幼馴染のついでにマフィアにされたら、武器がフォークでした 作:クォールツ
そしてここまで書いてきて気づいた事があります。
僕は戦闘シーンが苦手です。これだけは真実を伝えたかった。
そして次の日の放課後、俺は剣道場の前に立っていた。
ドアの前で深呼吸してから、俺の武器である銀のフォークを取り出す。
取り出したフォークを見つめながら、大丈夫、大丈夫……と自分に自己暗示をかけてみるものの、何一つ大丈夫な気がしない。
今更になって、昨日の自分の発言を撤回したいという想いがムクムクと湧いてくる。あー嫌だ、逃げてぇ。
というかさぁ! リボーンの野郎、何処にも居ねーんだが!?
昨日、あの後ツナん家行ってみたけど居ねーし! 結構待ったけど帰って来ねーし! 待ってる間、ビアンキって美人に何処かで見たような虫入りのケーキ食わされそうになるし! ウザい牛柄とチャイナ女児の喧嘩に巻き込まれるし!
帰って来た奈々さんの話だと、"ツナとリボーンは山本の家に泊まることになった"らしい。俺の時間返せ!
結局、朝学校に来たツナに聞いてみても知らないとか言われるし!ツナに言われて学校中の消火栓の扉開いてみたけどどこにも居ねーよ!つーか居たら怖ーよ!
ついぞリボーンに会うことは出来ず、約束の時間を迎えてしまった……。
逃げてーけど逃げても意味ねーんだよなぁ……腹を括るしかない。覚悟を決めて中に入る。
中には、面以外の防具をつけた霜川とその取り巻き、そして剣道部員達が俺のことを待ち構えていた。よく見てみればそこには持田の顔もあった。見に来てくれたのか。
その中の一人が俺に気づき、大きく声をあげる。
「ダメナオが来たぞ!」「マジで勝てると思ってんのかよ?」「ぜってー逃げると思ってたわ」「つーかなんでフォーク?」
酷い言われようだ……まぁさっきまで逃げてーなんて言ってたから別にいいけどさ。あとなんでフォークかは俺が聞きたい。
そのまま進んでいき、霜川の少し前で止まる。すると剣道部員達が俺の退路を閉じるように俺の後ろを塞いで、俺と霜川の周りをリングのように取り囲んだ。
あぁ……もう逃げらんねーわ、コレ。
「よぉ! 逃げずに来るとは思わなかったわ、意外と根性あるんだなお前」
そう言って霜川は下卑た笑いを浮かべた。
「お褒めいただきサンキューっす。さっさとやりましょうよ」
「待てよ、ボディーチェックが先だ。シャツの下に鉄板でも仕込まれちゃかなわねーからな」
剣道部員が二人来て、フォーク以外何も持ってないかチェックする。
別に何にも無いから良いけどさ。そんな事気にする辺り、お前も大概小さいからな。持田のこと言えねーよ?
ボディーチェックが終わり、剣道部員達が元の位置に戻っていく。
「ルールは簡単。先に相手に"参った"って言わせるだけだ。それ以外はなんでもあり。バカなお前でも分かりやすいだろ?」
「それだけっすか?」
持田とツナの時みたいに、ギリギリ剣道の形を残すものと思っていたが。
「フォークで剣道出来るわけねぇからな。お前に会わせてやったんだ、感謝しろ」
ごもっともでございます! ありがとうございます!!
