曇り後晴れ。時々豪雨。(タキオン編開始)   作:にゃす

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 夢か真か。


サイレンススズカ.2

____________何だか、夢見心地な気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……小鳥の囀りが聞こえる。その声がはっきりと聞こえるようになった頃に、パチリと目を開ける。スズカの寝顔が視界に入った。

 うん、スズカの寝顔はかわいいな。

 

 スズカの寝顔を拝み、そろそろ床から立ち上がろう、と言った所で、違和感に気付いた。昨日、確か私は床に膝を着きながら寝たハズ。何故、私は横たわっているんだ?そして何故、スズカの顔がこんなに近いんだ?

 

 ……自分の状況に気付いた時、叫んで飛び起きなかった私を褒めてやりたい。

 何故かスズカの眠るベッドの上に自分がいて、そして何故かスズカがこっちを向いて眠っていた。

 

 ……………何で!?

 

 私の下半身は床にあったはずでは!? そしてスズカが近い!!

 長い睫毛、近くで見ると艶のある綺麗な長髪。少し濡れた唇。

 くぅ、くぅと言う可愛らしい寝息と共に薄く吐息が自分の顔に掛かる。

 この状況非常にまずい。何がまずいかってとにかくまずいのである。

 

 というかスズカ綺麗だ……。…じゃなくて。

 

 そっと離れようにもスズカの両腕が私の首に巻き付けられている。離れようにも離れられない。本当にどうして……。

 混乱している間にスズカの口が動く。

 

「トレーナー……さぁん……」

 

 どうした、スズカ。………と返事をしてあげたいが残念ながらスズカは夢の中だ!! こんな幸せそうなスズカを起こすのも野暮と言う物……。

 追い打ちをかけるように、スズカが自分の首に回している両腕に力が籠もる。

 

 ヤメロー!! やめてくれー!! スズカー!! これ以上いけない!

 自分の心の叫びを他所に無慈悲にもスズカへとどんどん顔が引き寄せられて行く。スズカの顔はもう目と鼻の先だ。 

 

 

 

 

 

_______________ん

 

 

 

 

 

 

 む、無理だぁ……流れに逆らえない……。

 

 

 

 

 

 

__________ナーさん

 

 

 

 

 

 

 

 スズカのファースト…が私かはわからないけど、これは何の冗談だ……。

 

 

 

 

 

 

 

______レーナーさん

 

 

 

 

 

 

 

 スズカの唇が眼前に迫る…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「トレーナーさん」

 

「ッあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!?」

 

「ひゃっ」

 

 ガバッ、と飛び上がる勢いで顔を上げる。そしてグルグルと周りを見渡す。

 驚いて目をパチクリさせるスズカと、飾り気の無い病室が目に入った。……………どうやらさっきのは夢だったらしい。……良かった……んだよな。うん。あんなの夢だ、夢夢。忘れよう。

 

「………おはようございます?トレーナーさん」

 

「あ、あぁ……おはよう、スズカ」

 

「…大丈夫ですか?大分魘されていたようですが…」

 

「だ、大丈夫だ、問題無い。ちょっと嫌な……」

 

「いや、嫌な夢でも無いけど……ま、まぁ夢を見たんだよ…!!」

 

「と、とにかく大丈夫みたいですね…良かった」

 

 嫌な夢では無かった、嫌な夢では。…………少々残念な気もするが。…って、いやいや。何を考えているんだ私は。トレーナーたる者そこらへんの線引はしっかりとしなければ…。

 引退後、固い絆で結ばれたトレーナーとウマ娘がそのまま一緒に姿を消す、何て事件を思い出し、ブンブンと頭を振りそれを脳から弾き飛ばす。

 

「?」

 

 そんな自分の様子に首を傾げるスズカが目に入った。

 

「…何でもないよ」

 

「そ、そうですか…」

 

 ……何だかスズカの顔色が昨日と違う気がする。

 

「………スズカはよく眠れた?」

 

「はい。おかげさまで」

 

 そう言いながら、嬉しそうに握られた手を見せるスズカ。

 ……まだ、握ったままだったか。スルリ、と手を離す。

 

 離す瞬間、スズカの顔が見えたが、随分と残念そうだった。

 

「………………」

 

「………………」

 

 気まずい沈黙。…すると、ガララララ、と病室の扉が開いた。

 

「おはようございま〜す、スズカさ………」

 

 どうもスズカ担当の看護師の方が来たらしい。

 

「……ええっと、スズカさん?そちらの方は?」

 

「あ、こちらの方は私のトレーナーさんです」

 

「あっ。そうだったんですねぇ〜。わざわざご苦労さまです〜」

 

「あ、あはは…どうも…」

 

「えぇっと、それでは、朝ご飯はこちらに置いておきますね? 食べ終わったらまた後に回収しに参ります。では、失礼いたします〜」

 

 カタン、と朝ご飯の乗ったトレイを机の上に置く看護師。

 二人の空間を邪魔するのは悪いと言わんばかりに、早足に看護師は部屋から退場するのであった。

 

「…………忙しい人だったな」

 

「は、はい。……………でも…良い人だと思います」

 

「……だな」

 

「………さて、スズカ。朝ご飯にしようか………って、その前に…顔洗って歯磨きしなきゃな」

 

「ですね…。……あの、トレーナーさん。…体を……支えていただけますか?」

 

「…あぁ。任せてくれ」

 

 昨夜から少し続いた和やかな雰囲気は、また重苦しいものへと戻ってしまった。

 そうだ。スズカはもう、走れないのだ。前のように。

 

「……あー、じゃあ…」

 

