初配信から今日で1周年を迎えた、Vtuberのロロちゃんをお祝いしての小説を書きました。

1 / 1
執事の俺とメイドの彼女

小根幸太郎、彼は高校を卒業しやっとの思いで就職、その会社で6年間勤めていた。

しかし、昨年から流行りだしたコ○ナのせいで、歳が若かった幸太郎は何故か白い目で見られるようになった。

理由は…コ○ナは若者が感染拡大させるから、と…

 

結局幸太郎は会社を退職し、新しい仕事を探していた。

しかし、良さげな職場を見つけても雇ってもらえず、今日も職安に向かっていた。

 

 

「あんまりだよな、俺達若者を腫れ物扱いだもんな、世間は。社会を動かすには若者のパワーが必要だってのに、分かってんのかねそこら辺…」

 

 

愚痴を零しながら幸太郎は職安への道を歩いていく、職安まで後200m程という所で電柱に気付いた。その電柱には何か張り紙がされていた。

張り紙には”バイト募集中”の文字が書かれていた。

 

 

「バイトか、内容は…執事?執事ねぇ…でも時給高いなこれ、住み込み可、費用無料、水道光熱費も無料、ね…怪しいやつじゃないと良いけど」

 

 

幸太郎は半ば半信半疑で、張り紙に書かれていた番号に連絡をした。

そしてその翌日面接に向かう事になった。

 

 

「体力ありますか?」

 

 

面接に向かって開口一番、その言葉だった。

幸太郎は6年間工場勤務をしていたので、それなりの体力はあった。

面接官に頷くと、その場で合格を貰った。

この時点で怪しさ満点である、普通は体力あるかだけで合格は無い。

だが幸太郎にも生活がある、ここを蹴ったら次何時就職出来るかは分からない。

警戒しつつも、出勤当日を迎える事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

出勤当日、幸太郎は最低限の荷物で働き場所である屋敷に辿り着く。

住み込み可と書いてはあったが、何かあった時の為にすぐ逃げれるようにする為である。

これから幸太郎にはどんな過酷な日々が待っているのだろうか。

 

 

「今日からお世話になります、小根幸太郎です。よろしくお願いします」

 

「あー、君が新しい執事君か。よろしくね、分からない事は彼女に聞いてね」

 

 

屋敷の主の紹介で前に出てきた、見るからにメイドの格好をした女性が幸太郎の前に出てくる。

 

 

「メイドのロロと申します、よろしくお願いしますね」

 

「彼女は優秀なメイドだから、大丈夫だよ」

 

「よろしくっす」

 

「それじゃあまずはこっちで服のサイズを測っていきましょう、”こねこさん”」

 

「…あの、俺の名前違うんですけど」

 

「あ、その子あだ名というか、名前付けるの好きみたいなんだよ。でも初対面で付けられるのは珍しいね、気に入られたかな?」

 

「もう、ご主人様!変な事言わないでくださいよ。お夕飯抜きにしますよ?」

 

「はは、ごめんごめん、それじゃ行っておいで」

 

「は、はぁ」

 

 

いきなり呼び方を変えられ、内心納得はいってないものの、幸太郎はロロの後をついて行った。

衣装室には様々な服があったが、どれも女性ものであった。

男性用は一種類のみである。

 

 

「すみません、女の子の洋服なら結構種類あったんですけど」

 

「いえ、大丈夫っすよ」

 

 

手渡された制服を更衣室で着替え、鏡で確認する。

幸太郎はずっと工場での作業着だった為執事服は新鮮であった。

スラッとしていて、首元に付いている蝶ネクタイが良く似合う。

 

 

「どうすかね」

 

「とても素敵ですよ、こねこさん」

 

 

ロロは微笑みながら素敵と言うが、幸太郎は素直に喜べなかった。

ずっとあだ名で呼ばれているからである。

 

 

「あの」

 

「はい、何ですか?」

 

「俺の名前、小根幸太郎なんすけど…」

 

「そうですね」

 

「何でこねこなんすか?」

 

「全体の名前上から3文字を取って、こねこさんって呼ぼうとしてるんですけど、やっぱり迷惑でしたか…?」

 

 

ロロは今にも泣き出しそうな顔でそんな事を言う、幸太郎は慌てふためき、渋々ではあるがあだ名を受け入れる事になった。

 

 

「(この子、可愛いんだけど何だろうな、変な感じがする)」

 

 

その後ロロの説明の下、幸太郎は仕事を少しずつ覚えていった。

仕事内容は炊事洗濯etc、所謂雑用係である。

そこまではまだ日常的にやる事だから楽であった。

が、屋敷のもう一人(?)の住民に頭を悩ましていた。

 

 

「ニャー!」

 

「な、何だ…?」

 

 

声のする方へ向けると、猫が高そうな壺と戯れていた。

 

 

「あー!子猫さんダメですよ!」

 

「ニャー」

 

 

ロロが叱り猫の方へ走っていくと、猫は壺から飛び離れた。

その拍子に壺は台から落下し、粉々に割れた。

 

 

「あぁ…ご主人様の壺が…」

 

「今のは一体?」

 

「あ…子猫さんですね、ロロが飼ってるというか、お友達というか」

 

「なるほど、でも困らせるような事するのはちょっとな」

 

 

幸太郎が猫を見ていると、猫が幸太郎の方へ振り向き、軽く威嚇するポーズを取っていた。

 

 

「(何なんだあいつ…)」

 

 

 

 

 

「ロロさん、どうすんすか?ここにあるべき壺」

 

