曇り後晴れ。時々豪雨。(タキオン編開始)   作:にゃす

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シンボリルドルフ.1

 ルドルフの僕に対する大き過ぎる期待と信頼、僕自身の、トレーナーとしての能力の限界について思い悩むこと数日。

 

 契約の破棄についてルドルフに話すべきかなぁ…。でもこのタイミングでルドルフに切り出しならコンディションに悪影響が出るかもしれないし…。

 

 ルドルフが僕の手を離れ始め……いや、既に離れてるな。後は僕がルドルフを手放せばいいだけの話なんだよねぇ…。ルドルフをこの手で育てたいって考えてるベテランのトレーナーはきっと多いだろう。その点に問題は無い。

 だけど…ルドルフとの思い出やらが邪魔して、契約の更新について中々言い出せなかった。

 

 情けない…。

 

 ルドルフと僕とのこの先を考えるとどうしても上の空になってしまい…僕はついにそれをルドルフに指摘されてしまうと言う失態を犯してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 月が見え始めたトレーナー室にて。ルドルフはこの部屋にある書類を回収するついでに僕と駄弁っていて……。

 

「トレーナー君」

 

「んー?」

 

「最近、張り詰めているようだね」

 

「え”」

 

 唐突な、思いもよらぬ指摘に喉の奥から変な声を漏らしてしまった。

 

「そ…そう見えるかなぁ? はは…今日はちょっと頑張り過ぎちゃったかなぁ?」

 

 こういう時日本人は条件反射的にはぐらかしてしまうものだろう。

 

 取り繕うように振る舞って見せたけども、しかし。

 

「…………」

 

 ルドルフは何も言わずに椅子から立ち上がり、僕の机の前まで来て…。

 

「……ルドルフ?」

 

 口を噤んで何も言わず僕の目の前にあるパソコンをパタリと閉じた。

 

「…え、えぇっと…」

 

 そして閉じたパソコンに両手を置いて、ルドルフは僕を見下ろす。

 紫色の瞳は僕を捉えて離さなかった。

 

「君の表情や仕草、声色は全て把握している。君が取り繕い、他の誰かが気付かなくても…私の目を誤魔化す事はできない」

 

「…無理はいけないよ、トレーナー君」

 

「昔、何でも一人でやり遂げようとした私を見ているようだ。無理はするなと、君が教えてくれたはずだよ」

 

「ぅ……うん…」

 

 まさかちょっと溜め息が増えただけで……。

 ルドルフは記憶力が物凄くいいんだけどまさかこのレベルだとは……。しまったな…。

 

「君が仕草に出してしまうということは相当疲れていたんだろう」

 

「…いい機会だ。お互いにリフレッシュも兼ねて…一緒に出かけるのはどうかな?」

 

「…あー……そう、だね。ルドルフもURA関連の仕事をしてからトレーニングまでしてたし…。…お出かけ…しようか」

 

 それを聞いたルドルフは満足そうにふふ、と笑い…。

 

「楽しみにしているよ、トレーナー君」

 

 約束したからね、と言うような声色で締め括った。

 

 …いや、断る気は無いけども。凄みと言うか、断れない何かを感じた。

 

 ……皇帝…恐るべし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後。ルドルフと出かけた時によく来るカフェのテラスにて。僕はラフに着崩したスーツ、ルドルフはいつもの私服と言った出で立ちで、互いにコーヒーを啜っていた。

 

 机の日傘が僕らに影を作っていて何だか風情のある雰囲気だ。

 

「ここに来るのも久しぶりだなぁ」

 

「URAファイナルズ開催に向けてトレセン全体が忙しかったからね」

 

 ルドルフは結構楽しみにしていたらしい。耳がいつもより跳ねている。

 

「ね。生徒会が優秀とは言えまさか広告費用の捻出とかURA用芝の購入の交渉まで生徒会が担当するなんて」

 

「正直ルドルフみたいな子供に大人がやるような仕事をやらせるってどうかと思ったよ…」

 

「は…はは…。ああいう仕事を頼まれるのは理事長の期待や信頼あってこそだろう。なれば、私も全力で務めを果たすまでだよ」

 

「…けれど、このシンボリルドルフとて苦心惨憺してしまったな、今回のURA関係の仕事には」

 

 ルドルフは苦笑いしながら眼鏡の縁を擦った。

 

「本当、お疲れ…」

 

「…所でトレーナー君。君からすると私はまだ子供なのかな?」

 

「……そりゃあ。まだ学園すら卒業してないんだし。僕らトレーナーからしたらウマ娘はみんな子供だよ」

 

「そう、か…子供か。これでも、トレセン学園の生徒会長足り得ようと意識して振る舞っているのだが…」

 

「ルドルフは確かにかなり大人びてる方だけど…一人の女の子にそこまで求めるのは酷じゃないかなぁ」

 

「僕からしたらルドルフは生徒会長でもなく皇帝でもなくルドルフだし…」

 

「………………」

 

 ルドルフは一瞬考え込む仕草をして…。

 

「…テイオーが子供と言う訳ではないのだけれど、トレーナー君はテイオーのように溌剌な女性が好みなのかな?」

 

 こんなことを聞き出した。

 

「いやぁ、そういう訳じゃ無いけど…」

 

「……つまり私は選択肢からは外れないと」

 

「ゴフッ……ちょっとルドルフ」

 

「はははっ、すまないトレーナー君」

 

「びっくりした…」

 

「今のは…少々きつかったかな?」

 

「え…まぁうん」

 

 ………ピタリと一瞬、ルドルフの動きが硬直する。

 

「………………」

 

「……ルドルフ?」

 

「…ん……あぁ、なんでもないよ」

 

 ルドルフは抜け殻に意識が戻るかのようにして再び動き出した。

 …どうしたんだろ。

 

