曇り後晴れ。時々豪雨。(タキオン編開始)   作:にゃす

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sideテイオー.1

 さぁーて、トレーナーが帰り際にこっちの方向に向かうのは知ってる。…そしてこの方向の先にあるのは…トレーナー用マンション。多分、トレーナーはそこに住んでる。トレーナーは夜の8時には学園から帰ってるはずだから、大体その時間に訪ねよう。

 

 …部屋がわからないだろだって? 大丈夫、トレーナーの匂いは完全に覚えてるから。

 

 と言う訳で、お昼は適当に済ませて、時間になるまでブラブラしてよーっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガンッ! ガンッ! ガンッ!

 

 暗いトレーナー用マンションの敷地に何か硬い物に硬い物を打ち付けるような音が響いた。

 

 …ボクがトレーナーの匂いのする扉を叩いてる音だ。

 

「トレーーナーー」

 

「あーけーてーよー」

 

「いるのは知ってるんだよ〜」

 

「あーけーてー」

 

 ドンドンドンッ、とトレーナーマンションの扉を叩く。

 

 …開けてくれないなぁ。居留守かなぁ。おかしいなぁ。

 

「もしもーし?」

 

 インターホンを押して、そのカメラに右目を押し付けみるけど、これまた反応無し。

 

「…………おりゃりゃりゃりゃりゃ」

 

 ………インターホンを連打してみるけど…ピンポンピンポン連打した分だけ虚しく音が鳴るだけだった。

 

 スマホの時計を確認すると、既に8時30分である。帰ってないのはおかしい。

 

「…………トレーナー!!」

 

 バコンッ!!

 

 握り拳を作り、叩き付けるようにして扉をノックしてみる。でも……。

 

「……………トレーナー?」

 

 返事はない。

 

 ……フツフツ、不安と、焦りが混ざり合って、ボクから冷静な思考を奪って行く。

 

「トレーナーーー。居留守ー?」

 

 ガコンッ!!

 

 今度はドアノブに手を掛けて、思いっきり引いてみる。

 

 …トレーナーの部屋からは一切物音がしない。

 

「速く開けないと…扉、ぶっ壊しちゃうよ〜?」

 

 ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャとドアノブを何度も何度も回す。

 

 ……それでも、中からの返事は無い。

 

「……ハーッ、ハーッ……」

 

 もしかしてトレーナーに無視されてる? トレーナーに嫌われちゃった? 

 

 唐突にそんな考えが頭を過る。…それと同時に動悸が激しくなった。

 

「…トレーナー、お願い、開けて……開けてよ」

 

 最後に…トントントン、と手の甲の骨を使って優しく扉を叩いてみる。そして、ぴと、と耳を扉に貼り付けて中で音がしないか確認してみる。

 

 ……何の音も、返事もしない。

 

「………ふぅーー……」

 

「……トレ、トレーナーが…トレーナーがわる、いんだよ……トレーナーが」

 

 一旦扉から離れ、右足の爪先で床をトントンと叩いて。そして、右足をグググッ、と引き……力一杯ドアノブに向かって振り上げる。

 

 ゴギンッ……と言う鉄のひしゃげる鈍い音が響いた。

 

「ふーっ………」

 

 振り上げた右脚を降ろし、ドアノブを確認してみる。

 

 ……ドアノブは…見事にアッパーカットを食らって顎が上向いたボクサーのような状態になってた。

 

 ひしゃげたドアノブに手を掛け、引いてみると…ギギィ、と嫌な音を立てながら動いた。

 

 やった。

 

 そのまま開いてトレーナーの部屋に入る。

 

「…おっじゃまーしまーす!」

 

 真っ暗な部屋に、ホラー映画によくある耳障りな扉の音とボクの声が混ざり合った気持ちの悪い音がよく響いた。

「………トレーナー?」

 

 …………お家に入ってから気付いたけど、人の気配がない。

 

 スンスン、と部屋の匂いを嗅いでみるけど、トレーナーの匂いしかしない。部屋は間違ってないはず。

 

 …まだ帰ってきてないのかな。…玄関から上がろ。

 

 とりあえず、許可する人もいないので無許可で靴を脱いで上がり、トレーナーの部屋を行く。

 

 途中、物置や洗面所があって…やがてリビングに出た。リビングも含めて…トレーナーの家は飾り気が無かった。平凡で……ゲーム機が何台か置いてある位。そのゲーム機もしばらく使ってないのか埃被ってたし。

 

 残るは…寝室だね。

 

 リビングの奥の方にあるまだ開いてない扉に手を掛けて…開く。

 

 …うん、ベッドと収納棚とランプとかしかない平凡な寝室だ。

 

 ここにもトレーナーはいなかった……と、いうことは。まだ帰ってきてないんだ……。残業かな…?

