異世界転生殺し チートスレイヤー アナザーミッション(VSアナザーベストナイン)   作:3S曹長

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明日は全国の書店で当職の新連載が掲載される月刊雑誌の発売日。自らの作品がアニメ化及び実写化し、二作目の大ヒットを目指す当職は調子に乗ってる転生者を制裁する漫画を描いた。当職は鬱憤(うっぷん)()らしも兼ねて自分の作品より売れている作品の人気キャラを利用して漫画を描くことにした。

他作品のパロディは初めてだったので限度がわからず大炎上、漫画を見たネット民から冷ややかな目で見られてしまった。
冷ややかな視線に無名作家時代を思い出す。「自分は大ヒット作品の原作者だ、こいつらのような陰キャや社畜とは違う」とそう思いこみ、嫌な気分をかき消した。


第四章 離反 その5 「安全地帯」

 リュート達が新拠点で籠城を始めて一週間が過ぎた。敵の襲撃を警戒し、神経をすり減らす日々。リュートが体験した中で最も辛く、長い一週間だった。

 しかし結果として、敵襲は無かった。

 

 籠城開始から一週間が経った日の昼、二階から魔女とケイルが降りてくる。ケイルは大きな壺を持っていた。

 

「待たせたな!」

 

「お待たせしました、ようやく完成しましたよ」

 

 どうやら新拠点に来てから()もりきりで作っていた物が完成したようだ。

 

「間に合ったな」

 

「これで籠城も終わりか」

 

「長かった…」

 

皆が安堵の声を出す。リュート以外のメンバーも気力を消耗していたようだ。

 

「どうだったリュート、一週間の籠城は?」

 

「辛いです…」

 

「だがそんな日々ももう終わりだ。さあ、地下室へと行こうか」

 

 魔女に連れられ、リュート達は地下室へと降りていった。

 

 地下室に着いたケイルは皆に壺を見せる。中には何かの液体が入っているらしかった。

 

「これが一週間かけて完成させた薬です。簡単に言うなら()()()ですね」

 

「殺虫剤?」

 

「カナメクロムグリは元々、作物を食べてしまう害虫です。ですから殺虫剤はあったんです。こちらはそれを更に強力に、かつ人体には無害なように改良したものです」

 

「米沢の虫には魔力袋(まりょくたい)があったのだろう?殺虫剤なんかが通じるのか?」

 

ラーシャが尋ねる。

 

「そう、問題はそこでした。そこを解決するためにこの殺虫剤には()()()()()()()()()()()効果を配合しました」

 

ケイルが説明を始めた。

 

「捕まえた虫の魔力袋を魔女さんと調べた結果、この虫の持つ魔力では大した防御壁を作ることは出来ないという結論が出ました。人間が両手で勢いよく虫を潰したならば、防御壁ごと叩き潰せるほどの弱い壁しか作れません」

 

そう言いながら彼女は両手で虫を叩き潰す仕草をする。パチンッという音が地下室に響いた。

 

「しかしその程度の防御壁でも殺虫剤を防ぐことは可能です。通常の殺虫剤の噴射には破壊力はありませんから」

 

確かに、ポセイドラの「ウォーターレーザー」ほどの威力で噴射するならともかく、普通に殺虫剤を吹きかける行為自体にはなんら破壊力は存在しない。

 

「そこで、この殺虫剤に魔力で出来た壁を溶かす効果を追加したのです。人間が発動した魔法壁を溶かすことは厳しいですが、虫の魔法壁なら破壊できます。例え、虫が全魔力を使用して作った防御壁であろうと破壊可能です」

 

ケイルは自信満々に言ったが、ここで魔女が補足をする。

 

「簡単そうに言っているが、この効果を薬液に付与するのが中々大変でな。ケイルの薬学知識と私の魔法の知識を合わせ、実現させることが出来たのだ。しかも『魔力で出来た壁』と一口に言っても、属性ごとに様々な壁がある。米沢の使う虫がどんな魔法を使うか分からない以上、無属性も含めたあらゆる防御魔法を崩せるようにしなければならない。だから時間がかかったのさ」

 

 リュートは納得する。二人もこの一週間、自分達とは違う方法で頑張っていたのだ。

 

「で、その殺虫剤をどうするつもりだ?携帯して虫を見つけ次第噴射するのか?」

 

 ポセイドラが尋ねる。

 

「ふふふ。その方法では、周囲を警戒して神経をすり減らす現状から改善しないじゃないか。まあ、口で説明するより見た方が早いだろう」

 

そう言って魔女は地上へ続く階段の前に立ち、右手を前に突き出す。ケイルが魔女の側に壺を置く。

 

刮目(かつもく)したまえよ。『エンチャントミストトラップ』!」

 

 魔女が魔法を唱えると、彼女の右手に魔法陣が現われる。魔法陣は長方形に形を変えて大きくなり、階段前を塞ぐような形で留まる。ちょうど階段前にドアを設置したような状態だ。そして魔法陣は壺の中の液体を半分ほど吸い上げる。魔法陣が消えると、その場所に(きり)のカーテンが現われた。もしもこの世界にプロジェクションマッピングが存在したならば、この霧に画像を写せるだろう。

 

「殺虫剤の(ミスト)で出来た扉の完成だ。言わなくても分かると思うが、この扉は人間は通過出来るが、虫は通過出来ない。通り抜けた瞬間ごりん終、だな」

 

 魔女の説明を受け、ケイルが霧のカーテンを行き来してみせる。他の皆も試してみて、人体に影響が無いことを確認する。

 

「この魔法は私が解かない限り半永久的に存在する。もちろん維持に魔力は必要だが、大した魔力じゃ無い」

 

