異世界転生殺し チートスレイヤー アナザーミッション(VSアナザーベストナイン) 作:3S曹長
~zeroキャスター~
確かにそうだろう。恐怖という感情は初めて感じた瞬間から時間が経つにつれ、弱くなっていくものだ。
だが、最も恐怖が強くなる瞬間とは、その恐怖を初めて感じた瞬間よりも、恐怖が薄れて安全だと思い込んだタイミングで再び同じ恐怖が襲いかかった瞬間では無かろうか?
アシバロンの報告を聞いて、立花亭は心底がっかりした。彼ほど強い男ならば、敵の
だがアシバロンは悪びれない。彼は敵の手口を見出したことを得意げに語り始めた。報告を聞いたマウントールは、「自分の過去をバラされても動揺しない」という対策を、さも簡単なことのように口にした。立花亭には自分の転生前をバラされて平常心でいられる自信は無かった。
もしも自分が下手人達と戦闘になったならば、ルイやスパノと同じように殺されてしまうだろう。この恐怖は、残ったベストナインの大半には分かるまい。心が死んでいるギットス。自身の強さに絶対的な自信を持つアルミダ、アシバロン、マウントール。米沢は恐怖心を抱いているらしいが、彼は皆に恐怖を訴えたりはしないだろう。
一週間後のミーティングで、虫が帰ってこないという話になったときも、マウントールの対応は悠長なものだった。自分が言わねば自分が殺される、そう考えて抗議をした。
しかし、結果は彼を怒らせただけだった。更に、周りに助けを求めてはならないと釘を刺されてしまった。
自分は死ぬしか無いのだろうか。そんな絶望的な気分に押しつぶされそうになりながら自室へ戻った立花亭。そのとき自室の扉をノックする音が聞こえた。
「タッチー?わたしだけど開けてくれない?」
自分をタッチーと呼ぶ人は、
「タッチー大丈夫?ずっと
「…正直、大丈夫じゃ無いです。私は自分の過去を言われて平気な自信はありません」
「わたしも抗議するべきだったかな?」
「恐らく、御手洗ちゃんまで怒られてお終いだったでしょう」
「そうか…辛いよね?
立花亭はハッとする。自分が落ち込んでばかりいたために、
「忘れないで下さいね?私は何があっても、立花さんの味方ですから」
いつもと違う口調で自分を
「まぁ、と言っても今のベストナインで最下位のわたしが言っても安心感ゼロかなぁ?」
いつもの口調に戻って、エヘヘと笑う御手洗。彼女を見ていると元気が湧いてきた。
「そ…そんなこと無いですよぉ」
立花亭も泣きながら笑っていた。
それから半年以上経ったが、下手人に関しての進展は何も無かった。新しい情報はゼロ、代わりにこちらの新たな被害もゼロだった。時が経つにつれ、立花亭の恐怖は薄れていく。
向こうはどうして行動を起こさないのだろうか?仲間の自爆で全員吹き飛んだのか、アシバロンの襲撃で心が折れたのか。もしかすると向こうの目的はルイとスパノだけだったのだろうか?ならば何故二人は狙われたのだろう。ルイは非常に分かりやすい。彼は様々な村で虐殺をしていたからだ。じゃあどうしてスパノまで?彼も殺人をしていたのだろうか。あの日、自分を先に帰したのも、彼自身の蛮行を隠すため?
様々な疑問が毎日のように浮かんだ。だが考えても考えても結論は出てこない。その内、考えることすらしなくなった。結論が出ないと分かっている疑問について頭を悩ませるのは無駄だ。もしも答えが分かる日が来るのならばその時は…。
それ以上は考えたくなかった。
そうして恐怖心がほとんど消えたある日、立花亭に再び同じ恐怖が襲いかかった。自分が率いていたパーティの一人であるバニーラが連れてきた男が、自身の恐怖の根源だった。彼の腰にあったルイの剣を見たときには気を失いそうになった。「ラベリング」を発動させたのは反射的な行動だった。
恐怖の根源リュートを無力化し、地面に叩きつけた立花亭。なのに一向に恐怖が消えない。ずっと恐れていた存在が、今自分の命を狙っている。無力化した程度では安心出来ない。スパノの時は「
だが別の恐怖が彼女を襲う。ここでリュートを殺せば、彼の仲間に狙われるのではないか?そうなれば自分は殺されてしまう。一体どうすれば?
