様。わざわざごめんね、ルドルフ」

 

「いや、いいんだ。…さて、ここからは君たち二人の時間だ。私はお暇させてもらうよ」

 

「あっ、じゃーねーカイチョー」

 

「じゃあな」

 

「また」

 

 カイチョーはトレーナーが来てもう大丈夫だって判断したのかな。ボクらに軽く手を振って、そのまま病室を後にした。

 

「………テイオー」

 

「んー?」

 

「これから言うことを落ち着いて聞いてくれ」

 

「え……うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「トレーナー。ボク、まだ走れるよね」

 

 病院からはその日限りで帰った。

 

 そして病室から一旦トレセン学園に戻って…今薄暗いトレーナー室にいる。

 

 トレーナーとボクに影が差していた。

 

 …ボクは三度目の骨折だと宣告された。ここまではまぁ、予想してたことだし、驚きは無かった。

 …その後に続いた言葉は、生まれて初めてボクに血の気を引かせた。

 もし、また走って折れば、もう二度と立つことができないそうな。

 

「テイオー…。今回ばっかりは、奇跡は起こりそうにないよ…」

 

 …嘘、言わないでよ。トレーナーは、2回も奇跡を起こしたんだよ。

 

「…やだ。止めてよ、トレーナー。トレーナーはどんな時だって諦めなかったじゃんか。トレーナーとボクなら、今回だってまた!」

 

「……今なら、まだテイオーの脚は歩けるまでは回復する。…テイオー。もう、テイオーは十分頑張ったよ。だから、もう休もう?」

 

 休む? ボクが? トウカイテイオーが? レースから手を引けと? そんなの…そんなのって。

 

「止めて。言わないで。言わないで…」

 

「テイオーの脚が治るまでは、最後まで、トレーナーとして仕事を全うす」

 

 トレーナーは苦しそうな顔をしていた。…苦しいならさ、言わなくてもいいじゃん。

 

 …これ以上言わないで。………言うな!!!!

 

「トレーナーー!!!!!」

 

 お腹の底から吐き出すような叫びでトレーナーの声を掻き消す。

 

「…そんな事聞きたくない!!二人で……二人で無敵のテイオー伝説を作ろうって、約束したでしょ!?忘れたとは言わせないよ…!」

 

「……ぁ…」

 

 トレーナーが雷に打たれたように口をパクパクと動かしている。

 

「それに、そんな弱気なトレーナーはボクの知ってるトレーナーじゃない!! もう、これでトレーナーとボクとの関係は終わりって訳…!?」

 

「菊花賞の時だって、有マ記念の時だって! トレーナーは絶対に諦めなかった! トレーナーの仕事はウマ娘の背中を押すことなんじゃないの!?」

 

 トレーナーと一緒に奇跡を起こしてしまったせいで、ボクは認識障害のようなものに陥ってしまっていた。

 ウマ娘の脚は脆い。ウマ娘によっては心臓の次に大事な部位。それが折れてそのまま引退〜、なんて、ザラだ。だけどボクはそれを乗り越えた。2度も乗り越えることができてしまった。だから、脚の怪我は治るものなんだって、思い込んでしまっていた。本能ではわかっている。これ以上は危険だと。だけど、トレーナーとの記憶が…それを認めようとしない。

 

「…そう、確かにウマ娘の背中を押すことが俺達の仕事だよ。でも…俺には……テイオーの脚を、奪えないよ…」

 

 ……ばか。ばかばか。……トレーナーの………!!

 

「ッッ!!! ………トレーナーの……トレーナーの……!!」

 

 喉に言ってはいけない、ボクとトレーナーの関係を徹底的に破壊してしまうような言葉が支える。

 

 ……口からそれが飛び出しかけた瞬間、頭にトレーナーとの思い出がフラッシュバックした。

 

 トウカイテイオー。キミにそれが言えるの?

