そして、後半の紅魔の里編では、カズマの両親というオリキャラがいます
今回は、アクアのミスとペナルティ、そしてカズマの現在の話です
この駄女神様に天罰を!
「ああ~! ったく、やってらんないわよ」
私は今、荒れに荒れながら大量の書類と格闘していた。それもこれも、あの引きこもりゲームオタクのせいだ。よりによって、一番めんどくさい特典を選んだあの男のせいで、あの男の生まれ持ったステータスを書き換える手続きをしなければならなくなった。
これ、ホントにめんどくさいのよね。何しろ、あの男が最高神様に与えられた才能に手を加えなければならない。そのためには、あの男の今までの輪廻転生を遡り、さらには全ての親類縁者の素質まで網羅しなければならないからだ。
人間には生まれ持った分という物があり、それは前世での善行や、先祖などから受け継ぐ物もある。それらを総合し、与えられる才能が決定する。それを書き換えるには、その全てを把握しなければいけない。
「何で私が、あんな男のためにそんな苦労をしなくちゃいけないのよ! もう嫌ああああーっ!」
「それがアクア様の仕事だからです」
「くっ……!」
とうとう我慢できなくなり、机の上に大量に積まれた書類を床にばら蒔いてから突っ伏した私に向かって、笑顔でそう告げてきた部下の天使を睨み付ける。けれど、その娘はそんな私の恨めしい視線を受け止めてニッコリと笑った。
ねえ、私女神よね!? そして、この娘は私の部下である天使でしょ! なのに、何でこんなに苦しんでる上司をそんなに嬉しそうに眺めてるのよ!
「昨日は私の大事な
「最高神様の書類の処理は、私共天使には手がつけられませんから。たまには女神らしく働いてください」
「うぅ、分かったわよ。……ん? ちょっと待って? 今あんた、『たまには』とか言った?」
「言ってません」
「あんた、さては私を舐めてるでしょ!」
「滅相もございません。さあアクア様、もうひと頑張りですよ。あ、これ追加の書類です」
「また増えたー! もう無理、無理だってばー!」
さらに追加された大量の書類。この娘、本当に嬉しそうに私に押し付けるわね。もう泣きたい、というか泣く。ところがこの
「大丈夫です、アクア様はやればできますよ。ほら、アクア様のアクシズ狂の教えにもありますでしょ?」
「それはその後に、上手くいかないのは私のせいじゃなくて世間が悪いって付くのよ! っていうか、今のアクシズ教の発音が、何か変じゃなかった?」
「気のせいです♪」
……いい性格してるわね、この娘。いい加減に私の右手が火を吹きそうになる。けれど、私の部下はもうこの娘しか残っていない。ここでこの娘をゴッドブローで気絶させてしまえば、さらに私の負担が増える。
きっと、それも計算しての態度なんだろう。ねえ、やっぱりこの娘、天使のフリした悪魔じゃない?
「それでは、定時なので私はこれで失礼いたします。アクア様は、和真様が転生を完了するまでにちゃんと仕事を片付けてくださいね?」
「ちょっ! また残業しろって言うの!?」
「最高神様のご命令ですから、仕方ありません」
この娘、いつか絶対殴る!
「じゃ、じゃあせめて手伝って……」
「子供が待ってますので♪」
「嘘つくんじゃないわよ! あんた結婚なんてしてないでしょ! あ、こら待ちなさいよ! ねえ待って! お願いだから見捨てないでえええええーっ!」
そんな私の悲痛な叫びを無視して、足早に立ち去っていく
「ぐすっ……えぐっ……」
もう神も仏も信じられない。あ、でも私だけは信じられる。もうこうなったら……!
