幼馴染のついでにマフィアにされたら、武器がフォークでした 作:クォールツ
今更ですが不定期更新でお送りしております。
なんとかツナの家にたどり着いた後、ヘコむツナをなんとかなだめてから、俺はツナと別れて自分の家に戻ってきた。
なんだかんだで昼飯にありつけなかったので腹が減っていた俺は、すぐに飯の用意をすることにした。
適当な皿にご飯を盛り付け、その上からレトルトカレーをぶっかける。
ラップをかけた後、電子レンジにぶち込んでカレーを温める。何分に設定すればいいかは分からないがまあなんとなくでも大丈夫だろうと、とりあえずタイマーを二分に設定してレンジの蓋を閉めた。
レンジの中で回転するカレーの皿を眺めていると、不意にチャイムの音が鳴り響いた。
「ったく、誰だ? 新聞ならいらねーっつの」
愚痴りながらも玄関に向かい、ドアを開ける。
するとそこには、昼間に出会った黒スーツのあの赤ん坊、リボーンがいた。
「ちゃおっス。さっき振りだな」
「急にどうしたんだよ? ツナのとこに住み込みじゃ無かったのか?」
「お前に言い忘れてた事があったからな。この俺が直々に出向いてやったんだ。感謝しろよ」
平間と変わらないそのデカい態度に少しイラッとするが、ここは年上ということで我慢する。昼間みたいに銃ぶっ放されるのもゴメンだしな。
「ハイハイサンキュー。まぁ立ち話もなんだし、良かったら上がれよ」
そう言ってリボーンをリビングに上げて、椅子に座らせる。
「茶は出ねーのか? 使えねーな」
「悪いがうちにはインスタントコーヒーぐらいしか無いんだ。それで良いなら用意するぜ?」
「仕方ねーからそれで我慢してやるぞ」
「分かったよ……ミルクと砂糖は?」
「いらねーぞ」
ハイハイ、と言いながら、俺はインスタントコーヒーをお湯で溶かしてリボーンの前に出してやった。赤ん坊がコーヒーをブラックで飲むかフツー。
リボーンがコーヒーに口をつけるのを見ながら、俺は話を切り出した。
「で、言い忘れてたことってなんだ?」
「お前とツナに関することだ」
「俺とツナに? それはツナをマフィアのボスにするって話と関係があるのか?」
そう俺がリボーンに聞くと、リボーンはニッと笑う。
「やっぱり直継はツナより全然マシだな。話が早くて助かるぞ」
「お褒めいただきサンキューサンキュー。で、詳しく話してくれるんだろうな?」
「そう急かすな。せっかちな男はモテねーぞ」
そう言いながらまたもコーヒーに口をつけるリボーン。
喉から出かけた、赤ん坊に言われたくねーよ! という言葉をなんとか飲み込み、話の続きを待つ。
ゆっくりとコーヒーを楽しんだ後、リボーンの口から出てきたのは俺にとって許容しがたい内容だった。
「直継。お前にはしばらくツナと距離を置いてもらいてーんだ」
「ハァ? なんでだよ?」
すかさず俺は聞き返す。
「色々と理由はあるが、一番はお前がツナの成長を妨げる要因になるからだ」
俺がツナの成長の妨げになる? 意味が分からない。確かに俺はダメな奴だと思うが、別にツナの勉強を妨害したりはしていないつもりだが。
俺が納得していないのをリボーンも分かっているのだろう。リボーンはすぐに口を開いて、細かい説明をしてくれた。
「お前には自覚はねーと思うが、ツナは無意識のうちにお前に頼っちまってるんだ。多分兄貴みてーな感覚なんだろうな」
「マフィアのボスは他人に頼るような奴には務まらねーってことか?」
「別にそういうわけじゃねーぞ。マフィアのボスだってファミリーに頼ることはある。むしろ良いボスほどファミリーを上手く頼るもんだぞ」
「じゃあ良いじゃねーか」
リボーンは首を振って、俺の意見を切り捨てる。
「今のツナはとりあえずお前に頼ればなんとかなるんじゃねーかって考えてやがるからな。ファミリーに頼りすぎじゃマフィアのボスは務まらねーんだ」
まぁ確かに仲間におんぶにだっこされてるマフィアのボスなんて想像つかねーな。
「それに、お前とツナは学校でダメダメコンビなんて呼ばれてるらしいな。それも理由の一つだぞ」
