乾いたターフを湿らせる   作:やわらかスマホ

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第二十六話

『最終コーナーを回って、最初に立ち上がったのはトウカイテイオー! 栄光まであと400、このまま逃げ切ることが出来るのか!?』

 

 クラシック路線の終着点、菊花賞。

 

 誰が「最も強いウマ娘」であるか決定する大事な一戦で――トウカイテイオーは、いの一番に最終直線へと抜け出してきた。

 ここ京都レース場では、向こう正面の中ほどから第3コーナーにかけて高低差4.3メートルにもなる「淀の坂」が存在する。

 

 菊花賞は3000メートルにもなる長距離走であるため、外回りのコースを1周半強走ることとなる。

 スタート地点は第3コーナー手前の上り坂途中――つまり、ウマ娘たちは序盤と終盤で二度に渡る坂越えを強いられるのだ。

 

 そのような京都レース場で行われる菊花賞、制するには坂越え対策は必須。

 トウカイテイオーとそのトレーナーもそれは重々承知しており、この「淀の坂」をより効率的に駆け上がる努力を怠らなかった。

 

 その甲斐もあってなんとかペースを乱さずに進めており、坂の終わりで下っていく勢いをそのままに最終直戦まで一気に走る。

 前方にはもう誰もいないし、体力もまだ持ってくれる……このままスパートをかけて終わらせてしまおう、そう思いながらトウカイテイオーは脚に力を込め始める。

 

(それにしても、レースは相変わらず気持ちいいなあ。皆の注目を浴びてるときのこの感覚、ほんと最高だよ)

 

 久しぶりの公式戦、ウマ娘たちが鎬を削って一番を争うレースはとても気に入っている。

 コースから香る芝の匂い、全身で風を切っていく心地良さ、何よりも大観衆が自分の強さに驚愕してくれるのが堪らない。

 

 骨折してからはもちろん公式戦には出走していない、だから併走トレーニングや模擬レースのみになるのだがやはり本番の空気はまるで違う。

 特に今回の場合、皆から漂う雰囲気が今までとはまったく異なるのを感じた――なんとしても自分を倒して三冠を阻止しようと張り切っているだろう。

 

(みんな、ちょっと見ない間に随分立派になっちゃってさ。まぁ、それでも勝つのはこのボクだけどね!)

 

 油断すると間違いなく足を掬われるな、率直な感想としてそう思う。

 夏の間に力を蓄え、この菊花賞という一大レースに臨んでいる彼女らは疑いようのない強者であり、自分にも届きうる。

 

 それでこそ夢を懸けて争うに相応しい、全力で相手をするのに不足はないというものだ。

 けれど最後に笑うのは自分だと、そう考えたその時――。

 

『おおっと、ナイスネイチャだ! ここでナイスネイチャも凄い脚で上がってきた、勝負はこの二人の一騎打ちとなるのか!?』

 

 最終直線はおよそ400メートル、そこでスパートを掛け始めてすぐ。

 実況の言葉と、何より背後からの凄まじい威圧感にトウカイテイオーは思わず振り返った。

 

 ――そこにいたのはナイスネイチャだった。

 凄まじい闘志を身に纏い、食らいつかんとばかりにこちらへと一心不乱に迫ってきている。

 

 他者はあまり気にせず最強を自負しているトウカイテイオーですら珍しく振り返り、瞠目してしまうほどの圧倒的なその様子。

 まるで別人だ、このプレッシャーは――おそらくメジロマックイーンにすら匹敵する。あるいはこの瞬間だけに限れば……。

 

(なに、あれ……本当にネイチャなの?)