 どうしよう、扉、蹴破っちゃった…。

 

 …弁償しよう。

 

 とりあえず、トレーナーがまだ帰ってきていないことがわかったから、寝室の隅にリュックをドサリと置いておく。

 

 トレーナーが帰ってくるまで何しようかなぁ…って考えてると、トレーナーが使ってるであろうベッドが目に入った。

 

「………………」

 

 キョロキョロと部屋の中を見渡す。もちろん、ボク以外に誰もいない。当然だ。

 …無駄に神経質になっているせいで無いはずの人の目を気にしちゃう、あれである。

 

「…よっ」

 

 軽くジャンプしてベッドに飛び込む。ベッドは柔らかくボクを迎えてくれた。…うん、ふかふかだ。それに…トレーナーの匂いもする。

 顔をベッドに押し付けて見ると、それはより強烈にボクの鼻孔を撫でた。

 

「〜〜〜〜〜〜〜っっ」

 

 体がふるりと震えて尻尾が天を突くように張る。

 

 これ、やっばい。

 

 ピリピリとした痺れのようなものが、体の奥側を伝って節々に伝播して…。

 

 や、やめよう、ちょっと、これは……ボクには劇薬過ぎ…。

 

 ボクは急いでベッドから転がって床に落ちた。

 

「はふぅ……」

 

 変態さんみたいだからこういうことはもうやめよ…。

 ズルズルと、四つん這いでリュックのある部屋の隅に移動しながらそう心に決めた。

 

「っしょ」

 

 部屋の隅っこで体育座りになる。ここでトレーナーが帰ってくるのを待とう…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギギギィ、と。ついに扉の開く音がした。

 

 時間にして…一時間位かな?

 

 …やけにトレーナーの足音が遅い。疲れてるのかも。               

 何て声掛けようかなぁ。やっぱりお帰り、かなぁ。

 

 足音は寝室の扉の前で止まった。

 

 ガチャリ、とついに扉が開かれて…ボクはトレーナーと対面した。

 

「あ、お帰り、トレーナー」

 

 トレーナーは何故か両手に傘を持ってた。……チャンバラごっこ?

 

「は?」

 

 トレーナーは口をポカーンと開けて固まり、傘を床に落とした。

 

 …何に驚いてるんだろ。

 

「遅かったね、トレーナー。お仕事?」

 

「あ、あぁうん、仕事だったけど」

 

 ボクは極自然に、トレーナー室で一緒に戯れている時みたいに、トレーナーに話しかける。

 どうも予想通り遅くまで仕事してたみたい。

 

「………なんで……ここに…いるの?」

 

 …なんでいるのかって…。

 

「え〜? もう忘れちゃったの〜? さっきまたね〜って言ったじゃーん!」

 

 ボクの目的はトレーナーなんだから。

 

「それにトレーナーと離れる気なんて無いし」

 

「家までの道……教えてなかったよな……?」

 

「うん。でも、なんとなく匂いで場所がわかっちゃった〜」

 

「……どうやって……入ったんだ」

 

「んー? それはもちろん、ドアノブを蹴り壊して入ったけど…」

 

 トレーナーは目眩がして時みたいに手で頭を抱えてしまった。

 

「…テイオー。冗談は止めてくれよ…」

 

「冗談じゃないよ」

 

 トレーナーの肩がビクリと跳ねた。

 

 …? まぁ、いいや。

 

「トレーナーがさ、いると思って何回も何回もインターホンも押してノックもしたんだけど……誰も返事をしないから気になって自分で確認しに入っちゃった。冷静でいないと駄目だね〜」

 

「それで、居留守かなとか思ったけど、本当にいなかったから。だから帰って来るまで待ってたんだ〜」

 

 ボクが侵入した理由を丁寧に説明してると、トレーナーの顔は見る見るうちに青くなっていった。

 

 …酷いなぁ。せっかく会いに来たのに。トレーナー、ボクをお化けを見るみたいに……。

 

 トレーナーが一歩後退った。

 

 …………何で逃げようとしてるの?

