曇り後晴れ。時々豪雨。(タキオン編開始)   作:にゃす

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 リハビリはダイジェスト気味です。
 スズカは時々不穏な様子を見せていましたが、ついに…?


サイレンススズカ.3

 スズカのあの目を忘れようと家へは走りながら帰った。タクシーを捕まえると言う思考はすっかり頭から抜け落ちた…。

 途中、適当に弁当を買って…特に何事も無く、家に到着。寝室に行くまでに息を整えて…。

 

 真っ暗な部屋に着信音が響く。理事長へ連絡しよう…。

 

「……もしもし?秋川理事長?私で」

 

「憂慮〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!!!トレーナー君!!!大丈夫だったか!??」

 

「ッ!?…わ、私は大丈夫でしたよ、理事長」

 

「本当かっ!?それは……良かった!!」

 

「……私は、大丈夫でしたが…」

 

「……うむ。スズカは、まだ、か」

 

「…はい」

 

「そうか………いや、仕方無い。スズカには…時間が必要だ」

 

「………………トレーナー君。もう既に何度も言われているかもしれないが…君は悪くない。…だから、気を病まないでくれ。スズカも、君を恨んでなどいないさ」

 

「……理事長」

 

「トレーナー君」

 

「……ありがとうございます、理事長」

 

「ふふ……。安眠ッ!早寝早起きを忘れずにな!」

 

 プツリ、と着信が切れた。

 …理事長は嵐みたいな人だな。…そして、優しい。一介の新人トレーナーに過ぎない私からの電話にもすぐ出てくれる。理事長業で、きっと凄く忙しいのに。

 

 薄暗い照明の中、マンションの自室に帰って来るまでに買った弁当を開封し、頬張る。………味がしない?

 そんな馬鹿な、と思い口へ弁当を掻き込む。………味が、しない。

 …………まぁいいだろう。スズカの事が今は一番大切だ。

 

 とっとと弁当を平らげ、シャワーを浴びるためにユニットバスへ入る。

 数十分間、体を洗ってからタオルで拭き、適当に選んだ寝間着を着用して布団に倒れ込んだ。

 

 リハビリ、どれ位長くなるだろうか。トレーナー、クビにならないだろうか。スズカ、早く元気になってほしいな。そんな事を考えながら、自分は眠りに付いた。夢は、見なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_______________翌朝。

 

 コンコンコン。

 

「どうぞー」

 

 扉を開きスズカの病室へと入る。

 

「おはよう、スズカ」

 

「おはようございます、トレーナーさん」

 

 スズカの様子は…うん、普通みたいだ。昨夜のあの目は…きっと気の所為だな。

 病室を見回すと、新たに車椅子が手配してあった。

 

 いつもの、定位置にあるパイプ椅子の元へと歩き、そこに腰掛ける。

 

「スズカはよく眠れた?」

 

「はい。…トレーナーさんが一緒にいてくれた時程じゃありませんが」

 

「ははは…また、しばらくは一緒にいるから」

 

「…フフ……なら、しばらく快眠できそうですねぇ…」

 

「………さて、スズカ」

 

「はい」

 

「リハビリ、頑張ろうか」

 

「…はい。頑張りましょう」

 

 そう言う訳で、スズカとのリハビリ生活が始まった。スズカの担当医師からは、普通に歩けるようになるまで回復すれば御の字と言われた。だからまずは、そこを目指した。

 

 スズカのリハビリ生活は順調とは言えなかった。手すりに捕まり、1歩1歩前へ踏み出すだけでも一苦労。以前の感覚のまま踏み出そうとするとグラリと体が傾き、転げそうになってしまう。もちろん、自分が側にいて支えてあげていたが。

 …運の悪いことに悪い伏兵も潜んでいた。人気のウマ娘を食い物にしようとしている輩達がスズカを神輿にしようとした。まぁ、そいつらはニッコニコのたづなさんがなんとかしてくれたが…。

 …スズカは特にそういうのに興味がなくて、気にする様子も無かったのが幸いか。

 

 前途多難ではあったが……しかし、やはりスズカはアスリートだった。少しずつではあるけど、歩けるようになって行った。どんなに厳しいトレーニングもストイックにこなしてきたスズカは、決してめげることはなかった。そして何よりも…彼女は良い友人達に恵まれた。

 

 初めはスペシャルウィークが見舞いに来た。スズカに会うや否や泣き出してしまい、逆にスズカに慰められていた。スズカは随分と嬉しそうだった。去り際、スペシャルウィークはスズカの分まで頑張ると言った。それを聞いたスズカは、少し寂しそうで…それで嬉しそうな表情を浮かべていた。

 

 次に来たのは…エアグルーヴと、タイキシャトル、マチカネフクキタル。明らかに堅物なエアグルーヴがスズカに激励を投げ掛け、タイキシャトルがそれをいじる。そしてそれに抗議するエアグルーヴを見て、スズカは笑っていた。

