短編ですがもしかしたら続くかもしれません
速さ
速さとは何か
私はそれをずっと考えてきた
ウマ娘という存在として生まれてから、ずっと考えてきた
だが、答えは出そうにない
だって、私の脚では私の考える速さに耐えられないから
一時的に速く走ることはできると思うが、その負荷に耐えられなくて、きっと私の脚は壊れる。
ガラスの脚なんて洒落た事を言うつもりはないが、実態としてはそんなようなものだ
私はずっと悩んでいた
速く走りたい
しかし、全力で走ればすぐに壊れて、走れなくなってしまう
だから速さというものについて理解ができない
トレセン学園に入ってからも、そんな事をずっと考えながら、それなりの力で適当にメニューや授業をこなしていた
そんなある日、アグネスタキオンという車椅子に乗ったウマ娘とそのトレーナーさんに声をかけられた
なんでも、私の走り方に興味があるということだった。
タキオンさんは菊花を除くクラシック2冠、天皇秋、ジャパンカップ、有馬記念、URAファイナルズ出場の実績を持っていると言っていた
でもそのURAファイナルズの決勝戦で負傷し、その後歩行できなくなってしまったと
その為今は専属のトレーナーさんと一緒に、次世代の育成に尽力しているらしい
「君の走り方を見ていてすぐにわかったよ、私と同じ可能性を持つ娘だって。」
タキオンさんは自分の太ももを叩きながら、こう続けた
「君、本当はもっと速く走れるのに、そうしたら故障するのが分かっていて抑えているだろう?」
「……」
「あぁ答えなくていいよ、2000mの模擬レースを走ったのにもかかわらず、発汗や呼吸頻度がレース後と思えないほど落ち着いている、誰がどう見たって本気で走ってないのはわかる」
「その癖最下位じゃない、それは最下位を規定回数取ると強制参加の補習があるからだろう?」
「本気で走らず、でも最下位だけは回避する。どこからどう見てもなるべく脚に負荷をかけたくないウマ娘の走り方だ。」
「……と、まぁこんなことはここにいるトレーナーや教員はみんな見抜く、だからこそ君にスカウトは来ない。ポテンシャルは高くても怪我のリスクが高いウマ娘を選ぶ人は少ないからね。そうだろう?モルモットくん?」
「人前でモルモットと呼ぶな。……まぁでも、それはそうだろうな。君には才能があるが、それと引き換えに爆弾も背負っている。1トレーナーとしてならリスクの高いギャンブルだと判断する。」
「…………」
「「だが、君は面白い。」」
「……えっ?」
「精一杯走ってみたくはないか?「速さの向こう側を見たくはないか?「全てをねじ伏せてみたくはないか?「最速になってみたくはないか?」
2人が矢継ぎ早に問いかけてくる
その瞳は私だけを見つめていた。
「「速さとは何か、知りたくはないか?」」
その言葉を聞いた時
私は、私の中の何かが狂ってしまうのを感じた
「……教えてくれるんですか?」
「!……いや、君が、見つけるんだ。私達はその手伝いをするだけだ。」
「怪我防止、君の脚を壊さないように俺達は全力でサポートする、絶対に壊させない」
「君がそれを言うのかい?この状況じゃあ説得力にかけるよ。」
車椅子に座ったタキオンさんはケタケタと笑った
トレーナーさんは微妙な表情をしている
「この頼りないモルモットくんは置いておいて、私が保証するよ。」
「私は速さと引き換えに走る事を失った。だがその経験で君を守ろう。」
「……俺も全力でサポートするよ、タキオン程じゃないが、俺にも経験がある。」
「だから君の脚を私達に預けてみないか?」
「……」
……。
正直に言えば迷っていた。
勿論速く走りたいと言う気持ちはある。
だが走る事を失うのが怖かった。
目の前には実際に壊れてしまったウマ娘がいて、否が応でもリスクを見せつけてくる。
速さを感じたい
速さを知りたい
速さを理解したい
「それとも、熱くもなれない60点ぐらいのレースで生涯を終えるつもりかい?」
「……っ」
それは決定的な挑発だった
「……わかりました。私の脚を、お願いします。」
「……そうか!ありがとう!」
「では書類にサインしたまえ、ほら早く出したまえよモ……トレーナーくん!」
「はいはい」
書類?
何かの契約書類だろうか
差し出された書類を見ると、レースおよびトレーニング中の故障と、私の命以外は全て保証しないと言う内容が書かれていた
どう言う事なんだろう……
……まぁ、いいか
書類にサインをする
それを2人が確認すると、タキオンさんが白衣の袖に包まれていた右手を差し出してきた
「ではこれからよろしく、クロ」
「……クロ?」
「あだ名だよ、私は君をそう呼ぶことに決めた」
「……まぁ好きに呼んでください。」
こうして私はタキオンさんとトレーナーさん……モルモットさん?
と契約した
「さぁまずはこれを飲みたまえ!効果や副作用はモルモットくんで実証済みさ!」
「……それとんでもなく苦いんだよな」
もう既に若干後悔しているが