 

「どこ行くの」

 

 少し怒気を込めて声を捻り出せば、トレーナーの脚は止まった。…そう、それでいいんだよ。

 

「ッ…」

 

「もうお仕事は終わりでしょ?」

 

 すぃ、と立ち上がってトレーナーを見上げる。…トレーナーは随分と怯えてる様子だった。

 

 …ほんと、酷いよ。ボクのどこが怖いのさ。

 

「どこにも行く意味、無いよね」

 

「今夜はさ、ボクとお話しようよ」

 

 一歩、トレーナーに近付く。…トレーナーは動かない。

 

「てっ、テイオー。まず何でこんなことしたのか教えてくれよ」

 

 …何でこんなことをしたか、か。…理由は正直何でもいいんだよね。でも、この場面でなら…。

 

「トレーナーがボクをこんなにしたから」

 

 これだ。…ボクの中の全てを、トレーナーで塗り潰されちゃったのは本当だから。

 

「……脚のことは………本当に………もうしわ」

 

 …ニブイなぁ。ニブイよぉ……。…ああ。

 

「違うよ。そのことじゃない」

 

「……え?」

 

 気付かないんだ。女の子がわざわざお家にまで押し掛けてくる理由。

 

「トレーナー」

 

 呆けた様子のトレーナーに、さらに一歩踏み込む。

 

「今までのレースの事はさ。すっごく感謝してるんだ」

 

「…じゃあ…?」

 

 …ピシリと自分の中で、何かが割れる音が響いた。

 

「……………………本当に気付かないんだ」

 

 トレーナーの前まで近付いていたボクは……両手をトレーナーの首めがけ伸ばし、ぎゅう、と掴んだ。

 力は全然込めてない。

 

「ゲゥッ…!?」

 

 トレーナーは呻いて膝を折り、ボクの前で膝立ちになった。…トレーナー、結構身長高いんだよね。膝立ちでも目線が合う位だから。

 

「て”い、お”」

 

 トレーナーが潰れたカエルのような声を出す。

 

「トレーナーが、悪いんだよ。ボクがいくら近付いても、アプローチを掛けても気付かないんだから。…こんなに、好きなのに。燃えちゃいそうな位に」

 

 グイグイとトレーナーの首を掴んででたらめに揺らす。揺らす度にトレーナーの頭は面白いようにぐわんぐわん揺れて。

 

 …ボクが揺らしてちょっとするとトレーナーは目が虚ろになり始めていた。

 

 そして、ぐるんと白目を……向く前に両手を離す。

 

「ッハァ……! …ハァッ……!? ッゥ………!!」

 

 ぼす、とお尻からトレーナーは倒れ込んだ。そのまま両手でぺたぺた首を触り、舌を突き出してヒュゥヒュゥ呼吸してる。

 

 …ぜんっぜん力込めてないのに。大げさだなぁ。

 

 ……それにしても。

 

「………アハハ…。……トレーナーは弱いね。こんな簡単に組み伏せれちゃうなんて。トレーナーとボクの力の差は歴然だね。いい事知っちゃった〜♪」

 

 手を握っては開き、握っては開きを繰り返す。

 

 今まで試してみたこともなかったけど、ボクとトレーナーとの間にこんな力の差があったなんて。……………トレーナーを……好き放題、できちゃうじゃん。

 

「…最初からこうしておけば良かったのかな?」

 

 膝を揃えてトレーナーの前でしゃがみ、呆然としてるトレーナーを眺める。

 

 …この光景にちょっとした高揚感を覚えた。

 

 今、ボクがトレーナーの支配権を持ってるんだ…。

 

 ……じっくり眺めていると、トレーナーの着崩したスーツの胸ポケットにスマホを見つけた。

 

 …そう言えば、前から気になってたんだよね、トレーナーと他の人のやり取り。

 