「そんなん言ったって、俺にはどうしようもないだろ。好きに呼ばれてるわけじゃねーぞ」
「お前というダメ仲間がいるせいで、ツナは自分がダメでも構わねえと思ってやがる。まあ、もしお前が居なくてもそう考えていたんだろうけどな」
あー……まあ確かにそういうところはあるかもな。俺も別にツナが居るから頑張って勉強しようとか思わねぇし。
「お前がいたおかげで、ツナは俺が考えていたよりも幾分かマシだったが、これからツナを鍛えていくにあたってお前の存在は百害あって一利無しだ」
そうリボーンは言い切って、再度コーヒーに口を付けた。
「俺がツナにとって不都合な存在っつーのは痛いほど分かったが、じゃあ具体的に俺はどうすりゃ良いんだ?」
ボロクソに言われて少し不機嫌になった俺は、その不機嫌を隠すことなく、投げやりな態度でリボーンに聞く。
「さっきも言った通り、しばらくの間ツナと距離を置いてもらう。具体的には、今日みてーにツナと遊んだりってのは避けてもらう。学校で話をするくらいは構わねーが、出来ればそれも最小限にしてくれ」
「そりゃまた極端だな。第一、ツナにどう説明するんだ?」
今までずっとツナとつるんできたんだ。急に付き合いが悪くなったらツナだって気づく筈だ。
「その点は心配いらねー。今日から俺はツナの家庭教師として、ビシバシしごいていく予定だからな、遊びに行く時間なんてねーぞ」
そう口元を歪めるリボーンを見て、ツナが可哀想になってくる。強く生きろよ……ツナ。俺は助けてやれそうに無いが。
「もしツナから誘われてたとしても適当な理由を付けて断ってくれればいい。それにツナもお前をマフィアのどうこうに付き合わせたくないと思うだろーからな。どうだ、簡単だろ?」
リボーンの大きな目が俺を捉える。
確かに内容は簡単だ。しかし簡単に頷ける様な話じゃ無い。
「なぁリボーン。これでも俺はツナのことを大切な幼馴染だと思ってる。アイツとは十年以上の付き合いだからな、それを今日初めて会ったやつからやめろと言われてはいそーですかって素直にやめるような関係じゃねーんだ」
そうだ、ツナは大切な幼馴染で、小さい頃から俺の後ろにいつもくっついてくる、弟みたいな奴なんだ。誰かに言われたぐらいで簡単に切れるような関係なら、俺達はここまで長い付き合いにならなかっただろう。
「それを踏まえた上で聞く。俺がツナと距離を置くことは本当にツナの為になるんだな?」
そう問いかけ、リボーンの大きな目を見つめる。
リボーンも今までの少しおちゃらけた雰囲気を変えて、俺の質問に答えた。
「そうだ。断言するぞ、ツナの家庭教師としてな」
そう言ってリボーンも俺の目を見返す。
相変わらずその表情からは何を考えてるのかは読み取れないが、今のこの目を見れば真剣であると言うことだけは分かる。
しばらくの間、俺達の間に沈黙が訪れたが先に根負けして、静寂を破ったのは俺だった。
「……ハァ、分かったよ。お前の言うことも分かるからな、協力するさ」
そう俺がリボーンに伝えると、リボーンはニッと笑ってから、またコーヒーを一口飲んだ。
「サンキューな直継」
「ツナのためだってんならしょうがねーからな。で、話はそれだけか?」
「いや、もう一つある」
「じゃあさっさと話してくれよ。死ぬほど腹減ってぶっ倒れそうなんだ」
俺は朝は食べない派だし、それに加えて今日は昼飯も抜いてるから腹が減りすぎてヤバい状態だった。
「もう一つの話ってのはな、お前のことだ」
「俺の?」
「そうだ。喜べ直継。ツナのついでに、この俺がお前を一流のマフィアにしてやるぞ」
「ハァ!?」
俺はその瞬間だけ空腹を忘れ、大声をあげて立ち上がった。
立ち上がって数秒もしたらすぐに空腹感が戻ってきて、少しフラついたがなんとか持ち堪えてリボーンを見る。
「どういうことだよ! お前はツナをマフィアのボスにするために来たんじゃねーのかよ!?」
「だからついでって言ってんだろ。昼間ツナのママンから言われたんだ。お前もツナと一緒に勉強見て欲しいってな」
確かにそんな話もあったな……だけどさぁ!