 

 トウカイテイオーは戦慄すると同時に、訪れる未来を予測した。

 普段の様子から誤解されやすいが彼女は非常に聡明であり、瞬時に彼我の戦力差を冷静に分析することが出来てしまった。

 

 ――このままではおそらく負ける、最後の最後で差し切られる。

 

『はっきり言って、お前の長距離適正は中距離に比べると一歩劣る。超一流のステイヤーと戦うには心もとないものになるだろう』

 

 菊花賞に向けた練習中、トレーナーにそう言われたことを思い出す。

 反論してやりたかったが、長距離を走る練習を積み重ねているうちに悔しいが納得させられてしまった。

 

 最後の直線でどうしても今一歩スピードが乗り切らず、中距離でいつも感じていた手ごたえを得られない。

 それでもほんの少し中距離より速度が出ないだけ、最強の自分には何も問題はないはず。

 

 しかし背後から迫るのは、そんな楽観を粉々に吹き飛ばすような光景だった。

 考えたくはないが、ナイスネイチャの長距離適性は自分よりも上なのではないだろうか。

 

(ぼ、ボク……負けちゃうの? せっかくここまで来たのに……)

 

 ――トウカイテイオーは、公式戦で初めて敗北を予感した。

 

 普段ならば何の迷いもなくここでスパートして、後ろなど気にせずに一番でゴールするのだが今回は違う。

 どうやってもナイスネイチャから逃げ切れる気がしない、そんなことを考えてないで早く脚を動かさなきゃいけないのに。

 

(動いて、動いてよ……。もっともっとスピードを上げないと負けちゃうじゃん)

 

 まるで走り方を忘れてしまったかのように委縮していく脚に、必死に力を入れる。

 もし自分の力が及ばずに敗れるのであれば仕方ない、相手を称えて次こそは勝つと奮起するだけなのだから。

 

 けれど、今回は……今回だけは違う。

 負けたらトレーナーがきっと悲しむ、「長年の夢を叶えられなかった自分」を気遣って心を痛めてしまう。

 

 彼は表面上はなんともないような振りをして、こちらを懸命に励ましてくるだろう。

 内心では自身の不甲斐なさを嘆きながら……そんなことになるのは絶対に嫌だった。

 

(……負けたくない、負けたくないよ。ここでボクが負けたら、トレーナーの努力まで全部無駄になっちゃう)

 

 無敗の三冠、その夢が最後に潰えることは泣いちゃうくらい悲しくて悔しいだろう。

 しかしそれ以上に耐えられないのは、今までのトレーナーの献身に応えられないという事実だった。

 

 トレーナーは、口癖のように結果が全てだと言っている。

 自分もそう思う、「結果は残念だったけどよく頑張ったね」では駄目なんだ。

 

 勝ってこそ――勝って夢を叶えてこそ、あの人の想いに応えることが出来る。

 どれだけナイスネイチャや他のウマ娘がこの勝負に懸けていようが、敗北だけは受け入れるわけにはいかない。

 

(……トレーナー。ボク、頑張るよ、だから勝ったらたくさん褒めてほしいな)

 

 いつも仏頂面でつまらなそうにしているけど、誰よりも優しいトレーナーのことがずっと大好きだった。

 あの人に優しく頭を撫でてほしい、頑張ったなって褒めてもらいたい……そんなことを期待して自分を奮い立たせる。

 

 後ろからの猛追に挫けそうになるが、負けじとただ前を見据えた。

 これからはもう後ろは振り返らない、ここまで来れば後は全力で走るだけなのだから。

 

 負けない、負けたくない――勝ってあの人を笑顔にするんだ。

 大体、よくよく考えてみれば自分は最強なんだから負けるわけがないじゃないか、何をそこまで怯える必要があるのか。

 

(そりゃネイチャたちも強くなったけどさ、でもすっかり忘れてることがあるんじゃない?)

 

 ――今まで誰に散々ボコボコにされてきたのか、それを思い出させてあげる。

 

 トウカイテイオーは、そうやっていつものように不敵な笑みを浮かべた。

 怪我明けだから本調子ではない? 距離適性で劣っている? 相手のウマ娘が決死の覚悟で挑んでくる?

 

 そんなことは丸ごと全部関係ない、全てを呑み込んで自分が必ず勝利してみせる。

 自分が勝つのは絶対だ、絶対に勝つ。

 

 無敗の三冠ウマ娘になって、ずっと支えてくれたトレーナーに喜んでもらいたい。

 だから負けられない! 負けられないんだ! 絶対に勝つ! 絶対に、絶対に――!!

 

 

 

(――――絶対は、ボクだっ!!)

