異世界転生殺し チートスレイヤー アナザーミッション(VSアナザーベストナイン)   作:3S曹長

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 長かった第四章も今回で終了です。
 思ったよりも長くなってしまいました。章が進むごとに一つの章に使う話数も長くなってしまっていて、外から見ればもう少し削れる部分もあるんだろうな、とか思うのですが、こればかりは編集者もいない素人の投稿ってことでしょうが無いのかなとも思います。

 もう「離反」が誰のことを指すのか分かったと思いますが、まだこの章でやり残したことがあるので、ソレを消化してから次の章に進むことになります。

 本編で伝え忘れていた設定を一つお伝えいたします。御手洗幼子(みたらいようこ)の「キャンディマスター」第1の能力は、自身から一メートル以内にあるキャンディの形を自由に変えられます(自身が一度舐めたキャンディという条件がありますが)。キャンディに直接触れていなくても大丈夫です。


第四章 離反 その20 「マウントールの能力」

「さて、感動の再会は済んだかな?約束だ、下で色々と話してもらおうか」

 

 魔女が御手洗に言う。

 

「うん。そうだね、約束だからね」

 

御手洗もすんなりと認めた。

 

「ちょっと待っててね、タッチー。またすぐに会えると思うから」

 

「…うん」

 

御手洗はポセイドラによって立たされ、立花亭の口には再び猿轡(さるぐつわ)がされた。

 部屋に残される立花亭以外の全員が扉を出ていこうとする中、バニーラが魔女に小声で耳打ちする。

 

「魔女さん、御手洗さんは恐らくマウントールさんの能力を受けています」

 

バニーラは先の御手洗との会話で、このことを察していた。

 

「そうだろうな」

 

当然だと言いたげに魔女が答える。

 

「そ…その、治してはいただけませんか?私と同じように…」

 

バニーラが遠慮がちに言う。魔女との生活を初めてまだ日の浅い彼女だが、相手が転生者を嫌っているだろうことは察していた。

 

「何を言っている?」

 

「や、やっぱりそうですよねぇ…」

 

「治すに決まっているだろう。そうでなければヤツの返答を信用することすら出来ないじゃないか」

 

 バニーラが胸をなで下ろす。

 一方で御手洗は、魔女がバニーラに意識を集中させているチャンスを逃さなかった。全員が自分から目を離した隙を見計らい、口の中に隠していた溶けかけのキャンディを()()()()()()。キャンディを、糸を構成する繊維(せんい)よりも細く変形させて自分の体の上を滑らせ、床板と床板の隙間に隠したのだ。非常時の武器を残しておくためだった。

 

 下に着いた一行は広間の机を囲んで座った。立花亭の見張りを担当しているジモーとラーシャ以外の全員が揃っていた。机の上に人数分のティーカップ。リンがその全てに紅茶を注ぐ。

 

「さあ御手洗幼子(みたらいようこ)。カップを選びたまえよ。残りのカップは私達がいただく。毒が入っていない証拠になるだろう?」

 

魔女が御手洗に紅茶を勧める。御手洗は言われた通りカップを選んで手にし、残りのメンバーが他のカップを手に取る。リュート達が紅茶を飲み始めたのを見て、御手洗も紅茶を口にする。

 

「どうだ、美味しいだろう?彼女はお茶を()れるのも得意でな」

 

魔女に視線を向けられたリンが一礼するのを見て、御手洗も言葉を返す。

 

「うん、美味しいよ。お茶菓子が欲しくなっちゃうな。例えばキャンディとか」

 

「ふふふ、中々冗談が上手いじゃあないか」

 

魔女は笑って言葉を続けた。

 

「さて、最初の質問だ。お前は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「最初にする質問がソレ?」

 

「質問を質問で返すな。そっちに質問する権利は無いと言ったはずだ」

 

魔女の言葉を受け、御手洗は自身の感想を正直に言う。

 

「フツーにすごいと思うよ。少なくともわたしには無理だし」

 

「本当にそう思うか?」

 

「本当だよっ」

 

少しムッとした様子で答える御手洗。しかし魔女は一歩も引かない。

 

「冷静になって考えてみろ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「え、そ、それは…。あ、あれれ…??」

 

 頭を抱えだした御手洗を見てリュートは思う。

 

「まただ。バニーラの時と同じだ。マウントールは二人に何をしたんだ?魔女は一体何をしたんだ?」

 

彼がそんな疑問に頭を悩ませている間も、御手洗の苦悩は続いていた。

 

「確かに…。この世界でフランス語を話せるのってそんなにすごいの?どうしてこんなにリーダーを尊敬していたの?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

