勝敗は戦う前から決まっているとまで言われていた『
大多数の予想に反した結果に終わったその戦いは、数日経ったいまも街の語り草となっていた。
敗北した【ソーマ・ファミリア】は開催前に【ヘスティア・ファミリア】が提示した条件を速やかに履行する姿勢を見せた。ザニスは即日団長の座を追われ、さらにはいままで都市に被害を齎していた派閥の扇動を始め、『神酒』を無断で団員達に配り売り払っていた事実が明るみとなり、ソーマの手によって恩恵を封印された上で酒蔵の牢獄に閉じ込められる運びとなった。
新たな団長の選別はまだだが、それは敗北した際の条件だった『主神と団員達の面談』をして決めると、ソーマは全団員を集めた集会で大々的に告げた。加えてこれからは『神酒』を無闇に飲ませない事、自分も運営に口を出す事、そして明言こそされていなかったものの、多額の脱退金を支払わなければ許可されていなかった退団を自由化する事を告げた。
団員達の動揺は大きかったが、『
またリリのように退団したくても脱退金を支払えず断念していた者は、この機会にこぞって【ファミリア】を去っていた。その数は全体の一割ほどとかなり多かったが、元々派閥規模の大きい【ファミリア】だけあって運営への影響は大した事がなかった。
そしてベルの看病をしていたため退団を希望する団員の最後の一人となったリリは、主神の部屋で退団の儀式を行っていた。
剥き出しとなったリリの背に、ソーマが己の指から
さらにソーマが【
すると刻印全体から淡い光が立ち昇り、やがて【ステイタス】が明滅を始めた。
「これで、終わりだ」
言葉少なに、ソーマは退団の儀式が完了した事を告げる。
いままでずっと自分を縛りつけてきた
いつものローブを羽織り、後はこの場を去るだけとなったタイミングで、計ったようにソーマがリリの名前を呼ぶ。
「リリルカ・アーデ」
反射的に、びくりとリリの身体が震える。
怯える事はないと頭で分かっていながら、緊張で身体が固まるのが分かった。
そんなリリの様子に何を思ったかは定かではないが、ソーマは重たい沈黙を数秒挟んで静かに告げた。
「……いままで、すまなかった」
リリの目が大きく見開かれる。
咄嗟に答えを返せないリリに、ソーマは言葉を重ねる。
「身体には、気をつけなさい」
ぶっきら棒に告げられる労わりの言葉。
それに表現できない思いと感情を抱き、リリは両手でローブを握り込んで首を振る。
「はい……」
あの日から緩くなってしまった涙腺のせいで瞼に涙がたまりそうになるのを堪え、深く頭を下げた。
「お世話になりました。ソーマ様」
はっきりと別れの挨拶を口にする。
これまで一切自分の事など顧みてはくれなかった相手ではあるが、それでもこれはリリが言わなければならないケジメだった。
そしてこの前は言えなかった言葉も付け加える。この機会を逃せば、もう伝える機会は二度とこない事が分かっていたから。
「あの時、助けに来てくださってありがとうございました」
もしカヌゥ達に追われていたあの瞬間、ソーマが駆けつけてくれなかったらきっとこんな結末は迎えられなかった。
最後の最後で、
だからリリは本心から感謝を口にする。
「ベル・クラネルに、伝えてほしい」
言うべき事を言い終え、その場を辞そうと部屋の扉に手を掛けたリリの背にソーマの声が追ってくる。
呼び止められると思わなかったリリは、振り向く事なく言葉の続きを待った。
「感謝…………していると」
伝言は、それだけだった。
そのたった一言に、リリはまた泣きそうになった。
必ずお伝えします。そう言葉を残し、リリは今度こそ主神の部屋を後にした。
「みんな、飲み物は持ったかい?」
【ヘスティア・ファミリア】のホームである廃教会。
主神であるヘスティアは集まった己の眷属二人とリリに向けて確認する。
「それじゃあ、僕ら【ヘスティア・ファミリア】の勝利を祝して~」
『かんぱーい!』
全員が持っていたジョッキをぶつけ合う。
『
酒場ではなくあえてホームで開催したのは、今回の『
ベルは盛大に文句を言ったが、主神もその意見に納得を示したため、こうしてホームでの開催と相成った。
