勇者は従者を追放したい   作:ちぇんそー娘

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呪術廻戦の映画見てきたのでホシが怨霊になっても許してください。元から八割怨霊です。





私はお前を

 

 

 

 

 

 

「えーっと、お久しぶりでいいんだよな?」

 

「まぁそうだね。多分キミが思ってるエオスって言う人物が私だね。……うん。久しぶり。お互いまさか五体満足で再会出来るなんてね」

 

 

 なんだかバツが悪そうに目線を逸らしたり、頭の後ろをかいたり、鞘を指で叩いたりしている赤髪の少女は、前に一度あったことがあった。

 リスカと再会する少し前、ほんの短い間であったが一緒に過ごした女の子。剣の腕は確かで、調子に乗りやすく、そして何よりもリスカにそっくりな瞳をしたこのエオスという少女には忘れたくても忘れられない、煌めく宝石のような不思議な魅力があった。

 

 

「なんでここにいるかは分からないけれど、早く逃げた方がいい。お前でもあんまり長居はよくないと思う」

 

「ワタシの身よりも自分の心配をしたら?」

 

「そんなこと言ってる場合じゃない。魔王軍が攻勢に出てきてるらしい。俺の仲間はすっげぇ強いけど、そいつらでもどうなるか分からないって言ってた。そんな戦場に行くなんて命が幾つあっても足りない」

 

「だから、ワタシはキミより強いからそれよりも」

 

「いいから! さっさと逃げろ!」

 

「ちゃんとワタシの質問に答えて」

 

 

 ようやく、エオスと話している時に感じた奇妙な感覚の正体がわかった。

 エオスには何を言っても響かない。言葉が彼女に到達する前に、どこかで途切れさせられてしまうみたいに、こちらの気持ちが伝わっていない。そんな違和感がどうしてもある。

 

「キミは、ここからどうするつもりなの?」

 

「俺は……」

 

 何を言ってもエオスをどうにかすることはできない。なら、質問に答えて会話をせめて一歩でも前に進ませなければならない。方向性は違うが、人の話を聞かないという点ではリスカにそっくりだ。

 

「俺は、リスカ達を助けに行く。アイツらはみんな強いけど、1人でなんでも出来るって訳じゃない」

 

「邪魔って言われても、無駄死にしても? その結果、キミが死ぬせいで彼女達が悲しんでも?」

 

「それでも、だ」

 

「そ。じゃあどうぞ」

 

「あれ?」

 

 どうなるかと意気込んでいたら、なんと呆気なくエオスは俺に道を譲った。とことんこちらが予想していないというか、望んでいない返答を出されて調子が狂う。まぁ、不思議とそれに嫌な気持ちは湧かないのだが。

 

「ワタシはちゃんと逃げるから。もう戦う必要も無いし。キミもちゃんと引き際を間違えないようにね」

 

「…………よくわかんないけど、とにかく気をつけろよ!」

 

「ワタシはこれから逃げるんだけどな。まぁ、うん。そうやっていつも誰かを優先できるのは美徳であるよね」

 

 何はともあれ、そうしてエオスの横を通り過ぎようとした時。

 耳元で彼女の声が囁いた。

 

 

「じゃあ、戦いはここで終わりにしよっか。ワタシ達の勝ちでね」

 

 

 瞬間、体が重力やら慣性やらに逆らった無理矢理な動きをして内臓がミンチにされるような衝撃が体に走る。一瞬意識が飛んで、気がついた時には剣を振り抜いたエオスとの距離が離されていた。

 

「……リスカを倒したわけじゃないか。逃げてきたのかな?」

 

「生憎、早さだけなら自信があるからね。足止めは残り2人に任せてるよ」

 

 背後から聞こえてきた声はスーイのものだった。恐らく、エオスに切られる前に彼女が引っ張ってくれたということだけはわかるがそれ以外が理解できない。何故エオスが俺を攻撃してきたのかも、2人の会話の内容もだ。

 

「スーイ、向こうで何が……」

 

「あ、ちょっとこっち見ないで──────」

 

 そこに居たのは間違いなくスーイのはずだった。

 声は、気配はスーイだって言ってるのに現実の光景がスーイと結びつかない。顔の皮膚がほとんど剥がれていて、青色の髪の毛も殆どが切られるか流れ出た自分の血で赤黒く染まっていて見る影もない。両足と左手は既に根元から失われていて歪な岩で無理やりに代用している。

 片目は潰れ、残った方の瞳は赤と緑に点滅を繰り返して何かの限界を知らせているようで、背中の翼以外どこも無事な箇所がないと言うくらいに満身創痍のスーイがそこにはいた。

 

「なっ、何があったんだ!? それと誰にそんなにやられたんだ!」

 

「説明は後、もうここは逃げるよ。ギロンのお姉ちゃんとか、考えられる限りの戦力をかき集めてから出直すしかない。私達じゃ、アレには勝てな」

 

「よくわかってるじゃん。それじゃ、命乞いでもする?」

 