数分の苦悩を経て、御手洗が汗にまみれた顔を上げた。

 

「さあ、もう一度紅茶を飲みたまえ。そのお茶にはリラックス効果がある」

 

魔女に勧められるまま紅茶を飲む御手洗。そして彼女は口を開いた。

 

「そっか…。わたし達はリーダーに、マウントールに何かされていたんだね?」

 

「その通りだ。さあ、治療完了だ」

 

 得意げに言った魔女に対し、リュートが尋ねる。

 

「なあ、バニーラの時もそうだったが、お前は何をしたんだ?」

 

「何って決まっているだろう?マウントールの能力を解いたんだ」

 

「その能力とはなんなんだ?」

 

今度はポセイドラが尋ねた。

 

「そうだな。マウントールの能力『畏怖(マウンティング)』を一言で表すなら、『自身の行動のスゴさを共鳴させ増幅させる能力』だ」

 

「まるで意味がわからんぞ!」

 

「え?わたしの聞いてた能力と違う!」

 

ポセイドラと御手洗が同時に声を上げる。

 

「ちゃんと説明してやる。まず、マウントールは()()()()()()()()()()()()()()()。ヤツの本当の能力は、自身の『スゴい行為A』を相手に見せることで『大してスゴくも無い行為B』をAと同じくらいスゴい行為として錯覚させる能力だ」

 

噛み砕いて説明したつもりだったが、どうやらケイル以外の人間にはピンと来ていないらしい。

 

「やはり分かりやすい例が必要だな。例えば、私は転生者を無力化出来る魔法を使えるだけで無く、あらゆる魔法に精通している。これはスゴいことだろう?」

 

自分で言うなよ、と突っ込みたくなる気持ちを抑えて(うなず)く一同。分かりやすく説明しようとしている彼女の邪魔をしてはならない。それに、確かにスゴいことであるのは間違いない。

 

「これが『スゴい行為A』だ。一方、私は葡萄酒(ワイン)をたくさん飲むことが出来る。この行為はそこまでスゴいとは言えないだろう?これが『大してスゴくも無い行為B』だ。」

 

葡萄酒(ワイン)()まれるの間違いだろ、というツッコミも我慢して頷く。

 

「『畏怖(マウンティング)』を使われると、『葡萄酒(ワイン)をたくさん飲める』という大してスゴくも無い行為が『あらゆる魔法に精通している』のと同じくらいスゴい行為に感じてしまう。そういう能力なのだ」

 

「すっご~い…のか?その能力」

 

 リュートが率直な感想を述べる。

 

「どんな能力も大切なのは活用方法だ。この能力の厄介な点は、かかってしまっていることに自分では気付けない点だ。能力を解くには、第三者から「ソレって本当にスゴイことなの?」と聞かれるしかない。それも単に興味本位で聞かれた程度ではダメだ。第三者が『スゴイと思っているのは絶対に変だ』と確信した状態で論理的に矛盾点を指摘してくれなくては解けない。」

 

確かにバニーラも御手洗も、魔女に尋ねられてすぐの状態では「マウントールがフランス語を話せるのはすごい」と、何の疑問も抱かず認めていた。その上で魔女が引き下がらず、論理的に矛盾点を指摘したことで解けたのだ。

 

「加えて能力の解除を受ける人間も、冷静な判断が出来る状態じゃ無いと意味が無い。神経が衰弱している立花亭に能力の解除が出来ないのはコレが原因だ」

 

「そっかぁ、わたしに紅茶を飲ませたのもソレが理由なんだね」

 

御手洗は魔女が「紅茶にリラックス効果がある」と言っていたことを覚えていた。

 

「ご名答。このように解除するのは色々面倒だが、対策は容易だ。『マウントールの行為はA以外は大してスゴくもない行為ばかりだ』と意識するだけで良い」

 

「確かに簡単だが…、マウントールの『スゴい行為A』とは何なのだ?」

 

 ゴーギャンが尋ねる。

 

「そこが肝だ。ヤツの『スゴい行為』とは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ」

 

魔女は完結に答えた。

 

「正直ヤツにとって自身の特殊能力なんてオマケみたいなものだ。ヤツが自身の強さを振りかざせば、どんな相手も黙らざるを得ない。それ程ヤツは強い。単純に強すぎるのだ」

 

 魔女に言われずとも、そんなことは皆知っていた。世界最大のギルド「神の反逆者」の頂点に立つ男マウントール。その強さを知らない者なんてこの世界にはいない。

 

