曇り後晴れ。時々豪雨。(タキオン編開始)   作:にゃす

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シンボリルドルフ.6

 ルドルフに秘密の名前を明かされたりして、僕とルドルフの関係は急速に縮まって行った。前々から普通に親しい関係ではあったんだけど、ルドルフが一切の情け容赦無く僕に行動を起こすようになってしまったから…今では僕の方もルドルフとの距離感がおかしい。

 具体的に言うと今までは一応机を挟んだような間柄だったけど今は隣の席にいると言う感覚だ。そして全ての物を共有してるような…。

 連絡アプリで休日に何十時間も会話したこともあったし。

 

 結局僕が悪いんだけども…。

 

 そして……最近ルドルフ関連で僕には一つ悩みがあった。

 

 それは…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………」

 

 寝室のクローゼットを開くと…まず目に入るのは自分のスーツとかセーターとかヒートテックとかシャツである。うん、何の飾り気もないね。…そしてその中の端っこ。そこには何故か女物の服がハンガーに掛けてあった。それも何種類か。

 明らかに僕に見つかるのを嫌がって端っこに寄せたような魂胆が見える。

 自分の名誉のために言うと、これは断じて僕の物ではない。僕に女装の趣味は無いから…。

 

 そして作業机には見たことのない眼鏡が置いてあった。

 僕は近眼じゃないし眼鏡を買った覚えも無いんだけどな。

 

「……????」

 

 寝室を出てリビングに向かえば、今度は見たことのないコーヒーカップが机に置かれていた。

 僕はコーヒーなんて飲まないぞ…?

 

 更にリビングを見渡して見ると、キッチンにある備え付けの机の上に…新品のコーヒーメーカーが置いてあった。近付いて見てみると金メッキで加工された模様があるし、何かのブランドであることがわかった。

 

 これは…見た感じ結構な値段するぞ。

 

 コーヒーメーカーをちょっといじった後は、ベランダへと移動し…。

 

「…バスタオル干してたっけな」

 

 ベランダの物干しには何故かバスタオルが掛けてあり、風に揺られていた。

 僕ってバスタオル干したらすぐユニットバスに戻すんだけども。

 

 

 

 場所はユニットバスに変わり…。

 

 

 

「…………僕ってこんなたくさんのシャンプーとかリンス買ってたっけ…?」

 

 ユニットバス内を見渡せば…何故か女物のシャンプー、リンス、ヘアーコンディショナー、ボディーソープ等がズラリと並んでいて。

 

 タオル掛けも何故かタオルで埋まっている。

 

 そして洗面台を見ると…。

 

「何でコップと歯ブラシが二組…?」

 

 僕、コップと歯ブラシは一組しか洗面台に置いてないんだけどなぁ…。

 

 

 

 所はさらに変わって玄関にて。

 

 

 

「………僕の足には合わないサイズのローファーにスニーカー…」

 

 玄関には何故か買った覚えのない、やけにサイズの小さな靴が端っこに寄せられ置かれていた。

 

 僕は出かける時はスニーカー、何か会議とか、大事な用がある時はエナメルのビジネスシューズを履くのだが。こんな可愛らしい模様の入った物は履かないぞ……? 僕。

 

 そして傘立てには傘が一本追加されており。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おかしい」

 

 一通り部屋にある記憶外の物品確認を終え、僕はリビングの椅子に身を落ち着けていた。

 

 …買った覚えの無い物が部屋に多すぎる。クレカの使用明細を確認しても僕の口座からの引き落としはまったく無いし。つまり僕がボケて買ったという線は無い。

 じゃあ誰が……?