 それ以降はクッキーを頬張ったりルドルフのファンの対応をしたりして…。

 

「…トレーナー君。コーヒーも後数滴だ。ここではこれ位にしようか」

 

「ん、そうだね」

 

 ルドルフの言う通り、色々やってる内にコーヒーカップの底は見え始めていて。

 

 僕達は同時にコーヒーを飲み干すと、トレイにゴミを載せてカフェを後にした。

 

 カフェからトレセン学園へと戻る道中…僕達はついでに神社に寄った。

 

 ルドルフとはそれなりの頻度で神社に行く。僕の場合、基本ルドルフがもっと強くなりますようにとお願いして帰っている。ルドルフは一貫してウマ娘の幸福だ。

 

 …まぁ、僕の願いはもう叶わないんだけどね。僕自身のせいで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 チャリンと言う硬貨と硬貨のぶつかり合う音の後に、パンッ、パンッ、と手拍子が二拍。

 

 ルドルフが強くより強くなりますようにルドルフがより強くなりますようにルドルフがより強くなりますように……。

 

 数十秒目を瞑りお願いしたあと、ルドルフの方を首を回してを見るとルドルフもこちらを向いていた。ちょっとしたアイコンタクトをして、賽銭箱から離れた。

 

「……ルドルフは何てお願いした?」

 

「私はもちろん………」

 

 ルドルフが一瞬詰まる。

 

「…全てのウマ娘の幸福さ」

 

「トレーナー君は?」

 

「僕はぁ……ルドルフがもっと強くなれますようにって」

 

「…ありがとう、トレーナー君。その願いはきっと、すぐに成就するよ」

 

「だね……ルドルフの成長は留まるところを知らないから …」

 

「ふふ…」

 

 久しぶりに一緒に出かけて、さらに褒めてもらえて嬉しいのかルドルフは終始ご機嫌だったような気がする。

 

 …最後にちょっとした思い出ができて良かったかな。

 

 神社の穏やかな風景を眺めながらゆっくり、石畳を歩いていると…。

 

「…トレーナー君。まだ、気持ちは晴れていないようだね」

 

「え? いやいや、今日はルドルフといれてすっごい楽しかったし元気も100倍…」

 

「いいや」

 

「何があったか正直に教えて欲しい。君が今更私に隠し事なんて、する必要は無いんだよ」

 

 …神社とルドルフの柔い雰囲気に押されて、この場に似つかわしくない言葉を僕はつい連ねた。

 

「………あのね。ルドルフの最近の成長ってさ、目覚ましいでしょ」

 

「……ルドルフは、成長できてるんだ。それは、とてもいいことなんだけど……僕はそうじゃないんだ」

 

「…ルドルフへ僕から教えられる事は…もう、無いんだよね。最近、トレーニング中に何も言わなくなったでしょ?」

 

「それってつまり僕がトレーナーとしてのルドルフの何の役にも立ててないって事なんだよね…。……僕はもう、ルドルフのトレーナーとしての役目を終えたのかなって」

 

 想像以上に深刻な話だったんだろう。ルドルフは答えかねている様子だった。

 

「…トレーナー君、君はね…私をとても強くしてくれたんだよ」

 

「私は君でいいんだ。君で満足している」

 

「うん。だけど、今以上にルドルフが成長するには僕じゃ」

 

「それに」

 

 僕の声の間にルドルフの声が差し込まれる。

 

「私は…トレーナーが君でなければいけないと感じてしまう位に、弱くもなってしまったんだ」

 

「……え…」

 

 んん? トレーナーが僕でなければいけないって? どういう事だ…?

 

 …それに今…ルドルフは……僕のせいで弱くなってしまったと……言った? 僕が原因で? ルドルフが?

 ………あああ……そうか……既にルドルフにも自覚はあったんたな…。

 

「それって……あの…僕がルドルフを弱くしたって…こと?」

 

「あぁ」

 

「…そのままの意味で?」

 

「? あぁ」

 

 おぉうかなりはっきりと…。…こう言われると結構ショックだなぁ。

 

「……ごめん、ルドルフ」

 

 ……ルドルフは一瞬何で謝られたかわからないような顔をして……一瞬で血相を変えた。

 

「………ッッ!」

 

「違う、違うんだ、トレーナー君。今の発言を許して欲しい。悪い意味で言ったんじゃないんだ」

 

「う、うん…ルドルフが何の考えも無しにそんな事を言わないのは知ってるから……」

 

「…トレーナー君。すまない…忘れて欲しい…。すまない……」

 

「いいからいいから…」

 

「すまない…」

 

「………………」

 

「………………」

 

 ……ルドルフは耳を伏せて黙ってしまった。

 

 …う…ん。もう神社でやることも無いし、帰ろうかな。…ルドルフもこの雰囲気は嫌だろうし…。

 

「…帰ろうか、ルドルフ」

 

「…うん」

 

 なんとも言えない気まずい雰囲気のまま、僕達はトレセン学園へと帰還した。

 道中に会話は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学園に帰還してからも僕とルドルフの間に会話は無かった。一応、通路でルドルフと別れる時に挨拶はしたけど…ルドルフの声は随分と弱々しかった。

 

 まさかルドルフが自覚できる位に僕がルドルフに悪影響を与えてたなんて…。

 ごめんなさい、ルドルフ…。

 

 でも、はっきり言われるとこんなにもショックだなんてなぁ…。言われた瞬間はストレートのパンチだっけど今はボディーブローみたいにジワジワと効いてきたや…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………こんな形になってしまったけど、ルドルフにはっきりと言われて決心が付いたぞ。

 明日ルドルフと契約の破棄について相談しよう…。




 次回、鋭い眼光。
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