「でも本当に良かったんですか? 【ファミリア】の祝勝会なのに、部外者のリリが参加してしまって……」
呼び出されたと思ったらそのまま祝勝会に参加させられたリリがジョッキを片手に恐縮する。
「おいおい、部外者なんてそんな寂しい事は言いっこなしだぜ、サポーター君。一緒に【ソーマ・ファミリア】に乗り込んでベル君を応援した仲じゃないか」
「そうですよ。リリさんがいなきゃ勝てなかったんですから、遠慮なんてしないでください」
「ですが……そもそも
「勝ったのだから、そんな細かい事など気にする必要はないサ! それよりも今夜は私の活躍について大いに語り尽くそうじゃないか!」
ヘスティアやレフィーヤの言葉にも頷けず、後ろ向きな事を言おうとするリリのネガティブ発言を、天狗になったベルがエールを飲みながら立ち上がって遮る。
『
最初は付き合っていたヘスティアとレフィーヤだが、あまりにもしつこく語り続けたため妹からホームを叩き出され、街中でも同じように調子に乗って問題を起こしたため、これまた妹から折檻を受ける羽目となった。
そのためベルの武勇伝は二人には耳にタコであり、それを察してるベルは手法を変えて自分が褒められる方向へ話を持って行こうとしたのだが、案の定兄の見え透いた思惑を察知した妹からジト目を向けられる事となった。
「兄さんはリリさんを見習って、少しは反省してください。他派閥のホームに不法侵入した挙句、主神に無礼を働いて捕まったと聞いた私達がどれだけ心配したと思ってるんですか?」
「うぐっ! それは済まなかったと思っているが、結果的に丸く収まったのだ。ちょっとくらいの失敗は見逃してくれてもいいじゃないか」
「そうやっていっつも口先で誤魔化そうとするんですから、今度という今度は誤魔化されてあげません! 大体、兄さんはいつも無茶ばかりし過ぎなんです。付き合わされるこっちはそのたびにハラハラさせられるんですから、少しは振り回される身にもなってください!」
「待つんだレフィーヤ! この場は反省会ではなく祝勝会! そういう文句は後で聞くからいまは私の勇ましく格好良い戦いぶりを盛大に褒めてくださいお願いします!」
「そんな事言って兄さんが私の話をまともに聞いた試しなんてないじゃないですか!」
「まぁまぁレフィーヤ君。ベル君の言う通り今夜は祝勝会なんだし、結果的には全部上手くいったんだ。今日くらいは大目に見てあげようじゃないか」
「うっ……分かりました。ヘスティア様がそう言うなら」
「お説教モードになったレフィーヤをいとも容易く収めるとは、さすがはヘスティア! これが慈愛の女神の力か!」
「ベル君……折角ボクが取りなしたんだから、火に油を注ぐのはやめようぜ」
「ぷっ……」
いつの間にか自分の発言がおかしな方向に転がってコントのようなやり取りになっている事に、リリは思わず吹き出す。
今更蒸し返して楽しい空気に水を差すのも野暮だと、素直にリリは宴会を楽しむ事にした。
「でもベル君はもちろんだけど、レフィーヤ君とサポーター君も見事なものだったね。警備が厳重なソーマの酒蔵から誰一人傷付けずに逃げ出して来たんだろう? 一筋縄でできる事じゃないぜ」
「えへへ、そう言われると照れますけど、私がした事なんて大した事じゃありませんよ。兄さんが取ってきてくれた見取り図があったのと、突然の事だったのにすぐに意図を察してくれたリリさんのおかげです」
「何を言ってるんですかレフィーヤ様。凄いのは間違いなくリリなんかじゃなくレフィーヤ様の方です。上級冒険者ですら難しい並行詠唱までなさっておいて、大した事ないなんて謙遜を通り越してもはや嫌味ですよ」
「なんと! レフィーヤはそんな事までできるようになっていたのか! 私はまだ魔法も習得していないのに!」
「意味の分からないところで張り合ってこないでください。あと、私が並行詠唱をできるようになったのは兄さんをおんぶしながら魔法を使ったりしてたからなんですからね」
「きみ、そんな事までレフィーヤ君にさせてたのかい?」
「ベル様、それはさすがに……」
「あうっ! 女性陣からの冷たい視線が心に痛い!」
