チート持ってウマ娘なるものに転生した、芝生える   作:白河仁

10 / 61
チートオリ主は競馬の事を全く知らないしそもそもスポーツ競技素人さんだったので、キロメートル単位を全力で走って数ヶ月単位のインターバルを挟む理由すらこっちの世界で初めて知りました。
レース関係はこの世界で学んだ事しか知りませんしそもそも基準がぶっ壊れてます。
んで、そんな奴がなんか肉体の事細かく把握できるようになっててレースとレースの間に一定期間あるのを知れば何するかってーと。



第九話 思い出して欲しいのは前世で全く競馬の知識が無かった事と、アニメ第一期も見てない事

―さて今年も始まるクラシック三冠第一戦目皐月賞、本誌が推す注目のウマ娘は【大王】キングカメハメハ。

 最強と名高いチームリギルに所属する今年のクラシック本命候補の強豪である。

 前走のすみれSでは2バ身半を離しての勝利、一番人気に恥じぬ強さを見せつけ、豪快な走りはまさに大王の覇道というところ。

 これからのクラシック戦線でもその名に恥じない強さを見せつけてくれるだろう、文句無しの◎である―

 

 ―『週刊トゥインクル特別号 クラシック戦線を駆ける乙女たち』より―

 

 

――――――――――――――――

 

 

 津上あきがトレーナーを務める新設チーム『レグルス』にて、今日も幼馴染達は集まっていた。

話題はやはり今年のクラシック戦線。

この場に居る全員の共通の知り合いが走るレースの事だった。

 

「カメさん、マツクニローテ走るつもりなんだって」

「えー、それ大丈夫なのーししょー?」

「さすがにそれは止めるべきではないのか?」

 

 ついこの間、本人から聞いてきた事をあきが話せば、ラインクラフトとシーザリオが心配混じりに反応を返す。

 

 誰がそう呼んだのか、なんでそう呼ばれるのかすら不明なレースローテーション、マツクニローテ。

基本は同じ月に行われるマイルG1レースのNHKマイルカップと中距離G1レース日本ダービーに続けて出走する過密スケジュールでのレースローテーションである。

ウマ娘の脚とは消耗品とも例えられ、G1などの大きなレースを走った後は数ヵ月のスパンを挟む事は珍しい事でもなんでもない。

それを、このマツクニローテは無視をする。

さらに言えば、マイルから中距離を走る広めの距離適性が必要となり、無論の事脚の消耗は加速度的に大きくなる。

その脚の消耗は普通に走るクラシック三冠レースとは段違いとも言われ、『ウマ娘の脚を壊す為にあるようなもの』とまで言われている。

 

 しかもキングカメハメハはその中でも4月前半に行われるクラシック一冠目、皐月賞までも加えたマツクニローテ(真)を走るというのだ。

このバリエーションは、通常のマツクニローテに加え天皇賞秋を走る『完全版』、(真)に天皇賞秋を加えた『究極版』、『究極版』の天皇賞秋を菊花賞に変えた『ルナティック』がある。

そもそもクラシック三冠レースとは、普通に全て走るだけでも故障者が出るほど負担が強い。

そんなレーススケジュールにさらに負担を強いるなど、普通にウマ娘の事を考えるなら言語道断である。

 

 だがしかし、ただ悪名とその過酷さばかりが話に出されるそれが、何故そうも話されるのか。

それは『このローテで走れるウマ娘は間違い無く強い』からだ。

もしもこのローテを走り、さらに勝ち切ったウマ娘が居るとしたら、それはもう『空前絶後に強い事』の証明だからである。

走っただけで強さを証明され、勝てばその名は永遠に歴史に刻まれるものとなる。

たとえ選手生命を大幅に縮めるものだとしても、その光は燦然と輝き続けるトロフィーになるだろう。

故にこそ、トレーナーや観客、ウマ娘達の間では、忌避と羨望を以てこのローテーションの事を語られる。

 

「私達でもやれるとしてもしたくないものよねー」

「というか。お嬢様しか無理。勝ち的にも。脚の耐久的にも。ルナティック走ろうとしてるお嬢様も。走らせようとしてる先生も。頭おかしい」

「キリちゃん酷い!?なんでそんなこと言うのさぁ~!」

 

 ヴァーミリアンが至極真っ当な事を口にし、カネヒキリが客観的に見た事実を歯に衣着せずに言う。

そう、このチーム『レグルス』では、少なくともあきとディープインパクトの二人だけはキングカメハメハの事をどうこうは言えない。

彼女達二人は最初からマツクニローテ(ルナティック)、皐月賞に出て、NHKマイルカップに出て、日本ダービーに出て、菊花賞に出るという考えただけでも狂気のローテーションを予定している。

なんなら日本ダービーと菊花賞の間に安田記念か宝塚記念挟もうか、それともジャパンダートダービー行く?なんてラーメン屋でもハシゴするみたいにG1レースを走ろうとしている。

当然ジャパンカップや有記念も出走する予定であるとか、『実はディープインパクトを潰す為にやってるのでは?』とか言われても『はい、私もそう思います』としか言えない。

 

 なんでルナティックからさらに難易度を上げようとしているのか、なんでシニアが出てくるグランプリにまで喧嘩売りに行こうとしてるのか、芝だけに飽き足らずダートまで焼き払おうとしているのか。