 

「…っはぁ……!!」

 

 …既のところで…堰き止めることができた。

 

「………………」

 

「………テイオー…ごめんね……」

 

「……トレー……ナー…」

 

 …目の奥が酷く痛くなって、じわぁ、と視界が滲む。まただ、このやな感じの涙。

 

「………トレーナー…。ボク、頑張ったよね…?」

 

「ああ。テイオーは凄く頑張ったよ」

 

「……………本当に……これで終わりなんだ」

 

「うん」

 

「…もう、トレーナーとも一緒にいられない?」

 

「……うん」

 

「……やだよぉ。スカウトした時みたいに…しつこく引き止めてよぉ」

 

「…怪我が治るまでは。絶対一緒にいるから」

 

 …治るまでしか、一緒にいてくれないんだ。

 

「…怪我が治った後は…?」

 

「………………」

 

 トレーナーは黙り込んでしまった。……ボクの体からスーッ、と体温が抜けて行く。

 

「一緒にいてくれないんだ。…約束したのに」

 

「もう、ボクはいらないんだ」

 

「ちがっ…それは…!」

 

「そういう事だよね? 黙っちゃうってことは。ボクが走れなくなったら、他の子に乗り換えるんだ」

 

 トレーナーをまともに見ることができない。あの、キラキラとした、トレーナーとの時間を、もう一緒に過ごすことができない?

 

 ……それなりに利口なボクの脳は冷静に、トレーナーにもトレーナーの生活があるんだとボクに言い聞かせる。

 

「………………でも、しょうがないよね。トレーナーはトレーナーなんだから」

 

 でも、それとこれは、別だよ。

 

「ごめんね、トレーナー」

 

「いや……ごめん………テイオー…」

 

「……部屋まで……支えてくれる…?」

 

「…はい」

 

 トレーナーは立ち上がって、ボクに向かい手を伸ばした。ボクはそれを掴み、よろよろと立ち上がる。そして、横に立ててあった松葉杖を両脇に挟み込む。

 

「……行こっか」

 

「うん」

 

 カチャ、カチャ、と松葉杖の音を響かせながら、ボク達はトレーナー室を後にした。

 

 …骨折が治るまでは、ボクは学園預かりになった。骨折が治れば、中退。

 

 …あっけな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学園でボクがリハビリをしつつ、トレーナーのお手伝いを始めた頃。何故か、その頃から…大人の人と話す機会が増えた。

 

 大体……何かの勧誘だったかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、こんにちは、トウカイテイオーさん。わざわざこんな時に押しかけてしまって申し訳ありません。私はこういう物です」

 

 今日はおじさんだった。

 おじさんはそう言うと、ボクにペコペコとお辞儀をしながら名刺を渡して来た。……何何……ウマ娘セラピーの何ちゃら…?

 

 …う…胡散臭いなぁ。絶対顔に出てるよ、ボク。

 で…ウマ娘セラピーって……引退したウマ娘がこんなのに参加してるの見たことも聞いたこともないよ。

 

 そこからおじさんは身振り手振りを交えてウマ娘セラピーがどうのこうのと説明…いや、演説を始めた。

 

 …うん、まぁ、元気の無い人を有名なウマ娘がセラピーしてどうのこうのって、いい事ばっかり言ってたけど…。

 

 最後は案の定。

 

「トウカイテイオーさんも参加しませんか?」

 

 勧誘だった。

 

 どうだ? とおじさんはじー、とボクを見つめる。

 

 ……この人を見ていると何か言い知れぬ違和感を感じる。…ボクのことは見てる。だけど……。

 

「…前」

 

「話はそれだけですか?」

 

 ボクが前向きに検討しておきます、と言いかけた所で、突然横から現れたトレーナーがボクの盾になるように、斜め前に陣取った。

 

 …トレーナーの背中は、すっごい頼もしく見えた。

 

「…テイオーはまだリハビリ中ですので…本日はこれ位で」

 

「………………」

 

 …トレーナーとおじさんが数十秒見つめ…いや、睨み合う。

 

「……えぇ、そうですね。全く配慮できていませんでした。申し訳ありません」

 

 見ててヒヤヒヤしたけど……おじさんの方が折れてくれた。

 深々とお辞儀をして、おじさんはこの場から去っていった。

 

 トレーナーがぽんぽんとボクの肩を叩く。

 

「…テイオー。リハビリに戻ろうか」

 

「……うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その数日後。

 

「…テイオーはまだ心の準備ができていません。怪我をしたばかりです。それにどうこう求めるのは、少々残忍酷薄では」

 

 今日はウマ娘基金なる所の人が来た。カイチョーと思い出話をしてる時だった。

 

 カイチョーのピリッとした気迫を感じたウマ娘基金の人達は、カイチョーから逃げるように去っていった。

 

 …隣にいるカイチョーを見上げる。

 

「………カイチョー。最近ね、ずっとああいう人達に会うんだ…」

 

「テイオー……」

 