 シュッ、と素早くスマホを奪い取る。

 

「ちょ、テイオー」

 

 パスワードは…ボクの誕生日の下二桁とトレーナーの誕生日の下二桁。

 こういうのはもっと意味の無い数字の羅列にしなきゃ〜。

 

 トレーナーはスマホを取り返そうとしたけど、ボクがパスワードをクリアして伸ばした手ごと体を石みたいに固まらせてしまった。

 

「ふふーん! 何でわかった!? って顔してるね〜。……画面丸見えのままボクの前で使ってたよね。ボクを信頼し過ぎ。嬉しいけど」

 

 ちょっと自慢気に話しながら画面をスワイプしていく。

 

 まずは連絡用アプリから確認しよ…。

 

 ………………桐生院トレーナーとか、他のマネージャーとの履歴がたくさんある。

 

 何々……。

 

『今度またお店に行きませんか?』

 

『走法の開拓をしませんか?』

 

『抜かすにはやっぱり鋼の意志が必要だと思うんです』

 

 か。

 

 ……大分、仲良さそう。それにプライベートな質問まで…。

 

 ……………心臓辺りが何かに握られてる感じがして痛い。

 

「……ふうん。桐生院トレーナーとか、他のマネージャーさんとか。すっごい仲良さそうじゃん」 

 

「そ、それはたまたまって言うか…」 

 

 は? たまたま?

 

「頻繁にやり取りしてるのに?」

 

「……………」

 

「ボクとは素っ気ないのに」

 

「…テイオーとはまた学園で話せるから…」

 

「ボクはこっちでも話したかったよ」

 

「………ごめ…ん」

 

「……うん、だからね」

 

 ボクはトレーナーのスマホを水平に持って、パキリと真っ二つにした。

 

「なぁっ…!? テイオー!?」

 

「反省してるなら、これ、もういらないよね?」

 

 トレーナーの前で2つに割れたスマホをぷらぷら揺らして見せつける。絶望した面持ちでそれを見るトレーナーはちょっと可愛くて…。

 そしてそのまま後ろに向かって放り投げる。

 

「テイ…オー……」

 

 ……トレーナーが悪いんだよ。ボクが……いるのに。誰よりも近くにいたのに。

 

「ボク以外の人を、今は見てほしくないんだ。…ごめんね、トレーナー」

 

「……………」

 

「……トレーナーはさ、どうして気付いてくれなかったのかな」

 

 トレーナーはちょっと間を置いて……。

 

「あ、あの……テイオーはそういう対象として見れなかったと言うか……」

 

「…………………………………………………………」

 

 えづくような気持ち悪さがした。

 グツグツと体の芯から煮えて行く感じがする。……落ち着け……ないよ、これ。…ぁ、だめ。止まらない。頭まで真っ白になってく。目の前にいるトレーナーがぐにゃりと歪んで………グチャア、と思考も視界も真っ黒に染まった。

 

「………そっか」

 

「……トレーナー」

 

「トレーナー」

 

「トレーナー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「トレェェェェナァァァァ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボクは咆哮した。レース中にも見せたことの無い叫びだ。

 

 トレーナーは顔が真っ青になってる。

 

「ぁ………ぁ………」

 

「ボクの……ボクの何が気に入らないのさ!!」

 

 怒りの赴くままに、トレーナーを突き飛ばす。

 

 …掌にぐにゅりとした柔らかい物を潰すような感覚がした。…人間って、本当に弱いんだね。

 

 トレーナーは痛みに顔を歪ませながら後ろに吹き飛ばされた。

 

「いっづ!?」

 

 そのまま仰向けに倒れ込む。

 

「ボクが生意気だから!? ちっちゃいから!? カイチョーみたいに美人じゃないから!?」

 

「……なら、ご飯をいっぱい食べて大きくなるよ。お化粧も覚えてもっと綺麗になる」

 

「…トレーナーが好きなボクになるよ。……だからボクを好きになってよ」

 

「……………」

 

 怒りをセーブするためにも痛い位に拳を握るけど、それでも収まらない。

 

「……ボクを好きになれ!!! 好きになってよ!! ボクをこんなにしたんだから!!!!」

 