「そ、そうですね、とりあえず同じ壺を買ってくるしか」

 

「壺って高くないすか?」

 

「そこは…何とかします」

 

 

ロロの顔は青ざめていたが、証拠隠滅するには新しく壺を買ってくるしか無いようだ。

 

 

「それじゃあ、ちょっと行ってきますね」

 

「あ、俺も行きますよ、壺結構大きかったし」

 

「ありがとうございます、それじゃあ、お願いします」

 

 

こうして、ロロと幸太郎、2人で壺を買いに行く事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

屋敷から骨董品屋までは徒歩で十五分程、少し歩く程度である。

店の中はどれも高そうな壺ばかりで、六桁万は当たり前、高い物は八桁万の代物もあった。

屋敷にあった壺は比較的控えめな値段ではあったが、それでも高い。

 

 

「すいません、この壺と同じ壺ありますか?」

 

 

ロロが店主に壺の写真を見せると、店主はある物を指した、屋敷にあった同じ壺である。

 

 

「あ…これ、おいくらですか?値札がありませんけど」

 

 

店主は手をパーの状態でロロの目の前に出した。

 

 

「ん」

 

「えっと、50…ですか?」

 

「5」

 

 

破格の値段、本来六桁万は当たり前の店なのにそれを一桁万である。

 

 

「良いんですか!?」

 

「あの屋敷はお得意さん、それに、この壺を凄い気に入られてた。だから良い」

 

「ありがとうございます!」

 

「(良いのか、それで)」

 

 

ロロは嬉々として、幸太郎は首を傾げながら会計を済ませ、店を後にした。

壺は大きく、割れないように包んで貰うとより大きくなり、幸太郎の胸元くらいまでの大きさになった。

幸太郎は自分が持とうとしたが、ロロは「力持ちなので大丈夫ですよ」と言い自分で背負ってしまった。

 

 

「ロロさん、力あるんすね」

 

「ロロは優秀ですからね、これくらい余裕ですよ」

 

「はは…(俺も力あるし、かっこいいとこ見せたかったんだけどな)」

 

 

屋敷に戻り、壺を元の位置に戻す事に成功した2人は休憩室へ、紅茶が香り、クッキーに舌鼓していた。

 

 

「こねこさん、着いてきていただきありがとうございました」

 

「何もしてないっすけどね」

 

「そんな事無いですよ、ロロ一人じゃその…心細かったですし」

 

 

ロロは俯きながらそんな事を喋る、幸太郎は意外そうな顔でロロを見ていた。

幸太郎の中でロロは一人でこなしているイメージだったからだ。

 

 

「そっすか」

 

「はい、それじゃあ休憩はこれくらいにして、お仕事再開しましょう!」

 

「うぃっす!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最初の内は幸太郎とロロ二人で同じ場所を掃除等していたが、次第に一人でこなしていけるようになった頃、事は起こった。

幸太郎が腰を骨折したのだ。

幸太郎は過去に工場勤務で身体の作りはしっかりしていた、筋力も人並みより少し上くらいにはある。

だが、それを上回る負荷が腰を襲ったのだ。

 

 

 

 

 

遡る事三日前

「こねこさんすいません」

 

「どしたんすか?」

 

「お部屋の照明を取り替えたいので、ちょっと台を抑えてて貰えませんか?」

 

「了解っす」

 

 

ロロに言われた通り台を抑え、ロロが照明を取り替えていく。

幸太郎は興味本位で顔を上げた、ロロがどんな下着を履いているのかと。

所謂下心である。

 

 

「なっ!?」

 

「ん?どうしたんで…って何で上向いてるんですか!」

 

「あ、いや、その」

 

「もぅ!こっち見ないでくだ…キャッ!」

 

 

台を抑えているとはいえアンバランスな体勢、そんな場所で激しく動けばどうなるか?

バランスを崩して転倒する。

ロロも例に漏れず、台から転倒して落下してしまう。

 

 

「危ない!(受け止めないと!)」

 

 

幸太郎はロロを抱き抱えて事なきを得ようとした、が…予想外な事が起きた。

 

 

「あれ…?(ちょっと重…ウグッ)」

 

 

ロロを抱き抱える事は成功し、ロロに怪我は無かった。

しかしその代償に、幸太郎がクッション代わりになりそして…腰を強く強打した。

その衝撃はぎっくり腰では留まらず、骨にまで影響をおよぼす程になってしまった。

 

 

「いたた…こねこさん…?大丈夫ですか!?こねこさん!?」

 

 

ロロが幸太郎に声を掛けるも、反応は無い、そのまま幸太郎は病院に運ばれる事になった。

診断の結果、腰の骨折。

一ヶ月は安静にしておかないといけないらしい。

屋敷に戻り事情を説明すると、治ってからまた働いてくれるならここで休んでても良いとの事。

幸太郎はそれを承諾し、静養する事になった。

 

 

 

 

 

その日の夜、部屋をノックする音が聞こえる。

 

 

「こねこさん、今大丈夫…ですか?」

 

「あ…はい、大丈夫っすよ」

 

 

ドアを開け入って来たのは、寝間着姿のロロだった。

その表情は暗く、今にも泣き出しそうになっていた。

 

 

「こねこさん、ごめんなさい。ロロのせいでこんな事に」

 

「ロロさんのせいじゃないっすよ、それに、俺も謝んなきゃだし」

 

「そんな…」

 

「こんな怪我、さっさと治すんで待ってて下さい、すぐに復帰するんで」

 

