勇者は従者を追放したい   作:ちぇんそー娘

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開戦

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃ、私は彼をとりあえず転移用魔術陣のあるところまで連れていくね」

 

「スーイ、寄り道しないで帰ってきてよね」

 

「わかってるって。さすがに、今回はそう時間もなさそうだし」

 

 リスカは俺には特に何も言わず、それだけ言うと見送ることもせずに何処かに行ってしまった。

 

「全くリスカは。あ、私は死ぬつもりとか毛頭ないですが、一応。ここまでの旅は本当に楽しかったです。魔王とか倒し終わって、良かったら私としばらく旅とかしませんか? 今度はこんな危険な旅じゃなくて、色んなところをのんびり見て回る諸国漫遊って感じで」

 

「あ、それいいですわね。妾も付いていきますわ。なのでとりあえず、妾達が無事に魔王を倒せることを祈っていてくださいまし。……歯痒い気持ちは理解出来ますが、妾は貴方が妾の帰りを待っていてくれれば、それだけで共に戦うのと同じくらい助かりますから」

 

 ホシとギロンは今生の別れにするつもりなど毛頭ないと言いながらも、それでもやはり無事に帰れる保証がないことを感じ取っているのかいつもの調子ながら、何処か声色に暗いものを感じてしまう。

 

 

 

 そんな感じで、あっさりと別れは済まされてしまった。

 

 

 

「ごめんね。リスカが早く追い出せってうるさいから」

 

「スーイが謝ることじゃないだろ。悪いのは我を押し通す強さもない俺だ。あそこまで徹底的にボコボコにされちゃあ、恥ずかしくて恥ずかしくて仕方なくて、すぐにでも立ち去りたかったからむしろ助かった」

 

「嫌味とかじゃないけどさ、結局私達は言ってくれなきゃわかんない事って沢山あると思うよ」

 

「……正直に言いますと、めちゃくちゃ悔しくてつい負け惜しみみたいな事言っちゃいました。恥ずかしくて立ち去りたかったってのはホントだよ」

 

 思い返しただけで情けなくて顔から火が出そうだった。そもそも、リスカと喧嘩なんて結構長い付き合いなのに初めてだったからなんだかよく分からない感情が全部爆発して、自分の体じゃないみたいにとにかく口を動かしていた。

 

「へぇ。同郷とは聞いてたけど、仲良かったんだね」

 

「……違うな。どうせ勝てないってわかってたから、アイツと喧嘩なんて無駄なことをやる前に俺が引いてたんだよ」

 

 それでも追いつきたくて、今まで頑張ってきたけれど多分今の俺でも初めて会った時のリスカの方が強いだろうと、そんな見たくもない現実ばかりが目に付いて他のことが目に付かない。

 

「それ、君っぽくない」

 

「は?」

 

「無駄だってわかってるからやらないって君っぽくない」

 

「俺っぽくないって……」

 

「君はもっと無駄なことばっかりしてるでしょ。と言うかやることなすこと全部無駄。無駄の極み」

 

「あれ、これ俺悪口言われてるの?」

 

 前を歩くスーイの顔色は伺えないし、こっちを向いていたとしても深くフードを被っている彼女の表情は分からないけれど、怒ったりしている訳では無いのはわかる。

 と言うより、なんと言うか諭すような言葉。どこかで聞いたことがあるような気もしなくもない。

 

「私は無駄だとわかっていても、諦めずに努力する君だから応援してたのに。そういうこと言われると、悲しいよ」

 

「そんなこと言われたって、スーイだって俺の事追放するって賛成してたじゃん」

 

「だって……君本当に弱いもん。リスカの言う通り絶対に死ぬ」

 

「もうそれわかったから言わないでくれ。さすがに泣きそうになる」

 

「……おかしいのはわかってるよ。私は君に頑張って欲しい。諦めて欲しくない。でも君に死んで欲しくもない。でも死地に挑んで欲しい。矛盾ばかりで意味の無い思考だ。でも、何故だか今すっごく楽しいから」

 

 

 楽しいって……めちゃくちゃ怖いこと言ってる自覚あるのか? 

