乾いたターフを湿らせる   作:やわらかスマホ

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お久しぶりです……(小声)


第二十三話

 季節は秋を迎えた。

 鬱陶しいほどの残暑もすっかり和らぎ、爽やかな秋風を感じられる過ごしやすい気温だ。

 

 よく読書の秋だのスポーツの秋だの言われるが、この季節は何をするにも都合が良い。

 心地良い天気はやる気をもたらすものだ――天候とは、思っている以上に人の気分を左右させる重要な事項である。

 

 例えば晴れた日には気分が高揚し外出したくなるだろうし、逆に曇りや雨であったのならば気持ちも少なからず憂鬱になるのが道理。

 ……つまり何が言いたいのかというと。この秋というのは、絶好のトレーニング日和が続く最高の季節であるってことだ。

 

 放課後のグラウンド。いくつもある芝のコースの一つに、流星のような速度で駆けていく二つの影があった。

 その二人は決して並んでいるわけではない。規則正しい速度で前を走り続けているウマ娘に対し、もう一人が必死で追い縋っているのだ。

 

 前方のウマ娘の走りは尋常じゃない。体内時計が恐ろしく正確なのだろう、あれ程の速度で疾走していてもペースが微塵も乱れることがなく。

 遠目で見てもなおわかる、その余裕綽々な姿からは無尽蔵のスタミナを感じさせる。脚を溜めた最終直線でのスパートは、間違いなく鮮烈なものになるはずだ。

 

 後方に位置するウマ娘は、もはやついていくだけで精一杯といった様子。

 これは彼女、トウカイテイオーが弱いというわけではない。怪我から復帰して間もないこともあるだろうが……ただ単に、前を往くウマ娘が異常なだけだ。

 

 そのウマ娘の名は――メジロマックイーン。今年の春の天皇賞を見事に制した、世代最強クラスのステイヤーである。

 彼女たちの激しいレースを隣でともに眺めていたチームスピカの沖野さんが、おもむろに口を開く。

 

「……調整、なかなか良い感じじゃねえか。最初はどうなることかと思ったが、この様子なら問題なく菊花賞でも戦えそうだ」

「まだなんとか最低限、という程度の仕上がりですけどね。しかし思っていたよりも順調に進んでくれました、あいつが頑張ってくれたおかげでしょう」

「なーに他人事みたいに言ってんだ、お前さんも一緒に頑張ったからだろ? リハビリってのはな、本当に辛くてしんどいもんだ。ウマ娘だけの頑張りじゃ耐えらんねぇ、お前が懸命に支えたおかげでテイオーはここまで来れたんだよ」

 

 ふとこぼした何気ない一言だったのだが、沖野さんから思いもしない激励が返ってきてしまい苦笑いを浮かべる。

 おそらく、俺の本心が見透かされているからなのだろう。この学園の関係者はどいつもこいつも優秀で困る、隠しごとをするだけでも一苦労だ。

 

 俺は今まで、自分がいたからテイオーはやってこれたなどと自惚れた考えをしたことは一度もない。支えであれたらいいとは思っているが、実際にどれだけ支えになっているか。

 別に俺がいなくてもあいつは普通にこれくらいは乗り越えるのではないか、そのような考えは頭の隅からずっと消えることはなかった。

 

 その思考、あいつを過剰に神聖視することこそがダービー直後の骨折に繋がったのは理解している。

 あいつは天才だが、その中身はごく普通の少女と何も変わらない。俺と同じで間違えもするし、不安や恐怖を感じることもあるのは手痛い代償と一緒に知った。

 

 才能に恵まれ、あらゆる物事を容易にこなすと思われたトウカイテイオーにも脚部の脆さという弱点があった。

 完璧な者など存在しない、誰だって困難を乗り越えるには他者の助けが必要だ――だが、彼女を助けるのが俺で本当にいいのかとわずかに躊躇う。

 

 ……お前のせいでテイオーは骨折した。

 婉曲的か直接的かの違いはあれど、そのような趣旨の言葉はあれから何度も記者やファンに投げ掛けられた。

 