過去のクズ過ぎる行動にベルが批難を集める一幕があり。
「ベル様はとっっっっっても格好良かったです! リリが保証します!」
「ありがとうリリ! ちなみに具体的にどこらへんが格好良かったか聞いても良いだろうか?」
「はぁ。また調子に乗って……」
「でも自慢したくなる気持ちも分かるよ。あの逆転劇はボクも胸が熱くなったからね」
ベルの戦いぶりをみんなで讃える時間があり。
「そういえば
「ああ、あの子はカサンドラ君だよ。ベル君の冒険者仲間だ」
「なに? 彼女も
「お礼に行くのは賛成ですけど、問題は起こさないでくださいね。また他派閥から
思わぬところで今後の予定が決まったりと。
祝勝会は話題を変えながら常に盛り上がり、笑い声が飛び交った。
そして場が多少の落ち着きを見せてきた頃合いで、ふとリリが疑問に感じていた事を訊ねた。
「そういえば皆様。折角
『
あれだけの激戦を制したというのに何も得ようとしないその姿勢が、純粋にリリには不思議だった。
「別にお金のために争ったわけじゃないんだ。派閥の体制が改善され、神ソーマも考えを改めてくれたのなら、それで充分さ」
まるで勿体ないとすら思っていないのが分かる明るい声でベルが答える。
ヘスティアとレフィーヤも同意するように頷くのを見て、リリはやはり自分を助けてくれた人達は、これ以上ないほどのお人好しであったと改めて実感する。
『
それでなくともあれだけ大きな派閥の運営にはとにかく金が必要であり、きっと【ヘスティア・ファミリア】は賠償金を請求する事で【ソーマ・ファミリア】が苦境に追いやられる事を良しとはしなかったのだろう。
彼らの目的は【ソーマ・ファミリア】を潰す事ではなく、あくまでも派閥体制の犠牲になる
折角の大金を得る機会をふいにして笑うベル達に、リリの胸に温かいものが宿る。
「皆様。今回の件ではご迷惑をお掛けして、すみませんでした」
両手を膝の上に置き、リリは深く頭を下げる。
ベルの怪我が酷くベッドから出られなかった事で言う機会を失っていた謝罪を、この場を借りて改めて告げる。
「お三方のおかげでリリは無事に【ソーマ・ファミリア】を脱退する事ができました。本当にありがとうございます」
続けて感謝も。
こんな言葉だけでは伝えきれないと理解しながら、それでも胸の内の思いをわずかにでも伝えたくて。
「これでリリは晴れて自由の身です。こんな日が来るなんて、正直想像もしていませんでした。リリのために、こんなに必死になってくれる人達と出会えるなんて……」
これまで人生で、リリのために何かをしてくれる人など一人もいなかった。
なのにこの人達は、ついこの間に出会ったばかりのリリのために自分達の身も顧みず助けてくれた。
それはあの【ファミリア】から抜ける事以上に、リリがあり得ないと諦めていた希望だった。
「このご恩は一生をかけても返し切れるものではありません。だから……」
恩返しのためにもリリをこのファミリアに入れてください。
そう言おうとして、しかし言葉は出てこなかった。
理由は分かっていた。
こんなにも迷惑を掛けた自分が、今更どの面下げて恩返しなんて口にするのだとか。
恩返しなんてただの建前で
浅ましい己を謗る言葉が胸の内から絶える事なく溢れてくるのだから。
何より。
こんな卑怯者で最低な自分が、この人達と一緒にいていいのか。
救われてからというものずっと自身に向けてきたその問いに、リリは未だ答えを出せていなかった。
「だから……」
それでも、この人達と一緒にいたい。
その一心でリリは言葉を絞り出そうとする。
なのにどうしても、声は形になってはくれなかった。
少しは成長できたと思ったのに。
「恩に感じる必要なんかないさ」
「えっ……」
服の裾を握り締めて必死に言葉を紡ごうとするリリに、優しい声が降ってくる。
驚いて顔を上げると、二ッといつものように笑うベルと目が合った。
「これまでリリには散々助けられてきている。それが今回はたまたま私の番だったというだけの話だ」
なんの曇りもない
バツが悪くなって目を逸らしたい思いに駆られながらも、なぜかリリは彼の瞳から視線を外せなかった。
