異世界転生殺し チートスレイヤー アナザーミッション(VSアナザーベストナイン)   作:3S曹長

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犠牲無き世界など ありはしない
気付かないのか
我々は
血の海に 灰を浮かべた地獄の名を
仮に世界と
呼んでいるのだ

(BLEACH 単行本第42巻より引用)

なお、「犠牲」本人は犠牲になってない模様。

「死んだら終わりだ!一巻の終わり!でも死ななきゃ、生きてさえいれば、たとえそれがどんな地獄であろうともそこに突破口は必ずあるっ!」

(あご)鼻尖りギャンブル中毒者~


第三章 「Mr.土方」襲来 その11 「犠牲」

 大和田(おおわだ)一人(かずと)はごく普通の家庭に一人っ子として生まれた。父はサラリーマン。母は専業主婦で、趣味は家庭菜園。家には大きな庭があり、様々な野菜を育て日々のご飯の材料にしていた。一時は稲作をしていたこともあった。

 彼が幼稚園児の時、最も好きな遊びは積み木遊びだった。積み木を城のように積み上げ、先生や友達から賞賛を得るのが何よりも嬉しかった。

 

 彼が小学三年生の頃、父が家族を遠くの山へキャンプに連れて行った。その日の天気予報は晴れのち曇り。実際にキャンプ場に着く少し前までは晴れていた。しかし山の天気は変わりやすい。テントの用意をしている時、急に空が暗くなり、大量の雨が降り出した。

 車に戻り、雨が止むのを待っていたが雨は一向に止まなかった。今から自宅に戻ると日付が変わってしまう。どこか宿泊できる場所を探す必要があった。しかし両親はこの辺りの宿泊施設については何も知らず、事前の調査もしていなかった。土砂降りの中、車を必死で走らせ宿泊施設を探す父。大和田少年にとって、今夜の自分がどうなるかも分からないまま、激しい雨の音を聞いている時間は何よりも怖ろしかった。

 午後十時過ぎにようやく宿泊施設を見つけた。古くさいビジネスホテルだったが、部屋に入ったときの安堵感を、彼は未だに忘れられない。雨風をしのいで一夜を明かせることがどれほど素晴らしいことなのか、身を持って知った出来事だった。

 

 小学生高学年の頃、大和田少年は「衣食住」という言葉を知る。人間の生活に必要な三項目を意味する言葉だ。彼は考えた。

 

「『衣』は簡単には作れない。服を作れる、とか言っている人間も既製品の布を使って作っている。本当の意味で一から自分の服を作っている人間なんてほとんどいない。だが服なんてなくても生きていくことは出来る。服を着なければいけない法律があるから皆服を着ているだけで、寒さをしのぐなら『住』があれば十分だ。『食』は確かに必要だ、食べなければ生きていけない。だが食料を作ることは誰でも出来る。実際に母は庭で俺たち家族の食べるものを作っている。それに比べて『住』はどうだろう。これが無ければ生きていくことは出来ない。なのに自分の家を自分で作れる人間なんてほとんどいない。そう考えると、人々が生きていくための『住』を作る人間こそが最も偉大なのだ」

 

彼が建築業を志した瞬間だった。

 

 大学生活を終えた彼は、とある建築企業に就職する。彼にとって仕事をしている時間が人生で最も楽しい時間だった。自分達の手で人々に必要な「住」が作られていく。このことが何よりも嬉しかった。「好きこそものの上手なれ」という(ことわざ)の通り、彼は仕事に必要なスキルをすぐに習得し、職場からも必要とされる人材になっていた。

 反面、彼にとって人生で最も苦しい時間が休日になった。彼の就職した企業は、休日はそれほど多い所では無かったが、それでも休日は確かにあった。建築をしたいのに出来ない、職場に行っても困惑されるだけ。そんな休日が辛かった。

 彼は他の企業を調べた。休日が少なく労働時間の多い企業、所謂(いわゆる)ブラック企業を探した。悪い噂というのは広まるもので、彼の求める企業はすぐに見つかった。彼は初めて就職した企業を退職し、よりきつい労働条件の企業に就職した。