 まぁその通りだな、反論の余地はない。俺じゃなくて経験豊富なベテランだったら、あるいは何のトラブルもなく三冠を手にしていたかもしれん。

 だが、だからといってテイオーの担当を辞めるというのはただ責任から逃げているだけだ。骨折させてしまったからこそ、復帰まで寄り添うのが正しい責任の取り方だろう。

 

 俺は、俺に出来うる限りをやっている。仕事で手を抜いた覚えはないし、怪我をしてからの経過も順調だ。

 客観的に見てもそこまで悪くない仕事ぶりのはずなのに、どういうわけか自身を肯定しきれずにいた。

 

 ――なんなんだ、この気持ち悪い感覚は。

 自分がトレーナーであること自体が誤りであるかのような、ここにいることが間違いであるかのような嫌な気分だ。

 

「……ま、これでもダービートレーナーですからね。その肩書が廃らない程度の働きはしましたよ、傷心のあいつに恋人のように優しく献身的に付き合ってやりました」

「その例えはマジで洒落にならんからやめといた方がいいぞ……。とにかく、お前たちが大丈夫そうで一安心だ。おハナさんも心配してたぜ、菊花賞が終わったら話しかけてやれ」

「東条さんが、ですか……?」

「おいおい、そんな反応は失礼だぞ。ああ見えてもおハナさんは優しいんだ、お前と同じようにな」

 

 気を抜くと沈みそうになる心を鼓舞するように軽口を叩くが、沖野さんの言葉でそれどころではなくなる。

 リギルの東条さんが俺を気に掛けている……? 意外に面倒見が良さそうだというのは、前回の接触で何処となく察していたが。

 

(東条さんか……。彼女のことは、正直未だに苦手なんだが)

 

 トレセン学園において、最強のチームであるリギルをまとめている東条ハナ。常に冷静沈着で自分にも他人にも厳しい、氷のようなトレーナー。

 ……というのは表向きの印象だ。おそらく情に厚いのであろうことは沖野さんの言からも推測できるが、それでも東条さんにはやや苦手意識がある。

 

 とはいえ、仕事で個人の感情を持ち出すのは二流のすること。あまり気は乗らないが、一段落したらいずれ礼を兼ねて接触する必要があるか。

 

「しかしマックイーンとの併走を許可してもらった件については、本当にありがとうございました。どうしても個人で行うトレーニングだけでは限界がありますから」

「礼ならもう最初に聞いたぜ、そう何度も言う必要はねぇよ。マックイーンさえ乗り気なら俺もとやかく文句は言わん。互いに意識しているあいつらなら併走は良い刺激になるしな」

「それでも、また礼を言わせてください。……何せ貴方たちの協力のおかげで俺は三冠ウマ娘のトレーナーになれるんだ、たかが礼だけで済むなら安いものでしょう」

「ははっ! 生意気言うようになったじゃねえか! なら菊花賞で勝ったらまた飲みに行こうぜ、もちろんお前さんの奢りでな」

 

 愉快そうに笑った沖野さんに軽く頭を小突かれる。

 何もなくても酒場では毎回俺が金を出していたような気もするが、わざわざそれを指摘するのは野暮というものだろう。

 

「――じゃあ、俺はもう行くぜ。あんま目を離してると他の奴らがうるさくて仕方ねえからな」

「わかりました、その間マックイーンは俺が責任を持って見守ります」

「頼むわ、だけどもう少しその張った肩の力は抜いとけ。お前さんに欠点があるとしたらそういうとこだ、あと飲みに行く件のこと忘れんなよ?」

 

 この場を去ろうとする沖野さんに対して、深く頭を下げる。このヒトには世話になってばかりだ、今回の併走許可に関してだけでなくいつも目を掛けてもらっている。

 バーでの代金を奢るくらいならいくらでも奢ろう。話したいことも数多くある、愚痴や苦労話を肴に一晩中貴方と飲み明かしたい。

 

 ……そして、沖野さんは応じるように片手を上げ、いつもの飄々とした様子を崩さずに他のスピカのウマ娘の元へと戻っていった。

 

