幼馴染のついでにマフィアにされたら、武器がフォークでした 作:クォールツ
学校をサボって俺の家で正直あまり面白くないゲームを遊んだ次の日。
今日は待望の日曜で学校は休みだったので、俺はツナの家に遊びに来ていた。
俺の家から徒歩10分程度の所にあるツナの家は、ニ階建てで小さな庭付きの小綺麗な一軒家という中々のモノだ。
綺麗に整えられた庭を横目にしながら、手土産として用意したジュースとお菓子の入ったビニール袋を片手に玄関の前に立つ。
インターホンを押してしばらく待つ。するとドアがガチャリと開いて、ツナの母親の奈々さんが俺を出迎えてくれた。
シャツとジーンズ、その上にエプロンといういつもの姿の奈々さんは活発そうな雰囲気も相まって、かなり若く見えるし、なにより美人だ。
でも俺は奈々さんの事を叔母さんと呼んでいる。正直他の呼び方をしたいんだが、余り他人行儀な呼び方をするとかえって嫌がられるのだ。
奈々さん曰く、俺もツナと同じ自分の息子みたいな感覚らしい。まぁ一歳の頃から交流があるから今更他人とは思えないんだろうな。
「あら〜ナオくん! いらっしゃい!」
「こんちわっす叔母さん。ツナ居ます?」
「ツナなら二階に居るわ。ほらあがってあがって!」
そう言って、俺を迎え入れてくれる奈々さん。
一応、お邪魔しますと一言告げてから玄関をくぐる。正直ツナの家は何度も来てるから自分ちみたいな感覚だけど、礼儀は大切だからな。
ひとまずビニール袋を置いてから、脱いだ靴を揃えようとした時、ツナが履いているスニーカーの横に見慣れない靴がある事に気づいた。それは艶々とした黒い革靴で、靴なんて全然詳しくない俺でも高そうだな……なんて感じるくらい高級感のある靴だった。
不思議に思って奈々さんに尋ねてみる。
「お客さん来てるんすか?」
すると奈々さんは思い出したかのように言った。
「あらいけない! リボーンちゃんが来てるんだったわ!」
「リボーンちゃん?」
名前からして外国の人だろうか? でもツナに外国人の知り合いが居るだなんて聞いたことない。
「リボーンちゃんはツナの家庭教師でね、今日から来てくれてるのよ」
そう言えば確かに昨日ツナがそんな事を言っていた気がする。奈々さんに勝手に家庭教師なんて付けられてめんどくせーって言ってたな。
「でもこの革靴って子供用ですよね? リボーンさんのお子さんのですか?」
だが玄関にある革靴はどう見ても幼児用だった。1〜2歳用くらいの幼児に履かせるようなとても小さな物だ。普通の家庭教師が自分の子供まで連れて来るとは考えにくい。
それに、この革靴以外には見慣れない靴は並んでいない。家庭教師のリボーンさんとやらの靴は見当たらないのも謎だ。
「それはリボーンちゃんのよ?」
ますます分からない。頭の使いすぎで頭痛がしてきた。
とりあえず深く考えるのはやめよう。
「にしてもそのリボーンさん? が来てるなら、邪魔しても悪いっすね。出直します」
家庭教師が来ているのにその横でゲームなんて流石に出来ないし、終わるまで待たせてもらうのも迷惑だろう。
そう奈々さんに告げ、帰ろうとする俺を腕を奈々さんが掴んだ。嫌な予感がする。
「そうだ! 折角だし、ナオくんも一緒にお勉強して行ったらどうかしら?」
げっ、最悪だ。善意で言ってくれてるのは分かるが、しかしせっかくの休みなのに勉強だなんて嫌すぎる。
「いや〜ツナの勉強の邪魔する訳には……」
そう言ってやんわり断ろうとするが、優しい叔母さんモードから厳しい母モードに変わった奈々さんには通じなかった。