その時、ルイの剣が視界に入った。立花亭は思いつく。
ならば次にやるべきことは抵抗の可能性を絶つことだ。ルイの剣を奪い、リュートの手足を切り落とそうとしたその時、予想外の相手から妨害を受けることになった。
「リュートさんから離れて下さい…、『決めつけ講談師』様…」
バニーラが立花亭に武器を向けていた。バニーラ自身、どうして自分がこんな行動を起こしたのか半分理解できなかった。一つ分かっていることは、自分に優しくしてくれたリュートを傷つけるのは例えベストナインであろうと許せない、という気持ちだった。
「バニーラさん…、私に逆らうのですか?」
苦虫を噛み潰したような表情で、彼女を睨む立花亭。怖い、今すぐ武器を置いて謝りたい。そう感じながらも彼女は武器を捨てられなかった。
一方の立花亭にも焦燥感が襲っていた。今すぐリュートを無力化しなければならない。だがこの男はバニーラの恩人なのだ。だからこそ、バニーラも自分に逆らってまで抵抗しているのだ。今の自分の心境に相応しくない、冷静な分析が彼女の頭で行われた。バニーラを納得させなければならない。だがリュートがルイとスパノを殺した人間だとは言えない。二人の死が人間の仕業であることはベストナインの機密事項だ。ならばどう言えば?この先の考えが浮かばない。
「どうしてリュートさんを傷つけようとするんですかぁ!?」
バニーラからの問いかけに対し、立花亭は
「こ、この男は魔族と繋がりを持っている疑いのある重要人物ですっ!マウントールから見つけ次第捕縛するよう指示が出ています。今すぐ武器を捨てなさい!そうすれば今回の不祥事は不問にします!」
立花亭の叫びを聞いてバニーラは武器を下ろしてしまう。自分はとんでもないことをしているのではないか?そんな疑問が頭の中で膨らむ。転生前のご主人様への恩をこの世界の人類を救う形で返そうとしている自分。立花亭は人類を救う英雄だ。そんな彼女がリュートを悪人だと断言する。彼女の必死さからは、嘘を言っているとは思えない。彼女の邪魔をしてはいけないんだ。そう考えるバニーラの手が武器を離しかける。
「バニーラはすごいよ!」
瞬間、バニーラの脳内にリュートの言葉がこだました。彼の言葉が彼女の疑問を一気に消し去る。彼女は再び槍を立花亭に向ける。
「それでもっ!リュートさんはわたしを『すごい』と褒めてくれました!この世界でいろんな人に優しくしてもらいましたが、わたしのことを褒めてくれたのはリュートさんが初めてでした!リュートさんを傷つけるのだけは!絶対に許せません!!」
「バニーラ…」
リュートが苦しげに
「この、愚か者があああぁぁ!!」
立花亭もバニーラに向かおうとする。だがその瞬間、彼女の足が止まる。右足をリュートから放してはいけない。そうすればヤツは起き上がり、自分を後ろから斬りつけるだろう。そんな警告が頭に響く。ルイの剣は彼女が持っているのだから、リュートが彼女を斬りつける手段は無い。だがそんなことは彼女には分からない。
バニーラの槍がせまる。立花亭は相手を
分断された槍を見たバニーラは、自分が持っている柄だけの部分を捨ててジャンプする。宙を舞っている穂先の付いた方の槍を持って叫ぶ。
「『
槍が形を変えて、剣身がオレンジで持ち手が緑のクレイモアになる。
再び武器を立花亭に振るバニーラ。立花亭も今度は相手の剣身に向けて、己の剣をぶつける。一瞬のつばぜり合いを経て、ルイの剣がクレイモアの剣身をガリガリ斬り開いていく。数秒と持たず、クレイモアの剣身は真っ二つになった。
「駄目だバニーラ!!その剣は普通の剣じゃ無い!」
リュートの言葉を耳にし、バニーラはまたしても叫ぶ。
「『
彼女の持つクレイモアが、緑の鎖にオレンジの鉄球が付いたモーニングスターに姿を変える。しかしゴーギャンのものに比べて鉄球の大きさが四分の一程しか無い。クレイモアを分断されたせいで、ニンジンが小さくなっているのだ。
それでもバニーラは諦めない。鉄球を立花亭に投げつける。立花亭もルイの剣で応戦する。刃が鎖を断ち切ろうとする。
瞬間、バニーラが腕を引き、鎖の分断を
ガンッと音がして鉄球がぶつかる。痺れるような衝撃を手に受けた立花亭は剣を手放してしまう。
「しまった!」
宙を舞った剣が地面に突き刺さる。早く取りにいかなければ、と思いながらも右足は根が生えたようにリュートから動かない。
そんな立花亭を尻目にバニーラは駆けだし、地面に刺さったルイの剣を引き抜いた。
流れは一気に立花亭に不利になった。
どうでもいいんですが、初めてFateシリーズを知ったとき、どうして剣士(セイバー)や弓士(アーチャー)に混じってアナウンサー(キャスター)がいるんだろう、と思ってました。