 ブラック企業での仕事が彼にとって何よりも幸せな時間だったのは言うまでも無かった。彼は自分をマゾヒストだとは思っていない。痛い思いをするのは嫌なので作業は慎重に行うし、注射も好きではない。彼の幸せな時間を幸せたらしめるものは、「建築業への狂信的な(ほこ)り」であった。しかしそんな時間も長くは続かない。ブラック企業というのは得てして人材不足に(おちい)りがちであり、企業自体の寿命が短かった。彼の勤めた企業は数年で倒産することがほとんどで、その度に彼は別の企業を探すことになった。

 彼が35歳の時に務めた企業が、彼の生涯を共にする企業となった。その企業は「建築に興味の無い人間でも名前は知っている大企業だが、その実態はブラック企業」と言える所だった。名の知れた企業は悪い噂が流れても倒産しにくい。企業名だけを見て就職する若者も多く、貧しい外国から来た労働者の受け入れも積極的に行っていたために人材不足にもなりにくかった。彼はその企業の現場監督を任されるまでに出世したが、それ以上の出世を望まなかった。これ以上出世を続ければ、現場から離れた仕事が多くなる。そんな仕事はしたくなかった。どんなにきつい仕事も文句を言わずにこなし、キャリアも長い彼は企業にとって無くてはならない存在になった。

 しかし彼の部下達は、仕事の苦しさを理由に次々と辞めていった。そんな若者の仕事に対する態度を彼は不満に思っていた。行きつけの焼き鳥屋の店主や時々顔を合わせる同級生に相談すると決まって「若者が君や職場に合わせるんじゃ無くて、君や職場が若者に合わせるべきだ」とアドバイスされた。このアドバイスが彼を一層不機嫌にさせた。

 これまでも建築業に対する誇りについて他人に話したことはあったが、完璧に理解した人間はいない。彼は「自分の持つ考えは他人には決して分からない崇高な領域に達した考えなのだ」という結論に達した。

 そんな彼も、四十代後半に入ってから職場での作業が体力的に辛くなってきた。それでも仕事を休むわけにはいかない。唯一「建築業の偉大さ」を知る自分が仕事を休むなど、建築業に対する裏切りでしか無い。そう自分を鼓舞して仕事を続けた。

 ついに限界が訪れた。猛暑の中、外での作業中に意識を失い、そのまま彼は帰らぬ人になってしまう。53歳の夏の出来事だった。

 

 気がつくと彼は見知らぬ場所にいた。目の前にいる神を名乗る老人から、転移転生(てんいてんせい)のことを聞かされる。彼は年甲斐も無く嬉しくなる。

 

「俺の考えは正しかったのだ。俺以外の人間が誰も知らないあの境地に一人辿(たど)り着いたからこそ、俺は神に選ばれたのだ」

 

 転移転生をするには、転生先の世界で魔人討伐をすることが絶対条件だ。彼は神に尋ねた。

 

「その魔人討伐とやらを行えば、俺はその世界でも建築業をやって構わないのだな?」

 

「もちろんじゃ。副業は自由じゃよ」

 

「なら俺はこの先もずっと転移転生をくり返して…」

 

「いや、それは無理じゃな。転移転生を行った者が次に行う転生は必ず輪廻転生(りんねてんせい)じゃ。そういう(ルール)でな」

 

そんなに上手くはいかないようだ。だが転移転生を選べば、向こうの世界でもう一度だけ建築業に人生を懸けることが出来る。何よりその世界には労働基準法が存在しない。彼に転移転生を選ばない理由は無かった。

 ところで、彼は自分の死に方については半分満足、半分不満に感じていた。建築作業中の過労死という死に方は、まさに建築に命を懸けた者の集大成と言える。その点は満足だった。一方で、自分の一生を(まっと)う出来ていないこの死に方は建築業に対する裏切りとも考えられる。その点は不満だった。

 彼は神に「向こうの世界でも建築業に人生を懸けることが出来る身体と能力」を願った。

 

 アシバロン=ボーナスとして転生して以降、彼は建築とは別の楽しみを見つけた。それは魔人との戦闘だった。前の人生では味わうことの出来なかった「戦闘」という楽しみを最初の内は楽しんでいた。

 だが建築作業に特化した彼の肉体を前に、敵と呼べるような魔人はいなかった。自分が戦闘を楽しめるレベルの強敵を、彼は欲するようになった。

 

 

 

