サトラレ少女はお嫁さん募集中です   作:百合好きの雑食

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39話 とても強くて素敵な女の子がいたんです

 

 

「何をびびったんですか?」

「は? びびってねェ!」

 

 ドーン! と、腕組みして胸を張りながらウソをつくゾロさんに『えー』という気持ちで目を丸くする。

 いえ、聞こえていましたからね? 流石に誤魔化されてあげませんと、平静を装うゾロさんを見上げる。

 

「さっき『びびった。クソ……』ってぼやいてましたよね? もしかして、あの暴漢さん達が怖かったんですか?」

「違ェよ!!!! そっちじゃなくて、このパクリ女がだなァ……」

「パクリ女!? ちょっと貴方、先程から知っていましたが失礼です!!」

 

 ……うあ。失敗しちゃった。

 

 お2人の間に漂うおかしな空気を払拭しようとして、盛大に火花が散ってしまった。

 申し訳なくて、チラチラとほんのり険悪になっている2人を見つめて肩を落とす。手にした冷たいアイスを半ば無意識に舐めると、甘くて美味しい。「ふおぉ……」と感動する。

 

「……む」

「……あら」

 

 実はアイスを食べるのは初めてで、こういう食感なんだと、口の中で溶けていく味わいに感動してしまう。

 美味しいなぁ……! ついつい夢中になって数秒後、ハッとしてまだ喧嘩しているだろう2人に振り返れば、ゾロさんとたしぎさんは無言でアイスを舐めていた。……おお! いつの間にかちょっと仲良しな2人に嬉しくなる。

 

(やっぱり、美味しいものは世界を平和にしますね!)

 

 でも、2人の間に漂う空気はまだ重いままで、とりなす様に刀使いの彼女、たしぎさんに声をかける。

 

「えと、それにしても、たしぎさんが武器屋の場所を知っていて助かりました!」

「……いえ。丁度用事がありましたし……むしろ、こんなにご馳走になって申し訳ないです」

「いえいえ! どんどん食べて下さいね!」

 

 でれっと、頬が緩みそうになるのを堪える。

 少しでも気を引きたくて、目につく屋台で色々と購入しながら押し付ける様に貢いでいるけれど、いっぱい食べてくれて嬉しい。こっそりデート気分を味わえて私の方がお礼を言いたいぐらいだ。

 

(それに……)

 

 何というか、彼女の申し訳なさそうな、ほんのり照れた笑顔にキュンっとする。

 

 良い……! 控えめな微笑みが頼りなさげで、しかし刀の腕前は達人級という、今までに出会った事ないタイプの女性にメロメロだ。でも、隣を歩くゾロさんは何かしら不満があるのか、ずーっと不服そう。

 

(……どうしたんだろ? パクリ女って言っていたし、誰かに似てるのかな?)

 

 少し心配になりながらも、3人で刀を売っているという武器屋を目指して大通りを歩いていく。途中の屋台で目についたクレープを買って、疑似デートをこれでもかと堪能する。

 

「……悪くはねェ」

「あ、こっちの味も美味しいんですよ」

「ふあぁ……! この町は美味しい物がいっぱいですね!」

 

 ポテトのバター焼きを頬張りながら幸せに頷く。お腹が膨らんできたおかげか、不服そうだったゾロさんの空気も緩和してきている。ソーセージの串焼きや熱々のポテトを食べている内に、たしぎさんに対しての違和感? に慣れてきたのかもしれない。

 ちなみに、今は買ったばかりのみかん多めのクレープで舌を喜ばせている。たしぎさんはベリーたっぷりのクレープを選び抜き、ゾロさんは鳥の炭火焼きがごっそり入った惣菜風を食べている。

 

(んはあ……美味しいしたのしいなぁ)

 

 なんだかんだ、ゾロさんとたしぎさんは軽い会話を交わすぐらいには距離も近づいている。まあ、その会話内容はアレですが。

 