魔女は涼しい顔で説明する。天井から地面まで降りきった小さな水滴は魔法で天井へと戻る。ポセイドラの「エンチャントウォーター」と同じく永久に続く仕組みだ。

 

「こんな便利な魔法は聞いたことが無いな」

 

 霧のカーテンを眺めながらラーシャが言う。他の者も聞いたことが無かった。

 

「当然だろう。()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()。防御には使えないし、毒を噴射するならケイルがやるみたいに直接浴びせた方が早い。誰も使わなくなった結果忘れられた魔法さ。さあ、同じ魔法(トラップ)を通気口にも設置しよう」

 

魔女はそう言って通気口を開けるように指示する。木の板を外した通気口に「エンチャントミストトラップ」を設置する。

 

「さあ、これで米沢(ヤツ)の虫はこの地下室に入ることも出ることも出来なくなった。これからは()()()()()()()()()()()()

 

 これが魔女の作戦だったのか、と皆が思う。魔女は詳しく説明する。

 

「スパノの死後数日でアシバロンが来たことから分かると思うが、前回(ベストナイン)はこちらの存在を確認してすぐ襲ってきた。ルイとスパノの死を世間に『魔族との戦いでの戦死』として広めた以上、下手人は一刻も早く葬らねばならないからな。だがこの一週間、敵襲は無かった。敵はこちらの居場所を把握出来ていない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と見て間違いない。つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というわけだ」

 

この一週間は、米沢の情報収集の手段を見極めるための期間でもあったのだ。

 

「虫はこの地下室から出られない。この地下室から外出し、帰る際もこの地下室に戻ってくれば、例え虫に尾行されたとしても問題は無い、というわけだ。ただし、これからは買い出しにしろ魔族討伐にしろ、ここからも王都からも離れた場所に行かなければならない。行く場所を毎日変える必要もあるな」

 

 難しい条件に聞こえるが、この世界は広い。「ワープゲート」の存在が移動を楽にしているだけで、魔女の言った条件を満たす地域は沢山ある。

 

「外出先をこう限定しておけば、例え虫に見つかっても、その場所の近くを捜索されて拠点が見つかる心配は無い。虫が私達を見つけて本体の元へ戻ったとしても、その頃には私達もここへ帰還している。尾行してこの地下室まで追ってきたが最後、脱出不可能よッ!万が一、私達の外出時に一緒に脱出できたとしても、この地下室がどこにあるかなんて分かるはずも無い」

 

 魔女の作戦は以上だった。「ワープゲート」は発動した人間が場所を認知出来ていないと開けない。地下室では外の情報を得られない以上、虫が帰還出来ても相手に分かることは「敵が地下室を拠点にしている」ということだけで、肝心の地下室がどこにあるのかが分からない。彼女がこの地下室を安全地帯に選んだ理由はこれだったのだ。

 作戦を聞いて納得しかけたリュートだが、一つの懸念(けねん)が浮かぶ。

 

「虫が本体に帰還した頃には俺達も帰還してるから場所がバレない、って言うけど、俺達を見つけた虫が『ワープゲート』で本体の元に戻ったらどうするんだ?」

 

彼の懸念を聞き、魔女は感心したように答える。

 

「さすがはリュートだな。説明を聞いただけでは簡単に納得しない。だが、まだまだだね」

 

少しムッとするリュートを尻目に魔女は彼の懸念を解消する。

 

「さっきケイルが言っただろう。虫の持つ魔力袋では大した魔法は使えない。『ワープゲート』も当然使えない。仮に私達の捕まえた虫より大きな魔力袋を持つ個体がいたとしても、虫の体内に収められる大きさである以上、発動は不可能だ」

 

納得したリュートに向かって魔女は言葉を続ける。

 

「ただな、リュート。これからは以前のようにこの近くで修行をするのは厳禁だ。強くなりたくば、遠方での魔人討伐で鍛えるのだな」

 

 皆の頑張りを無駄には出来ない。リュートは了承した。

 

 

 

 

 

 魔女の作戦は見事に成功。ベストナインは半年以上にわたり、リュート達の動向を把握出来なかった。

 リュート達は外出する際、地下室から「ワープゲート」を開いて、拠点からも王都からも離れた場所に行く。その場所も毎日変更し、同じ場所が直近で続くことが無いように心掛けた。殺虫剤のカーテンも見事に機能していた。毎晩彼らは地下室の様子を確認していたが、地下室で虫の死骸を二度発見したことがあった。死骸を発見した日に行った地域は避けるようにし、回収した死骸はケイルの手に渡った。

 リュート達はこの間、魔人討伐を通して力を上げていった。これ以上仲間を失いたくは無い。皆の気持ちは一緒だった。

 

 

 

 

 

 そんな期間が続いたある日、リュートはポセイドラ、ケイル、ゴーギャンと共に魔人討伐に行っていた。魔族の群れを探して歩き回る一行。そんな彼らの耳に、いつかどこかで聞いたようなすすり泣きが聞こえてきた。いや、正確にはゴーギャンにとっては初耳だったが。

 

「ん?」

 

「もしかしてこの声って…」

 

「バニーラさん、ですよね?」

 

ポセイドラ、リュート、ケイルが確認をし合う。

 

 「ベストナイン」と「テンスレ」、両者の膠着状態(こうちゃくじょうたい)が崩れたのはこの日だった。

 




 なんか今回の話は、細かいパロディを各所にポツポツと入れた話になりましたね。





「ワープゲート」…自分が行ったことのある地点にワープする扉を生成する魔法。行きたい場所がどこにあるか、ある程度の位置を把握していなければならない。魔法を使える人間にとっては、とりあえず覚えておきたい中級魔法。大体、日商簿記二級くらいの取得難易度。ちなみにベストナインのメンバーは様々な地域に凱旋(がいせん)する都合上、行ける範囲も広い。
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