「はい…」

 

 

 

 

 

そこから沈黙が続く、幸太郎は何か気の利いた事が言えないか考えるが思いつかない。

程なくしてロロが口を開いた。

 

 

「ロロ、優秀なメイドですけど、ポンコツなんです。

今でこそ大分落ち着きましたけど、最初の頃は何をやっても本当にダメで、その度に泣いて、でもロロが頑張らないといけなかったから…やっと一人前になれたかなってところで、こねこさんが来てくれたんです。それで、良いとこ見せようと思って頑張ってたのに…こんな…本当にごめんなさい」

 

 

ロロは時折嗚咽を漏らしながら、幸太郎に話す。

幸太郎は黙ってそれを聞いていたが、ため息を吐きながらロロに手を伸ばす。

その手の行き先は、ロロの頭だった。

 

 

「ロロさんが頑張ってたのは俺の目にもしっかり映ってましたよ。俺にとっては素敵な先輩すよ、ポンコツが何なんすか、メイドは完璧じゃないといけないんすか?俺は今のロロさんがダメとは思わないっすよ」

 

「こねこさん…ありがとう…ございます…」

 

 

その後ロロは暫くの間、幸太郎の傍で泣き続けた。

幸太郎はその間ずっとロロの頭を撫でていた。

 

 

「ぐすっ、もう大丈夫です、ありがとうございました」

 

「本当に大丈夫すか?」

 

「はい、大丈夫ですよ」

 

「なら良かったっす」

 

「それじゃこねこさん、また明日」

 

「あ、そうだ1つお願いが」

 

「何ですか?」

 

「明日からで良いんすけど、牛乳貰っても良いすか?」

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幸太郎の骨折は治った、がその期間がおかしかった。

医者からは一ヶ月は安静にしなければいけないはずだった。

なのに幸太郎は一週間で骨折を治した、常軌を逸していた。

それを可能にしたのは”牛乳”である。

やはりカルシウムは偉大なのだろうか?

 

 

 

 

 

「んーっ!身体が鈍ったな、早く体力共に戻さねぇと」

 

「こねこさん、もう大丈夫なんですか?」

 

「もう平気っすよ、ご心配おかけしました」

 

「平気って、まだ一週間なのに…凄いですね」

 

「回復力だけは高いんで」

 

 

こうして、たった一週間で回復した幸太郎は執事業に復帰する事になった。

 

 

復帰した直後はやはり動きがぎこちなかったが、ロロが時折手助けをして仕事をこなしていった。

そして、幸太郎の中で一つ変化があった。

ロロに対する感情である。

最初はただ可愛いという感情だったが、ロロの弱ってる部分を知ってからというものの、支えたい、助けたい、そう思うようになっていた。

実際、仕事をこなせるようになってきてロロに頼られる事が多くなっている。

だからこそなのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

六日後

この屋敷には子猫の他にもう一人、住んでる人間が居る。

そのもう一人が今日帰ってくるのだ。

名前は永遠、読み方はとわである。

 

 

「ロロさん、今日なんすよね?屋敷の娘が帰ってくるのって」

 

「そうですよ、お嬢様に会うのが待ち遠しいです」

 

「どんな感じなんすか?」

 

「可愛いです」

 

「他は?」

 

「可愛いです」

 

「あ、はい…」

 

 

その時玄関のドアが勢い良く開かれる。

 

 

「ただいまー」

 

「あ、帰って来ましたよ、行きましょう」

 

 

2人が玄関まで行くと、ボーイッシュな女性が大荷物で立っていた。

 

 

「あ、ロロただいまー。んで?こっちの男は誰?ロロの彼氏?」

 

「ち、違いますよ!この方はこねこさんです」

 

「…ども、小根幸太郎です」

 

「ふーん」

 

 

永遠は幸太郎の周囲をグルグル回り、品定めをしていた。

 

 

「あの、お嬢様…?」

 

「あー、ごめんごめん、はいこれ、旅先で買ってきたちゅーる。子猫にあげてきたら?」

 

「あ、ありがとうございます。こねこさん、すいませんが後はよろしくお願いしますね」

 

 

ロロはそう言うとちゅーるを持って何処かに行ってしまった。

残された二人はというと

 

 

「ねぇアンタ」

 

「なんすか?」

 

「ロロの事好きなん?」

 

「………は?」

 

「ロロを見てる時の目がそれっぽそうだったから、それにロロは可愛いし」

 

 

初対面の永遠にいきなり言われ幸太郎は困惑する。

誰にも幸太郎の中に秘めた想いは打ち明かしていないのだから。

 

 

「…バカは休み休み言ってください”お嬢様”荷物は部屋っすか」

 

「へぇ、図星なんだw」

 

 

その一言で幸太郎の中で何かが切れた。

 

 

「お前なぁ!」

 

 

幸太郎が永遠に詰め寄ると永遠の人差し指が幸太郎の口に塞ぐように触れる。

 

 

「しー…仮にも屋敷の娘にそんな言葉遣いはダメだね。クビになってもおかしくないよ?」

 

「くっ…」

 

「まぁ、これを飲んでくれたら許してあげる。別に目の前で飲まなくても良いよ」

 

「…見るからに怪しいんすけど」

 

 

永遠に渡された小瓶の中身は、毒々しい色をしていた。

 

 

「荷物は良いわ、自分で持ってくから」

 

「…」

 

「そうそう、職場恋愛は気を付けなよ?」

 

「…は?」

 

「んじゃねー」

 

「あ、おい!」

 