「仲間なんだから助け合うのは当然の話だろう。それを一々恩に感じてなんていたらキリがない」
「ですが、今回の事は規模が違います! リリはとんでもないご迷惑を……!」
「ハッハッハ! 今回のリリの件なんて、私がこれまでレフィーヤに掛けた迷惑に比べたら些細なものサ!」
「自慢気に言わないでください! というか自覚があったんなら少しは反省してください!」
リリの罪悪感や恩義など笑い飛ばすベル。
その態度にリリは、レフィーヤの苦言も耳に入らず戸惑う事しかできない。
たとえ【ファミリア】に入れてもらえずとも、リリは一生を懸けて受けた恩を返していくつもりだった。
薄汚い世界で生きてきたとはいえ、これだけの事をしてもらって「ありがとうございます」の一言で済まそうとするほど、リリは忘恩のクズに落ちたつもりはない。
どういう形であれ自分のこれからの人生は彼らへの恩を返すために費やすのだと、そう決めていたのだ。
なのに当の少年は、そんなものは必要ないと笑う。
些細なものだと。自分の恩返しに価値を見出してはくれない。
つまりベルにとっては、
ベルがそんなつもりで言ったわけではないと分かっていながら、リリは目の奥に涙がたまるのを止められなかった。
なんとかバレないようにと抑え込むが、晴れ渡っていた心が底なし沼に沈んでいくように重く澱んでいくのだけは、どうしようもなかった。
それともこれは遠回しの拒絶なのだろうか。
リリが入団させてほしいとお願いしてくる事を察して、リリを傷付けないように優しく断っているのだろうか。
そんな邪推まで浮かび唇を噛むリリに、ベルは明るく告げた。
「それでももしリリの気が済まないと言うなら、これからも私達と一緒に冒険をしてくれないだろうか」
「えっ……?」
予想外の言葉に、涙がたまりかけていたリリの瞳が真ん丸に見開かれる。
「【ソーマ・ファミリア】を抜けたいま、もうリリには無理をしてまでダンジョンに潜ってお金を集める理由がないのは分かっている。でも私は、これからもリリと冒険をしたい」
「――――」
何も飾らず、己の思いだけを率直にベルは訴える。
リリは堪らず両手で胸を押さえた。
「リリ。私は英雄になりたい。でも私は弱いから、きっと何度でも危ない目に遭うし、私とレフィーヤだけでは乗り切れない危機に直面する事だってあるだろう。だからそんな時、君には私達を助けてほしいんだ」
「で、でも、リリにはそんな力は……」
「リリのサポートに私達は大いに助けられてきた。リリの力は、リリが考えているよりもずっと大きなものだよ」
己を卑下するリリの言葉に首を振り、ベルは椅子から立ち上がってテーブルを回る。
そしてリリの前で膝をついて視線を合わせると、そっと右手を差し出した。
「私はこんな性格だから、きっと今回の件なんて比べ物にならない迷惑を掛ける事もあるだろう。危ない目にも遭わせてしまうかもしれない。だがどれほど大きな困難でも、私達が力を合わせればきっと乗り越えられると信じている。だからリリさえよければ、これからも傍で私達を助けてくれないだろうか」
真っ直ぐとリリの瞳を見つめ、ベルはいつものように底抜けに明るく笑った。
「同じ【ファミリア】の仲間として」
「っ……あぁ……!」
その言葉に、リリの瞳から抑えていたはずの涙が溢れ出す。
ボロボロと流れ落ちる涙を両手で拭いながら、リリはあの日ベルが言ってくれた言葉を思い出した。
私がずっと、傍にいる。
あの言葉はリリにとって救いだった。
だが同時に、それを信じ切る事があの時のリリにはできなかった。
他人を疑い、蹴落としてきたリリにとって、ベルの言葉は眩しすぎたから。
でも、いまは。
心に灯った光がリリの背中を押す。
あの時、流せなかった涙で頬を濡らし。
あの時、受け入れられなかった温もりを今度は自分から求めて。
リリは右手を差し出すベルの胸に思いきり飛び込んだ。
「はい……! いつだって、どこへだってお供します! だってリリは、ベル様のサポーターですから!」
15年の長い迷路を彷徨って、リリはようやく一人ぼっちではなくなった。