「そんなことは知ってるって?それでもヤツの強さは異常だ。()()()()()()()()()()()()()()()。そしてヤツはこの『異常なまでの強さ』を『畏怖(マウンティング)』のトリガーにした。これがどれ程恐ろしい行為か分かるか?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言うことだ。これによってヤツは自身の強さを振りかざすこと無く、自分に逆らう人間がいない環境を築いたのだ」

 

リュートもようやくマウントールの特殊能力『畏怖(マウンティング)』のスゴさを認識できた。

 

「確かに…、『私の圧倒的な強さこそ、私の特殊能力さ』ってリーダー…マウントールが言ってた」

 

御手洗が体を震わせながら言う。

 

「そうだ、ヤツは自身の強さを特殊能力として世間に伝えている」

 

「その…『特殊能力と言われても違和感を抱けないほどの素の強さ』にも、何かトリックがあるのか?」

 

「それがね、()()()()()んだ。少なくとも何かトリックがあるのは間違いない。それ程ヤツの強さは異常だ。だが今まで散々調べても、そのトリックが分からなかった」

 

「なっ…」

 

リュートは言葉を失った。以前「米沢の正体が分からない」と知ったときと同じような、底知れない恐怖を感じた。

 

「変だと思ったんだ…」

 

御手洗が言う。

 

「仲間が虐殺を繰り返しているのを誰も止めないこと、自分が止めようとも思わなかったこと…。転生前なら絶対見て見ぬフリなんて出来ないのに。これも、マウントールの仕業だったんだね」

 

「そうだ。虐殺をしている(やから)は自分の自由意志で犯行を繰り返しているがな」

 

「どういうことだ?お前は自分の判断で、ルイやスパノの虐殺を見逃していたのでは無かったのか?仲間だからという理由で」

 

ポセイドラが尋ねる。

 

「だから~、そう思うようにマウントールが仕向けたってことだよっ。マウントールはベストナインのメンバーに三つの決まりを課していたの。一つ、他メンバーの殺害を禁ず。二つ、他メンバーの自由の侵害を禁ず。三つ、自身の能力は正直にマウントールに伝えること」

 

「その通りだ。ヤツはこの決まりによって強力な転生者を集めたのだ。ベストナインに入りさえすればどんなことをしても許される、という魅力を餌にしてな」

 

魔女はそう言って御手洗に目を向ける。

 

「だが、お前にかかっていた能力はもう解けた。洗いざらい吐いてもらうぞ」

 

「いいよ。私の知っていることなら何でも教えたげる」

 

御手洗は軽蔑したように言葉を続ける。

 

「わたしももう、マウントールに愛想(あいそ)が尽きちゃったから」

 

 

 

 

 

数時間後

 

 御手洗への尋問を終了させた魔女が言う。

 

「コレで全部か?」

 

「そうだよ。全部正直に話したよ」

 

御手洗が答える。様子を全て見ていたケイルが魔女に尋ねる。

 

「信用できるのでしょうか?」

 

「信用できるとも言えるし、そうでないとも言える。どう見るかだ」

 

「え~?これ以上どうしろってのさぁ~?……あっ!」

 

 御手洗が何か思いついた様子を見せる。

 

「じゃあさじゃあさ、とっておきの情報教えてあげる!ベストナインのメンバー以外知らない極秘情報だよ?」

 

「言ってみろ」

 

「あのね、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!どんな人なのかは分かんないけど…」

 

「何…だと……」

 

 魔女が動揺したように言う。彼女の顔からは冷や汗が流れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第四章 離反 END

「ベストナイン」 残り5人(?)

「テンスレ」   残り12人(?)




 ということで、第四章終了です。最後の残り人数はお互いに「?」が付く形になりました(「ベストナイン」は今後新メンバーが加わるため、「テンスレ」は立花亭と御手洗が完全に味方になった状態とは言えないため)。
 第五章は、新キャラ登場から始まる予定です。お楽しみに。

 ということで、「新章突入前のちょっとした企画」を発表します。明日、話の更新をする代わりに、()()()()()()を投稿する予定です。コレが「ちょっとした企画」ですっ。

「はぁ?つまんな」

という声もあるかも知れませんが、スミマセン。
 ですがこの読み切りも「異世界転生者殺し チートスレイヤー」絡みの作品です。本当は前書きの茶番にする予定だったのですが、思ったより壮大になってしまったので、短編として投稿することにしました。
 いつもと全く違う内容になるので(ていうか例に漏れず大分痛い内容になっている可能性があるので)、好き嫌いが分かれるかと思いますが、興味を持たれた方は読んでみて下さい。
 一応言っておくと、この読み切りの内容は当作品(チートスアンアン)の内容とは一切関係が無いことをご理解ください。
 投稿は明日の12:30を予定しています(時間がずれる可能性アリ)。

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