幸太郎の事を置き去りに、永遠は自室へ戻って行った。

残された幸太郎の手には毒々しい小瓶が握られていた。

 

 

 

 

 

数分前

永遠からちゅーるを貰ったロロは、子猫のところへ向かいちゅーるをあげていた。

 

 

「美味しいですか?子猫さん」

 

「ニャッ!」

 

「ふふっ、良かったです。それじゃあロロはまだお給仕が残ってるので、行ってきますね」

 

「ニャー」

 

 

ロロは玄関に戻ると、二人が話し合ってるのを見かけた。

声を掛けようとするも、その足が、口が止まる。

幸太郎と永遠の距離が、ほぼゼロだったのだ。

 

 

「(お嬢様…その距離はもしかして、”キス”ですか…?お嬢様もお年頃ですもんね。でも何ででしょう…今のお二人を見てると、胸の奥がザワザワします…)」

 

 

ロロは二人に声をかけず、自分の仕事に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、幸太郎は自室で永遠から受け取った小瓶をジッと睨みつけていた。

 

 

「本当にこれ大丈夫なんだろうな」

 

 

小瓶の中身は毒々しい色をした液体、流石に人命に関わる代物では無いと思いたいが、不安は拭えない。

 

 

「明日で良いか」

 

 

小瓶を机に置き、そのまま横になる。

この液体は一体何なのだろうか。

 

 

 

 

 

ロロの寝室

「どうして…?どうして胸のざわめきが止まらないの?苦しい…苦しいよ」

 

 

ロロもまた、一人何かに苦しんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、幸太郎とロロは各自手分けして仕事をしていた。

ロロは各部屋のベッドメイキング、幸太郎は床掃除と窓掃除。

掃除してる部屋が一緒の時は軽く雑談が出来るくらいにまで幸太郎は仕事が慣れていた。

 

 

「それで、子猫さんったらまた食べ過ぎちゃって」

 

「あいつら食いしん坊だなぁ」

 

 

そんな他愛無い話をしながらだった。

その空間を壊したのは

 

 

「ロロー、ちょっと幸太郎借りるよ」

 

「あ、はい、お嬢様」

 

 

永遠だった。

 

 

 

 

 

「んで、何なんすかお嬢様」

 

「あれ、飲んだ?」

 

「まだっすけど」

 

「早く飲んでよ」

 

「自分のタイミングで飲むんで」

 

 

案の定あの小瓶の事だった。

何時かは飲むと説明しているが、永遠は幸太郎の耳に近付き「早く飲まないと、お母様に言うよ?乱暴な口の利き方した事」と言い離れた。

 

その光景をロロの目には、仲良く、楽しそうにしてるみたいに映っていた。

 

 

「(こねこさん…お嬢様…)」

 

 

二人の様子を見てるだけで、ロロの胸のざわめきはまた激しくなっていく一方だった。

 

 

「んじゃまたね」

 

「はぁ…はい」

 

 

幸太郎がロロの元へ戻ると、ロロの目には涙が浮かんでいた。

 

 

「ロロさんどうしたんすか?」

 

「何でもないですよ」

 

「でも」

 

「何でもないですってば!」

 

「っ!」

 

「あっ…ごめんなさい…!」

 

 

語気を強めて言った言葉に幸太郎は驚き、そんな言葉を放ったロロは逃げるように部屋を後にした。

 

 

「ロロさん」

 

 

幸太郎のロロを呼ぶ声は、部屋に虚しく響くだけだった。

 

 

 

 

 

その後、二人が部屋で一緒になっても会話は無く、黙々と仕事をこなしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、幸太郎はまた小瓶を見つめていた。

 

 

「…飲むか」

 

 

小瓶の栓を抜き、匂いを嗅いでみたが、無臭だった。

 

 

「どうか死にませんように」

 

 

切実に祈りながら、一気に飲んでいく。

味も無味だった。

 

 

「…ぷはっ!はぁ、はぁ、これで良いんだよな、永遠お嬢よ」

 

 

飲んだ後、幸太郎の身体に変化は感じられない。

おそらくただ着色された水だったのだろう、その程度にしか考えていなかった。

 

 

だが、小瓶の中身を飲んだのが後々、幸太郎の身体にとある変化を起こす事になろうとは当時の幸太郎は知る由も無かった。

 

 

 

 

 

ロロの寝室

「嫌…どうして?どうしてあの二人の事を考えると胸が苦しくなるの?辛い…苦しい…お嬢様、こねこさん…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、ロロはいつも通り仕事をこなしていた。

が、そこに幸太郎の姿は無かった。

 

 

「ロロ、幸太郎は?」

 

「今日は見てませんね」

 

「ふーん、何処行ったんだろ」

 

「そうですね(こねこさん…)」

 

 

 

 

 

幸太郎の寝室

「…」

 

 

部屋には一匹の猫が居た、ロロが飼っている子猫と同じ毛並の猫が。

しかしそれは

 

 

「ニャァァァァァ!?(なんじゃこりゃぁぁぁぁ!?)」

 

 

突如子猫になった幸太郎だった。

 

 

「ニャ…(どうしてこんな事に)」

 

 

幸太郎は考えた、何故こうなったかを。

答えは容易だった。

”あの小瓶”が原因だと。

何時元に戻るのかも分からず、幸太郎はただ部屋を飛び出していた。

 

 

 

 

 

飛び出して向かった先は永遠の部屋へ、幸太郎は抗議の意思を示しに向かおうとしていた。

しかし、幸太郎は今猫の姿、ドアを叩く事も出来ず、開ける事も出来ない。

だから幸太郎は

 