「だからってなんでマフィアになんなきゃいけねーんだよ!」
「安心しろ、ボンゴレファミリーは経歴国籍カンケーねぇ。誰でも大歓迎だ」
「そういう話じゃねぇよ! 誰もマフィアの就職先の話してねーっつの!」
そこまで言うと急に疲労感が襲ってきたので、椅子に座り直して背もたれにもたれる。
コイツと話すとメチャクチャ疲れるし空腹と疲労で頭も回らなくなってきた。
「そういうわけだから、覚悟しろよ。俺の指導はヤワじゃねーぞ」
「分かったよ……。で、俺もツナみたいにつきっきりで指導されるワケ?」
めんどくさくなってきた俺は大した抵抗をすることなくリボーンの話を受け入れた。多分コイツに何言っても無駄だわ。
「いや、そうじゃねぇ。お前はツナと違って既にまあまあ出来るからな。俺が課題を出して、しばらくしてから様子を見にくる。その間にお前が一人でその課題をこなす……まぁ通信教育みてーなモンだな」
「おいおい、待ってくれよリボーン。俺はマフィアのことなんて全然分かんねーし、何よりツナと同じくらいのダメ野郎なんだぜ? 一人でやれなんてちょっと酷じゃねーのか?」
リボーンはまあまあ出来るだなんて俺を評価してくれるが、俺のダメさは俺が一番知っている。
ツナとドベを争う仲のこの俺が、一人で何かをやれなんて言われて出来るわけが無い。それに、ただの課題とかならまだしもマフィアになるための課題と来ればもうお手上げだ。
そうリボーンに伝えると、リボーンは無情にも俺の訴えを取り下げた。
「言っただろ、お前はツナのついでだ。それに、お前のその悪い癖を辞めればクリアできねーってことはねぇと思うぞ」
「悪い癖ってなんだよ?」
自分にそんな変な癖があるとは感じたことはないが……。
「それも見つけるのも課題だ。さて、もう話すこともねぇからこれで俺は帰るぞ。じゃあな」
そう言ってリボーンは椅子を立った。
さっさと帰ろうとするリボーンを慌てて呼び止める。
「ちょっと待ってくれよ! 課題って言うけど、まだ何にも言われてねぇぞ!」
課題とやらの具体的な内容を聞かないままやれと言われた所で出来るわけがない。せめて具体的な内容くらいはと思い、リボーンにそう伝えると、リボーンはこっちを振り向いて口を開いた。
「そうだったな。お前の一番最初の課題はファミリーを作ることだ。とりあえず六人くらい作れれば合格だ。じゃあな」
「ファミリーって……仲間ってことか?」
仲間を作れとは簡単に言うが、いくら真実であるとはいえ、マフィアの仲間になってくれと馬鹿正直に言ったところで果たしてどれだけの人間が信じてくれるだろうか。
最初から立ちはだかる難問に頭を抱えようとしたその時、リボーンが俺に向けて銀色の何かをぶん投げてきた。
「うぉっ、危ねえっ!?」
なんとかそれを掴もうと手を動かす。すると運の良いことに右手でそれをキャッチする事が出来た。
ほっと胸を撫で下ろして右手の中にあるものを見ると、それは銀色に光り輝く、やけに見覚えのある物だった。
「これって……フォーク?」
しかし急にフォークを投げられた意味が分からない。
リボーンに尋ねてみようとすると、まるで俺の考えを読んだかのようにリボーンは俺の疑問の答えを告げる。
「それは俺からの餞別だ。遠慮しなくていいぞ」
「餞別って言われてもなあ……」
餞別がフォークだなんて聞いたこと無い。マフィアの風習なのか?
そう思いながら手の平の上のフォークを観察する。
見た目は普通のフォークだ。ただ柄の一番下の部分に銃弾と貝殻をあしらった紋章みたいなものが彫られている。
銀で出来ているんだろうか、しっかりとした重さがこのフォークが高級であることを告げてくる。しかしそれ以外は至って普通のフォークだ。
しかし、どこかで見たような……あっ!
「リボーン。悪いけどこれ同じのうちにあるわ」
そうだ思い出した、昨日パスタ食った時に使ったフォークと同じだ。やけに高級感あるフォークだから結構お気に入りなんだよな。そのことをリボーンに伝えると、リボーンは「やっぱりな」と言って口を歪めた。
やっぱりってことは俺の家に同じもんがあることを知ってたのか?
「とりあえずそれはお前にやる。常に肌身離さず持っとけよ、それがお前の武器だからな。チャオ」
そう言って今度こそ振り返らずに去って行くリボーンの背中を見送る。
色々と聞きたいことはあるが……とりあえずは。
「これでどうやって戦えば良いんだよ……」
そんな俺の疑問は、リボーンの耳に届くこともなく消えていった……。
そしてレンジの中に入れたまま忘れられていたカレーはすっかり冷えていて、俺はとっくに限界を迎えている空腹を更に我慢し、もう二分ほどカレーを温めなおすハメになった。畜生。