 

 ……僕の身の回りで女物の物品やらを僕の部屋に持って来れるのは……まぁルドルフだけだよね。

 

 となるとルドルフ……が部屋に私物を置いてってるのかなぁ…。

 

 別にルドルフが部屋に私物とか置いてくのはいいんだけど。何で置いてくんだろう。

 

 ……考えてみても答えは出なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日は休日なため、あの後はリビングでノートを開いてルドルフのための新しいトレーニングを考えていた。

 

 所で。関係無いけど、休日にはルドルフが高確率で家に来てくれる。最初の頃は一週間に一回位だったけど、今では一週間に四回とか、三回とか。

 滞在時間も二時間から三時間、三時間から四時間へと。

 

 僕の生活の一部になりつつあった。

 

 ………。

 

 時計の時間を見るとそろそろ来てくれる頃だと思うけど…。

 

 時計を見た直後、予想通りピンポーン、とチャイムが鳴った。

 

 うん、今日も例に漏れなかったね。

 

 はいはい、今行きますよ。

 

 小走りで玄関に向かい、扉を開ければ…。

 

「また来てしまったよ、トレーナー君」

 

 いつもの眼鏡と私服と言った出で立ちのルドルフがいて、玄関から顔を覗かせた。

 

 持ってるバッグは…相変わらずこんもりしている。

 

「いらっしゃい、ルドルフ」

 

「…まぁ…ほら、上がってよ」

 

「失礼するよ」

 

 ルドルフは尻尾を揺らして嬉しそうな様子で僕の家に上がり込んだ。もう何度も来てるし、別に面白い物があるわけじゃないのに…。

 

 そんな、ルドルフの尻尾を眺めながら。

 

「…ルドルフは大丈夫なの? こんな…毎日じゃないけど、頻繁に僕の家に来て。生徒会の仕事とか溜まっちゃわない?」

 

「あぁ、その心配はいらない。最近、とても仕事の進みが早いんだ。今日来たのも仕事が終わったからさ」

 

「そっかー。じゃあ……寮長に怒られたりとかは」

 

「それについても問題無い。外泊届でいつもしっかりと外泊を申請している。不備はないよ」

 

「な、なら。大丈夫……なのかな?」

 

「ああ、何の問題も無い」

 

 付け入る隙が全く無い…。さすがと言えばさすがだけど。

 

 確かに、僕はこの前ルドルフに甘えていいよ、そういう思い出を作ってみようって言ったけど、まさかここまでベッタリになるとは思わないだろう。

 ベッタリし過ぎて僕もルドルフと一緒にいる方が当たり前だと思い込み始めているし、ちょっとこの傾向は…まずい。学園に首をチョンパされてルドルフと離れ離れになってしまうかもしれない。そうなったらもうルドルフに会えない。

 

 ただ。

 

 担当のウマ娘が独占欲を発揮したら…ほとんど手遅れだし。もう僕にはどうすることもできなかった。

 

 僕らは玄関からリビングに出て、リビングの椅子に座……らず、そのまま僕の自室へと直行した。

 

 まぁ、こんな具合だ。普通はリビングで溜まるとおもんだけど、僕がおかしいのかな…。

 

 僕の自室に直行した後は特に何も無く二人仲良くベッドの上に収まった。なんと言うか、テイオーみたいなちびっ子組が聞いたら喜びそうな家デートっぽい。

 

「ルドルフはさ」

 

「ルナとは呼んでくれないのかな?」

 

「えっ」

 

「…いや。何か、ルナだと慣れないって言うか」

 

 変化球にギョっとしてルドルフの方を向けば悪戯っぽい表情をしたルドルフが既に僕の方を向いていた。

 

「……フフフフフ」

 

「…?」

 

「…少し反応を見たかっただけだよ。焦っている時の君は私の知っている君の中でも特にかわいいものだから」

 

 …してやられた…。

 

「………」

 

「…トレーナー君?」

 

 ちょっとした、大人気ない反骨精神から意地悪してみよう。

 

「…もうルナって呼んであげなーい」

 

「なっ。トレーナー君それは!」 

 

 ルドルフがガバッと体をこちらに向けると同時に渾身の笑みを見せてあげた。

 