 

「ニャァァァァ!」

 

 

鳴く事にした。

子猫(幸太郎)の鳴き声が屋敷に響き渡る、程なくしてドアが開かれた。

 

 

「うっさいなぁ、って子猫じゃん、どうしたの?」

 

「ニャァァァ!(どうしてくれんだこれ!)」

 

 

子猫(幸太郎)は怒りを込めながら鳴いていた、が永遠には分からなかったようだ。

 

 

「アンタのご主人は今仕事中だよ、今日は幸太郎見かけてないせいで余計大変らしいけど」

 

「ニャァァ!ニャァァ!(早く元に戻せ!早く!)」

 

 

子猫(幸太郎)の耳に永遠の声は届かなかった、それ程今の状態が切迫しているという事だったのだろう。

 

 

「しつこいなぁ、ほんと何なん…まさかとは思うけどさ、アンタ幸太郎じゃないよね?」

 

 

永遠は何かに気付いたのかそんな言葉を口にした、子猫(幸太郎)は分かってくれたのかと喜びその場でジャンプをし始めた。

が、それが悪手だった。

 

 

「なるほどねぇ、ふーん、ふふふ…w」

 

 

永遠は悪い顔をしながら、子猫(幸太郎)の首根っこを掴んで歩き始めた。

抵抗するも虚しく、ただ運ばれて行った。

着いた先は、ロロが掃除している部屋だった。

 

 

「ロロ、悪いんだけどさ、こいつ風呂に入れてやってくんない?」

 

「ニャ!?(はぁ!?)」

 

「え、今からですか?まだお掃除終わってないんですけれども」

 

「出来れば今かな」

 

「分かりました、では行きましょうか、子猫さん」

 

「ニャァァァァァ…(永遠お嬢お前覚えてろよ…)」

 

「ごゆっくり〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風呂場に連れて行かれ、シャワーを背中からかけられる。

風呂は昨日入ってあるから綺麗ではあるのに。

子猫の姿だとそんな事は分からないだろう。

 

 

「子猫さん、身体洗いますよ」

 

 

泡立ったロロの手が子猫(幸太郎)の身体を洗っていく、思いの外上手なのか、幸太郎の目は蕩け始めていた。

 

 

「ニャア〜…(気持ちいい…)」

 

「ふふっ♪はい、じゃあ流しますよ」

 

 

手で温度調節しながらなのか、身体に浴びるお湯は熱くなかった。

 

その後身体をロロが拭いていると、ポツポツと話しかけてきた。

 

 

「子猫さん、ロロね、今ちょっとだけ辛いんです」

 

「ニャ?(ロロさん?)」

 

「永遠お嬢様と、こねこさん…幸太郎さんが話すのを見てると、胸が苦しくなるんです。最初は苦しみとかは無くて、ザワザワするだけだったんですけど…次第に痛みや苦しみに変わっちゃって。

でも、ロロにはどうしたら良いのか分からないんです。ロロは優秀なのに、この痛みを、苦しみを、取り除く術が分からないんです…」

 

「ニャ…(ロロさん…)」

 

「だから、実は今日、掃除してるついでに調べ物をしていたんです。そしたら、この胸の苦しみの原因が分かりました。

ロロ、こねこさんの事…幸太郎さんの事を、好きになってたみたいなんです。

最初は、ただ住み込みで働きに来る人ってだけで、ロロの方が先輩だから良いところを見せようって張り切ってただけだったんです。

でも、一緒に働くようになって、話すようになって、楽しくなってきて、ロロが台から落ちそうになった時も、身を呈して守ってくれたんです。そのせいで腰を怪我されちゃいましたけど…

もしかしたら、あの時から既に好きになっていたのかもしれません。

だからなのかな、好きな人が、永遠お嬢様と話していて、しかも…キスまでされてたら辛くも…なるのかな…」

 

「…」

 

 

後半につれて、ロロは嗚咽混じりになっていった。

子猫の姿の幸太郎には、何もする事が出来なかった。

 

 

「ニャ(ロロさん)」

 

「子猫さん…?」

 

 

綺麗に拭かれたその顔を、ロロの顔に擦り付ける。

幸太郎なりの接し方であった。

 

 

「ふふ…ありがとうございます、子猫さん。少しだけ楽になれましたよ」

 

「ニャ!(それは何より)」

 

 

一匹と一人、笑いあって次に進む。

事が出来ればどれだけ良かったのだろうか。

タイミングとは、時として残酷なものになる。

突如子猫(幸太郎)の身体から激しい音がし、もくもくと白い煙のようなものが立ち込めた。

 

 

「こ、子猫さん!大丈夫ですか!?」

 

 

煙が晴れるとそこには、人間の姿に戻った幸太郎の姿があった。

 

 

「あ…」

 

「え…何で…こねこさん…?」

 

「あの…その…」

 

「…って」

 

「え?」

 

「ここから出てって!」

 

「っ!」

 

 

逃げるように幸太郎は風呂場を後にする、ロロに何も声をかけれず。

かける事も出来ないのは当然だろう、ロロは幸太郎を子猫と思い接し、胸の内に秘めてる想いを話してしまったのだから。

 

 

「何で、子猫さんが、こねこさんに…ロロ、全部、話しちゃった…やだ…どうしたら…うぅ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風呂場を出て自室に戻り、少しずつ冷静になっていく。