 トレーナーを見下ろして、思い付いたことを手当り次第に叫び、今一番言って欲しい一言をせがむ。

 

「………て、テイオー……一回、落ち着こう…」

 

 ……トレーナーは…ボクを好きになる気は無いみたい。

 

「………ボクを好きになる気は無いんだ」

 

「ちが!? そうじゃない!!」

 

「…………………」

 

 そうじゃない? じゃあ、ボクを好きになれない理由は何? そもそもボクが嫌だって言うの? …いや。そもそもトレーナーはウマ娘とプライベートな仲になるのを嫌がっていたような気がする。

 トレーナーとのスキンシップは、基本ボクから仕掛けてて、トレーナーからは基本的にレースに勝った時に頭を撫でてくれる位がせいぜい。トレーナーからボクに何か仕掛けてくることはあんまりなかった…。でも、他のトレーナー同士の飲み会とかには自分から参加してたし………。

 

「…………あ」

 

 頭が沸騰してくれたおかげか、ピースを面白い位当て嵌めることができた。

 

「そっか、わかった」

 

 ようやく。理由がわかった。

 

「なーんだー。そういうことか〜」

 

 トレーナーはボクの耳と尻尾が嫌なんだ。ウマ娘よりもヒトの方が好きなんだ。だからいつも近くにいるボクよりも桐生院トレーナーの方がいいんだ。

 

 なら…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 切り落としたらボクも桐生院トレーナーと同じになれるよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分の口角が上がるのがわかった。

 

「トレーナーはボクの耳と尻尾が気に入らないんだ〜」

 

「……は?」

 

 トレーナーが目を丸める。

 

「トレーナー! こっち来て!」

 

「ちょ、テイオー!? 待って! 待って!」

 

 待たな〜い。

 

 トレーナーの服の襟を引っ掴んで急いで台所に引っ張ってく。

 

 トレーナーは暴れてみせるけど、そんなの気にしない。今からトレーナーの好きなモノになるんだから。

 

 寝室から出てすぐリビングのキッチンなので……そこでトレーナーを離す。

 

 さーてと、包丁はっと…。

 

 戸棚を開いてカチャカチャお皿や調味料を掻き分ける。…調味料、味が濃いのばっかり。トレーナーは味濃いめの料理が好きみたい。…体大丈夫かな。

 

「……テイオー、そこは危ないから」

 

 トレーナーがか細い声でボクを止める。

 ……だめだよ、トレーナー。

 

「ううん、これでいいの」

 

「考えてみたらさ、トレーナーは桐生院トレーナーみたいなヒトには愛想振り撒いてたし、ボクみたいなウマ娘には一定の線引してたよね」

 

 ボクは戸棚を漁り続ける。

 

「……桐生院トレーナーとは、仕事仲間だし……」

 

「ミークから聞いたよ。温泉旅行に誘われたんだってね」

 

「旅行に誘われるってことはただの仕事仲間じゃないよね」

 

「…………………」

 

「トレーナーもさすがに断ったみたいで良かったけど。…行ってたら、ボク、おかしくなってたかもしれない」

 

「……もう、おかしいのかな? ボク。いや、人を好きになるのは、普通のことだよね? トレーナー? ……ねぇ……」

 

「う……ん……」

 

 トレーナーはすぐに頷いてくれた。

 そうだよね。ボクは変じゃないよね。

 

「…それでね、何でトレーナーがボクに興味を持ってくれなかったかを今考えてみたんだ」

 

 ………おっ、あった! うん、いい感じに切れそうでおっきな包丁。これならザクッと行けばちょっと痛いだけで済むよね。

 

「トレーナーはウマ娘なんかよりもヒトが好きなんだよね!」

 

「……ボクのこの耳と尻尾が気に入らないんだよね!!」

 

「こんな耳と尻尾……いらないよね」

 

「だからさ………トレーナーの手で切り落としてよ」

 

「トレーナーの手で、好きなトウカイテイオーにしてよ」

 

 刃物を取り出す時って本当にシャキンって音がするんだね。

 ボクは取り出した包丁の柄をトレーナーに向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 トレーナーは…何故か、包丁じゃなくてボクに怯えているようだった。




 次回、泣いちゃうテイオー。
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