 

 

 そんな言葉は後ろ姿なのに本当に楽しそうなスーイを見ていたら自然と喉の奥に戻っていってしまった。

 

「だから態度と言葉と本心って結局どこにも偽物なんてないんだよ。君の考えることは全部本物であって、そこにある奇跡なんだから」

 

「スーイって、時々頭の良さそうなこと言うよな」

 

「なんだいその頭の悪い言い方。私は魔術師。叡智の旅人なのだから頭が良くて当然だよ」

 

 他愛のない会話であるけれど、少しだけ肩の力が抜けた気がする。

 

「全部終わったらリスカとちゃんと話するんだよ。本音を語らずしては幼馴染どころか仲間にもなれない」

 

「ああ、そうだな。……その、スーイももちろん気をつけて欲しいけど、リスカを頼む」

 

「……それ、私を頼りにしてるってこと?」

 

 突然、スーイが足を止めてこちらに振り向いた。

 突然の事で彼女の顔色を伺おうとしたが、残念ながらフードで隠れていて判別できない。ただ、垂れている蒼の髪の毛はわなわなと震えて何となく激情を思わせる。何か気に触るようなことを言ってしまったのだろうか。

 

「いや、もちろん頼りにしてるけど、一番強いのは心配とかそう言う気持ちで……」

 

「つまり頼りにしてる、ってことでいいんだよね?」

 

「そりゃあ、スーイのことはめちゃくちゃ頼りにしてるけど」

 

「──────ッ。うん、うん! 安心してくれ! 私がいれば魔王なんてボコボコだし、リスカもホシもギロンもみんな無事で帰ってくるとも!」

 

 本当に見た事のないくらい喜んでいる、と言うよりははしゃいでいるスーイにちょっと俺はついていけなかったが、何はともあれ喜んでいるのならばそれでいいだろう。

 

「だからね、全部終わってもまたこうやってみんなで冒険したい!」

 

「ホシもそう言ってたな。終わったらしばらくゆっくりとかしたいけど、それも悪くないか」

 

「そうそう! だから、君は安心して私達の帰りを待って、私達みたいなバケモノ達の──────」

 

 ふと、スーイの足が止まった。

 彼女の瞳の色が深紅から翡翠に代わり、視線が俺ではなく俺の背後に移り変わる。

 

「ん、なにか見つけ……」

 

「…………は? 嘘でしょ……伏せてッ!」

 

 疑問よりも先に、体を動かした。意味の無いことでスーイが声を荒らげるわけがないという信頼と、直感で考えるよりも先に体を動かせと脊髄が答えを出した。

 けれど、人間の反応速度では遅すぎる。スーイが捉えた『何か』が俺目掛けて近づいてくるのを肌で感じとり

 

 

「──────うん。伏せる努力はしたことはわかるし、妥協点にしておこう」

 

 

 頭部にぶつかる寸前でスーイが生み出した障壁がそれを打ち消した。

 

 何が起きた。

 今の攻撃は、それよりもスーイが珍しく()()()()()。いつも全部見通しているかのような彼女が、予想外の事態に遭遇している。

 

「スーイ、状況!」

 

「最悪だ……魔王軍幹部、それが私と君だけを狙って攻撃してきている!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう無理……私死ぬ。おがくずみたいに消えてしまいたい……死のう」

 

「誰ですの〜こんなところに全自動ネガティブ言葉生成機捨てたの〜」

 

「全自動ネガティブ言葉生成機じゃないですよそれ。切断の勇者ことリスカ・カットバーンちゃんです。心が弱いので優しくしてあげてください」

 

 そう言われてギロンは蹲ってブツブツうわ言を呟いているリスカを立ち上がらせた後、頬を軽く何度か叩いて反応を伺う。結果はずっとうわ言を呟き続けていた。

 

「もう。貴方がこれでは士気に関わります。しっかりしてくださいまし」

 

「そうですよリスカ。戦うと決めたならうじうじしてないでください。貴方が弱気になったらみんな弱気になるんですから」

 

「でも……」

 

「でもじゃありません! 戦うと決めたのならばそれ以外のことを考えるのは油断の他ありません。それとも貴方はこの期に及んで『自分は大丈夫』とでと思っていらっしゃる?」

 

「そんなことないけど……でもぉー!」

 

 ギロンから見たリスカ・カットバーンという人間は、とにかく選択に迷いがないと言うのが出会ってすぐの時の印象だった。内心がどうあれ、実際に動く時彼女はほとんど迷いなく動く。一手間違えれば自身の首が飛ぶような状況でも肉体を正確に動かす才能。

 

 そんな機構のような女がうじうじと悩んでもじもじしている姿を見れば、何度見ても驚きが口から飛出てきそうになる。本当に魔王軍幹部を何体も葬ってきた勇者とこの女が同一人物だなんて思えない。そう、思えないのだ。欲と懐の深さには自信のある自分ですらそう思えないのだから、リスカの名前と活躍くらいしか知らない者達からしたらこれがあの『切断』の勇者とは絶対に思えないだろう。