「っぷはー! こういう時はやっぱりお酒よね!」
アクシズ教・教義、嫌な事からは逃げればいい! 逃げるのは負けじゃない。逃げるが勝ちという言葉があるのだから! という訳で、私は書類の山を床にばら蒔いて、秘蔵のお酒を湯水のように飲んでいた。
きっと明日、最高神様にこっぴどく怒られるだろうけど、そんな事は知った事じゃない。今が楽しければそれでいいのよ! 大体、こんなめんどくさいチートを考えた
「うん、もうこうなったら、こういう雑用が得意な神に丸投げしましょう! 私がやるより効率も良い筈よ。やだ、私って天才!? よし、やっぱりこういう時は上げ底エリスよね。後輩なんだし、昔は私が散々あの娘の手伝いもしてあげたんだし」
そうとなれば、早速あのパッド女神の所へ……
「あっ……!」
そう思った時だった。酔いが回っていた状態で急に立ち上がったために、お酒を持ったままよろめいた。そして、気がついた時には全てが手遅れだった。よりによって、そのお酒が赤ワインだったのが災いした。
あの佐藤和真のステータスに関するその他諸々の書類に、盛大にお酒をぶちまけてしまったのだ。ついでに、私もお酒まみれになった。しばらく呆然として、その光景を見つめる。書類は当然、赤ワインによってぐちゃぐちゃになってしまっている。
「……だ、大丈夫よ、これくらい。ほ、ほら、こんなの私の浄化の力を使えばまだ……」
震える手で書類にかかったお酒を浄化しようとしたけど、最高神様の神力が込められた書類に弾かれてしまった。あれ、これってマズくない?
「まだよ! まだ慌てるのは早いわ。ほら、こんなに大事な書類なんだから、きっとバックアップが……」
というかね、たかが赤ワインくらいで駄目になるような物にしておくんじゃないわよ! そう思った私だったけど、その時私の背後から、不吉な声が……
「アクア? 何をしているのかな?」
「ひいっ!? さ、最高神様!? あのその、これは違うんですよ! その、不幸な偶然がですね……!」
「アクア」
「はいっ!」
「ちょっと私の部屋まで来なさい」
「いっ……嫌ああああ!」
こうして私は、最高神様に連行されたのだった。
「さてアクア、何か申し開きはあるかな?」
「えっと、そのー……」
こ、怖い! 最高神様の満面の笑顔が、怖くて怖くて仕方ない。最高神様の部屋に連れていかれた私は今、この場に集まった多くの神々達から冷たい視線を受けながら縮こまっていた。これでは吊し上げだ。
「あ、あのですね」
「何かな?」
「その、仮にも神の力で作られた書類が、あの程度で駄目になるのはどうかと思うんです!」
「うんうん、そうかもね。でもねアクア」
「は、はい……」
「そもそもな話、あんなに大事な書類のすぐ側で酒盛りをするような神は、普通はいないと思うんだよ」
「うぐっ……!」
最高神様の正論に、ぐうの音も出ない。この場に集まった神達も、その言葉に頷いている。
「あ、あの」
「ん?」
「だ、大丈夫ですよね? バックアップデータとか、あるんですよね? もしくは、あの書類を元通りにするとか。最高神様の力なら、きっとできますよね!」
「ああ、できるよ」
不安げに訊ねる私に向かって、最高神様は笑顔でそう答えた。よ、良かった! ところが、その言葉に安堵した私に向かって最高神様は、『ただ……』と、またしても不安になる言葉を続けた。
「た、ただ?」
「如何せん、量が多すぎる上に、時間もない。確かに元通りにする事はできる。しかし、それには数日掛かってしまう。すると、佐藤和真くんの転生までにステータスを弄ったりするのは難しい。いやそれ以前に、今のデタラメな状態になった書類のデータが反映されてしまうかもしれない。そうなると、私にもどうなってしまうか分からないんだ」
私の顔から、サーッと血の気が引いていく。予想以上にマズい。そうなれば私の責任問題だ。いや、もうすでに、私へのペナルティは免れないだろう。そう考える私の予想通りに、最高神様は言った。
「という訳でアクア、今回の事態を引き起こした君には、この異世界へ行って、佐藤和真くんのサポートをするというペナルティを科す」