 

 会話に割り込んできた声は、俺がよく知っている声だった。

 だから、俺はそれを危険だと思わなかった。そして、それに対して何か行動を起こそうと体を動かしたスーイの動きを、呆然と見るしか無かった。

 

 翼から魔力を吐き出して、全力で逃げようとするその姿。瞳の中に明らかな恐れを抱いているスーイの姿なんて、初めて見た。

 

 

「逃がさないよ」

 

 

 よく知った声が何かを切断する。

 同時に、ゴグシャ、と人体がすり潰されるような音。パンッ、と何かが風を切って吹き飛ぶ音。最後に知っている誰かが地面を何回か跳ねて見えないほど遠くに吹き飛ばされた事実が視界に収まった。

 

「お前、何してんだよ」

 

「いいの入った。頭潰したかな。さすがに精霊でもこれなら死んだかな」

 

 その少女は誰かを殴り抜いた拳を軽く動かして感触を確かめながら、片手で掴んでいた何かを投げ捨てる。それが美しい金髪と藍色の瞳を持って、泣きそうな目でこちらを見ていなければホシだと気が付かなかっただろう。

 

「──────逃げ」

 

「喋っていいって、言ってないよね?」

 

 ぐちゃ、とまた水っぽい音が聞こえる。頭が踏み抜かれて、ホシだった何かが飛び散ってから、時間を巻き戻すように元の形に戻っていく。

 けれど、戻ったのは形だけ。それを見られた彼女の顔は、この世の終わりのように悲しく歪んで、何かを伝えようとしていた。

 

「みな、いで」

 

「見られて減るもんじゃないでしょ。黙っててよ。魔王様、ごめんなさい。1人逃げられた」

 

「いいよ。それよりも、まずはそこにいるカレだ」

 

 何が起きてるかとか、そういうことは分からない。

 目の前にいるのが大切な人で、ずっと彼女を守りたくて戦ってきたことだってわかる。そんな簡単なこと、間違えるわけが無い。

 

 だからこそ、今するべきことは分かる。

 そんな彼女が、今していることに対してやってやることは一つだ。

 

 

「何やってんだよ、この馬鹿リスカッ!」

 

 

 拳を握りしめて、全身全霊でこの大バカ野郎を殴ってやること。そう思った時には俺の体は空を舞っていた。

 

 

「汚い声で叫ばないでよ。虫唾が走る」

 

 

 リスカの声は聞こえないくらい高く投げ飛ばされていたけれど、そう唇が動いたのがわかるくらいにその動きを目で追ってしまっていたのが無性に悔しかった。

 

 こんな俯瞰するような視点になって、ようやくリスカが剣を構える瞬間を見ることが出来た。

 この世に二つとない、リスカだけの構え。なんでそれで剣を素早く振れるのか、色々勉強して来た今でも分からないというか、そこに合理性とかそういうものは無い。ただ、リスカ・カットバーンという少女はきっとあの構えが最も適しているんだろう。それだけは、間違いがない。

 

 あの祈るような構えが、神が彼女に与えた贈り物なんだ。

 

 

 

「幕を下ろせ、『神断祈泡(セレネ・へスペリス)』」

 

 

 

 結局何が起きたのかは分からないまま。

 確かに言えるのは、空中に投げ飛ばされた俺にリスカの斬撃を避ける手段は残っていない。ただそれだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「って、アレ?」

 

 地面に墜落して数秒。いつになったら死ぬのかとか考えていてようやく異変に気が付いた。

 生きてる。体のどこも切れてないし、なんならあの高さから落ちたのに傷一つない。確かに俺はリスカの斬撃をくらったのに、鎧も服も薄皮も切れてはいなかった。

 

 外した、とも考えたがリスカが狙った相手が避けてもいないのに外すなんてことは絶対にありえない。思考を巡らせていると、答え合わせの為に親切にも来てくれたと言った感じではないが、少なくともヒントになりそうな相手は現れてくれた。

 

「リスカ、お前が怒ってんのはわかったけど、さすがにいきなりの挨拶としてはどうかと思うぞ。それになんでスーイとホシを」

 

「……なんで、切れてないの?」

 

「なんでって、俺が知りたいよ。それよりもだなリスカ」

 

「なんで! なんでお前が私の名前を知ってる!!! 喋るな! 気持ち悪い!!」

 

 会話よりもまず先に破城槌のような蹴りが俺の腹に突き刺さる。空気が全部吐き出されるとかそんな次元じゃなく、魂が飛び出すような衝撃に視界が完全にモノクロになりながら、吹き飛ぶ体が木々を薙ぎ倒していくのを遅れて感じ取った。

 

 間違いなくまともに受けたら死んでいる。死んでなければおかしい。けれど、俺は五体満足でその攻撃を受け切っていた。

 

「けほっ、なんだ? 何が起きてるんだ?」

 