 カイチョーは何か思う事があるのか…俯いてしまった。

 

「……テイオー。…頼れる人を…探すといい」

 

「うぇ? 頼れる…人?」

 

「ああ。友人…メジロマックイーンや……私でもいい。トレーナー君でもいい。…テイオーが信頼できる人がいい」

 

「…う、うん。わかった」

 

 ……ボクがこの言葉の意味を理解するのに、そんなに時間はかからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さらに数日後。

 

「…大人数で押しかけられてしまうとテイオーも困ってしまいますよ。また日を置いてから…ではいかがでしょう」

 

 …今日はどこかの宣伝大使になりませんか…っていう勧誘が来た。今度はマックイーンと一緒にリハビリをしている時に、複数人で、だった。

 

「……………えぇ、えぇ、そうですね。私達の不徳の致すところでした。申し訳ありません。……では…失礼します」

 

 集団の代表者っぽい人が残念そうにしながら、ぞろぞろとまた帰っていった。

 

「……マックイーン、慣れてる?」

 

「…えぇ。私はメジロですので。良くも悪くも、様々なお方と顔を合わせる機会があります」

 

「マックイーン…大変だったんだね…」

 

「えぇ……まぁ。有名なウマ娘の宿命と言いましょうか」

 

「有名になるのも考え物だねー」

 

「………でも、何でボクが引退するって決まってからこんなに…」

 

「…走れないウマ娘の用途……ですかね」

 

「用途ぉ? えー、そんな物みたいに…」

 

「もう走れない有名なウマ娘は宣伝や広報にしか使えないのでしょう? それもあのトウカイテイオーなら。私の所にも既に何件かお話が来ていますよ」

 

「や、やめてやめて! やな感じぃ! ボクたちは物じゃないよー!」

 

「ですね…」

 

「…ま、マックイーンは首を縦に振ってないよね。よね!?」

 

「えぇ、もちろん。全て濁してありますよ」

 

「ほっ……」

 

 マックイーンはしっかりしてるなぁ…。

 

「……マックイーンは…さ」

 

「はい」

 

「リハビリが終わった後、どうするの…?」

 

「…終わった後、ですか。そうですね……」

 

 マックイーンは右手を顎に添えてうぅん、と考え込む。

 

 …マックイーンって綺麗だから何してもお上品になるなー。

 

「…一般人として…お仕事をするか……もしかしたら、メジロ家が家庭教師をお招きして私に知識を学ばせ、何かビジネスの役に就けてくれるかもしれません」

 

「…そっかー。やっぱりお仕事する感じになるのかぁ」

 

「…テイオーは?」

 

「ボクは……まだ、全然決めてないや。まずはアルバイトから、始めよっかな〜」

 

「……困ったことがあったら、私を頼ってください。力に、なります。あなたは、ちょっと危なっかしいですから」

 

「…マックイーン…」

 

 ボクはマックイーンの肩に頭を寄せた。…マックイーンは尻尾がパタパタしてた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんなことが、何回もあった。一人でいる時に来られる事もあったし…。

 だから、ボクはトレーナーとか、マックイーンとくっついて過ごすようにした。

 

 そして、リハビリ期間中にわかったことがある。

 

 レース前に、ウマ娘と睨み合うことも、気迫のぶつけ合いをすることもあった。…それを怖いって思ったことは無かった。

 だけど……あの人達は正直、凄い怖かった。学園の外からボクに会いに来る人は……皆ボクを見てなくて…皆、トウカイテイオーと言う偶像しか見てなかった。こう、威圧的な怖さじゃなくて……得体の知れない…不気味な…何か、黒々とした怖さがあった。

 

 全員、お金目的だったのかな。ボクは…G1を勝ってるから、どう使えばいいかわからない位お金があった。

 …これを目的に近付いて来る人は、当然、いるだろうけど。

 カイチョーの言ってた、頼れる人を探せ…って言葉が、頭から離れない。

 …頼れる……人。

 …カイチョーは……レースとかトレセン学園の仕事があるし……何よりカイチョーには迷惑をかけたくない。…マックイーンは……多分、お家の力を使って助けてくれるけど…そういうの、みっともないよね。…じゃあ、トレーナーは……うぅん……トレーナーにはトレーナーの仕事があるけど…。

 

 …誰にも迷惑をかけないように…実家に帰るべきかな……。いや、でも……ボクの実家、とっくに割れてるよね。実家にまで何かの勧誘が来ないとは限らない。

 

 …そこはかとない、未来への不安が募る。普通に働けるのか? 付きまとわれないか? そもそも、怪我で引退したウマ娘の話を聞かないのは何で? 皆抜け殻みたいになるって本当? 

