そこには天使のように可愛い英梨々と倫也の2ショットが映っていた。
英梨々による先制攻撃に為すすべもない恵は沈黙を貫いていた。
恵はそれがなんでもないという風に無視をして、仕事に没頭するのだが・・・
「ふふっ、見なさいよ!この完璧なツーショット写真」
英梨々が満足そうに写真を見ている。
「そうだな」
倫也は別に照れもせずに同意した。
英梨々がチラリッと恵を見ると、恵は別に気にする様子もなく、取引先の名簿を眺めながら思案している。
「それにしても、我ながら可愛いわよね・・・あたし」
「なんか、父兄はみんな天使ちゃんとか呼んでたよな」
「もうほんと、背中に羽根が生えててもおかしくないわね」
英梨々が見ているのは幼稚園時代の写真である。倫也と英梨々は仲がよかったのであらゆる写真に2人で写っていた。
「こういうのはやっぱり、幼馴染ヒロインの特権よね」
英梨々が恵に聴こえるようにいう。ちらりと見るが恵は気にする様子もなく、名簿にチェックをいれている。反応が薄くて英梨々には面白くない。
※※※
とある春の休日。外はぽかぽかと暖かい。
場所は倫也の家のリビングである。
英梨々はソファーの前のテーブルの上に、たくさんのお気に入りの写真を広げていた。
恵は食事をするテーブルの方で忙しそうに作業をしていた。さっきから一言も話さない。
(さ・・・さすがにやりすぎたかしら・・・)
英梨々は気になってしまった。こういうところは優しい。もとい、甘い。
「それしても、すごい枚数だな・・・」
「行事の写真を全部買っていたのよ。ここにあるのは倫也が映っているのだけだけど」
厳密には倫也と英梨々が一緒に写っている写真だけを選別して持ってきた。
「懐かしい感じはするけど、もう誰かわからんやつも多いな」
「そうね。小学校から別になるとやっぱり忘れるわよね」
英梨々と倫也がソファーに並んで写真を眺めて、昔話に花を咲かせている。
※※※
2階から出海が降りてきた。黒地のゆるいワンピースにはところどころ絵の具の汚れが付着している。髪は後ろで無造作に1つに束ねていて、いかにもアーティスティックだ。しかし、口紅を塗っていてそれが妙におかしい。
「ずいぶんと倫也先輩の部屋、さっぱりしましたね」
「ああ、フィギュアやラノベの整理をしているからな」
「あっ、頼まれていたのはこれです」
出海が倫也にフォトブックを渡した。
「ありがと」
「なんでうちに、倫也先輩の写真があるんですかね?お兄ちゃんってもしかしてBLでした?」
「それは追及しないで・・・」
出海もソファーに座った。テーブルの上の写真をみる。
「すごい量ですね・・・」
「見てよ、この写真!」
英梨々が写真を一枚出海に渡した。
「うわぁ・・・可愛い・・・これ、倫也先輩と澤村先輩ですよね?」
「もちろん」
英梨々はご機嫌だった。
バスの中の写真では、倫也と英梨々は同じ座席に並んで座っている。倫也は少し恥ずかしそうにしているが、英梨々は倫也にべったりとくっついている。
「この頃は仲良かったですね」
「・・・」
「小学校の時の写真はないんですか?」
「あるわよ・・・」
英梨々が小さなフォトブックを取り出す。
小学校の時の写真で倫也と英梨々が一緒に写っているものは数えるぐらいしかない。
「これなんかどうかしら・・・」
英梨々の運動会の時の写真。走っている英梨々と、走り終わって順位の旗の前に座っている倫也がかろうじて映り込んでいる。
「これ・・・もう2ショットでもなんでもないですよね?」
「いいじゃないの。あたしは可愛いでしょ?」
「はぁ・・・澤村先輩はどの写真も可愛いですよね」
出海はツッコミにくいなぁと思った。この頃の倫也と英梨々はすでに喧嘩したあとでギクシャクしている。
「あっ、でもこれがあったわ」
修学旅行の写真。食堂でみんなが並んで食べている。倫也と英梨々は斜め前の関係になっていて、カメラにむかって笑っている。
「いいですね・・・」