「これで勝ったと思わないでよ、次は絶対にボクが勝ってやるんだからっ!」

「あらあら、負け惜しみとは見苦しいですわね。あれだけ何度も私に叩きのめされておきながら、そんな大口を叩ける諦めの悪さだけは認めてあげてもいいですけれど」

「……なんだか心なしか敵意を感じるんだけど、ボクに何か恨みでもあるの?」

「それは貴方の気のせいでしょう。今まで食堂でスイーツを見せびらかされていた程度で怒るほど、私は狭量なウマ娘ではありませんしね。まぁ、最近はそうでもないようですが」

 

 沖野さんと入れ替わるようにして、併走を終えたテイオーとマックイーンが戻ってくる。

 何やら騒がしく言い争いをしているが、これはいつものことだ。こいつらは暇さえあればこうしてじゃれ合っている、それだけ仲が良いという証拠だろう。

 

 併走は結局マックイーンの完勝だった。距離は菊花賞を想定した3000メートル、長距離という彼女の得意な舞台であったのだから当然と言えば当然の結果。

 マックイーンは既にシニア級なので経験の差もある。だが、怪我明けや経験がどうこうというよりも距離適性の差が最も大きい。

 

 ステイヤーとして比類なき才を誇るマックイーンに対し、テイオーは長距離も走れる中距離のウマ娘という印象だ。

 経験も才能も、この長距離という舞台では全てが上の相手に多少なりとも健闘できたのだから、今はそれで及第点としよう。

 

 そもそも、長距離におけるメジロマックイーンはあまりにも強すぎる。

 有り余るスタミナにモノを言わせたロングスパート――あれに勝つには、超一流のステイヤーが故障を顧みず猛特訓して、それでようやく届きうるのではないか。

 

 少なくとも現時点でのテイオーでは相手にならない。しかし、そのような格上だからこそ併走する価値がある。

 負けず嫌いのテイオーは滅多に味わえない敗北で奮起するし、その様子を見てマックイーンの方も感じ入るところがあるはず。

 

「お疲れ様だ、マックイーン。これで汗を拭いてくれ、そんな姿はお前のような優雅な令嬢には相応しくない」

「あら、お上手ですわねトレーナーさん。ですがこれは私の努力の証、汗に濡れた姿であっても恥ずべきところなど何もありません」

「……はぁ、何このやりとり。格好つけちゃってさ、タオルくらい普通に渡せばいいじゃん」 

 

 傍までやって来たマックイーンに、専属の執事であるかのように恭しくタオルを献上する。

 一礼してそれを受け取った彼女は、気品ある仕草で流れる汗を拭いていった。何をするにも品を感じるウマ娘だ、生まれつきというよりもそうあるべしと心掛けているのだろう。

 

 俺の担当ウマ娘は、一連の小芝居を呆れたように口を尖らせて眺めていた。

 これ以上茶番を続けているとまた機嫌が悪くなる恐れがあるので、早々に切り上げてテイオーにもタオルを手渡す。

 

「それにしても見事な走りだったな、春の天皇賞を彷彿とさせた。長年の夢を叶えても、慢心せずに精進を続ける姿勢には感心する」

「お褒め頂き、ありがとうございます。春の天皇賞を無事に制することが出来たのは望外の喜びでしたが、私には新しい目標がありますからね」

「――目標、か。お前はステイヤーとして頂点に上り詰めたと言っていい、そんなお前が今さら何を目標とする?」

「決まっています、春の天皇賞を連覇することです。この脚が動く限り、限界が訪れるまで私は春の盾を追い求めましょう。だからこそ、夢が叶ったからと立ち止まることはありません」

 

 笑顔でそう言い切った彼女の顔からは、みなぎる自信と気高い覚悟を感じた。

 夢を叶えたら、また次の夢へ――。生きている限り、挑戦が終わることは決してない。

 

 そう語るマックイーンの姿は黄金のように光り輝いているが……お前の言う通りだな。

 困難に挑戦していくことが人生の醍醐味。挑戦こそが、俺の心を熱くする。

 

「……やはりお前は良い女だ、いずれ機会があればお前ともじっくり話したいところだな。良い店を知ってる、そのうち二人で食事でもしよう」

「まぁ、デートのお誘いですの? 淑女への誘い文句としては落第点ですが、その熱い瞳に免じて良しとしましょう。見事なエスコートをしてくれることを期待していますわ」

「――ちょっと待ったーっ! もう一回ボクと併走しよ、マックイーン! 今度は絶対に負けないから!!」

 

