曇り後晴れ。時々豪雨。(タキオン編開始)   作:にゃす

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 幸せならokです。


サイレンススズカ.6

 朝。カーテンから薄っすらと日の光が差し込む。

 とても良い目覚めだ。自分の右隣を見ると、スズカがくぅ、くぅ、と寝息を立て、ぐっすり眠っている姿があった。

 

 ウマ娘は基本、とんでもない絶世の美人が多い。そのため、何気ない動きですら凄い様になる。スズカも例外ではなく、ただ寝ているだけなのにまるで白雪姫のように見えた。

 

 トレーナーならばそろそろ起きて学園に向かわなければならない時間だが、私は理事長の計らいでしばらく休職する事になっているため、速くからトレセン学園に向かう必要もない。なので、スズカの御尊顔をじっくりと眺めることができるのだ。…うん、見てると顔が熱くなってくるから止めよう。

 

 昨晩、色々ありスズカとより親しい関係になれた。……冷静になった脳で考えると何とも恥ずかしい気分になる。スズカもよく顔色を変えずあんなことを言えたものだ、と思う。

 思えばスズカのスカウトに名乗りを挙げ、スズカに選んで貰ったあの時から、私はこの恋と言う病に罹患する運命だったのかもしれない。

 最初こそは本当にスズカの走りに惚れ込んでいたのだが、四六時中スズカのためにトレーニングやら、取材の調整やら、書類の作成やら、お弁当の中身やら、脚のケアやら、やっていたら本当にスズカの事しか考えられなくなっていた。これが本当の惚れる、か…。

 

 トレーナーか、はたまた大人としてのプライドなのか、決して自分からスズカを求める事は無かったが………いざ、そういう関係になってみると何とも…開放感が凄いし、何より心がポカポカする。

 

 …先日、理事長に書類を通してスズカの担当でなくなったので、そろそろ学園から新しい子を見つけろ、という指示が来るかもしれない。

 ……今更新しい子、か。トレーナーである以上、担当は決めなくちゃいけないし……でも、最初の担当がいきなり異次元の逃亡者だったからなぁ……。かなり目が肥えてしまった…。それに、私がスズカ以外を担当する姿が思い浮かばなかった。担当になったらなったで何だかスズカから鞍替えやら目移りしたような気分になって嫌だな…。…乗り換え上手……?

 

 …そもそも新しい担当をスズカが許してくれるのか…?他の子と一緒にいると嫉妬するって言ってたし…。

 もう全てかなぐり捨てて、スズカのために捧げようか?今までの生活も割とそうだったし…。…トレーナーを辞職……?

 

 …今考えるのは止めよう。理事長に相談することだ。…多分。

 

 再び目を閉じ、二度寝しようとした所で…。

 

「んん…」

 

 右隣がもそりと動く。…スズカ、起きたかな?

 

「ふぁ…………」

 

「……ぁ、トレーナーさん…………おはよう……ございます……」

 

「おはよう、スズカ」

 

 そう言ってそっと頭を撫でる。…これ位いいよな…? スズカの長髪はとてもさらさらしており、きめ細やかだった。

 

「んん…」

 

 スズカは特に嫌がる素振りも見せず、耳をパタ、パタ、と動かしている。

 

「…今日は、どうしようか。スズカ」

 

「今日…は…。…まずは、朝ご飯にしましょう…か」

 

「ん、わかった」

 

 バサリと毛布を横に避け、体を起こしてユニットバスへ向かう。

 顔を洗い、歯を磨き…リビングへ向かう。途中、スズカとすれ違った。

 リビングに着いたので椅子に座った。

 

 洗面所から水の流れる音が響く。そして、止まり……ちょっとして…。

 

「お待たせしました」

 

「全然待ってないよ」

 

「…ふふふっ」

 

「ん?」

 

「いえ…なんでもないです。さて、じゃあ簡単な朝ご飯を…」

 

 スズカと軽い会話をした後、慣れた手付きでまた冷蔵庫を開け始めたスズカ。ごそごそと生卵を2つ取り出している。……うん、これって完全に押し掛け女房だな。

 ……スズカが求めるままに、この関係が続けばまさか……? って…いやいや…。しかし否定もできないのが…。

 …も、もしも…もしもの時のために…貯金をしよう。決してスズカの為じゃない……後々の未来のためだ…うん。元よりファッションやら娯楽にお金は使わない質だし、トレーナーの給料はやたらいいから…数年すればそこそこ貯まるだろう。

 

「できましたよー」

 

 等と考えている内に……スズカは目玉焼きトーストを作り上げていた。…なんの変哲もない目玉焼きトーストだが、スズカが作ったと言うだけで高級料理屋レベルのとても美味しそうな物に見える。

 

 目玉焼きトーストを盛り付けた皿を眼の前に置いてくれるスズカ。そして、また対面する位置に座る。

 

「…いただきます」

 

「どうぞ〜」

 

「モグッ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

___________数十分後。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごちそうさまでした…」

 

「お粗末さまでした〜」

 

 美味しかった。

 

「あ〜、スズカが作ると何でも美味しいな〜」

 

「フフフフ……ありがとうございます」

 

 食べてる時は…やはりスズカにガン見されていた。ただ食べてるだけなのに何だか恥ずかしい気分になる。

 

「なぁ、スズカ…見てて楽しかったか…?」

 

「はい。モグモグ食べてる所がハムスターみたいで…可愛かったです」

 

「ハムッ……そ、そんな可愛くもないだろうに。それに絶対補正がかかってるよ、スズカ…」

 

「……トレーナーさんは本当に自己評価が……いえ、なんでもないです」

 

「?」

 