「おいパクリ女。そっちのたこ焼きもくれ」

「パクリ女ってまた言いましたね!?」

「なんだよ。けちけちすんな。こいつの金で買ったもんだろ?」

「けちけちなんてしてません!! ……まったく!!」

 

 ……いえ、まあ。文句を言いつつ、ゾロさんにちゃんとたこ焼きをあげる優しいたしぎさんですが、ゾロさんはゾロさんで、心と現実の距離感が近すぎたり急に遠ざかったりと、いつになく間合いがおかしい。

 ……なんだろう。だんだん2人のやり取りが可愛く見えてきた。

 

 ゾロさんは、最初はたしぎさんに対してやり辛そうというか、複雑そうというか、らしくなくとっつき辛そうというか、妙に意識していた。まあ、今はこんな失礼な軽口を叩けるぐらいには仲良くなっていますが。かなり複雑な心境なのは伝わってくる。でも、いくらたしぎさんが人が良くて優しくて可愛くて強くて美人で素敵とはいえ「えっ!?」そろそろ本気で怒るかもしれなくて、どうしたものかと悩ましい。

 

「……おい。不用意にこいつに触るな」

「……う、うぅ。すみません」

 

 対策としては、ゾロさんがまた変になったら、口に美味しい物を詰めて黙っていて貰いましょう。

 私としても今はクレープを味わうので忙しいですし……うん。生クリームが甘すぎない感じでフルーツの甘みと酸味をほどよく感じられるこだわりの逸品ですね!

 

 はあ、幸せすぎる。……道案内を口実にたしぎさんにご一緒できているだけで最高なのに、食べ物も美味しくて、本当に今日はゾロさんについてきて良かった!

 

「……一応言っておくが、こいつにはすでに嫁が2人いる」

「え゛っ!? ……い、いえ。幼い容姿と性別に目を瞑れば、妻帯者なのも納得の思慮深さと器量良しですが……凄い子ですね」

「……ああ、出会ったばかりなら、こんなもんだろ」

「え? あの、どういう意味ですか?」

 

 うん? 意味深な視線を感じた気がして振り向いたら、なんだか2人がこそこそと仲良さそうに打ち解けている。

 んん? たしぎさん、動揺して眼鏡をカチャカチャしすぎでは? そして、ちょおっと距離が近すぎでは? んんんっ。少し寂しいけど、同じ刀使いの剣士同士、親しくなるに越したことは無いと我慢する。

 

(一期一会かもしれないこの縁が、未来の実りある種になるかもしれない)

 

 邪魔をしない様に、もうちょっとだけ距離をとる。

 ゾロさんに首根っこ掴まれているのでそこまで離れられないけど、気分の問題だ。そうこうしていると武器屋も見えてきた。

 

(そういえば、武器屋に入るの初めてだ)

 

 慌てて残りのクレープを食べきって、ゾロさんに押される様に店内に足を踏み入れる。

 

「刀が欲しいんだが」

「はーい、はいはいはいはい」

 

 おお。見慣れないたくさんの武器がいっぱいある!

 

 きょろきょろと見まわしていると、ゾロさんが早速店主さんと話をする為にカウンターに近づいていく。その際にぐいっと、まるで私をたしぎさんに押し付ける様にして(はあ!?)そのまま行ってしまう。ええ?! 突然の予期せぬ密着に動揺するも、何故かたしぎさんに遠慮がちに触れられてゾクゾクッと足が止まる。

 

(――――!!??)

 

 柔い力で肩を握られる感触に、変な声を出さない様に意識する。

 そ、そういう触り方は、あの夜のノジコを思い出して、っていけない。今はお昼だ。――よし。落ち着いた。理性と自制心には自信があるぞ!