 リスカがスーイとホシを攻撃してたこととか、リスカが俺を狙ってることとか、何故かリスカに攻撃されてるのに死んでいないこととか、訳が分からな過ぎる。誰か説明して欲しいのに、一番説明できなさそうなリスカしか俺の前には現れてはくれない。

 

「……さっきから何も言わず攻撃攻撃。本当にいい加減にしろよ!? 俺はともかく、ホシとスーイになんでそんなことしてんだよお前!」

 

「なんで、なんで切れないの? コイツを切る為に私は、じゃあ私って、私って……」

 

 見なくたって様子がおかしいのはわかる。かと言って俺に出来ることなんて今の状況じゃリスカに対して説教するくらいしかないだろう。こんなことするのはリスカがおばさんの作った野菜料理をずっと食べないと駄々こねていた時に、食わず嫌いは作ってくれた人に失礼だと言った時だ。その時はぶん殴られたのを覚えている。

 

「リスカ、落ち着いて」

 

「魔王、様……」

 

「アイツはリスカの『祝福』の影響を一部使っているんだ。キミがアレを切れないと、どこかで思ってしまっている力を利用している。だから、胸にある憎しみと怒りを思い出して。アイツを許せないって、切り取ってこの世界から消し去りたいって、そんな思いを込めて。そうすればキミは、間違いなく全てを切り裂ける」

 

「はい……アイツを切れば、もう、戦わなくていい、アイツさえ、お前さえ、いなければ……」

 

 いつの間にかリスカの隣に立っていたエオスに何かを言われ、リスカの目の色が変わる。困惑も焦燥も全てが研ぎ澄まされた刃のような殺意に切り替わり、睨まれただけで呼吸が止まって、本能が今のうちに死んだ方が楽に死ねると自死に誘導してくる。

 改めて見たらこんなのバケモノだ。到底人間だと思えない。そもそも、睨まれただけで自分から死を選びたくなるほど恐ろしい生き物が本当に人間なのかって話だ。

 

 

 

「人間に、どこにでもいるちょっとわがままで、泣き虫で、どうしようもない女の子に決まってんだろ」

 

 

 

 いっつも俺は蚊帳の外だ。追放追放とコイツに言われ続け、みっともなくしがみついてボコボコにされて、それでも自分の身の程を認められずに足掻き続けて。

 

「おいエオス……いや、アンタが魔王なのか。リスカに何をした」

 

「キミ達には悪い事をしたと思ってる。でも、ワタシだって勝つ為なら全力で──────」

 

「事情なんか聞いてねぇんだよ。何をしたか、それだけ答えろ!」

 

「……説得とかでどうにかなる話じゃない。彼女はキミのことを強く思っていた。だからこそ、その気持ちを利用した。魔王軍の最後の切り札、それが今のリスカだよ」

 

「なんもわかんねぇけど、わかった。つまり、エオスをぶっ飛ばせばもう終わりでいいんだな?」

 

 何のために戦ってきたか、なんてものはよく分からない。戦う理由なんて幾らでもあったし、退けない理由も沢山あった。

 それでも今ここで、死にたくなるほどの絶望を跳ね除けて、魔王なんて言う御伽噺の向こう側にしかいないような厄災に啖呵切ってまで戦う理由は、一つだけだ。

 

 

「リスカ、悪いけど、さすがにこれはやりすぎだ。幼馴染として、一発キツいのいれるぞ」

 

「アンタを切れば、アンタを切れば全部終わる。私は、私はようやく!」

 

 

 エオスが言うには、リスカは俺の事を強く思っていたらしい。

 どんな風に思っていたんだろう。やっぱり嫌いなのか、それとも本人が言ってるように憎いとかそういうことだろうか。

 

 なんであれ、だ。

 そんなに強く思ってくれてたならば、せめてその想いには応えよう。

 

 

 

 

「ちょうどいいな。さすがに仲間をあれだけ痛ぶって、魔王側に付いたなら尚更だ。ずっと言ってやりたかったんだよ。お前は──────」

 

 

 

 

 

 魔王を殺す為に研ぎ澄まされた勇者の剣。切断の奇跡を携えたその全てが、俺を殺すために向けられた。

 

 

 

 

 






・『神断祈泡(セレネ・へスペリス)』について
リスカ本人が切断出来ると認識した事象全ての切断が可能。現在確認されているのは通常の物質以外では。

・祝福や異能そのもの:所持者の体の一部に『光』が見え、そこを切ると相手の祝福や異能を恒久的に消滅させられるらしい。見え方は所有者により違い、ホシは不定形に常に動き回っていたり、ギロンは右胸に常に固まっていたり、魔王は全身常に淀んだ光で覆われているらしい。

・祝福や異能の効果:ホシがリスカの手足の代用を解除しようとしたが、その前にリスカは自分の手足とホシの繋がりを切断しておいて一瞬で無力化されるのを防いでいた。ただし、しばらくしたら調整が必要なのは変わらないためホシは殺さずに生け捕りにした。



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  • リスカ
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