「なっ!?」
「期間は、魔王を倒すまでだ」
「ちょっ!? ちょっと待ってください! あの、私は回復はできても、戦う力はないんですが!」
そして最高神様の下したペナルティは、私にとっては最悪なものだった。戦闘能力のない私はどんな目に合うか分からないし、しかも期間は魔王を倒すまで。下手をすれば永遠に帰ってこられないかもしれない。
「何か別の! 別の罰を!」
「それではアクア、頑張りなさい」
「待って! お願いですから待ってええええ!」
何とか許して貰おうと、最高神様にすがり付こうとしたけど、それは無理だった。すでに私の足元には、何度も見た転送魔法陣が浮かんでいたからだ。私の体は宙に浮かび上がり、どんどん上昇していく。
「あっ、そうだ! あ、あの、私にも仕事が! 日本で死んだ魂達を導くという、大事な仕事が!」
最後まで諦めちゃ駄目だ。私は必死にそう訴えるけれど、最高神様はそんな私に柔らかく微笑み……
「君の仕事は、君の部下に引き継いで貰うから大丈夫だよ。だから、安心して行っておいで」
「なっ!?」
最高神様のその言葉に驚いていると、この場に現れる新たな影。それは紛れもなく、あの
「行ってらっしゃいませ、アクア様。あとはこの私にお任せください♪ 無事に戻られる事を、それなりにお待ち申し上げておりますね」
「こ、この悪魔めええええーっ!」
天使のように微笑む悪魔に向かって怒鳴りながら、私は異世界へと強制的に旅立たされていった。
「あ~、学校行きたくない……」
どうも、紅魔族随一の落ちこぼれ、カズマです。俺のテンションは、朝から最悪だった。
「もう、カズマったら。それ、去年も言ってたわよ。そんなに嫌なら、地味で役に立たないスキルばっかり覚えてないで、早く派手な上級魔法を覚えなさいな」
「いや、立つよ! めちゃくちゃ役に立つよ!」
いきなり俺が必死に覚えた数々の便利スキルを役立たず呼ばわりしてきた母、しぶりんに俺は反論する。
「いや、母さんの言う通りだ。何しろお前が覚えたスキルは、どれも地味でかっこよくない。お前は一体、ぷっちん先生に何を習ってきたのだ」
「いやいや親父。あの先生の教えとか、強さとか便利さとかじゃなくて、かっこよさだけを求めてるから、それこそ役に立たねえよ!」
「何を言う。かっこよさ以上に大切な事などない!」
親父も親父で、何て言い種だ。くそっ、これだから紅魔族は! ……まあ、俺もその紅魔族なんだけどね。今朝の夢の事を思い出して、微妙な気分になる。自分が女神に選ばれた勇者候補とか、まさに紅魔族だ。
「お前が産まれた時は、皆天才だと期待したんだぞ? 産まれたばかりで『カズマ』と名乗ったりな」
「……なあ、それって本当の事なのか?」
親父、たけぷろがまた信憑性の薄い話をし始めた。子供の頃から何度も聞かされたけど、とても信じられない。大方、意味もない呟きを聞き間違えたんじゃないかと俺は思っている。だってそうだろ?
「俺が天才とか、笑えない冗談だろ。何しろ俺って、この里で唯一アークウィザードの素質がないじゃん」
そう、俺は一般人と比べれば知力も魔力も少し高めだが、紅魔族としてはただの落ちこぼれだ。冒険者カードに記された職業も、紅魔族なら当たり前のアークウィザードではない。最弱職とされる冒険者だ。
「ふっ、お前はまだ覚醒していないだけだ」
「そうよカズマ。あなたはいつか覚醒して、紅魔族で最強のアークウィザードになるのよ」
「くそ、こいつら本気で言ってるからタチが悪いな」
というか、里のほとんどの奴らが同じ事を言っている。その根拠になっているのが……
「なあ、この左目は、ただの生まれつきのオッドアイでしかないんだって。いい加減に現実を見てくれ」
俺のこの、特異な目の色だ。俺の目は、右目が紅魔族の特徴である赤、そして左目は緑なのだ。これが紅魔族としてはたまらないらしくて、かっこいいと会う奴全員から言われている。だからこの里の奴らは、俺は生まれ持った力を半分しか発揮できてないと思っているのだ。そして、いつか完全な紅魔族として覚醒するのだと信じられている。