「嘘だよ、お返し〜」

 

「……おあいこ、と言うことでどうかな」

 

「…そうしよう」

 

 一時休戦。…僕がルドルフに勝てたことは一度も無いけどね…。

 

「…トレーナー君」

 

「んー?」

 

「また新作ができたんだ」

 

「おっ。どんなの?」

 

 気を取り直して。

 

 こんな感じにルドルフが新作を披露したがったのを皮切りにダジャレ大会が始まった。

 

 大会の内容は……それはもう大笑いした。防音設備が機能してるか心配になる位笑ってしまった。やっぱり感性が似てる者同士は話が弾むや。

 

 お互いに、一通り笑い散らかした後…ちょっと水が飲みたくなり、僕は一旦部屋を後にした。

 キュッと蛇口を捻り水道水をコップに注いで、それを体に流し込み、再び自室に戻ろうと扉を開けば……ルドルフが何故かクローゼットを開いて、今さっきバッグから取り出したであろうカジュアルな服とハンガーをぶち込もうとしていてた。

 

「ちょいちょいちょい」

 

「はぅ」

 

 ルドルフはちょっと変な声を漏らしながら尻尾を立たせてこちら振り返った。

 

「…トレーナー君…」

 

「やっぱりルドルフが色々置いてってたんだ」

 

「…?」

 

「いやいやそんなハテナマーク浮かべてそうな顔しないでよ…今更無理あるよ…」

 

 ルドルフは目を一瞬泳がせて…バッグから取り出した服をクローゼットに入れてからベッドに戻った。そこはバッグに戻さないのね…。

 

 僕も話しやすい位置に移動するため、ベッドの上に正座した。

 

「……すまないトレーナー君。君の家には高頻度で来る予定だったから。だから私物を置かせてもらったよ」

 

「う、うん」

 

「……それに」

 

「えぇ?」

 

「常に君が私の存在を意識してくれるような状況を作りたかったんだ」

 

 …ルドルフの目を一瞬見てみると、曇っている訳でもなかった。…とりあえず、安心できる。

 

 目の色を変えずに言えるようになったと喜ぶべきなのか…それとも目の色を変えずに言えるようになってしまったと悲観するべきなのか…。

 

「いやぁ……だからってここまでしなくても」

 

「私の私物があれば、君は私の事を思い浮かべてくれるだろう?」

 

「い、いやでもこんなことしなくたって。僕はいつもルドルフの事を考えてるって言うか…」

 

「本当に?」

 

 背後からルドルフが突然僕の肩を掴み、ふわり、と。ルドルフの長髪が僕の頬を撫でた。そして頭上からはルドルフの息遣いが。

 これは…ルドルフが僕の肩を背後から掴んで頭を見下ろしている感じかな。

 

「24時間常に、と。胸を張って言えるかな?」

 

 …そこまで言われると自信を持って首を縦に触れないよ…。

 

「そこまでは…自信、ない…かな…」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…私は独占欲が強くてね。かなり」

 

「君の思考すら。私いっぱいに、私だけしか考えられない程に、塗り潰してしまいたいんだ」

 

 …今の話で確信した。ルドルフの独占欲……いや。執着心か? それは僕と過ごす時間が増えるごとにどんどんどんどん、際限なく強くなって行っている。

 一度関係が変わりかけてしまっまから、だから常に、証が欲しい。そういう心理なんだろう。

 

 僕はルドルフの中にある何かを…徹底的に破壊してしまったようだ。

 

「人は、どこまで人にのめり込むことができるのだろうね、トレーナー君」

 

「……ルドルフは…僕にどれ位…」

 

「君が私の手元からいなくなったらどんな手を使ってでも君を取り戻すと考える位にはのめり込んでいるさ」

 

 …ネジ穴って、段々と緩んでくよね。

 

 ……ルドルフがそうだとしたら、僕もそうだ。

 