一つ、子猫から元の姿に戻った時裸だった。これは非常に不味い、自室まで裸で走ったのだから。

何よりロロに裸を見られた、普通に恥ずかしい。

一つ、ロロと幸太郎の距離はほぼゼロだった。下手をしたらキスまで出来ていた可能性も無きにしも非ず。

一つ、ロロは幸太郎の事が好きだった。これには幸太郎も驚いた。幸太郎も少しずつではあるが、ロロに好意を持ち始めていたのだから。

 

 

「はぁぁぁぁぁ…どうすりゃ良いんだ俺」

 

 

幸太郎は頭を抱えていた、おそらくさっきの出来事でロロに少なからず嫌悪感を抱かせたに違いない。

そして仕事の先輩でもある、毎日顔を合わせる、とても気まずい。

そんな事を考えていると、ドアを叩く音が聞こえる。

ドアを開けるとそこには永遠が居た。

 

 

「よっ」

 

「…なんすか」

 

「小瓶、飲んだんだね」

 

「飲みましたよ、飲んだらどうなったか分かったでしょう?そして、アンタがやった事でどうなったかも」

 

「それについては謝るよ、だからこうして来たんだから」

 

「良いからお引き取り下さい、俺は今疲れてんですよ」

 

 

永遠は何かを言いたそうだったが、幸太郎は気にも止めずドアを閉めた。

 

 

「アンタ、このままで良いの?あの子の想いを知って、そりゃ…やり方は悪いとは思う、でも!アンタ達を見てたら…見てたら…応援…したかったんだよ…小瓶の効果は本当に知らなかった、それは謝る、ごめん。でもさ、自分の心に嘘だけは、つかないでよ」

 

 

永遠はドア越しにそう言い残し、去って行った。

 

 

「だったら…ほっといてくれよ…バカ野郎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日を境に、幸太郎とロロは一切口をきかなくなった。

それでも仕事の分担は出来ていて、言葉を交わさずとも仕事をこなしていた。

 

 

「ねぇ、永遠」

 

「何?お母様」

 

「最近あの二人、喧嘩でもしたの?」

 

「あー…うん、そんな感じ…かな」

 

「そう」

 

「…」

 

 

永遠は今回の事の発端の一端でも為、あまり口を開く事が出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幸太郎とロロ、二人で書庫を掃除してる最中、棚の埃を取る為本を机の上に重ねていた。

棚一つ一つ、埃を取る度に本をまた入れ直す。

これを繰り返し、最後の棚の掃除を終え本を戻そうとする。

が、幸太郎はよろけて重ねていた本を床にばら蒔いてしまった。

 

 

「あっ…やべ」

 

 

すぐさま幸太郎は床に落ちた本を拾い上げ、机に置いていく。

するとロロも本を拾うのを手伝い始めた。

 

 

「すんません、ありがとうございます」

 

「…」

 

 

幸太郎の声に反応せず、黙々と本を拾い上げていった。

そして棚を確認しながら、本を元あった場所に戻していく。

一人で戻すと時間はかかるが、二人でなら早く終わる。

戻し終わると、ロロはその場を立ち去ろうとした。

 

 

「あの、ロロさん」

 

 

幸太郎がロロを呼ぶ、ロロは振り向くが、その目はとても冷ややかなものになっていた。

 

 

「あ、あの」

 

「もう、話しかけないでください、”幸太郎さん”」

 

 

ロロはそう言い残し書庫から去って行った。

幸太郎は俯き、拳を握りしめていた。

 

 

「(これほんとにヤバいな、罪悪感半端ないわ。どうにかしないと…)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幸太郎とロロが口をきかなくなって二週間、屋敷の空気も悪くなっていた。

少し前までは軽くではあったが、幸太郎とロロの雑談が聞こえながら楽しく仕事をしていた。

それが今は会話は一切無い、食事の時もお互い無表情である。

 

 

「ねぇ永遠」

 

「…うん、流石にもう何とかしないとね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ロロ、ちょっと良い?」

 

「どうしました?永遠お嬢様」

 

「ちょっと遊ばない?」

 

「良いんですか!?」

 

 

突然の永遠の訪問、そして遊びへの誘いにロロのテンションは上がっていった。

 

 

「たまにはさ、遊びたいなって」

 

「嬉しいです!何で遊びますか?」

 

「じゃあ、レースゲームでも」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

永遠とロロがレースゲームで遊び始めて一時間が過ぎる頃、トワが口を開いた。

 

 

「ロロ」

 

「何ですか?先頭だから余裕なんですか?」

 

「幸太郎の事、まだ許せない?」

 

「…」

 

 

ゲームに集中していた手が、その問い掛けで止まる。

 

 

「あれ、さ…永遠にも責任あるんだよ、だから」

 

「お嬢様」

 

 

永遠は何かを言いかけるが、ロロがそれを止める。

 

 

「ロロ、もう寝ますね。ゲーム楽しかったです、おやすみなさい」

 

「ロロ…」

 

 

ロロは永遠の部屋を後にし、自室へ戻って行く。

その右手は、胸を抑えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻

幸太郎は自室で一人黄昏ていた。

今日やっと声をかけれたが、無反応。

そして、もう話しかけるなと…極めつけはあだ名じゃなくなった事。

最初は名前じゃなく違和感があり、嫌悪感すら多少はあったが、今となってはあだ名で呼ばれるのが当たり前であり、それが日常なのだと、幸太郎の中で認識していた。

そのあだ名を使わなくなった、という事は…そういう事なのだろう。

 

 