 二人を他所に、マチカネフクキタルは何やら怪しいオカルトグッズをスズカにプレゼントしていた。これを持ってると運が良くなる等と言って不気味な人形や、変な文字の書かれた御札や、色の不気味な水晶玉をスズカに押し付けた。

 スズカは苦笑いしていたが…でも、嬉しそうだった。

 一通り再開を楽しみ、近況を報告し合った後、3人はスズカに、歩けるようになるまで頑張れ、と言った。

 日も暮れた頃に3人は帰り…その背中を、スズカは寂しそうに見送るのだった。

 

 友人の励ましの力もあっただろう。と言うか、それが一番大きかった気がする。半年もしない内に、スズカは少し脚を引きずりながらではあるが、歩けるまでは回復していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__________そして、退院の日。

 

 

「……トレーナーさん。お世話になりました」

 

「いいんだよ、スズカ」

 

退院祝いに、夕方頃に前に来てくれた三人組とスペシャルウィークが来た。皆でお別れ会をしたいがそれぞれレースの調整で忙しく、できないことを謝罪していた。

 スズカは来てくれただけでも本当に嬉しいと言っていた。

 思い出話やらを話し込んだ所で、皆と別れた。

 

 既に病院関係者の方々と挨拶を済ませたスズカは、病院の正門の前で、私と並んで立っていた。

 担当医師曰く、半年も掛からずここまで回復するのは奇跡だと言う。

 

 とにかく、スズカが回復……歩けるまで回復してくれて良かった。

 

「……スズカは、もうどうするか決めたか?」

 

 目を瞑り、スズカは話す。

 

「……はい。私は……普通の人として、生きて行こうと思います」

 

「……そう…か。うん。わかった」

 

「エアグルーヴに、タイキに、フクキタルに、スペちゃん。皆元気そうで…。皆、前を向いていて、キラキラしていました。…私も、前を向かなきゃ…って。……今まで走る事が私の使命で、1番の楽しみだと思っていましたが……同じ位私を夢中にさせてしまうことも、しばらく前に見つけられたので」

 

「…スズカはもう次の目標が決まったんだなぁ。偉いなぁ……」

 

「…フフフフ……はい」

 

 口元を押さえながら小さく笑うスズカ。夕日の明かりに照らされて、栗色の、きめ細やかな長髪が薄く光る。

 ……思わず、見とれていると…スズカと目が合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__________スズカの瞳は瞳孔が開き切り濁っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッッ」

 

「……?トレーナーさん?」

 

「あっ……いや……あは…はは。す、スズカの髪の毛、綺麗だなって」

 

「ふぇっ。あ……ありがとうございます…?」

 

 突然褒められた事で嬉しそうに俯いてお礼を言うスズカ。

 

 気のせいじゃ無かった。今のは気のせいじゃ無かった。確実にそうだった。…淀んでいた。動揺を悟られ無いように、咄嗟に髪の事を褒める。

 今まで気の所為にしていたが、スズカの様子は何処かおかしかった、と感じていたのが本音だ。秋天の少し前から、時々視線を感じる事があった。その視線に怖気を感じ始めたのは秋天以降。

 ……止めよう。……そんな…そんな、何処かの小説じゃあるまいし。

 

「……す、スズカ。学園に…荷物を取りに行こう…か」

 

「…はい、そうしましょう」

 

 スズカのあの目を脳の奥へと押し込み、正門を出てタクシーを探す。そして、良いタイミングで来た、すっかり顔馴染みになってしまったタクシーを捕まえる。今日は、学園まで、と頼んだ。

 タクシー内では、先程の目を忘れようとスズカと他愛もない話をした。タクシードライバーは酷く羨ましそうだった。

 

 数十分後、いつの間にかタクシーは学園に到着していた。スズカがいるとこんなに違うのか…。

 ちゃんとメーターの表示する金額ぴったりをドライバーにあげた。タクシーから降りる際に、またすぐ来るからここで待っていてほしい、と伝えた。

 

 ドライバーとのやり取りも済んだので、学園へと脚を進める。……スズカは何故か私の後ろにぴったりとくっついて来てる。

 

 …学園に来るのも久しぶりだ。この数ヶ月感はずっとスズカに付きっ切りだった。休職扱いだから、当然給料も出ない訳で。……給料なんてどうでも良かったんだがな。

 スズカも何処か懐かしんでる様子だ。

 ……スズカがトレセン学園に来るのも、今日が最後か。あわよくば、スズカが最初の3年間を走り切るのを、見ていたかった…。

 

「………今日で最後なんですね。学園へ来るのも」

 

「…ああ、そうだな。荷物を片付けたら、こことはお別れだ」

 