 遠目から今までの会話を聞いたら、ルドルフは完全にヤバい人だろう。だけど、今の僕はそれを受け入れることができる。ルドルフだから受け入れられる。嬉しいと感じてしまう。これは僕のネジ穴が緩くなって来ていることの証明だろう。

 

「……この前。私は秘密を明かしたね」

 

「…うん」

 

「今日は…トレーナー君の秘密も聞かせてくれないか」

 

「私だけが知ることになる秘密を、ちょうだい」

 

 ルドルフの顎が右肩に置かれた。

 

「……僕はルドルフの才能を見てスカウトしようと思った訳じゃないんだ」

 

「うん」

 

「選抜レースの時にね…初めてルドルフが全力で走ってる姿を見たんだ。走る姿が、すっごい綺麗で…それで…なんかこう、ビビっと来て」

 

「ああ、この子だ。この子がいいってね」

 

「大義も特に無かったし…」

 

「なんだろ……一目惚れってやつかな…」

 

「……それは告白かな、トレーナー君」

 

「……いや、本当に思ったことを…」

 

「あぁでも、あんまり秘密っぽくは…」

 

「いや」

 

「…私の走る姿が綺麗だったというのは……私の容姿も関係あるのかな?」

 

「えっと。うん、多分」

 

「…そうか、そうか」

 

「私自身、自分の見てくれはある程度優れているという自覚はある。しかし…数あるウマ娘の中でも私を選んでくれるとは……私の容姿も捨てた物ではないね」

 

 ルドルフが左手を僕の肩から離して、自分の顔をペタペタと触っているのがわかった。

 

「…高尚な理由じゃなくて…むしろ結構下賤な理由でごめんね…。でも、ルドルフの話を聞いて夢を見届けたいと思ったのも本当だから」

 

「………………」

 

「………ルドルフ…?」

 

「理由はどうであれ、嬉しいものは嬉しいんだよ」

 

「私だけが知っている、君の秘密を……ありがとう」

 

「うわちょ!?」

 

 背中側から物凄い力が加わったかと思えば、僕は何回目かもわからない視界の反転をまた体験した。今度は…俯せにベッドに組敷かれてるね、これ、うん。

 両手は手の甲からルドルフの指が絡み付いていて、ベッドに押し付けられている。

 

 確かにこういうのは感情表現の一つの方法だとは思うけどさぁ…。

 

 ………肝心のルドルフが僕よりも大分軽いから起き上がるのは簡単そうだけど、こういう時は変に抵抗しないに限るね。今までの体験から。

 

「…トレーナー君」

 

 右耳からルドルフの声が鼓膜へ、脳へとダイレクトに送られる。

 

「………」

 

「私の夢には、支えてくれる存在が必要だ」

 

「……いや。今のも大きな理由だけれど、結局建前だね」

 

「トレーナー君。今君は、私の事が好きかな?」

 

「…好き……だと思う」

 

「はっきり言って」

 

「……うん、好き」

 

「好きだよ」

 

「これが…多分、今の僕の気持ちかな」

 

「……私は君が大好きだ」

 

「君はいつ、そう言ってくれるのかな」

 

「……近い内に?」

 

「…今はそれで、よしとしよう」

 

 ルドルフのほっそりとした指が、僕の手を何度か握った。

 

 

 

「……トレーナー君。お互いこの世からいなくなったら…墓は隣同士がいいね」

 

 

 

「どうしたの、突然」

 

 

 

「どうかな」

 

 

 

「…うーん……」

 

 

 

「…死んでもルドルフと一緒かぁ」

 

 

 

「……いいねぇ、それ」

 

 

 

「…フフッ…フフフフフ…」

 

 

 

「トレーナー君っ……」

 

 

 

「アハハ…」




 トレーナーサイドをを最後までありがとうございました〜。ルドルフサイドでしかわからない事を何話か書いたら新章に入りたいと思いまーす。

 新章は読者の皆様に決めてもらいたいと思います。
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