「ナオくん? 学校の成績、良くないらしいわね? ツナから聞いたわ」
「ゲッ……」
アイツめ余計なことを……ツナは締める、絶対締める。そう強く心に誓いながら、休みの日に勉強というこの世の地獄を享受すべく、俺はツナの部屋に向かうのであった。
階段を登り、ツナの部屋のドアの前に立ってドアノブに手を掛ける。
そのままドアノブを回してみれば鍵は掛かってないようだ、何の抵抗も無くドアが開く。
ノックぐらいしろよと思うかもしれないが、そこは幼馴染の気安さって奴だ。今更ノックなんて面倒くさいことをする気も無いし、ツナもノックがどうとかなんて俺には言ってこない。
「ツナ〜、入るぞ〜」
そう言いながらツナの部屋に入る。
部屋に足を踏み入れた俺の目に入ったのは、いつもの様に脱ぎ散らかされた服、テレビに繋ぎっぱなしのゲーム機とコントローラー。
そして……
「イテテテテテ! ギブ! ギブ〜!」
部屋の中央で、黒いスーツを着た謎の赤ん坊に手を捻られて悲鳴をあげる俺の幼馴染だった。
俺は自分の目を疑った。
確かにツナには体力の無いヘロヘロのもやし野郎だ。ツナの気弱な性格も相まって、殴り合いの喧嘩なんてした事もないしそんな話を聞いたこともない。
でも、だからといって赤ん坊にすら負ける程か? 赤子の手を捻るのでは無く、赤子に手を捻られるなんて……。
そんな事を考えながら、悲鳴をあげるツナとツナの腕を捻る赤ん坊の様子を眺めていると、赤ん坊は俺に気づいた様だ。ツナの腕を捻ったまま、顔だけを此方に向け、その小さな口を開いた。
「ちゃおっス」
「ちゃ、ちゃおっス……」
不思議な赤ん坊の不思議な挨拶を受け、俺はテンパりながらもその不思議な挨拶を返す。
するとその赤ん坊は小さな口をニヤリと歪めて、赤ん坊らしくない笑みを浮かべた。
「まあまあの挨拶だな。ノリが良いやつは嫌いじゃねーぞ」
「なに呑気に挨拶してんだよぉ〜! 助けて、ナオ〜!!」
「情けねー声出してんじゃねー」
そう言って赤ん坊は捻り上げていたツナの腕を離した。ツナはマジで痛かったみたいで、涙目になりながら自分の腕を気にしている。
にしても見れば見るほど変な赤ん坊だな
此方を見る大きな黒い目と垂れた眉はとても愛らしいし、赤ん坊特有の下膨れた頬はぷにぷにとしていて、一見するとただの赤ん坊にしか見えない。
だが赤ん坊は黒光りするスーツを着込み、頭には黒をベースに、鍔の少し上の辺りから天辺の下あたりまでがオレンジ色のイカした帽子を被っている。胸に付けている黄色いおしゃぶりだけが歳相応で、それ故に存在感を放っていた。そして何故か帽子の上には緑色のカメレオンを乗せている。コイツのペットか?
そんな不思議な恰好で、その小さな身体相応のジェラルミンケースを持つ姿は、ビジネスマンというよりマフィアか殺し屋みたいだ。
「お前が四阿直継か。話は聞いてるぞ」
「なんで俺の名前知ってんだよ? 話って誰からだ? というか、お前がツナの家庭教師のリボーンってやつ?」
「質問が多い」
「うおっ!?」
急に目の前に黒い物体が飛んできた。
あわや激突という所で、なんとか横に飛び退くことで黒い飛来物を避けることに成功した俺は、安全を確認したところで、何が飛んできたのかを確かめる。
どうやらさっきまで目の前にいた黒スーツの赤ん坊が飛び上がって、俺の顔に向けてドロップキックを仕掛けてきたらしい。一体どんな教育受けてるんだこのガキは!?