「隣の班だったのよ」
「どうせなら隣に座ったらよかったじゃないですか?」
「そこまでは・・・」
「ツンデレ発動したんですね・・・」
「そうね・・・」
倫也はその写真をしげしげと眺めている。記憶から消えていた。
「覚えてないなぁ・・・」
「はぁ・・・?ここであんたが空気を読まずにまたアニメの話をしていたのを、あたしが少しフォローしてあげたでしょう?」
「そうだっけ・・・」
英梨々の方がいろいろと覚えていた。倫也は子供の頃のことをだいぶ忘れていた。倫也の方が大人になってしまったのだ。
「小学生時代はこれで終わりですか?」
「あと全体集合写真があるわね・・・」
「・・・」
※※※
中学の時の写真は出海がもってきた。伊織が倫也の写真もなぜかもっている。行事別の写真だけでもけっこうな枚数になる。
「波島って、こういうところほんとにマメよね・・・」
「お兄ちゃん、資料をまとめるの上手ですよね。これ一部なんですけど、事前に用意してくれていましたし」
「で、おすすめの写真は?」
「これです」
出海がフォトブックから一枚の写真を取り出す。
窓の前で、伊織と倫也が見つめ合っている。
「ぶっ・・・」
英梨々が吹き出してしまう。
「な・・・なによこれ?」
「これ、BLの資料作りと知らずに倫也先輩がお兄ちゃんの同人活動に協力したときのらしいです」
「伊織・・・」
なんか刺すような視線を感じるなぁと、倫也が恵をみると、ハイライトの消えた目でこっちを見ている。
「恵、そこに反応しないでくれる!?何もないからな」
恵は無言でまた作業に戻った。ハガキをチェックしている。
「あとは、わたしとのツーショットもありますよ」
自宅で絵を描いている倫也と出海の写真や、並んでゲームしている写真もある。これらは伊織が撮影したものだ。
「内容はともかく、波島って写真もうまいのね」
「万能ですから」
「覚えてないなぁ・・・」
「倫也先輩ひどくないですか?」
「いや、ごめん。でも波島の家にいって出海ちゃんとたくさん遊んだってことは憶えているんだけどね。何をしたかは・・・」
「もうずいぶんたちますものね」
その時、呼び鈴がなった。
倫也が玄関に向かうと美智留がいた。
「よっ」
「悪いな美智留。わざわざ」
「いやいや、これぐらいお安い御用だよ。トモ」
美智留が倫也にフォトブックを渡した。
美智留がソファーに座った。
「美智留、こぼすと大変だから、お茶を飲むならキッチンで頼む」
「了解。それにしてもすごい量だね」
テーブルに並べられた写真をみている。
「どう?この写真なんて、氷堂美智留」
「どれどれ・・・って、カワイイ!これ、澤村ちゃんだよね?」
「そうよ」
「全盛期かぁ・・・」
「幼稚園を全盛期にしないでくれる!?」
「いやいや、これは天使だよ。澤村ちゃん」
誰がみてもそう思うようだ。
英梨々は恵の方をみる、反応はない。
「英梨々、いったん横にまとめてくれる?」
「ああ・・・うん」
英梨々が写真をまとめる。
倫也が美智留のフォトブックから写真を取り出してテーブルに並べていく。
「あれ、美智留先輩って双子ですか?」
「それ、トモとあたしだよ。出海ちゃん」
「ああ、同じ誕生日なんですっけ?」
「そそ」
「へぇー、氷堂美智留も昔はピンクのフリフリを着ていた頃があるのね」
「まぁ・・・一応、女の子なんで」
「女の子の恰好したら、こんなに可愛いんですね・・・」
「それ、どういう意味?出海ちゃん」
「いえ・・・小学校に上がった頃にはボーイッシュなかっこうになっているんで」
「そうねぇ・・・髪って短い方が楽じゃない?」
「そんな理由なんですか」
「でも、氷堂美智留。服装は別に男の子っぽくする必要はないんじゃないの?」
「ほら、外で走り周るにはスカートって邪魔でしょ。ケードロとか負けたくないし」
「そんな理由で短パンなんですか!?」
「ケードロをつきつめた結果の衣装なだけ」
「女の子らしらを突き止めた方が・・・」