「どうする? 今ここで土下座するなら許してやらんことも無いが?」
そう霜川は俺に聞いて来たが、そんなつもりは毛頭ない。
やる前から土下座するより、やってから靴舐める方が百倍マシだ。それにこーゆー奴は絶対許してくれないと思うし。
「わざわざギャラリー集めて、見せ物が俺の土下座じゃあ肩透かしじゃないっすか? 霜川先輩が負けそうで怖いからそう言ってるってんなら別ですけど」
この後に及んでやっぱやめた、なんて通らない。だったら煽りに煽った方が得だ。俺の精神衛生的にも。
「そうかよ……! 精々デカイ声で"参った"って言うんだな! 俺が聞き逃さねぇようによォ!!」
霜川は青筋を浮かべたまま、竹刀を構える。
それを見て俺もフォークを握った手に力を込め、先端を霜川に向けた。
そして一応この試合の審判らしい霜川の取り巻きの一人が、両手に持った旗を同時に振り下ろした。
「試合開始ィィィッ!!」
先に動いたのは霜川だった。
審判役が試合開始と言い切るかどうかぐらいで一目散に突っ込んで来て、そのまま俺の頭目掛けて面を打つ。
俺は横に動くことでそれを躱すが、霜川もそれは予想してたようで、すぐに竹刀を引き戻し袈裟斬りを仕掛けてくる。
後ろに飛びのくことでなんとか躱したが、霜川との距離は離れてしまった。
始める前から分かっていたことだが……流石にリーチが違いすぎる。
俺のフォークは割と大きめではあるが、精々20センチ程度。柄を掴まなければいけない関係で、実際の間合いはこれより更に狭いだろう。
対して霜田の使う竹刀は1メートル以上の長さがある。単純計算でも五倍以上のリーチの差を俺は埋めなければならない。
「オラオラオラァ!」
「チッ……!」
霜川が繰り出す竹刀の太刀筋をなんとか見切って躱していく。隙が無いわけではないが、それでも前に進むのは難しく防戦一方だった。
「どうしたどうしたァ! さっきまでの威勢は何処に行ったんだァ!?」
霜川は自分の圧倒的有利を信じているのだろう、下卑た笑いを浮かべて俺を煽る。
振り下ろされる竹刀を何とかフォークで受け流すが、形勢は何も変わらない。
「守ってばっかじゃ勝てねぇよ!!」
霜川の言う通りだ。このままではいずれ竹刀を避け切れなくなる。そうすれば俺に待つのはリーチの差を盾にした一方的な暴力だけだ。
ここで勝負を決めなければ……負ける。
俺は覚悟を決めると霜川に向かって、全速力で踏み込んだ。
「バカが、脇がガラ空きだぜ! オラァ!」
スパァンッ!と言う音と共に、右の脇腹に痛烈な痛みが走る。そのまま吹っ飛ばされそうになる身体と意識を何とか堪え、右の脇腹に撃ち込まれた竹刀を右腕で抱え込んだ。
どうせ逃げ続けた所でいつかは当たるんだ、なら一発貰うのを覚悟の上で突っ込んで一撃決めるしかない。
「うおおおおおおおおお!!」
「なっ……グァ!!」
竹刀を抱え込んだままで思い切り踏み込み、突っ立っている霜川の胸を気合いを入れて蹴りつける。
霜川は俺の蹴りを喰らって吹っ飛んだがすぐさま起き上がった。
やはり防具の上からじゃ効果が薄い。霜川に大したダメージは無さそうだった。
一方俺は、霜川に打ち込まれた脇腹の痛みを左手で上から押さえる事で何とか紛らそうとするので精一杯だ。こんなんじゃ割に合わねー。
「テメェ……! 調子乗んのも良い加減にしろやぁぁぁぁ!!!」
さっきの一撃で完全にキレた霜川は、俺の顔目掛けて竹刀を薙ぐ。
それを左腕で受け止め、そのまま俺は、霜川が唯一防具をつけていない顔面に向かってフォークを握ったままの拳を振り抜いた。
まともに俺のパンチを喰らって、霜川が少しよろける。鼻血が出たようだ、足下にポツポツと赤い雫が垂れる。
ざまあみやがれと言いたい所だったが、俺は俺で打たれた左腕に走る痛みと痺れに悶絶していた。
痛えぇぇぇぇ! マジか、さっきも思ったけど竹刀ってこんな痛えもんなのかよ!?
左腕を見ると、打たれた所が青くなっていた。流石にこれ以上左腕で受け止めるのは無理かもな。
「このッ……クソがぁぁぁ! オラァ!」
「痛っっっってぇぇぇぇ……なぁぁぁぁ!!」
その後も霜川が振り下ろす竹刀を自分の身体で受け止めながら、霜川の顔に拳を打ち込んで行く。
右腕、左脇腹、右肩、左肩……上半身に何回も竹刀を打ち込まれ、俺の身体中に激痛が走る。俺の上半身に青くなっていない所は無いんじゃないか?