 

 

 

 ◇

 

 

 

 もう少しだ、もう少しでついに届く。

 

 前を走るトウカイテイオー、その背を全身全霊で追いかけながらナイスネイチャは思った。

 確かにテイオーは速い――ずっと目標にしてきただけのことはあった、しかしほんの少しずつだが確実に距離は縮まっている。

 

 もっと距離が短ければ勝負はわからなかっただろうが、このままいけばきっと最後に差し切れることだろう。

 自分でもこんなに速く走れたことに驚いてしまうが、間違いなく生涯において最高の調子が出ていた。

 

(テイオー、悪く思わないでよね。アタシ、どうしてもアンタに勝ちたいんだからさ)

 

 トウカイテイオーが、どれだけ“無敗の三冠”という夢にこだわっているかは知っている。

 “皇帝”シンボリルドルフに魅了されたことから始まり、骨折というアクシデントに見舞われても決して色褪せることのなかった想い。

 

 それを阻止してしまうことに良心の呵責はあるが、勝負事でそのような気持ちになるのも失礼であるだろう。

 テイオーだって嘆きはするものの、負けたからとこちらを恨むような器の小さなウマ娘ではないだろうし。

 

 逆に変に遠慮する方が彼女への侮辱となるとして、最後までペースは緩めない。

 流石にどんどん脚は重くなってきたし、呼吸も苦しくなってきた……とはいえ溢れる勝利への渇望がこの疲れさえ塗り潰す。

 

 ようやく憧れに手が掛かるという確かな実感。

 ナイスネイチャがそんな気持ちを噛み締めているその瞬間――“それ”は起こった。

 

「――!?」

 

 ――突然、目の前にいたテイオーが爆発的に加速していったのだ。

 

 恐ろしいほどの勢いだった、見る見るうちに再び差が開いていってしまう。

 先ほどまでのが彼女のスパートではなかったのか? 今までは本気を出していなかった?

 

 思いも寄らぬ事態にナイスネイチャは困惑した。

 テイオーのレースは飽きるほど見て研究してきたが、ラストスパートにおいてここまでの速度を出したことはないはずだ。

 

 最終直線でのスパートが自慢である、脚質が差しの自分をも上回る末脚の鋭さ。

 テイオーだってその気になれば差しも出来るだろうが、流石に本職である自分より速いなんてことはあってはいけないはずなのに。

 

「くっ! うああああああああああああっ!!」

 

 そんな事実は認めたくなくて、ナイスネイチャは咆哮して必死に追い縋る。

 もう少し、もう少しなんだ……やっとあの子の背中に届きそうなのに。

 

 しかしどんなに叫んだところで距離は縮まらず、離されていく一方だった。

 ナイスネイチャは、その光景で嫌でも残酷な現実を突き付けられることとなる。

 

 ――もうどれだけ走っても、トウカイテイオーの前に出ることは出来ないのだと。

 

(……そんな。アタシは本当の本当に全力で、全てを出し切ってるのに――)

 

 ナイスネイチャは、絶望して膝を屈しそうになる。

 努力に努力を重ねて全てを懸けて臨んだ試合、自分の限界すら突破した自覚があるのにそれでもなお届かないのか?

 

 しかも相手は怪我をして数か月休養しているのに対して、こちらは夏に連勝してノリに乗っている。

 これだけの好条件が重なって勝てないのなら、この先もう何をやっても――。

 

(あはは、やっぱ駄目だったかぁ……。脇役が一丁前に夢見ちゃったなあ、こんなアタシが主役になんてなれるわけないのにさ)

 

 皮肉げに、ナイスネイチャが力なく笑う。

 結局、どれだけ頑張ってもキラキラした主人公には勝つことなんて出来なかった――どんなに足掻いたところで所詮脇役は脇役。

 

 どうせ最後には負ける、引き立て役の運命なんだから努力をしたところで何もかも無駄。

 そうやって達観して全てを諦めようとしたが、不意にある言葉が脳裏を過ぎる。

 

『お前が諦めてさえいなければ、挑戦することは無意味なんかじゃない』

『……大事なのは、挑戦する心を忘れないことだと俺は思っているよ』

 