「でも、あたしは別にこういう恰好でもモテたし」
「はははっ」
確かに男の子と壁を作らない女子は話やすい。それをモテていると表現するかどうかは主観に任せたい。
「そういえば、中学生の頃の澤村さんの写真はないんですか?」
「あるけど・・・2枚だけね。倫也と写っているのは」
「見せてください」
「いいわよ」
英梨々がフォトブックから一枚取り出す。
校舎を背景。花壇のコンクリートに倫也と英梨々が腰をかけている。倫也は左側にいて友人と話していて、1メートルぐらい離れて右側に英梨々がやはり友達と話している、お互いに少し背中を向けているような感じになっている。
「これは・・・微妙ですね」
「そうかしら?倫也、覚えいるかしら?」
「えっと中2の文化祭か?」
「そそ」
「今度は憶えているんですね・・・」
「俺もその写真は買ったからな・・・」
恵の方をみたら、恵が固まっている。
「このトモと澤村ちゃんは、背中で語っているねぇ・・・青春だわ」
「でしょ!?さすが氷堂美智留ね。この微妙な関係がいいのよ」
「少し修復してくるんですっけ?」
「そうね・・・少しだけね・・・」
倫也がアキバにオタクグッズを買いに行くようになると、英梨々は買い物を依頼する形で交流が再びはじまる。倫也がバイトを始める前はお金もお年玉ぐらいしかなく、買い物にいく回数はまだまだ少なかった。
英梨々がテーブルの上の写真をまたまとめた。
「そして極めつけが、これよ!」
バンッ!
と、英梨々が一枚の拡大した写真を置いた。
そこには満面の笑みを浮かべた倫也と英梨々のツーショットが映っている。背景は学園祭の屋台で、奥にいる倫也が英梨々に笑いかけているし、英梨々も満足そうに笑っていて、手にはお手製のうちわをもっていた。
「なんですか・・・これは・・・」
「ふふふっ・・・」
「これは・・・俺も持っているが・・・秘密にしておけよ・・・英梨々」
「あら、隠すようなことなんてないじゃない?」
英梨々が恵を見る。さすがにムッとした表情をしている。
ふふふっ、勝った。
「それにしても見事なツーショットですね・・・澤村先輩」
「まぁね。ほら、あたしカワイイから、というか学園のアイドルみたいなもんだからね」
「自分でいいますか」
「写真部の子がひとり専属でついていたのよ」
「すごっ」
「でも、それとトモが満面の笑みなのは関係ないよねー」
「それはね・・・オタクグッズを買った時の記念のおまけは、倫也にあげるという契約が成立した時なのよ」
「買収された時の笑顔ですか・・・」
「・・・そうなのよ。でもいい笑顔じゃない?ねっ?倫也」
「そうだな・・・」
恵に言うわけにはいかないが、英梨々とまた話すことが増えて嬉しかったのも事実だ。こんなに笑顔なのは今見ると恥ずかしい・・・
「いい写真だなぁ・・・これと、幼稚園の頃が甲乙つけがたいですね」
「そうね」
「あたしは波島兄ちゃんとのツーショットもいいと思ったけど」
「あれはやめてねぇ!?」
4人が盛り上がっている。
※※※
英梨々は満足していた。過去偏になれば、ぽっと出のヒロインには負けない。恵には申し訳ないが、倫也の過去は自分のものだと思っている。
恵が名簿のチェックを終えると、席を立ちあがって、4人の方へ向かう。
それから、テーブルの上に並べられた写真をみている。どれも倫也と女の子とのツーショットだ。
ため息をつく。
「恵。どうかしらね?どれも良い写真だと思うのだけど」
「・・・」
「まぁ、恵には倫也の子供の頃の写真がないわけだし」
「・・・」
「・・・どう・・・」
「・・・」
英梨々はやりすぎたかなぁ・・・と反省する。
恵はもう一度深くため息をつく。ぜんぶやり直さないといけない。仕事も忙しいのに。
「あのさー英梨々。これ・・・式場のスライドショーで流せると本気で思っているの?」
テーブルの上の名簿には結婚式に案内状を送る人のリストが完成していた。
倫也の未来は恵のものだ。
(了)