 マックイーンとそんな会話をしていると、割って入るかのようにテイオーが大声を出した。

 おい、今良いところなんだから邪魔するなよ。俺が様々な経験を積んで成長することは、担当ウマ娘であるお前にもメリットがあるんだから。

 

「ねね、これくらいいいでしょ? もう疲れも取れたし、ガンガン練習しなきゃいけないしね」

「……別に構わないが、念のため距離は縮めるぞ。2400メートル――クラシックディスタンスなら許可しよう」

「そうこなくっちゃ! じゃあ行くよ、マックイーン! ほらほら早く離れて離れて!」

「まったく貴方という方は、本当に子供なんですから……。トレーナーさんの日々の苦労が偲ばれるというものです」

 

 戻ってきたときと同じようにわいわい騒ぎながら、テイオーとマックイーンが再び芝のコースへと向かっていく。

 嵐のような連中だったな、忙しないとはまさしくああいう奴らのことを言うのだろう。

 

 何はともあれライバルとして認め合っているあいつらの併走は、互いをさらなる高みへと導いてくれるはずだ。

 今のままでもテイオーは充分に戦える。少なくとも菊花賞で1着争いには加われるだろうが、打てる手があるならば油断せずに打つべきだ。

 

 マスコミを始めとした周囲の反応は、当初想定していたより悪くはない。

 おそらくテイオーの調整が菊花賞までに間に合いそうだからだろう。これがもし、骨折の具合が全治一年、いや半年であったとしても何を言われていたか。

 

 だが、そんなことは至極当然のことだ。誰しも結果でしか物事を判断しないし、出来もしないのだから。

 俺が仮に菊花賞でテイオーを勝たせれば、あいつらはこぞって手の平を返して俺を賞賛するだろう、世の中とはそういうものだ。

 

 二人三脚で苦難を乗り越え栄冠を手にした、そうやって各所から俺たちは称えられるだろうな。つまり菊花賞で勝てば全てが丸く収まる、あいつが勝てば――全て。

 

 そうだ、あいつは勝たなければならない。夢を叶えて、報われるべきだ。それだけの努力をしている。

 努力した者が必ずしも成功するわけじゃない、むしろそうでない者の方が多いくらいだ。だがせめて俺の手の届く範囲だけは、何とかしてやりたいと願う。

 

 ――暦はとうとう10月になった。菊花賞まで、あと一か月。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 メジロマックイーンは、並んでコースまで歩くトウカイテイオーに問いかけられる。

 

「あのさマックイーン、まさか本気じゃないよね? さっきのデートがどうとかってやつ」

「先程のお誘いですか、私も女ですもの。あれだけ情熱的に誘われれば、少なからず気持ちは揺らいでしまいますわ」

 

 マックイーンは微笑みを湛えながら、冗談半分といった様子で返事をする。

 冗談半分――つまり、ある程度は本心も混じっているということだ。少なくとも、あの誘いに彼女は悪い気がしているわけではなかった。

 

「……親切心で言っとくけどさ、トレーナーはいつもあんな感じだから。期待してるときっと恥かいちゃうよ」

「えぇ、もちろん理解しています。彼はただ私の話を聞きたいだけで、そこに何の他意も含まれていないのでしょう――だからこそ、好感が持てるのです」

 

 莫大な富と権力を有するメジロ家、その一員であるマックイーンには幼い頃から多くの男が接触してきた。

 若く美しく、ウマ娘としての才も溢れていずれは当主になることすらありうる――そんな彼女に対して下心を抱いて近付いた者は数えきれない。

 

 そのような低俗な輩に飽き飽きしていたマックイーンにとって、テイオーのトレーナーはとても新鮮に映った。

 あの若さであれだけの見識や観察力を持ちながら、貪欲に高みを目指し続ける飽くなき向上心……これが中央のトレーナーなのかと唸ったものである。

 

 自身のトレーナーである沖野ももちろん優秀であるのだが、テイオーのトレーナーは何処かが違った。

 まるで何かに追い立てられているかのごとく、必死に努力を積み重ねている姿にマックイーンは感嘆の念を隠せなかった。

 

 テイオーと一緒にいるときは天真爛漫な彼女に隠れてわかりにくいが、一人で仕事をしているときの彼の様子は鬼気迫るものがある。

 

(何が貴方をそこまで駆り立てるのでしょうか……担当ウマ娘であるテイオーを骨折させてしまったから、その負い目を感じて?)