「嫌われてから、気付くんだな。心にポッカリ穴が空いた気分だ、ずっと気付かないようにしてた。

ただあの人を支えたいってだけで留めようって、そう思ってた。

なのに、気付けばあの人の事ばっかり考えちまう、俺は…最低で、大馬鹿野郎だな」

 

 

幸太郎の目から何かが零れる、それの正体は言うまでもない。

幸太郎は何かを書き、そしてベッドに横になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その翌日、仕事の始業時間になっても幸太郎は姿を現さなかった。

ロロはそれにすら関心を示さず、仕事を始めていた。

不思議に思った永遠は、幸太郎の部屋へ向かった。

 

 

「おーい幸太郎、アンタもう仕事の…」

 

 

ドアを叩いていたが、鍵は掛かっておらず、ドアを開けるとそこには幸太郎の私物と姿は無かった。

 

 

「嘘じゃん…」

 

 

永遠は驚いた様子で辺りを見渡した、すると机の上に書き置きがあった。

その横には…辞表もあった。

 

 

「あのバカ…こんな事して喜ぶと思ってんの…?」

 

 

書き置きと辞表を握り潰し、母の元へ急ぐ。

 

 

「お母様!」

 

「知ってるよ」

 

「じゃあどうして!」

 

「あの子、最後まで自分が全部悪いからって、それで突き通していったのよ。俺がロロさんを傷付けたから、屋敷の空気を悪くしたからって」

 

「それは」

 

「知ってる、あの子は悪くないって事も。

でもね、あの子は最後まで曲げなかった。今どきあんな子居るのかしらね、真っ直ぐで、不器用な子」

 

 

永遠の母は手を頬に当てながら話していく、永遠は握り潰した書き置きと、辞表に更に力を込めていた。

 

 

「永遠、貴女あの子に言う事、ある?」

 

「…うん」

 

「じゃあ、探しましょうか、この屋敷に必要な執事君を。

…ロロ、そこに居るんでしょ?出ておいで」

 

 

主人の声に反応したのか、ドアの影からロロが現れた。

 

 

「ご主人様」

 

「ロロ、探しに行くわよ、あの子を」

 

「辞めるなら、良いんじゃないですか?その分またロロが頑張ります」

 

「はぁ、貴女も頑固ね。もう二度と、会えないのかもしれないのよ?」

 

「…」

 

「あの子が来てから、この屋敷も随分賑やかになったわ。仕事が捗る程にね?」

 

「ご主人様…」

 

「ちゃんと話せばきっと、ね?」

 

「…はい」

 

「それじゃあ決まり!私と永遠は街の方探してくるから、ロロはこれ持って探してきてちょうだい」

 

 

主人から手渡されたのは、何処かの住所が書かれた紙。

 

 

「ご主人様」

 

「お願いね?」

 

「…はい!」

 

 

各々が屋敷から出て行き、幸太郎を探しに向かう。

ロロの後を子猫は着いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある場所

「…はぁ、またここに帰ってきちまったな。解約してなくて良かったけどよ」

 

 

幸太郎は屋敷を出た後、前に住んでいたアパートに戻っていた。

屋敷の部屋より汚くみすぼらしい、快適度は段違いである。

 

 

「これで良かったんだ、給料無しで良いですなんて言ったのは失言だったかもだけど。

高収入だったんだけどなぁ…しくったわほんと」

 

 

幸太郎は乾いた笑いをしながら、振り返っていた。

あの場所での思い出は、辛い事もあったが楽しい事の方がずっと多かった。

それもきっと、ロロのおかげだろう。

たまにドジをしてやらかす事もあるが、幸太郎の良き先輩であり、そして…幸太郎の想い人でもあった。

ロロが居なければきっとすぐ執事の仕事は辞めていただろう。

ロロが居たから、続けられたと言っても過言では無い。

 

 

「…ほんと、楽しかったな」

 

 

思い出に耽っている中、インターホンが鳴る。

帰って来て早々なのにいきなりなのだ、もしやN○Kなのかと疑いつつもドアを開ける。

開けた先に居たのは、忘れたくともきっと忘れられない、幸太郎の先輩であり、幸太郎の想い人、ロロがそこに居た。

 

 

「な、んで」

 

「…上がっても、良いですか?」

 

「………どぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…」

 

「…」

 

 

ロロが幸太郎の部屋に上がり既に十分が経過するが、二人共ずっとだんまりであった。

痺れを切らした幸太郎が口を開く。

 

 

「…何で来たんすか、てかどうやって」

 

「ご主人様の命令です、場所は住所を渡されたので」

 

「そっすか、でも俺はもう戻らないっすよ、辞めたんで」

 

「え…?」

 

「知らなかったんすか、俺はもう辞表も出して辞めたんすよ。だからもう戻らないんすよ」

 

 

幸太郎が辞表を出したのを知っているのは主人と永遠のみ、ロロだけが知らされていなかった。

ロロの中では家出感覚と思っていたのだろう。

 

 

「俺は屋敷の空気を乱したし、永遠お嬢様に対して舐めた態度取ったんで、十分辞めるに値するでしょ」

 

「でも」

 

「それに、ロロさんだって俺が居ない方が良いっしょ?何回かあの時の事で謝りたくて話そうとしましたけど、一切口利いてくれませんでしたもんね」

 

「あれは」

 

「書庫の時だってそうすよ、お礼を言っても反応しなかったですし、まぁ仕事中だからそれは仕方ないすけどね。その後自分で何言ったか覚えてます?」

 

「それは」

 