 

 走っていたからこそ覆い隠せていた問題が、次々と浮き彫りになる。

 

 ボクはその不安を拭うために…トレーナーを求めた。

 

 トレーナーにひっついたり、じーっ、と見つめたり。

 

 トレーナーと一緒にいると…何も考えなくていいから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とれーぇなぁー」

 

 書類の処理に勤しむトレーナーの肩を掴み、左肩越しに顔を置く。

 

「ん…どうしたテイオー?」

 

「んー」

 

 ぐにぐに、とトレーナーの肩を揉んでみる。…えっ、かったい。

 

「…トレーナー。肩凝り酷くない?」

 

「あー。…仕事、結構やってるからなぁ」

 

「結構仕事やってるって……この凝り方は結構じゃ済まないよ…」

 

「あ、あはは…」

 

「もー。ボクには散々無理するなって言ってた癖にー。トレーナーの方こそ無理してるじゃん!」

 

「だってぇ。テイオーと俺じゃ掛かる負荷が」

 

「だってじゃない! ほら、マッサージさせて!」

 

「ん……じゃあ…はい」

 

 トレーナーは一度体を伸ばすと、椅子の背凭れに背中を預けた。ちょうどよくボクに肩が差し出される形になってる。…マッサージの知識とかないけど、とりあえず力込めて揉めばいいんだよね?

 親指を使って捏ねるようにしてみる。

 

「うおっ……ぁぁ……いい…力加減…」

 

「えへ。ボク、マッサージの才能もあるかも!」

 

 …トレーナーはボクが親指で捏ねる度に変な声を漏らした。…ちょっと面白い。

 

 ……そう言えば。トレーナーってボクの事どう思ってるんだろ。タイミング的に…ちょうどいい、よね。

 

 …もしかしたら。

 

 あわよくば。

 

「…トレーナーはさ」

 

「ぅ……ん?」

 

「ボクのこと…どう思ってるの?」

 

「ぁぇ……ぁぁ、テイオーのことか…」

 

「うーん」

 

 トレーナーが頭を揺らす。

 

「…俺の知ってる言葉じゃ表せないなー。教え子みたいで…なんか、妹っぽくて……。まぁ、なんだ……かなり親しい存在だよ」

 

「………そっか」

 

 …トレーナーは、こういう方面で…百点の回答をしてくれることは無かった。

 

 多分…ボクが好きって言っても、はぐらかされるんだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分とマヤノの部屋でぼーっと、電源をオフにしたスマホを見て過ごす。

 

 リハビリも終わりに差し掛かってる。

 …ボクは本格的に参り始めてた。ボク目当ての人の脚が絶えなかったのもある。何よりも…トレーナーのボクの心に占める割合が、リハビリ期間中に物凄く大きくなったのが大きかった。

 

 ボクが走れていた頃からトレーナーの存在は決して小さく無かったけど、走ることを奪われたボクは…意識せずに、その埋め合わせをしていた。その結果、トレーナーの存在は際限無く大きくなって行って。

 今ではボクの中はトレーナーで一杯だ。

 

 トレーナーはずっといてくれるものだと思ってたし、この関係はずっと続くんだー、って。根拠の無い確信を持ってた。

 

 いざ、トレーナーとの契約解消が迫ると、最近の不安と混ざり合ってお腹の奥側がギュゥゥゥって何かに握り潰されるような感覚がした。トレーナーはもう助けてくれない。トレーナーから離れないといけない。

 ……トレーナーから、離れたくない。

 

 ……どうしよう。どうしよう、どうしよう、どうしよう…。

 

 学園は関係者以外の立ち入りが許可制だ。それなのに、わざわざ何回もあの人達はボクの前に現れた。

 ボクの被害妄想じゃなければ…ボクが学園からいなくなっても……。

 

 …学園はもう守ってくれない。カイチョーも、マックイーンも、トレーナーも……皆も、いなくなる。

 

 ボクは、どうしたらいいの?