 

 危うくテイオーの夢が途絶えてしまうかもしれない、そんな怪我だったのだから責任を感じても仕方ないがそれでも行き過ぎているように思える。

 そもそも、彼女が怪我をする前から似たような雰囲気は感じていた。つまり、根本的な原因はそこにはない。

 

 マックイーンは彼の心の裡が知りたかった。骨折こそさせてしまったものの、新人トレーナーとしては充分すぎる経歴であるように思えたから。

 個人的な事情であるかもしれないし、よく知りもしない自分が踏み入るのは失礼に当たるだろう。けれど、ともに食事をすれば何かわかるかもしれない。

 

「私は彼にとても興味があります。あの方が私と食事がしたいと仰るのなら、喜んで参りますわ。……もちろん、貴方抜きで」

「――駄目、絶対に駄目っ! あのヒトはボクのトレーナーで、ボクのものなんだから! いくらマックイーンでも、そんなことは絶対に許さない!!」

 

 マックイーンがからかうように宣言すると、案の定テイオーは怒り始めた。

 しかしその変化は思いのほか急激であり、普段の彼女の性格を知っているマックイーンからすると二重人格のようにすら思えてしまう。

 

(あのテイオーがここまで執心するなんて……。トレーナーさん、貴方は一体彼女に何をしたのですか)

 

 マックイーンが気付かれないように内心でそっと溜め息を吐く。

 テイオーが自身のトレーナーに懸想していることは簡単に見て取れるが、まさかここまでとは。

 

 彼女からは、恋慕などという生易しい言葉では言い表せない情念を感じる――これはもはや、呪いのようにおぞましく深い愛だ。

 自分もあの男性については好感を持っているが、別に恋心を抱いているわけではなく好奇心がほとんどだ。

 

 だが本当に何をすれば、子供だったテイオーがこんなことになってしまうのだろう。

 少なくとも恋に恋する思春期の少女にありがちな、時間経過で冷めていくような小さな感情にはとても見えなかった。

 

 推測するに不用意な言動を重ねて距離を縮め過ぎた結果なのだろうが、この先どうなるのか彼の身を案じてしまう。

 

「……テイオー、よく聞いてください。彼は確かに貴方のトレーナーですが、貴方のものではないのです。彼にも意思がある、そうやって束縛するのは良くないことなのですよ」

「それは、もちろんわかってるけど……。でも、ボクはいつでもトレーナーと一緒にいたいんだ。そう思うとなんか我慢が出来なくなっちゃう」 

 

 自身の言動がマズいことは流石に理解しているのか、諭すように優しく語りかけるとテイオーも徐々に大人しくなっていった。

 彼女の根底にあるのは、大好きなトレーナーとずっと一緒にいたいという純粋な想いだけなのだろう。

 

 そう考えると、テイオーに若干引いていたマックイーンも応援したくなってくる。

 

「ならもっと淑女としての立ち振る舞いを身に付けるべきです。貴方も良家の子女でしょう、彼が離れられなくなるくらい、魅力的な女性になりなさいな」

「で、でも、トレーナーはきっとボクに夢中のはずだよ! 『お前が欲しい』とか、『黙って俺についてこい』とか、そういうことたくさん言われてるんだから!!」

「えぇっ! そ、そんなことを言っていたんですの、あの方は!?」

 

 頬を薄く染めながらとんでもないことを暴露するテイオーに対して、流石のマックイーンでも名家の令嬢らしからぬ叫び声を上げてしまう。

 おそらく愛の告白の意図ではないだろうが、それでもその発言はどうなのだろう。こうなったのも自業自得な部分が大きいのではないか?

 

(これは……もう、手遅れかもしれませんわね)

 

 テイオーの瞳は蕩けており、漫画であれば間違いなくハートマークになっている。

 それを見たマックイーンは、もはや自身の手には負えないと完全に匙を投げた。

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