 物思いに耽りながらスズカと話していると、あっという間にスズカとスペシャルウィークの部屋の前に着いた。

 スズカが扉を開き、自分もそれに続く。部屋の中は…女の子の部屋だった。スペシャルウィークはいなかった。

 スズカは押入れからキャリーバッグを2つ取り出し、ロックを開けて荷造りを開始した。…私も布団のシーツやら、枕やら、毛布やらをバッグに押し込むのを手伝った。

 …途中、制服と勝負服を手にして動きが止まるスズカには、何も言わなかった。

 二人で荷造りしたため、時間は掛からなかった。

 

「……さようなら、エアグルーヴ、タイキ、フクキタル、スペちゃん……トレセン学園」

 

「……………」

 

「………じゃあ、スズカ。ちょっと理事長に色々伝えて来るから。正門で、待っててくれ」

 

「……はい…」

 

 スズカは随分と名残惜しそうにしていた。それはそうだろう。夢の残響を後にするのだから。

 スズカとは部屋の前で別れた。キャリーバッグはスズカに両方とも任せた。

 スズカを待たせる訳にはいかないので、早足に理事長室へと向かった。

 

 退学手続きは意外にも速く進んだ。理事長は…かなり残念がっていた。当然だろう。稀代のウマ娘が、学園を去るのだから。

 退学手続きの書類に判子が押された所で、理事長にお辞儀をし……理事長室を後にした。

 

「……トレーナー君。大丈夫だろうか」

 

 理事長が最後に何か呟いているのがわかった。だが、聞き取れなかった。

 

 自分の仕事も済んだし、そそくさに正門へと走る。

 あー、この後の予定は……スズカを駅に送り届けて、終わり、だな。……スズカ。

 

「………っふぅ、スズカ。おまたせ」

 

「…トレーナーさん。いえ、待ってなんかいませんよ」

 

 スズカを両手を後ろに組んで正門で待ってくれていた。

 

「よし…じゃあ、スズカ。駅まで、行こうか」

 

「………………はい」

 

 待たせていたタクシーの荷台にキャリーバッグを押し込み、乗り込む。自分が口を開き、駅まで、と言おうとした所で……。

 

 ぐい、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 手 で 口 元 を 押 さ え ら れ た 。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてそのまま、ボス、と体ごと座席に押さえ付けられる。

 

 ………スズカ?

 

「……ドライバーさん。トレーナー用マンションまで、お願いします」

 

 …………スズカ?

 

「……わかりました」

 

 スズカに気圧されたドライバーは、静かに進路をトレーナー用マンションに取った。

 

 そこで、スズカが自分の口を覆っていた手を離す。

 

「ッッ、す、スズカ、どういう……!?」

 

 抗議をしようとスズカの方を向いた所で、口が止まった。

 …………あの目だ。美しい、水色の瞳が、淀んで、グルグルと、渦巻いている。

 

「……トレーナーさん?どうなさいました?」

 

「い……や……」

 

「………フフフフフ……変なトレーナーさん…」

 

 気圧され、縮こまる自分を見たスズカは……愛玩動物を見るような笑みを浮かべる。それは美しく、魅惑的で……狂気を孕んでいた。

 ドライバーに助けを求めたかった。いや、求める事ができた。……しかし、できなかった。だって、そんなスズカに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__________見とれている自分がいたんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……トレーナー用マンション前にタクシーが到着した。今回は……メーターも確認せず、1万円をドライバーに押し付けるようにタクシーを出た。ドライバーは何も言わなかった。

 

「……退院、おめでとうございます」

 

「…ありがとうございます、ドライバーさん」

 

 ドライバーが短くそう告げる。スズカはそれにありがとう、と。

 スズカがタクシーから降りて、荷台からキャリーバッグを取り出した所で、バタン、とドアが閉まり、タクシーは走り去って行った。

 

 マンション前。スズカと二人きり。スズカの方を見ずに、恐る恐る聞いてみる。

 

「スズ…カ。どういう…つもりだ」

 

「どういうつもり…とは…?」

 

「実家に…帰らなくていいのか。ここにいていいのか」

 

「………そんなこと、どうでもいいでしょう?」

 

「なっ、よくな」

 

「トレーナーさんのお部屋は何号室でしょうか」

 

「…スズカ。ふざけるのも」

 

「トレーナーさん」

 

 ゆらり、とスズカの顔が視界の横に入る。綺麗な笑顔を浮かべていて……そして、時折見せていたあの濁った目に、目が会う。

 

「………216」

 

「216号室だよ」

 

「……フフッ……素直に教えてくれれば良かったのに」

 

 スズカがクスクスと笑う。

 

「さぁ、行きましょう」

 

 スズカの右手が、ガシリ、と自分の右手を掴んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__________「トレーナーさん




 次回、トレーナーの自室で過ごす二人。ついにドロドロしだします。
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