 テイオーとの圧倒的な差に打ちひしがれていたときに掛けられた言葉。

 それを発した相手が、よりによってそのテイオーのトレーナーであるのが笑ってしまうところだが自分の心に響いていた。

 

(……自分が諦めなければ決して無意味じゃない、挑戦することが何より大事。ねぇそうだよね、トレーナーさん)

 

 何をしてもここからテイオーに勝つことはないだろうが、それでも胸を張って前に進もう。

 彼女を追い越すという挑戦をしたことに後悔はないし、いつかあの少女に勝てるまで諦めることもしない。

 

 テイオーの背をただ見つめるだけで終わりではなく、きっと自分がその先を走ってみせる。

 決意を新たにするが、ただ一つだけ強く思うことがある。

 

(ああ、悔しいけどやっぱ主人公(アンタ)はカッコいいなぁ……) 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 駆ける。

 トウカイテイオーは、ひたすらにターフを駆け続ける。

 

 意識が切り替わり、視界がクリアになっていく。

 自分という存在が以前より一段階引き上げられたのを感じた。

 

 いける、これならどこまでだって飛んでいける。

 風も音も光も――邪魔するものは、どんなものでも追い越そう。

 

 正面スタンドでは観客がざわついているし、実況や解説も何か叫んでいる。

 しかしよく聞こえない、自分だけが別世界に入り込んでしまったような錯覚を覚える。

 

 そんな世界で、彼女はただ一つ確かなものを発見する。

 

(……トレーナー。らしくもなくなんか叫んでるね、すごく珍しいや)

 

 観客席の最前列、そこで自身に対して声援を送っているトレーナーの姿を見つけた。

 本当に貴重なことに、彼は大声を出しているのだがまったく聞き取れない。

 

 多分、「走れ! トウカイテイオー!!」とかそんな感じのことだろうけど。

 いつもクールで表情を変えないくせに、慣れないことをしてるその様子に苦笑してしまう。

 

 でも、いいんだ。キミが、必死になってくれている――その姿が、勇気を与えてくれるから。

 キミのために勝ちたい。どんなときでも、キミの絶対でいたい。

 

 自分のせいでトレーナーが傷つくのはもう嫌だ、ここで勝ってあの人が最高のトレーナーだと証明してやるんだ。

 ちょっとだけ贔屓が混じってるかもしれないけど、自分の好きな人は誰よりも格好よくて誰よりも優秀なトレーナーなんだから。

 

(ボクは、自分が思ってたよりも大したことないウマ娘だった)

 

 トウカイテイオーは、ふと自身のこれまでを振り返る。

 トレセン学園に入学した当初は、自分は天才でなんでも出来るし他者の助けなんて必要ないと思っていた。

 

 だからこそ、担当のトレーナー選びについてなど軽く考えていた。

 どうせ走るのは最強無敵のこのテイオー様であるし、トレーナーなんておまけに過ぎない。

 

 トレーナーとしての知識は流石にないから、それなりのトレーニングメニューは作ってほしいが中央にいる者ならそれくらい誰でも出来るだろう。

 そうやって適当にしか考えず、スカウトが殺到したこともあって面倒になりジャンケンで決めようとしてしまったほどに。

 

 その傲慢を敬愛するカイチョーこと、生徒会長のシンボリルドルフにきつく叱られてしまい。

 納得はしつつも、何処かもやもやしたものを抱えていた時に出会ったのがトレーナーだった。

 

 そこから紆余曲折あって、意気投合した末に担当契約を結び。

 日本ダービーまで全勝する快進撃を果たすが、その直後に脚を骨折してしまう。

 

 ……トレーナーは自身の未熟さを恥じているようだったが、一番の原因は自分だ。

 彼はそのとき出来るベストは尽くしていたと素人ながらに思うし、他のトレーナーであったとしてもあれを防げたとは思えない。

 

 仮に骨折を未然に防ぐなら、自分の脚が他者よりも脆いという前提条件に気付いていなければならないが、きっと難しいことだろう。

 身体が柔軟であるというのは一般的には怪我をしにくい体質だし、あれだけ気を付けていたのに骨折は免れなかったのだから。

 