俺の上半身が段々とアバターと化すにつれ、それに比例して霜川の顔面も腫れ上がっていった。
最初は片側しか出ていなかった鼻血は両側から垂れており、口を切ったようだ、唇の端からも血が垂れている。
頬は大きく腫れ、国民的ヒーローのようになった霜川は既に半泣きだった。ならさっさと参ったって言ってくれよ頼むから。
そんな俺の願いも虚しく、霜川は竹刀を構え直すと一歩退き、俺と距離を取ってから腕と竹刀を思いっきり引き込む。
「良い加減に……!!」
そして次の瞬間、大きく踏み込みながら思いっ切り腕を突き出して、俺の顔面に向けて突きを放つ。
竹刀と腕を伸ばして最大のリーチを作り、遠距離から俺の急所を狙うことで、俺を確実に仕留めにかかってきた。
「くたばれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
霜川が繰り出す渾身の突きが俺の顔に向かってくる。
全身の力を使って乱暴に、しかし凄まじい威力を乗せて、それでいて確実に俺の顔面に向かってくる、まさに必殺とも言える突き…………それを俺は
「お前がなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
俺も大きく踏み込みながら、向かってくる竹刀の先端目掛けて思いっ切り横からフォークを叩き込む。
大きく横に弾かれた竹刀を見て、霜川の顔が驚愕に染まるが、もう遅い。
「喰らいやがれえええぇぇぇぇ!!」
俺の力だけじゃない、霜川の踏み込む力も拳に乗せて、カウンターのストレートを霜川にお見舞いしてやる。
綺麗に決まったそのカウンターによって、霜川は竹刀を手放して後ろに吹き飛んだ。
「どうだオラァ!!」
打ち込んだ右腕を高く振り上げ、フォークを握り締めながら俺は吠えた。
かなり綺麗に入ったようだ、霜川は仰向けのままで、顔を両手で押さえて痛みに悶えている。
それを確認した俺は、すぐに追撃の準備にはいった。
すぐに霜川の下まで移動し、仰向けの霜川の胴を跨いでマウントポジションを取り拳を握る。その姿が指の間から見えたであろう霜川は、この後に及んでギャーギャー喚き始めた。
「タ、タンマ! 待て、待ってくれ! 頼むからぁぁ!!」
「待たねぇよ、お前が言ったんだろ? なんでもありだって。嫌なら早く負けを認めろよ、なぁ!」
本来なら敬語を使ってめちゃくちゃに煽りたい所だが、俺の体力も既に限界だった。ミジンコほどにしか残っていない力を振り絞り、振り上げた拳を霜川の顔面目掛けて振り下ろす。
「分かったって! 参った参った参ったよぉ!!」
静かすぎる程の剣道場に、霜川の情けない声が響き渡る。
その声を聞いた俺は、霜川の顔まであと数ミリという所で何とか拳を止めた。立ち上がって霜川をマウントから解放してやる。
なんとか……なんとか俺は勝利を掴むことが出来た。分泌されていたアドレナリンの効果が切れ、俺の上半身に走る激痛は更に強くなっていった。
あー痛え! 身体中が痛ってーよ!! クソが、防具無しはヤベェよ! 少しは手加減しろや!
激痛に顔を顰めながら、それでも俺は……笑っていた。メチャクチャ痛いし、メチャクチャ疲れてたけど、確かに俺の口は笑っていた。
そうだ! 俺は、俺は勝ったんだ! 竹刀相手にフォーク、更に防具無しという自分から言い出したことを考慮しても頭おかしいとしか言いようのないハンディキャップマッチに俺は勝利した! しかも死ぬ気弾無しで!!
激痛に耐えながら、勝利の余韻に浸る。
だから……戦いが終わり、気を抜いてしまった俺には気づけなかった。
「タダで……返すわけねぇだろ! お前ら、やれ!!」
霜川の目には、敗北の色になんて全く染まっていなかったということも。
俺が後ろを向いた瞬間、霜川が取り巻きに指示を出したということも。
そして……霜川の言葉と共に、取り巻きの振るう竹刀が、俺の後頭部に向けて振り下ろされたことも。
そして次の瞬間、
スパァンッ!!