 

「はぁ……それじゃあ私は後方支援組なんで、以前会ったことのある方達に挨拶したらそっち行っちゃうんで、リスカのことはギロンに任せますね」

 

「やだぁー! ホシ行っちゃヤダ! 慰めて!」

 

「これ本当にリスカなんですの? ちょっと不安になってきましたわよ」

 

「私もめちゃくちゃ不安ですよ。ここまで幼児退行(ふぐあい)起こすなんて滅多にないですから、先日の彼との喧嘩は相当堪えたのでしょう」

 

「そもそもホシに挨拶するような人なんていないでしょ。だってアンタ根暗の死体(ネクロ)じゃない」

 

「すごいですよねコイツ。精神状態が最悪でも私への罵倒だけは忘れないんですから」

 

「でもホシ、嘘は良くありませんわよ? 貴方そんなに知り合いとかいますの? ここに集められるのは『勇者』とそれに準ずるような力量の持ち主だけですけれど」

 

「それが……自分でも驚くことにちらっと見ただけでも結構顔見知りいたんですよねぇ。というか、むしろ向こうから私がお呼ばれしちゃってると言うか……」

 

 ホシ自身、自分の外面の良さはよく理解しているしそもそも外面が良いというのはホシの生前の種族特性のようなものだ。人間が手足で道具を使うのが当然なようにホシは外面が良い。

 それが影響してなのか、はたまた根底にある聖女気質(おひとよし)が見抜かれていたのか。彼と再会するまでの間にホシは結構な数の人間と出会い、謎の人脈を作っていたりした。

 

「いやぁ、今になって思うとこの時代の右も左もわかんない時に『禁術』の勇者さんとかに出会ってたの怖いですね。でもあの人、私にお酒の味を教えてくれた結構いい人なんですよ」

 

「へぇ〜。アイツ見かけによらずお酒大好きっ子なんですのね。妾も色々終わったら酒を酌み交わしたりしてみましょうかね。人脈も立派な力とお姉ちゃ、姉様も言っていましたし」

 

「あれ、ギロンも彼女と知り合いなんですか?」

 

「妾見ての通り王族なので。まぁ彼女と出会ったのは魔王軍時代に事前調査の過程ですわね。ちょっとやばそうなので後回しにしましたけど」

 

「私の知らない人の話で盛り上がらないでよ〜!」

 

「くっっっっっそめんどくせぇですわねこの勇者様!」

 

「今更ですか? リスカはこの世で一二を争うめんどくさい女ですよ」

 

「めんどくさくないもん! 私いい子だって村でも評判だもん!」

 

 傍から見る分にはかなり面白い絵面であるが、実はかなりまずい状況。

 こうなるとしばらくリスカは完全に使い物にならない。もしも幻聴や妄想、自傷行為ならばどうにかできたものだが幼児退行となるとホシに出来ることも少ない。

 

 ……もしもこんな状況で魔王軍が攻撃に出てきたらと、ホシの脳裏に最悪の予想が過ぎる。

 

「心配ありませんわよ。向こうが籠城の準備を始めてるのは観測されましたし、そもそも探知系の祝福持ち達が周囲は警戒しているでしょう。もちろん、貴方もでしょう?」

 

「それはそうですけど……。私、なんかいっつも対策の上を取られて負けてる気がするので」

 

「そりゃ今どき草食系(じゅどうてき)な女なんて流行りませんわよ。どんな相手にも自分から向かわなければ何も得られませんわ。防御に回るという選択は、それ自体が選択肢を狭める危険な行為ですのよ?」

 

「誰しも貴方みたいな肉食雑食というより鏖食なやつを求めるとは思いませんけど、忠告は受け取っておきますね。では、私はリスカと違って友達が沢山いるのでこれで……」

 

「やーだー! ホシいっちゃや!」

 

「ぐえっ!?」

 

 長く伸ばしていた髪が仇となり、髪の毛を掴まれてホシは素っ頓狂な声を上げながら滑るように後頭部から転倒する。行動こそ赤子みたいであるが、リスカの膂力は魔力による強化を除いても人間離れしたものであり、もしもホシのような死体の塊でなければ最悪首がもぎ取られかねない。

 

「あーもうめんどくさい! ギロン、祝福使って抑えといてください!」

 

「えー……なんか触りたくない。それに下手にリスカに触ると服とか切られるから嫌ですわよ」

 