「ところで、レフィーヤ様にお聞きしたい事があったんですがよろしいですか?」
リリの【ヘスティア・ファミリア】入団が決まった事で、祝勝会と合わせて歓迎会にもなった宴も終わり、片付けでベルとヘスティアが一度地上に上がったタイミングで、リリは改まってレフィーヤに問い掛けた。
「私にですか? もちろんです。なんでも聞いてください」
レフィーヤは首をかしげながら【ファミリア】に関する事かなと鷹揚に頷く。
しかしリリから発せられた問いは、彼女の予想を遥か彼方に置き去りにするとんでもないものだった。
「では遠慮なく。レフィーヤ様とベル様は実の兄妹ではないと聞いていますが、「そうですね。エルフとヒューマンですし……」兄弟の絆を飛び越えて特別な感情を持っていたりはしませんよね?」
「……………………………………………………………………はい?」
言われた言葉があまりに予想外過ぎて、意味を正しく脳が処理できなかったレフィーヤが間の抜けた声を返す。
その様子にリリは、ですから、と語気を強めた。
「リリが見る限り、レフィーヤ様とベル様の間には実の兄妹よりも深く強い絆があるように見受けられます。それはもう、前世からの運命で出会うべくして出会った
「ら、ラブ・ロマンス!?」
「本当の兄妹であるならこんな事を聞く必要なんてなかったんですが、血がつながっていないと言うなら、これからのためにも確認しておかなければいけません。さぁレフィーヤ様! 吐いてください! お二人はあくまで兄妹であって、特別な感情を抱いてはいないんですね? そういう関係ではないんですよね!?」
「な、何を言ってるんですか!? 兄さんと、その……だ、男女の関係なんて、そんな事あるわけないじゃないですか! あり得ません!」
「本当ですか?」
「本当です全くの誤解というか邪推ですやめてくださいそんな目で兄さんとの関係を見られるようになったら恥ずかしくてもう一歩も外を歩けません!」
ずい、と顔を近付けて疑わしげな視線を向けて来るリリに、レフィーヤは両手を広げて全力の否定をまくし立てる。
リリが口にした関係を一瞬でも想像してしまった羞恥から顔をトマトのように真っ赤にして、直後に水でもぶっかけたように青ざめるさまは、まるで変身魔法でも使っているかのようだった。
その本気で嫌がる様子をジトーと観察し、ひとまず納得したのかリリは引き下がる。
「嘘はなさそうですね。分かりました。とりあえずは信じましょう」
「あ、ありがとうございます?」
謂れなき疑いが晴れ、冤罪を掛けられた身だというのにレフィーヤは怒るのではなく、安心感からなぜかお礼を口にしてしまう。
自分の言動に首をかしげるレフィーヤに、リリは念のためさらに釘を刺す。
「ですがこの先、考えが変わって兄妹という立場を利用してベル様に変な事をしようものなら、リリが断固として許しませんからね。レフィーヤ様は妹なのですから、その辺りはきちんと弁えてくださいよ」
「だからなんで私が兄さんに惚れる事が前提なんですか! オラリオがひっくり返ったってそんな事は絶対に100パーセントありえませんから!」
ぜいぜいと、息を荒らげて力強く断言するレフィーヤ。
そこでふとある事に気がついた。
「というかそういう類の話を訊いてくるって事は、まさかリリさんはベル兄さんを……?」
自分の頭をよぎった想像が信じられないとばかりにレフィーヤは顔を青ざめさせる。
しかし返ってきたのは、それを肯定する満面の笑みだった。
出会った頃に浮かべていた人好きのする仮面のような笑顔ではない。
リリルカ・アーデ本来の笑顔で、リリは花が咲いたように笑う。
「当たり前じゃないですか。だってベル様は、リリの英雄様なんですから」
これにて
原作とは違って【ソーマ・ファミリア】関連のごたごたを先んじて清算しているので、今後の展開にも影響してくるかと思います。
といっても、他にも色々と書くものがあるので次話以降はまたしばらく期間が空いてしまいます。
先に謝っておきます。ごめんなさい。
次章は閑話を挟んで、みなさん大好きなあのメインヒロイン登場予定です。お楽しみに。