『出るG1全部勝たせるから』とか有言実行しようとしないで頂きたい、と、特に強くダートウマ娘の二人は思う。

いくら負ける気は無いとはいえ、『芝メインで走ってるディープインパクトが砂でも圧倒的』とか、慣れてる自分達は良いとしても他のウマ娘達の心をこの上なく粉砕する。

ただでさえダート路線、ティアラ路線で、同じチームなのに二人ずつタイトル喰い合う予定だというのに、三人目を放り込むとか鬼畜の所業である。

タイトル獲りたいなら海外に行けとでも言うのか、このトレーナーは。

しかもディープインパクトには凱旋門走らせる気満々だというのに。

 

「ん、でもカメハメハさんならできそう。強くなったら一緒に走ってもらいたい」

「だよねー!翔ちゃん強い人と走りたいもんね!やって欲しいよねー!でもそんな中で誰よりも強いのボクの翔ちゃんだもんね!」

 

 そしてそんなクソローテを走る事を望んでいるぽやぽやお嬢様系修羅とボクの推しこそが一番なんだクソオタク系トレーナーは平常運転である。

幼馴染四人はキングカメハメハがマツクニローテ(真)を走る事決めたのは絶対こっちの影響あるよなぁ、と些かいたたまれない気持ちを感じるのであった。

四人とも自分達の路線を踏み荒らすのは都合良く見ない振りをした。

 

 

――――――――――――――――

 

 

 中山レース場、芝2000m、皐月賞。

 

『――さぁ残り600を切りましたメイショウボーラーまだ逃げている二番手ダイワメジャー三番メテオバースtおおっとここでキングカメハメハキングカメハメハが上がってきた!

 先頭ダイワメジャーに変わりまして残り200を切ったコスモバルクを抜いてキングカメハメハ迫る迫るこれはかわすか!?

 ダイワメジャー伸びるがキングカメハメハがすぐ横だこれは差し切る差し切ったぁー!!

 大王キングカメハメハまずは最速の一冠目!大王戴冠式ライブです!!』

 

 キングカメハメハ、2着とは半バ身差をつけて勝利。

まずはクラシックの一冠目を戴冠し、順調に進むと見えた、そのインタビューにて。

 

『大王の異名に恥じない素晴らしい走りでした!やはり次はダービーの二冠目を狙うのでしょうか?』

「んー、ダービーを狙うのは間違ってないんだけど、それは三つ目ね」

『は?いえ、と、言いますと?』

 

 インタビューに対し、大王はこう宣った。

我が走った轍こそが、覇道であると。

 

「二冠目はNHKマイルカップ。ダービーは三冠目ね」

『!!それは…!』

 

 それは強者の証明。

未だ誰も足を踏み入れた事のない、前人未到のローテーション。

 

「その後は天皇賞秋。全部やるわよ」

 

 走る事すら、強者の証明となるその道程、それの名こそは、マツクニローテ(究極版)。

報道陣がざわつく。

無茶だ、無理だ、無謀だ、いや、まさか。

しかし、そんな群衆のざわめきを、大王は傲岸不遜に笑って吹き飛ばす。

それは大言壮語の愚か者か、それとも実力に伴う絶対の自信か。

 

「見てなさい。私の後にこそ道は続くわ」

 

 クラシック戦線、波乱の幕開けであった。

 

 

――――――――――――――――

 

「現実問題として、よ」

 

 トレセン学園、チームリギルの部室にて。

己の愛バの脚を丹念にマッサージしながら、トレーナー、東条ハスミは眉根を寄せていた。

 

「負担はギリギリよ。NHKマイルカップもダービーも、力を抜いて勝てるようなレースじゃない。一つ間違えば、貴女の脚は容易く壊れるわ」

「んー。そこははすみんを信じてるものー。あ、そこそこぉ」

「簡単に言ってくれちゃって…」

 

 皐月賞ウマ娘、キングカメハメハの宣言は世間を大変賑わせていた。

無謀な挑戦、ウマ娘を壊す気なのか、いやでも大王ならば。

世間の噂を集め、トレセン学園でもそれは同様。

キングカメハメハの狙いは果たされたと言って良いだろう。

それが実現できるかどうかは別として、だが。

 

 勿論、ハスミとてトレーナーとしての意地がある。

ウマ娘が望み挑もうとする事に、そう簡単に否とは言いはしない。

しかし、それはウマ娘自身を壊してまでやる事でも、やらせる事でもないと断言できる。

他に道は無いか、せめて皐月賞は出走しない事にできないか、最後まで説得したがキングカメハメハの意志は硬かった。

結局、トレーナーという人種は、己の愛するウマ娘が走ると決めたなら、どれだけ無茶無理無謀だと思いながらもそれを叶えられるよう尽力するしかないのだ。

もう彼女は走り始めた。

ならば、全力で支えるのがトレーナーの役目であり。

 

「……ねぇ、カメ」

「ん~?なぁにぃはすみ~ん」

 

 気持ちよさそうにとろけている己の愛バを見る。

勝たせてやりたいのは当然の事だ。

担当するウマ娘を、誰が相手だろうと勝たせたい。

しかし、その為に壊れてもいいだなんて絶対に認めない。

 

「貴女、津上トレーナーと知り合いなのよね?」

「んぇ?」

 

 勝利の為に全力を尽くすのはトレーナーの役目だ。

ならば、この娘の為にプライドを捨てるのは東条ハスミの役目だ。

それがたとえまだ一年すら務めていない新人トレーナーに頭を下げることになろうと、将来的に戦うライバルに借りを作る事になろうと。

 

「ちょっと、話したい事があるの。紹介してくれないかしら?」

 

 東条ハスミの担当するウマ娘に、故障引退など絶対に認めない。

 




中央トレーナーは誰だってガンギマリ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。