 スズカが目を細めてこちらも見てくるものだからクイ、と首を傾げる。別に私なんて容姿にも気を使って無いし可愛く映るはずもない。多分スズカの補正のせいだろう…。

 

 沈黙がしばらくリビングを包む。…ふと、寝起きの時に考えた事をスズカに聞いてみよう、と思った。

 

「……なぁスズカ。私が…学園に新しい子を見つけろ……って言われて……新しい子をスカウトしたら……スズカは怒るか?」

 

「………………………」 

 

 再び沈黙。…これはマズイ。

 

「あっ、あぁぁぁぁ今のは忘れ」

 

「………………してくれるなら」

 

 不用意にデリケートな話題を切り出してすぐ訂正しようとした所で…スズカが遮る。

 

「お仕事以外では……いっぱい…いっぱい愛してくれるなら……いいです。もう、前みたいに走れない普通の女の子ですけど……私、トレーナーさんに相応しくあれるよう、頑張りますから。だから、私を…1番にしてください……それで…私を1番にしてくれるなら…いいんです。…トレーナーさんの…お仕事を奪うのは、嫌、ですから」

 

「…す、スズカぁ」

 

 情けない声を漏らしてしまう。最悪トレーナーを辞めようとも思っていたが……。どうやらまだ私をはトレーナーを続けてもいいらしい。

 …神様はスズカから走りを奪ったのに私からは何も奪わないんだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 安堵していたのも束の間、ザラリとノイズ掛かったような、やけに耳に残る声がリビングに木霊する。

 ……ゆっくりとスズカを見ると……あの目があった。何回見ても見慣れない、どろどろに濁った、生気を吸われるような目が…私を射抜いていた。

 でも、そんなスズカの目が……綺麗にも見えた。

 

「でも、あんまり蔑ろにされ続けたら………私、どうにかなっちゃうかもしれません」

 

 ゾッとする声。心底底冷えする声。心臓を直接掴んでくるような声。

 思わず背筋が伸びた。…本当に…目を離したら、いなくなってしまいそうな……いや、殺される…?そんな感覚に、陥る。

 ……病室にいる時から、危なっかしい場面はあった。…スズカを二の次にしちゃいけないな、これは。

 決めた。スズカが幸せに暮らせるよう頑張ろう…。もちろん、トレーナーとしての仕事を疎かにするつもりもないが…。…しかし、決めたからな。スズカは幸せにする。

 

 そう心に決めた瞬間、心か、脳か。そこにあった、最後の理性の糸が、絶たれた。

 

「……スズカ」

 

 ガタン、と椅子から立ち上がる。それにびくり、とスズカが肩を震わせ、私を見上げた。そのままソファへと向かい、座る。

 

「おいで、スズカ」

 

 自分の隣をポンポンと叩く。

 スズカは濁った目のまま、不思議そうに首を傾げながらこちらへ向かい、素直に隣に座ってくれた。

 

「スズカのことは絶対に蔑ろにしない。……スズカが満足するまで……幸せにし続けるから」

 

「………ずっと、満足しないかもしれませんよ…?」

 

「なら、ずっと頑張り続けるよ」

 

 …言っている途中で耳が熱くなって来た。スズカもハッとしたような顔をして俯いてしまって表情が見えないし……いや、俯いてくれている方がありがたい。今、大分情けない顔をしてるから…。

 尻尾もやたらぱたぱたと跳ねている。

 

 ちょっとして、スズカが私の体に身を寄せて来た。そして服を摘む。

 

「トレーナーさんは……ずるいです。真面目な顔で、そんな事を……ポコポコと……」

 

「ご、ごめん…でも…私ってそういう経験とか無かったし…こういう時どうすればいいかわからないんだ…。真面目な話じゃないのか…? これって…。それに…そういう関係になったんだし……お互いに幸せになれた方が…良いでしょ…?」

 

「〜〜〜〜〜ッッ」

 

 スズカがグリグリ、と頭を二の腕に押し付けて来る。

 

「……重い女になってしまって、ごめんなさい」

 

 俯いたままスズカが突然そう切り出す。

 

「……あ〜…それは……私にも責任があるって言うか……。あんまりウマ娘に入れ込むな、って、私自身が教えられたけど、守れなかったし…」

 

「まさかスズカにそこまで思われてるなんて考えて無かったし…」

 

「でも…」

 

「……そこまで私を求めてくれるスズカを、愛おしく思ってしまう……どうしようもない自分がいるんだ」

 

 自分の胸中の燻りが、どんどん冷えて行く。冷たい物が、体全体へと伝播する。指先に、脳に、目に。

 

「……トレーナー…さん…」

 

 スズカが僅かにたじろく。

 

「お互い……どうしようもないな? ははっ」

 

 心の底から笑ったつもりだが……口から漏れた笑いは、やたらと乾いた物だった。

 

 初めて見るであろう私の姿に、スズカは少し気圧されたのだろう。だが、すぐに……まるで、その目が欲しかったと言わんばかりに、綺麗な三日月に口を歪める。そして、より目の淀み、濁りが深くなり…。

 

 ああ、綺麗な目だよ、スズカ。

 

「…はい♪ だから……どうしようもない位に……深く沈んで行きましょう…?」

 

「…あぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    「大好きですよ」「大好きだよ」

 

 

 

     「トレーナーさん」「スズカ」




 拙い文章ながらトレーナーサイドを最後までありがとうございました。スズカはテイオーと違ってマイルドそうなのでマイルドにしました。

 途中、トレーナーの味覚がおかしい描写がありましたが、あれはショックとストレスによるものです。特に深い意味はありません()

 スズカ編の次はテイオー編となります。テイオー編はかなりしっとりする予定です。

 次回、sideスズカ。
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