にしてもえらいスピードのドロップキックだったな……自分でも何故躱せたのか分からん。
「おまっ、危ねえだろ! 何すんだよ!」
「この俺の蹴りを躱すとはな。こっちのはまあまあ出来るみてーだな」
赤ん坊は自分の蹴りを避けられたことを何故か嬉しそうにしている。このガキ、バトルジャンキーかよぉ!?
「何意味わかんねーこと「俺の蹴りを躱した褒美だ、さっきの質問に答えてやる」すげえマイペースゥ!!」
そう思わず叫んでしまうくらいに悠々自適というか唯我独尊というか……。まぁいい、このままじゃ埒があかないからな。とりあえずコイツの話を聞いてみるか。
「俺はリボーン。プロの殺し屋だ。沢田綱吉を立派なマフィアのボスにする為に、イタリアから来た」
……はぁ? と口に仕掛けたその言葉をなんとか飲み込み、冷静に考えてみる。
「えっと……プロの殺し屋って、お前が?」
「そうだぞ」
「今ツナをマフィアのボスにするって言ったか?」
「そう言ったぞ」
「で、その為にツナの家庭教師をやるの? お前が?」
「そうだぞ」
「悪りぃ、やっぱ理解し難いんだが……」
「やっぱ意味分かんないよなぁ!? コイツ意味分かんないことしか言わないんだよ! なんとかしてくれよナオ!」
ようやく腕の痛みから解放されたらしいツナが、俺に縋りついてきた。
「意味分かんねーのは、お前の頭が足りねーからじゃねーのか?」
リボーンというらしいこの赤ん坊は中々に口が汚く、えげつない悪口を平気で口にしやがった。マジでどんな教育受けてんだよコイツ。親の顔が見てみたいわ。
「なぁ、リボーンだっけ? マフィアとかボスとか……それ本当か?」
「本当な訳ないだろ!? 俺達を揶揄ってるんだよコイツ!」
ツナがそう反論する。確かに普通に考えれば、ただのガキの悪戯なんだろうが……俺にはそうは思えなかった。
「でもなぁツナ、コイツ嘘言ってる様には見えないぜ? それに赤ん坊の癖に流暢に喋りやがるし、恰好もヤケに本格的だ。ガキの悪戯にしては手が込みすぎじゃねーか?」
そうなのだ。見たところ1〜2歳の赤ん坊が一人でここまで手が込んだ悪戯をするなんて、普通では考えにくい。
とすると、コイツの言う事も本当なんじゃないかって気がしてきたんだ。
「いい推理だな。中々やるじゃねーか、ツナも見習え」
「ナオはコイツの話信じるのかよ!?」
「まだ信じた訳じゃねーよ。ただ嘘言ってる様には聞こえないってだけだ。なぁリボーン、詳しく説明してくんねーか?」
喚くツナを宥め、リボーンに説明を求める。
「しょうがねぇ……と言いたい所だが、まあ良い。とりあえず直継も座れ。一回しか言わねーから良く聞けよ」
そう前置きをして、リボーンの口から聞かされたのは、確かに悪戯だと一蹴されるのも仕方ないと思えるような、とんでもない話だった。
「俺はイタリアのマフィア、『ボンゴレファミリー』のボスであるボンゴレ
「やっぱ意味分かん、ングッ!?」
「なんか言ったか?」
「き、気の所為じゃねーの? それより、続きを聞かせてくれよ」
突っ込もうとするツナの口をすかさず手で塞いで、リボーンに続きを促す。
「(まぁまぁ、とりあえず最後まで聞こうぜ?)」
「話を続けるぞ。ボンゴレⅨ世は高齢でな、ボスの座を10代目に引き渡すつもりだったんだ。だが、最有力のエンリコが抗争の中で撃たれちまった」
そう言ってリボーンは懐から一枚の写真を出して俺達に見せた。
そこには、ストライプのスーツを着た男が血塗れで死んでいる姿が写っていた。
それを見てツナが小さく悲鳴をあげる。
俺は動じていない振りをしているが、正直ツナが声を上げなかったら俺が声を上げていただろう。死体見るのなんて初めてなんだよ! 急に物騒なもん見せんな!!