剣道場に竹刀の音が響き渡った。
霜川の想像では、今頃俺は頭を押さえて蹲っていたんだろう。
だが実際には、俺が頭を押さえて蹲る事は無かった。
何故なら……俺の後頭部に命中するはずの竹刀は、俺の頭まであと数センチという所で持田の竹刀が受け止めていたからだ。
「これはどういう事だ霜川! 勝負は終わったはずだ!」
持田が声を荒げて、霜川を問い詰める
「な……なにしてくれてんだよ! 雑魚の癖に! やっちまえ!!」
霜川の命令を受けて取り巻き達は、竹刀を持って一斉に飛び掛かってきた。
四本の竹刀が持田に襲いかかってくる。
だが、持田は至って冷静にそれを捌いた。
一本目の竹刀は、大きく振り下ろされる前に小手を叩いて吹き飛ばす。
二本目の竹刀は後ろから持田を袈裟斬りにしようと狙うが、持田は振り返りながら、そのガラ空きの胴に一閃。その一閃を防具のない状態で受け止められるはずもなく、痛みに蹲る持ち主の手から竹刀が離れた。
そして三本目と四本目は同時に持田に襲いかかったが、それを持田は二本纏めて受け止め、逆に弾き返してから有無を言わさず、神速とも言える小手を一発ずつ打ち込む。
持田に襲いかかったはずの四本の竹刀はその全てが床に転がり、残ったのは痛みに悶える取り巻き達と、それとは対照的に眉一つ動かさずに霜川を睨みつける持田だけだった。
「スッゲー……」
持田の流れるような太刀筋を見て、俺はそんな陳腐な表現しか出来なかった。ただ、それは俺達を取り囲む剣道部員達も同じだったようだ。誰もが息を呑んで持田の剣技に見惚れている。
「まだやる気か?」
持田はそう言って、竹刀を霜川の顔に突き付ける。
霜川は恐怖で口が回らないようで、ただ首を横に振ることだけで精一杯のようだった。
それを見た持田は突きつけた竹刀を戻し、淡々と言い放った。
「お前らのお望み通り、俺は剣道部を辞めてやる。ただ忘れるな。お前は今日、四阿に負けた。その事実を捻じ曲げる事だけは、この俺、"
そして持田は踵を返して、霜川から離れた。
そして俺の近くまで来ると、俺に肩を貸してくれた。
「大丈夫か? よくやったな、四阿」
「持田先輩……」
そうして持田の肩を借りながら俺は、剣道場を後にした。その間、霜川達や剣道部員達は一声もあげずに、その場から去る俺達を唯々と見送るだけだった。
持田は剣道場から離れ、二人で防具を洗ったあの水飲み場までたどり着いた所で、俺を下ろした。
「とりあえず水で冷やせ。それで幾らかは良くなるだろ」
俺は持田の言う通りに、青く腫れた腕を水で冷やす。
水の冷たさがあざが出来た肌に染み込んで、思わず声が漏れた。
「まったく、なんていう無茶をするんだ。まさか本当にフォーク一本だけで勝つとは……」
「言ったでしょ? 大丈夫だって。
それよりすみませんでした。 "助けは期待してない"なんて言いながら、結局助けて貰っちゃいましたね」
「別に構わん。俺がやりたかったからそうしただけだ、お前と同じようにな」
そう言って持田は笑った。それを見たらなんだか俺も笑いが込み上げてきて、そのまましばらくの間二人で笑った。笑うたびに上半身が動いてすげぇ痛かったけど、不思議と不快感は無かった。
ひとしきり笑い終えた後、急に持田が真面目な顔をして問いかけてきた。
「なぁ。なんで霜川にあんな勝負を仕掛けたんだ? こう言ってはなんだが、あんなハンデを負ってまでお前があの勝負を受ける理由は無かったはずだ」
「あ〜、まあ確かにそうっちゃそうなんですけどね……」
昨日ここで霜川に勝負を吹っかけた時、自分でも何故こんな事をしてるのか分からなかった。イライラしてたってのもあるけど、だからといって俺は誰彼構わず喧嘩を売るようなバカではない。
でも今ならなんとなく分かる。
「まあ色々ありますけど……一番は自分のため、ですかね……?」
「自分の……?」
「あの時、持田先輩が小っちぇだのなんだのアイツらに言われてるのを見て、なんつーか、俺が馬鹿にされてるみたいに聞こえて。俺なんか馬鹿にされ慣れてるはずなのに、その時だけはなんだか我慢できなくなっちゃって」
少し笑って、俺は言葉を続けた。
「アイツらが絡んで来る前に、持田先輩は俺に聞いたじゃないっすか。ツナにこだわる俺は小さい男かって」
「確かにそんな事も聞いたが……」
「あの時言えなかった俺の答え、言いますね。正直、スゲー小っちぇ男だと思います」
「……そうか」
持田もこの答えは予想していたんだろうが、少し俯いた。
だが俺の答えに嘘はなかった。持田は小さい。だが。
「でもね、俺も持田先輩と同じですよ。俺も小っちぇ男なんです」
「っ……!?」