 ホシは改めてリスカの顔を見る。

 潤んだ瞳と整った顔立ち。いつも眉間に皺を寄せているが、それさえなければただの可愛い村娘だ。誰がどう見たって、これが勇者の顔とは思わない。せいぜいが村で評判の美人さんと言ったところだろう。

 

 英雄とか、物語とか、何かを背負うのはこの子には重すぎる。

 

 

「お願いだから、もう私を置いていかないでよ……」

 

 

 泣かれるとこっちが悪い気がしてきてしまう感情に、あまりに人間くさいと自嘲しながらホシはリスカの手を振りほどき前に進む。

 

「誰も置いていってなんかいませんよ。自分一人で突っ走るのが疲れたならちゃんとそう言ってください」

 

「…………ホシ?」

 

「理解力まで赤子になったんですか? ここまで来たら私達は一蓮托生。本っ当に不本意ですけど、助け合おうって話なんですよ!」

 

 座り込むリスカを立ち上がらせて、涙をハンカチで拭いて乱れた服を整える。そうして改めて顔を見つめる。うん、ムカつくくらいに整っていると、唾でも吐きつけてやりたくなる気持ちをホシは今だけは口に出さないでおくことにした。

 

「……一番素直じゃないのはホシですわよね。さすが、魔族様は騙すことに関しては一級品。自分を騙すのはお手の物ですの?」

 

「脳みその近くで眼球に暴れて欲しいならそうと言ってくださいね雑食の豚」

 

「安心してください。妾、獣は獣でも高貴な獣を目指しているので死体漁りなんてマネはしませんわよ」

 

「話聞いてました?」

 

 これから魔王軍との最後の戦いだと言うのにギロンという女はどこまでも自由で、リスカの方もあまりにも準備不足。ホシは大きな溜め息を吐きながらもなぜだか少しだけ笑っていた。

 別に、コイツらが好きとか大切とかではないけれど、何となくこういうのは良い事だと思える。

 

 

 

 

 

「すいません。貴方達がホットシート・イェローマム、リスカ・カットバーン、ギロン・アプスブリ・イニャスの3人でいいですかね?」

 

「はい……っていや誰──────」

 

 

 

 

 

 空気が切り替わる。

 ホシは常に周囲を索敵していたし、ホシ以外にも索敵を行っていた人間は何人もいただろう。だからこそ、最初の一瞬知らない声に声をかけられてもそれを敵だと思わなかった。

 

 だが、振り向いたところにいた3mはあろうかという巨躯とそれに合わせた長槍を持つ存在がいた。すぐにそれを魔族だと認識しても、あまりに唐突過ぎてホシは反応が間に合わなかった。

 ギロンはすぐに反応した。もとより彼女は常在戦場。ホシと違ってどんな時も油断はしない。相手が何らかの手段でこちらを攻めてくることは予想していた。

 

 そしてリスカは、同じく突然現れた謎の敵に反応していた。肉体に刻まれた習慣か、本能に刻まれた反射か。精神状態はすぐさま戦闘時のものに切り替えられ、臨戦態勢に入り。

 

 

「アンタは、嘘でしょ…………?」

 

 

 見たことの無いくらい、怯えた表情を見せて膝から崩れ落ちた。

 ホシとギロンはすぐにその異変に気がついた。けれど、その異変への対処よりも先に目の前に現れた魔族が手を翳し、一言だけ呟く方があまりにも速かった。

 

 

 

「燃え尽きろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 









・リスカ
赤ちゃん。同期の『勇者』も何人かいたが、しかめっ面しながら訓練で全員ボコボコにして以降誰も話しかけてくれなかったので友達がいない。強いていえば今のパーティメンバーは多分友達だしぼっちとは思ってない。

・スーイ
核爆弾持った幼稚園児。子供の心を忘れないまま2000年以上生きている。リスカのことは別に友達だと思ってない。

・ホシ
ママ。しょうがないですね、っていつも言っている。一生に一度のお願いは3回くらい聞いてくれる。リスカのことは嫌い。

・ギロン
土佐犬。一応お姫様なので割と顔は広いし、社交性は表面上はそれなりに高い。リスカのことは特に友達だと思ってない。



・「禁術」さん
リスカ以外とは面識のある有名な『勇者』の1人。補充される以前の魔王軍幹部みたいなのを2体ほど討伐している凄腕の人。ホシ曰く『お酒好きのおじさん』、ギロン曰く『見えちゃいけないもの見えてるジジイ』、スーイ曰く『あんまり好きじゃない』。





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  • リスカ
  • ホシ
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