 

 トレーナー…教えてよ……。

 

 ……………。

 

 いっそ……。いっそ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボクをトレーナーのモノにしてしまえば。

 

 

 トレーナーをボクのモノにしてしまえば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボクの中にあった不安の塊は…ドロッとした。何かに、置き換わった。

 

 そう……だよね。お互い、好きになれば。両想いになれば。きっと、離れられなくなる。うん…きっとそう。

 

 …トレーナーは優しいから、大丈夫…なはず。

 

 スマホの画面に映るボクの顔は、随分とスッキリしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数ヶ月後。ボクの脚はちょっとした小走り程度ならできるまでには回復していた。そういう訳で、今日、ボクはトレセン学園を離れる。

 

「いやぁ、リハビリは結構大変だったね〜」

 

「テイオーが頑張ったから速く終わったな」

 

 …正直、このまま休養すれば脚も元に戻りそうな気がする。走るんなら、トレーナーと一緒にいれる。

 

「…今のボクさ、すっごく調子がいいんだよね〜? これはまた復活でき」

 

「テイオー」

 

 うぐ………付け入る隙もない……。ううううぅぅーー……。

 

「……本当に終わっちゃうの…?」

 

「……これは仕方のない事なんだよ、テイオー」

 

「はーぁ……ずっと一緒にいたかったな〜」

 

「うん…テイオーもずっと走りたか……ん?」

 

「ん?」

 

「そこはずっと走りたかったじゃないのか?」

 

「…ふーん」

 

 …ほんと、トレーナーはニブイなぁ。ぼす、と机に右肘を付き、その右手に頬を乗っける。

 

「新人のトレーナー達は皆鈍感って言うけど」

 

 これはウマ娘共通の認識だった。どうも、新人トレーナーはこういうのに疎いらしかった。…ボクはあんまり信じて無かったけど…。

 

「本当だったんだ」

 

「…どういう…?」

 

 …トレーナーは本当にわからないと言った様子だった。

 

「……トレーナーはさ、よくトレーナーとウマ娘が一緒に行方不明になる事件について知ってる?」

 

「い、いきなりどうした? 知ってるけど…」

 

「どうして一緒に行方不明になるんだと思う?」

 

「え。うーん……」

 

「理由は色々あるんだけどね」

 

「……わからんなぁ」 

 

「………よーし、決ーめた」

 

 …うん、やっぱり…ちょっと荒い手段を使わせてもらおうかな。

 

「? 何が?」

 

「ううん、なんでもなーい」

 

「?」

 

 トレーナーが首を傾げて見せるけど答えない。…答えたら上手く行かないもん。

 

「……まぁ、とりあえず……今日で契約は終わりだね…」

 

「…そうだな」

 

「…ボク以上の子、見つけられると思う?」

 

「…………無理だと思う。多分、ずっとテイオーが俺の中じゃ一番だよ」

 

「………だよね! うん! それを聞けて満足満足」

 

 …ボクをスカウトした時みたいに、百点の回答だった。トレーナー、時々エスパーみたいにボクの求めてることを言ってくれるんだよねぇ。やっぱりカイチョーの言ってた頼れる人ってトレーナーのことだ。

 

「とりあえず今日の所はもう帰るね〜」

 

「ああ。今までありがとうな、テイオー」

 

「うん。じゃあ、またね〜」

 

 カタン、とボクは椅子から立ち上がり、トレーナーに手を振ってからトレーナー室を後にした。

 

 トレーナー室前の壁に立て掛けてたリュックを背負い、学園の中を行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……今日で最後かぁ。朝の内に学園に引き払ってもらう私物以外は全部整理したし、本当に仲の良いカイチョー、ブライアン、エアグルーヴ、マックイーン、ネイチャ、ダブ………ターボ、スペちゃん、ウオッカ、スカーレット、ゴルシ、マヤノには挨拶しちゃったし……もうやり残した事、無いんだよねぇ。

 

 まぁ、本当に最後にやることと言えば……学園をじっくり見ることかな。行く先々にいる知り合いに最後の挨拶や、写真を取りつつ、学園の正門へ向かおう。

 

 と…別れのやり取りをしながら歩いてたからすぐ正門前まで着いちゃった。

 最後に振り返ってマジマジとトレセン学園の校舎を眺める。…学園って、こんなにおっきかったんだ。

 

 ……感傷に浸るのはこれ位にしよ。さよなら、トレセン学園。

 

 ボクは正門から脚を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   さーてと、確かトレーナーの家は……。

 

 

 

 

 

 

 

   こ っ ち だ っ た か な ー




 次回、葛藤するテイオー。
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