そんな俺達の様子を気にも止めずに、リボーンは更に写真を出す。
「若手NO.2のマッシーモは沈められ、秘蔵っ子のフェデリコは……いつの間にか骨になってた」
リボーンはそう言って二枚の写真を見せて、何故か俺の目を覗き込むように見た。
無惨な死体の写真をできる限り目に入らないように確認してから、俺もリボーンの目を見る。
「で、なんでそれがツナがマフィアのボスになるって話になるんだ?」
「この三人が死んじまったから、残った10代目候補がツナだけになっちまったんだ」
「はぁ〜〜〜〜!? なんでそうなるんだよ! 俺日本人だよ!? イタリアのマフィアなんて全っ然関係無いから!」
確かにそれは俺も思った。ツナの両親は二人とも日本人だし、イタリアに住んでたとか、イタリア人の知り合いがいるなんて話を聞いたこともない。
「関係あるぞ。ボンゴレファミリーの初代ボスは早々に引退して日本に渡ったんだ。それがツナのひいひいひい爺さんだ。つまりお前はボンゴレの血を受け継いだ立派なボス候補なんだぞ」
そこまで言うとリボーンは、話は終わりだと言わんばかりに後ろを向いた。
「おいリボーン? 何処行くんだ?」
そう俺が聞くと、リボーンは「腹減ったから話は終わりだ」と言い残し、ツナの部屋を出て行った。
時計を確認すると、ツナの家に来てから結構な時間が経っていたようで、昼飯を食べるのにちょうどいい時間になっていた。
「なぁツナ、お前そんな話聞いたことあるか?」
「ある訳ないじゃん。こんな突拍子もない話聞いたら覚えてるに決まってるよ……」
「だよなぁ……」
リボーンが去った部屋の中で、俺とツナは顔を見合わせる。
なんだかなぁ……嘘言ってる様には見えないんだが、いかんせん突拍子も無さすぎて信用し難いのも確かだ。どうしたもんかね……。
そう俺が考えていると、ツナは大きくため息をついて立ち上がった。
「ハァ〜、なんか馬鹿らしくなってきた。腹減ったし、どっかに飯食い行こうよ」
「確かに腹減ったな……でも良いのかよ? リボーンのこと」
「良いよ別に。どーせさっきの話も手の込んだ嘘だろうし、母さんも流石に気づくだろ。赤ん坊が家庭教師だなんておかしいって」
「確かになぁ……。ま、いっか。で、何処行くよ?」
そんな話をしながら、俺達も部屋を出て階段を降りる。
「ツナ、ナオくん。ごはんは?」
リビングの前を通る俺達に気づいて、奈々さんが声を掛けてくれた。お願いすれば俺達の分も昼飯を用意してくれるんだろうが、ツナがそれを断る。
「いらないよ、ナオとどっかで食ってくる」
「すんません奈々さん、そう言う話になったんで……」
奈々さんの料理はめちゃくちゃ美味いから俺としてはご馳走になりたかったが、まぁ仕方ない。あんまり迷惑掛けてもいけないしな。惜しいけど。
名残惜しさにリビングを横目でチラッと覗く。
するとそこにはさっきのリボーンが椅子に座って奈々さんの料理を美味そうに食っている姿があった。
目を丸くした俺を見て、奈々さんが嬉しそうに状況を説明してくれた。
「リボーンちゃん、ツナの成績が上がるまで住み込む契約なの!」
どたーっとツナがずっこける音がする。
アイツが住み込みで家庭教師かぁ……。
「なんつーか……頑張れよ、ツナ」
今の俺には、そう声を掛けてやる以外のことは出来ない。
我が親愛なる幼馴染よ、ご愁傷様です……。
タイトル回収まで長くなりそうで参っちまうぜ・・・