 一瞬悩み、とりあえず自分は立ち上がった。……やっぱり変な体勢で寝たせいで少し体が痛い。まぁいいだろう。

 そして少しベッドの端に寄ってくれ、と手振りし、端に寄ったスズカの手をそっと掴み……腰に手を回し、こちらへと引き寄せるようにスズカを立ち上がらせた。……スズカと密着することになるが気にしてはいけない。

 

「大丈夫か、スズカ」

 

「っ……ふぅ。はい、大丈夫です。………ありがとうございます」

 

 ……ふらつくスズカを見て、改めて実感する。ああ、スズカは本当に……。

 

「……行きましょうか、洗面所」

 

「…ああ」

 

 スズカと自分とでは身長差があるため、些か屈んで自分の首にスズカの左腕を回す。そして自分の右腕をスズカの腰に回し……洗面所へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__________数十分後。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スズカをベッドに座らせ、自分はパイプ椅子に座る。机に置かれた、ほんのり温かい朝ご飯をベッドに備え付けてあるスライドするタイプのテーブルに置いた。

 

「さぁ、スズカ。食べな。怪我人にはご飯が一番だ」

 

「はい…いいだき、ます」

 

 一度両手を合わせ、そして行儀よく食べ始めるスズカ。……所作の一つ一つが綺麗だった。スズカの美貌も合わせて、随分と様になっていた。

 

「………トレーナーさん?」

 

「……んぁ? あ、あぁぁぁ、すまんすまん、ボーっと」

 

「トレーナーさんも食べたいんですか?」

 

「……んん?」

 

「そうですよね、トレーナーさん……私のために、昨日の夜から何も食べてなくて……」

 

「い、いや、私は大丈」

 

「はい、あーん」

 

 鮭の切り身を箸で切り出し、箸で挟み、左手で溢れないように添えながら、自分に差し出す。

……スズカは優しい子だ。私を気遣って……。……申し訳無い気持ちもあるが受け取らないのはスズカに悪いだろう。邪念等無い。

 

「あーー、…ん」

 

 ぱくり、と鮭を食べる。……美味しい。

 

「フフフ……」

 

「モグモグ…」

 

「はい、じゃあもう一口」

 

「モグ……い、いや、待って、スズカ。スズカの分が」

 

「いいんですよ。半分は、トレーナーさんがお食べになってください」

 

「いやでも」

 

「あーん」

 

「……………あーーー…」

 

 ……押し通された。スズカがこんな感じに押してくるようになったのはいつ頃だったか……。確か自分のウマ娘はスズカしか考えられないなんて抜かした時からだったか…?

 

 そんな、ずっと続けばいいと思える甘ったるいやり取りをしているうちにスズカは朝ご飯を完食した。

 

「……………」

 

「……………」

 

 ……そろそろ、現状から目を背けるのは止めにしよう。スズカも、既に何を言われるか理解している顔だ。

 

「……スズカ。君はもう、走れない」

 

「……はい」

 

「スズカは、どうしたい?」

 

「私は……私は…」

 

「……道は、いくつかある。まず、トレセン学園の特別顧問になることが1つ」

 

 引退したウマ娘は現役時代の知識を生かしてトレセン学園の生徒を教える立場になることができる。

 

「もう1つは、一般企業に就職することだ」

 

 怪我をして引退に追い込まれたウマ娘はこちらを選ぶことが多い。ショックと、喪失感で名誉も全て捨ててしまうのだ。

 ……スズカには、こちらを選んで欲しく無かった。

 

 実は、選択肢はもう1つある。こちらを選ぶ子も…絶えない。だが、これは……言わないでおく。きっと、どんなトレーナーでも、これは口に出さないだろう。

 

 スズカをじっ、と見つめて待っていると……。

 スズカは思考して行く内に、段々と目に光る物が浮かび始めていた。

 

「ごめんなさい……私は……まだ、選べません……ッ……」

 

「…そうか。そうだよな。いきなり、ごめんな…」

 

 …まだ、割り切れていないのだろう。肩を落とし、俯き、震えるスズカの背中を擦った。

 …ウマ娘とは、何て儚い存在なのだろう。こんな若さで、夢を追って、破れて。

 神様は越えられない試練を与えないと言うが、嘘ではないか。…どうしようもないじゃないか。……スズカが、かわいそうじゃないか。

 

「ごめんなさい……やっぱり…まだ、受け入れられないみたい…です」

 

 静かに震えるスズカの背中を擦り続け……ちょっとして、スズカも落ち着いたのか、ありがとうございますと目を逸しながら言ってくれた。

 

 そう言えば、スズカとこんなにべったり一緒にいるのも珍しい。この時間は随分と………いや、だめだ。それではトレーナー失格だ。

 

「スズカ」

 

「…はい」

 

「しばらく、リハビリを頑張ろうか」

 

「……はい」

 

「……じゃあ、スズカ。私は一旦家に戻るから……風呂に入らないといけないし……学園にも連絡しないといけないし。明日の朝、絶対来るから。ごめん、な」

 

「いえ……2日間も…側にいてくれて、ありがとうございます」

 

「うん……じゃあ、もう行くよ。またな」

 

「はい、また明日」

 

 そう、短く挨拶を済ませると、リュックを背負い、2日間世話になったパイプ椅子から立ち上がり、病室の扉に手を掛けた。名残惜しいが、仕方がない事だ。ガララ、と扉を開き、病室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 病室を後にし、扉を閉める時にふと病室を見てみた。目に入ったスズカはこちらをじっと凝視していた。その、美しい水色の目は………酷く淀んでいた。




 次回、リハビリに励み、決心する二人。
 夢は後々スズカサイドの描写をするので、そこで意味が判明します。
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