「もう話しかけないでくれって、そう言ったんすよ、ロロさん」

 

「…」

 

「それで確信しました、もうここじゃやってけないなって。だから辞めたんすよ、これで良いでしょう、もう帰ってくんないすか」

 

 

冷たい言葉を次々と浴びせ、ロロを早く帰らせようとする。

それでもロロはその場から動こうとはしなかった。

 

 

「…何で帰ってくんないんすか」

 

「ご主人様の、命令だからです」

 

「ご主人様ご主人様って、ロロさん、あんたはご主人様の命令が無いと何も出来ないんすか?あんたの意思はどこにあるんだよ!俺が嫌なんだろ?俺が嫌いなんだろ?だったら早く帰れば良いじゃねぇかよ!」

 

 

幸太郎はつい語気を強めてロロに放ってしまう、それでもロロは、その場から動かない。

 

 

「ニャー!」

 

「痛っ」

 

 

ロロを怒鳴りつけたのが癪に触ったのか、子猫が幸太郎に襲いかかり腕を引っ掻く。

 

 

「やめて子猫さん!幸太郎さんは悪くないから…だから…やめて」

 

「…ニャー」

 

「…ごめんなさい」

 

「…」

 

「…ロロも、心のどこかで分かってたんです。でもそれを認めたら、もっと辛くなるって。

ロロは、永遠お嬢様の事が大好きです、とっても大事で、大切です。でも今はそれと同じくらい…幸太郎さんの事も想ってるんです。

でもそれを表に出したら、お嬢様に悪いし、それに…お嬢様と幸太郎さんはお似合いでしたし」

 

「…(お似合い?何言ってんだいきなり)」

 

「ロロは、お嬢様が幸せになってくれるならそれで、お嬢様の幸せがロロの幸せですから。

だからこそ、お嬢様と幸太郎さんがキスしてた時は」

 

「ちょっと待ってくれ」

 

「はい?」

 

「俺永遠お嬢とキスなんてしてないんだが」

 

 

幸太郎の言葉でロロの頭は真っ白になった、今の今までロロの頭の中では幸太郎と永遠はキスするまでの仲になっていたのだと思い込んでいたのだから。

 

 

「…はっ!じゃああの時お嬢様と幸太郎さんの距離が凄く近かったのって」

 

「屋敷の娘に対して口の利き方が悪かったから脅されて」

 

「…その後お嬢様に呼ばれたのは」

 

「怪しさ満点な小瓶を初対面の時に渡されて、それを飲んだかどうか聞かれた」

 

「…じゃあ子猫さんから幸太郎さんに変わったのは」

 

「その怪しげな小瓶を飲んでからいきなり猫になって、多分効果切れ」

 

「あ…あぁ…」

 

「納得して貰えたっすか」

 

「はい…本当にごめんなさい…」

 

 

全て誤解だった事が分かり、お互い落ち着いていった。

落ち着いたより、脱力感が凄いというべきだろうか。

 

 

「あ、でも」

 

「何すか?」

 

「ロロ、好きって言っちゃった…」

 

「あー…」

 

 

ロロは俯き、幸太郎はその時を思い出し頬をかく。

 

 

「さ、さーて…屋敷に戻るかなぁ…謝り倒して辞めるの取り消して貰わないと」

 

「あー!逃げる気ですか!?」

 

「急がないといけないっすからねー!」

 

「待っ…逃がしませんよー!」

 

 

元々少しの荷物しか持っていなかった幸太郎は、ロロを置いてアパートを飛び出した。

その後を追うようにロロと子猫が走って行く。

程なくして幸太郎に追いつき、腕を掴む。

 

 

「つ、捕まえましたよ…もう逃がしま…キャッ」

 

「あっ…これデジャブじゃね…」

 

 

ロロを庇い地面に倒れ込む、その拍子に…腰を強く打ちつけた。

あの時とほぼ一緒である。

 

 

「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!」

 

「こ、こねこさーん!?」

 

「これが…報いか…ゴフッ」

 

「こねこさん、しっかり!」

 

「と、とりあえず…救急車お願いしてもらっても…」

 

「分かりました、でもその前に」

 

「え…?」

 

 

こんな状況だからこそ、きっとどさくさに紛れてでもしないと言えなかったのだろう。

彼女の勇気が、これから培われていく事を願う。

 

 

「ロロは、こ…幸太郎さんの事が好きです!」

 

「あ…」

 

「幸太郎さんは…ロロの事どう思ってますか…?」

 

「(こんな状況で言うかなぁ普通…でもまぁ、ロロさんらしいのかな)俺も、ロロさんの事好きっすよ」

 

「…っ!!嬉しいです!!」

 

「ギャァァァァァ!骨がぁぁぁぁぁ!」

 

 

嬉しさのあまり幸太郎を抱き締めるロロ、しかし強く抱き締めすぎたのか幸太郎の身体は悲鳴を上げていた。

腰へのダメージも相まって、幸太郎の意識はそこで途切れた。

 

 

「これからも、よろしくお願いしますね、こねこさん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小根幸太郎

骨折箇所 複数(主に肩と腰)

完治期間 最低三ヶ月

これを牛乳パワーで約三週間で完治、驚異の回復力である。

その後屋敷にて謝り倒し、無事再就職決定。

娘の永遠にも今回の一件の責任があった為の配慮である。

有耶無耶になったが、幸太郎とロロは交際をスタート、遠くない未来にきっと、結ばれるだろう。

 

 

これから先の彼らに、幸多からん事を。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。