 

 

「クソ…、やはりこいつには『転生殺しの箱(デリートチートゾーン)』が効かないのか…」

 

 アシバロンに蹴飛ばされたリュートは、地面に這いつくばりながら思った。魔女が「遠隔会話(テレパシー)」で話しかけてくる。

 

「どうだった!?リュート」

 

「駄目だ…。魔女の言った通り、アイツは自分の転生前に悔いが一切無いんだ…」

 

「やはり駄目だったか…。建設業に対しての狂信的な誇り、それがヤツの強さの根源だ」

 

「魔女、俺たちはどうしたら良い!?」

 

リュートが魔女に尋ねる。少しの思案の後魔女から返答が来る。

 

「今から他の二人にも『遠隔会話(テレパシー)』をつなぐ」

 

それから一秒ほどで、魔女から答えの続きが来る。

 

「レースバーン、ポセイドラ、聞こえるか?状況はリュートから全て聞いた。アイツには『転生殺しの箱(デリートチートゾーン)』が効いていない。このままでは全滅だ」

 

「ならどうすれば良い!?」

 

二人から同じことを聞かれた魔女は苦しげに答える。

 

「『ファイアウォール』でも『ウォーターウォール』でも構わない。ヤツの視界を(ふさ)いで逃げろ!逃走後に私に位置を伝えろ。『ワープゲート』で回収しに行く」

 

 無謀な作戦だ。炎と水の性質上、「ファイアウォール」が視界を塞ぐのに有効だが、相手は火属性魔法の耐性が高い。炎の壁など、ものともせずに突っ切ってくるだろう。しかし、他に作戦が無い。ルイをおびき出したときのようなテキトーな作戦では無く、現状打つ手がこれしか無いという苦しい状況での作戦だった。頭の切れるアシバロンの前に魔女が姿を見せる訳にもいかなかった。

 

 苦悩しながら立ち上がる三人に向かってアシバロンが口を開く。

 

「さて、誰から殺すべきか…。ルイの剣という危険物で戦う未熟な少年、激流の剣という危険物で戦う腕の良い男、炎の剣という危険性0の武器で戦う腕の良い男…」

 

三人を見渡した彼は決心したように言う。

 

「決めた。一番楽しめそうに無い炎の剣の男、お前から血祭りに上げてやる」

 

アシバロンはレースバーンに指を指す。

 

「レースバーンさんっ!」

 

「リュート!ポセイドラ!ヤツの指名は俺だ!俺がヤツの相手をする、だから…」

 

少し間を置いた後、レースバーンは二人に笑って言った。

 

「後のことは頼んだぞっ!!」

 

 レースバーンは「エンチャントファイア」を唱える。炎の剣でアシバロンを指しながら言う。

 

「アシバロン=ボーナス!楽しめないと言ったことを後悔させてやる!」

 

彼は炎の剣を構え、アシバロンに突っ込んでいく。構え自体は達人のそれだが、火属性魔法の耐性が高いアシバロン相手には無謀な突撃にしか見えない。

 

「やはりな、お前が一番つまらん」

 

 炎の剣が振り下ろされた瞬間、アシバロンは剣を右手だけで跳ね飛ばす。同時に左手でレースバーンの右肩を掴む。

 

「くっ!」

 

とてつもない力だ。レースバーンは抵抗するが拘束を抜け出せない。

 アシバロンは腰を落とし右手で正拳突きの構えをする。

 二人が叫んだのはほぼ同時だった。

 

「『スーパーファイアドーム」!!」

 

「『岩盤貫通拳』!!」

 

 二人の姿が大きな炎のドームに包まれる。

 

 その刹那、リュートとポセイドラは確かに目にした。

 アシバロンの右手が血しぶきを上げながら、レースバーンの体を貫通する瞬間を。




 私自身は建築業界に一切興味がありません。
 なので、業界の実態に合致しない部分もあるかと思います。もちろん、モデルになった企業もございません。全て空想を(もと)にしたフィクションです。

 「転移転生(てんいてんせい)」と「輪廻転生(りんねてんせい)」の違いは、第二章8話「転生者のルール」を読んでください。

ファイアウォール…自分の目の前に炎の壁を出す魔法
ファイアドーム…自分を中心に炎のドームを展開する魔法
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