(笑っちゃうよね、脚が脆くて一人じゃ満足に走れもしないくせに最強なんてさ)

 

 過去に抱いていた考え、そのあまりの愚かさに自虐する。

 自分はただ小器用なだけで、トレーナーの助けがないと走り続けられないウマ娘だった。

 

 あの人のおかげでここまでこれた、本当に何度感謝を伝えればいいかわからない。

 怪我をした自分を見捨てず、リハビリやトレーニングに常に優しく付き添ってくれて、こうして菊花賞まで間に合わせてくれた。

 

 自分だけだったら、きっと出走することすら出来なかっただろう――あの人がいたからリハビリもトレーニングも頑張れたんだ。

 信頼してくれる相手がいるからこそ、その真摯な想いに応えたいという力が生まれる。

 

 ボクは、キミが信じてくれたから――。

 最強でいられる、絶対でありたいって強く願うことが出来る。

 

(……トレーナー、そこで見ててね。ボクが一番でゴールして、夢を叶えるところ)

 

 だからどうか、いつまでもボクのことだけを見ていてください。

 キミが一緒にいてくれるなら――ボクは、どんな相手にも絶対に負けないから。

 

 独白の直後、トウカイテイオーは誰よりも先にゴール板を通過する。

 ……その姿は、まるで白い流星のようだった。

 

『――トウカイテイオーだ! 菊花賞を制したのはトウカイテイオーです! 怪我に苦しめられながらも決死の思いで掴み取った三冠! ここに三冠ウマ娘が今新たに誕生! 彼女が尊敬している“皇帝”シンボリルドルフと並ぶ、無敗の三冠ウマ娘となりました!!』

『終盤でナイスネイチャが上がってきたときはどうなるかと思いましたが、執念とも言える凄まじい末脚で逃げ切りましたね。しかし二着のナイスネイチャも見事な走りでした』

 

 実況の言葉も、解説の言葉も耳に入らない。

 観客が大盛り上がりしているが、それすら今はどうでもいい。

 

 激戦が終わった後だというのに、少女は再び駆けていく。

 誰よりも勝利の喜びを分かち合いたい、愛しい人の元へと。

 

「――トレーナー! やったやった、やったんだよボク! とうとう無敗の三冠ウマ娘になれたんだ!!」

「ああ、見ていたよ。終盤は圧巻の走りだったな、大したもんだ」

「もーっ! どうしてそんな普段通りなのさ、これじゃキタちゃんたちと会った日の方が楽しそうだったよ、たくさん笑ってたし」

「あれは……いろいろあったんだ、早く忘れろ」

 

 最前列にいたトレーナーに飛びつかんばかりに駆け寄るが、思ってたより反応は薄かった。

 あの日みたいに顔を押さえて笑ってくれるかもしれないと思ったのに……だけど、そういう冷静沈着なところも好き。

 

「とにかく本当に本当にありがとっ! 全部キミのおかげだよ!!」

「いや、お前が頑張ったからだ。俺は何もしていない」

「ううん、キミがいてくれたから勝てたんだ……ならさ、ボク達二人の絆の勝利ってことで!!」

「絆、そうなのか……? まあそれは置いとくとして、もう少しこっちに近寄れ」

 

 トレーナーが手招きしてくるので、疑問符を浮かべながらも指示に従う。

 この前は手の平を差し出して、「お手」とか言ってきたことがあるから喧嘩したが、いくらなんでもこんな場所ではやらないだろうし。

 

「……よく頑張ったな。おめでとう、テイオー」

「あ……。うんっ! これからも一緒に頑張っていこうね!!」

 

 いつもと違って、信じられないくらい暖かい笑顔で優しく頭を撫でられる。

 頑張った甲斐があった、こうされることが自分にとって何よりも嬉しい報酬なのだから。

 

 これからも……こんな風に、この人とずっと夢を叶えていきたいな。

 トウカイテイオーは、瞳を閉じてその身に余るほどの幸福を堪能する。

 

 ……この日。トウカイテイオーは、公式戦無敗でクラシック三冠を制覇した。

 ウイニングライブにて彼女が満面の笑みで掲げた三本の指は、多くのファンにとって忘れられない光景となる。

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