「俺は持田先輩と同じであの時……持田先輩にツナが勝ったあの時から、ツナが皆に認められていくのを見て、どこか嫉妬してたんです。ツナは本当は凄い奴なんだって認めるフリをして、実際はどこか見下してたんですよ。俺と同じでダメな奴だろお前は、って」
そうだ。今なら分かる。皆に認められるツナを見て、ファミリーを容易に集めていくツナを見て。そして何よりも俺は、俺といた時には見せなかった、ツナの楽しそうな顔を見るたびに嫉妬していた。
「ツナはこの二ヶ月で皆が一目置くスゲー奴になったのに、俺は何も変わらない……ダメナオのままでした。だからなんでしょうね。俺もツナに対抗心みたいなの燃やして、勝手に比べて勝手に落ち込んで……」
ツナと俺が同じでなきゃいけないなんて、そんな馬鹿げた道理がある筈も無いのに。
「……俺は、俺はツナに勝ちたい。何か一つでもツナに勝ってる所があるんだって言いたいんですよ。
小っちぇなぁって自分でも思いますよ? でも、それでもやっぱり勝ちたいんです」
自分の中にある醜い感情に気づいて。
本当なら今すぐツナと自分を比べる事を止めるべきなんだろうな、とも思う。でも。
それでも俺は比べてしまう、ツナに勝ちたいって思ってしまう。
「持田先輩。俺達はどうしようもないくらいに、小っちぇ奴なんですよ。
でも、それでも良いんじゃないかって俺は思うんです。
持田先輩は凄いっすよ。屈辱的な敗北を忘れたりしないで受け止めて。自分の足りないとこ埋めるために練習して、次は勝つぞって……。そんなの誰にでもできる事じゃ無いっすよ?」
俺には出来なかった。この二ヶ月、俺はツナを羨むばかりで何も行動しなかったんだから。
「そんな人を馬鹿にされて……じゃあそれすら出来ない俺はなんなんだって思って……。ハハ、よくよく考えれば私怨しか
そう自虐して笑う。だけど持田は笑わずに、俺の目を真っ直ぐ見つめていた。
「持田先輩。小っちゃくても良いんじゃ無いですかね。例えどんなに小っちゃいことに拘っていたって、そのために努力して、生まれ変わろうって思えるんなら、それは間違いなんかじゃ無いですよ」
そうだ、持田の在り方は、そして俺がそう在りたいと思ったこの在り方は、間違いなんかじゃない。
「持田先輩は、きっと今のままでいいんです。頑張って強くなって、そしていつかツナに堂々とリベンジを果たして。そして堂々と喜べば良いんですよ。俺はもう、あの時の俺じゃ無いんだぞって。
そのために頑張りましょう。似たもの同士、俺も頑張りますから」
そこまで話してから、喉の渇きを潤すために蛇口から出る水を飲む。
冷たい水が渇いた身体に染み込んで、まるで
俺が水から口を離すのと、今まで一言も喋ることなく俺の話を聞いていた持田の口が開いたのはほぼ同時だった。
「……お前の言う通りかもな。どんなに小さくても、俺は俺だ。そして俺は沢田に勝つ、そう決めたんだ」
そして持田は空を見上げて、堰を切ったように笑い始めた。二ヶ月前と同じように。
「ブゥワハハハハハハハ!! そうと決まれば善は急げだ! おい四阿! お前、俺の練習を手伝え!」
「持田、先輩! 勘弁してくださいよ! 身体中痛いんですから、無理っす!!」
そう抗議する俺の目を、持田の真っ直ぐな目が覗き込む。
一昨日と同じ虚無しか残らない目でも無く、かといって二ヶ月前のような傲慢に満ちた目でも無い。
ただそこには、真っ直ぐな決意だけが映っていた。
「四阿。俺を先輩と呼びにくいのであれば呼び捨てで構わん。下手くそな敬語も外して良い」
「……良いのかよ? そーいうの気にする方だ思ったんだけど?」
「今までの持田ならばな。だが今日からの俺は違う! そう、今日から俺はネオ・持田だ!! ブゥワハハハハハハハ!!」
そう言って馬鹿笑いをする持田。なんだよネオ・持田って。だっせー。
持田はしばらく笑った後、その口から続けて飛び出してきた言葉に俺は少し驚いてしまった。まさか"ダメナオ"の俺にこんなことを言う奴がいるなんて思わなかったから。
「それになにより……俺とお前は同じ打倒沢田綱吉を目的に持つ同志だからな。お前は俺の、俺はお前のために動けば敵はない! そう、今日のようにな!!」
そう言って、持田は笑みを浮かべた。さっきまでのような馬鹿笑いじゃない。自信に溢れ、何も恐れることはないかのような笑み……そう、不敵な笑みってヤツだ。
俺も似たような笑みを浮かべて持田に右手を差し出す。すると俺の意図を理解したんだろう、持田も右手を伸ばして俺の手をしっかりと握った。
「ま、よろしく頼むわ」
「ああ!この持田剣介に任せておけ!」
そうして、俺達はまた笑いあった。
人気のない水飲み場で馬鹿みたいに笑い合う小さな俺達を、赤く染まった大きな太陽だけが、それを優しく見守っていた。