 

(でも。なんでいきなり触ってくれるんだろう? ……手、大きいな)

 

 駄目だ、たしぎさんが気になって武器とか全然目に入らないし、自衛の為に武器の一つでも持つべきかなぁ? とか考えていたさっきまでの自分がばいばいしてしまった。

 

「……え、ええと、ナナさん!」

「ひゃい!?」

 

 名前を呼ばれて振り返ると、赤面しているたしぎさんと目があって、ひょわっ!? と肩が跳ねる。

 

「……んんっ! ナナさんは、武器をお探しなんですよね?」

「ははははいっ!! ……そ、そうです! その、わわわ私でも扱えそうな、護身用のが欲しいなって、思っています」

 

 は、恥ずかしい。変な声が出てしまった。

 

 たしぎさんは「そ、そうですか」と目を泳がせながら「ナナさんは、武道の心得がありますか?」と丁寧に聞いてくれる。それに「い、いいえ」と、肩の感触と可愛い顔を意識しまくりながら答える。

 

(今まで荒事とは無縁の生活だったしなぁ……)

 

 ルフィさん達と出会ってからも、私は戦闘から遠ざけられ、守られている。

 だから、意気込みはともかく、実際には人を殴った事もなくて、そんな自分が武器を持つという事に違和感を覚えてしまう。

 一応は、ナイフを持っているけど、あれは対人用じゃなくて作業用だからなぁ……

 

(……うーん)

 

 ほんの少しだけ、ゾロさんやたしぎさんと同じ様に刀を持つ自分を想像して……あまりの“無さ”に悲しくなった。

 似合う似合わないではなく、場違いなのだ

 

(刀は“無い”ですね。……他の武器より使い手を選んでいる感じが伝わってきますし。私じゃどんな子にもふられちゃう)

 

 制作過程で人の念が籠りやすいというか、なんだろう? 素直に“目覚め”が早いと思うのだ。

 だから、物の記憶や意志が伝わってしまう私には、安易に手を出せない。

 

(それはそうと……あそこからすっごく自己主張が激しい気配がしますね)

 

 刀がたくさん入ったタルを見ながら首を傾げていると、目を見開いているたしぎさんと目があう。

 

「? ど、どうかしましたか」

「い、いえ! ……ナナさんは随分と……目がいいんだなぁと」

 

 目? 普通だと思うけど、褒められたのは嬉しい。

 

「そうですか? 初めて言われました。ありがとうございます」

「……いいえ。私は―――って、ええ!?」

 

 と、会話の途中でたしぎさんが驚いた顔をして、私の手を引いたままゾロさんと店主さんのところに駆けて行く。

 耳には、店主さんがゾロさんの刀を買い取ろうと頑張る声が届いていたので、ゾロさんの刀を気にしていたたしぎさんには放っておけなかったらしい。

 

「ま、待って下さい! ダメです! それ“和道一文字”ですよね!?」

「和道……!?」

 

 あれ、ゾロさんも驚いている。

 たしぎさんは、これを売るなんてとんでもない! って親切心で突撃したのに、説明を続けながら次第に視線が刀に向けられ、気づけば両手で捧げる様に「綺麗な直刃……」と、うっとり見惚れている。

 ゾロさんは、それに呆れた顔をしつつ、表情豊かに嘆いている店主さんに「とにかく、この刀は売らねェよ」と、溜息交じりに答えて、刀を鞘に納める。それにしても……

 

(和道一文字……って言うんだ、この子)

 

「ん?」

「あ」

「……!? なんだ」

 

(名刀なのは知っていたけど、格好良い名前だったんですね)

 

 自然と頬が緩んでいると「……あー。持ってみるか?」とゾロさんが珍しい事を言ってくれる。

 目を丸くして「ぜ、是非!」と、気が変わらない内に手を伸ばす。考えてみれば、私は刀の重さも触感も知らないのだ。そっと、大切にゾロさんの刀を受け取って。

 

「!」

 

 じわりと、手袋越しにその重さを感じた瞬間。――――刀の記憶が流れ込んでくる。

 

(……ぁ)

 

 視界が夜になり、私は幼い子供達が、剥き出しの刀で戦っている映像にびっくりする。

 

 そして、それが“誰”か分かったから更にびっくりした。ええ!? ゾロさんとたしぎさん!? なんで!? お知り合いだったんですか!?