「はっはっは、信じろカズマ。さすればお前は、必ず覚醒する事ができるだろう」
「まあ、そうするとそのかっこいい目が見られなくなってしまうかもしれないから複雑ね」
「うむ、それは悩みどころだな」
「もういい。行ってきまーす」
付き合いきれん。俺の憂鬱も、この馬鹿馬鹿しい話で吹き飛んでくれたけどさ。朝から色んな意味で疲れ果ててしまったが、俺は魔法学園・レッドプリズンを目指して歩き出した。何度聞いてもイカれた名前だ。
本来の紅魔族なら、俺はとっくに卒業していただろうこの学舎。だが俺は留年している。しかも2年も。その理由としては、まだ上級魔法を習得できていないからだ。何しろ、俺の職業は冒険者だ。
アークウィザードと違って、魔法を習得するためのスキルポイントが多いのだ。アークウィザードでさえ30ポイント必要な上級魔法。冒険者の俺では、40以上必要になってくる。中級すら15ポイントだ。
しかも、成績が並みな俺には、成績上位者に与えられるスキルアップポーションなど手が届かない代物だ。となると、レベルを上げるしかない。だけど最弱職の冒険者の俺では、この里の周辺にいるモンスターは、強すぎてそう簡単には倒せない。
結果として、安全なレベル上げができる学校の授業の一つである養殖しかポイントを稼げないのだ。
「もうこうなったら、初級魔法で卒業してやろうか。今までは意地になって、せめて中級でと思ってたが」
まあ中級でも、色々言われるだろうが。それでも去年までは、ここまで学校が嫌ではなかった。では、何故今年は嫌かというと……
「気まずいよなぁ、女子に混じって授業受けるの」
そういう事である。本来なら、紅魔族の学校では男女別々に分かれて授業を受ける。去年まではそうだったしな。だけど今年からは、男子が俺だけになってしまったのだ。俺以外の男子は、皆卒業してしまった。
男子の紅魔族が、学校に通う年齢層に今は一人もいない。しばらく産まれてなかったからなぁ。最近また産まれてきたが、そいつらは全員0~3歳だ。という訳で、一人で授業を受ける訳にもいかなくなり……
「うわ、考えただけでもきっつ! 男子は俺一人で、しかも俺は留年した落ちこぼれ……」
二重の意味できつすぎる。やっぱり学校行くのやめようかなぁ……そんな事を考えていると。
「よう、カズマ。今年こそ卒業できるといいな」
「……ぶっころりー、てめえ……」
肩を落としてトボトボと歩く俺に、ニヤニヤしながら声を掛けてきた悪友、ぶっころりー。靴屋のせがれのくせに店を継がず、自分にはもっと相応しい仕事があるとか抜かしているニートだ。
「今の俺は機嫌が悪いんだ。からかうなら、日を改めるんだな。さもないと、お前の恥ずかしい秘密をあることないこと問わずにそけっとに話すぞ」
「あっ、この野郎! 人がせっかく心配して声を掛けてやったのに、何だそれ! おい、絶対やめろよ!」
紅魔族は売られた喧嘩は買うのだ。俺とぶっころりーは、朝から取っ組み合いの喧嘩をした。さすがにこいつも俺が魔法を使えない事は知っているので、あくまで素手だ。しばらくじゃれ合い、同時に離れた。
「はあ、はあ、ったく。そういう所はちゃんと紅魔族だよな、お前って」
「ぜえ、ぜえ、まあな……ま、お前のお陰でストレスも発散できたし、一応感謝しとくぜ、ぶっころりー」
「全然嬉しくない」
「だろうな。だから言ってんだよ」
俺達は再び睨み合い、同時に吹き出した。
「まあ、さっきの言葉は本音だよ。お前がさっさと卒業してくれないと、余計に退屈なんだよ」
「だったら、そけっとのストーキングをやめて、実家の靴屋を継げよ」
「もう一回殴り合うか、カズマ?」
「遠慮しとくよ。初日から遅刻して、余計に悪目立ちしたくねーしな。じゃあな」
「ああ」
気が付けば、朝の最悪な気分はどこかに吹き飛んでいた。さて、じゃあ行くかね、我が学舎に。俺は再び、レッドプリズンへの道を走り出すのだった。
カズマは14歳です
そして、カズマの他に学校に男子はいません
原作でもめぐみん達の同級生の男子は出てきませんし、こめっこと近い年齢の子供もいないらしいので
めぐみん達と絡ませたくて、こうしました