 

 驚いている隙に、勝敗はすぐに決して、ゾロさんはたしぎさんの手で、背に土をつける。

 

 

『畜生ォ……!! くやしい……!!』

 

 

 彼は、心の底から悔しがって、泣いている。

 

 私は、それを唖然と視ている。

 酷く、はっきりした記憶だと、驚いているのだ。

 

 

『本当はさ……くやしいのは私の方……』

『え!?』

 

 

 でも、途中で気づく。

 この子は、たしぎさんじゃない。

 

 

『女の子はね。大人になったら男の人より弱くなっちゃうの……私ももうすぐキミ達に追い抜かれちゃうわ……ゾロはいつも言ってるよね……』

 

 

 似ているけど、違う子だ。

 

 

『世界一強い剣豪になるって、女の子が世界一強くなんてなれないんだって……パパが言ってた……!!』

『…………』

『ゾロはいいね。男の子だから。……私だって世界一強くなりたいよ。胸だってふくらんできたしさ……私も男に生まれてくれば……』

『―――俺に勝っといて、そんな泣きごと言うなよ!!!! 卑怯じゃねェかよ!! お前はおれの目標なんだぞ!!!!』

『ゾロ……』

『男だとか女だとか!! おれがいつかお前に勝った時も、そう言うのか。実力じゃねェみたいに!! 一生懸命お前に勝つ為に特訓してるおれがバカみてェだろ!! そんな事言うな!!』

 

 

 ―――ああ、そうか、この記憶は。

 

 

『約束しろよ!!』

 

 

 この子が、忘れちゃいけない記憶なんだ。

 

 

『いつか必ず。おれか、お前が世界一の剣豪になるんだ!! どっちがなれるか競争するんだ!!』

 

 

 静かに、鞘を握りながら目を細める。

 

 

『……!! バカヤロー……!! 弱いクセにさ』

 

 

 2人は笑いあって、手を握り合う。

 

 

『『約束だ』』

 

 

 この子を通じて、私はこの小さくて尊い、2人の剣士の誓いを見つめている。

 

 そして。

 

 この子は、だから。

 

 

『ゾロ!! 大変だ!! くいなが!! 家の階段で転んで……死んだ!!!!』

 

 

 涙が、溢れてしまう。

 

 この記憶は、だから、寂しさも滲んでいたのだ。

 君は、だからこそ、あの夜の事を、強く記憶しているんだね。

 

 

『先生ッ!! あいつの刀、おれにくれよ!!』

 

 

 握り込んだ、まだ小さな手から、強く流れてくる感情が胸を揺さぶる。

 

 

『おれ、あいつのぶんも強くなるから!! 天国までおれの名前が届くように世界一強い大剣豪になるからさ!!』

 

 

 2人の“主人”の約束を、君が忘れる訳にはいかないもんね。

 

 

「…………うん」

 

 目を伏せる。

 

 ゾロさんが、たしぎさんに複雑だった理由が、意図せず分かってしまった。

 

「……とっても、良い、刀ですね」

 

 泣きそうな声を、誤魔化して、泣いていたとバレたくなくて、目元を拭いながら鞘を優しく握り込む。……そっくりでしたね。

 

 たしぎさんは“くいな”さんと。

 

 何かを言おうとして、視えてしまった気まずさを笑顔で誤魔化そうと顔をあげて―――キィンと。

 

「え?」

 

 視界に、唖然としているゾロさんや、呆然としているたしぎさん、驚愕に目を見開く店主さんやその奥さんでもない、また別の光景が広がっていく。

 

 それは、この子に刻まれた。

 

 自身の主と世界最強の戦い、その一部始終にして、鮮烈な敗北の記憶だった。

 

 

 

 

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