チート持ってウマ娘なるものに転生した、芝生える   作:白河仁

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チートオリ主はアニメも漫画もゲームアプリも一切触らずにこの世界に転生してきましたが、立派な限界オタクへと育ちました。
もしアニメ1期と2期を見ていたらこの世のウマ娘の故障という故障を消すべく覚醒していたんじゃないかな(適当)


第十話 もしアニメセカンドシーズンを見ていたら最初から限界オタクとして生まれていたチートオリ主

 トレセン学園内のカフェテリアにて、津上あきは先輩トレーナーにお呼ばれしていた。

相手はキングカメハメハのトレーナー、最強チームと名高いリギルの東条ハスミ。

チームが違う以上、将来的なライバルではあるが、キングカメハメハの脚の事で相談がある、となればまぁ応えないわけにもいかない。

彼女は友人であるわけだし、これからのレースローテーションを思えば『自分が視た』限り、途中で故障してしまう可能性は五分五分だろうか。

 

 レースでバチバチやり合っている期間中なら口も手も出せないが、まだ自分達のチームはデビュー前。

他のチームであるとはいえ、ウマ娘の、というか青春の汗と涙を流す少女達の故障なんて見たくも無いし。

何よりディープインパクトと走る時に怪我で全力出せませんでした、などと認められない。

 

 怪我を乗り越えてライバルとの勝負を果たす為、大切な人の為に復活して限界を突破する展開はあるし大好きだが、それは心が耐えられない。

もし怪我してる中で他の人の走りを見て、『自分はどうして走れない』とか「もうあんな風に走れないのか」とか言われたら涙腺が死ぬ。

あきはあんまり心が強くないし愉悦を感じられないノーマルなオタクの自負があった。

美少女スポ根モノならば皆万全の状態で、全力を出して、時に限界を越えながら仲良く勝負していて欲しい。

ライバルや仲間とのきゃっきゃうふふがあればなおの事良い。

 

 ウマ娘の故障とかこの世から無くなればいいのにと待ち合わせ場所に来てみれば、パンツスーツ姿にスティックキャンディーを咥えた女性の姿が。

キングカメハメハから送られてきたメール写真と同じ人だな、と確認してから、あきは声をかけた。

 

「こんにちは、東条トレーナー。お待たせしました?」

「あぁ、いえ、津上トレーナー。そんなには待って…」

 

 東条ハスミの口からポロリとキャンディーが零れ、カップソーサーの中にからんと音を立てて落ちた。

何故、自分と出会ったトレーナーは初対面の時、呆ける事があるのだろうか。

『あきにはもう慣れた事』だが、今でも不思議に思っている。

 

 

――――――――――――――――

 

 

 東条ハスミが津上あきと話をすると決めた時、キングカメハメハからくれぐれもと注意された事がある。

 

 一つ、彼女を勧誘しない事。

津上あきはウマ娘であるが出走登録をしていないし、本人に走る気は無い。

何故かは知らないが本人は頑なに公式レースを走る気が無いので、トレーナーとして接するようにと。

 

 二つ、質問には正直に答える事。

何故かは知らないが彼女に嘘は通じないし、なんなら見ただけで積んできたトレーニングや脚の適性、距離適性まで見切る。

だから正直に、誠実に接する事。

 

 三つ目、自分のトレーナーとしての才能に、決して絶望しないこと。

これに関しては、ハスミならば彼女を見れば解ると言った。

 

 あぁ、確かにこれは、どうしようもない。

どれだけ走るか、どれだけ強いのかわからない。

キングカメハメハに言われていなければきっと勧誘していただろう。

そして、其処まで考えて気づくのだ、『彼女にトレーナーは必要なのか』と。

彼女をトレーナーが支える必要は無い、そんなことしなくても十分に速い。

彼女にトレーナーが尽力する必要は無い、そんなことしなくても十分に強い。

彼女自身、トレーナーとして有能なのだと聞いてはいたが。

そんな『後付け』なんて、彼女には本来必要が無い。

トレーナーとして目を付けずにいられないウマ娘が、一番トレーナーを必要としていない。

――あぁ、これはなんて『目の毒』だ。

すぅ、と一度深く息を吸い、己が何故ここに彼女を呼んだのか思い起こし、意思をしっかりと持つ。

 

「失礼したわ。改めて、私は東条ハスミ。リギルのトレーナーよ」

「いえ、大丈夫ですよ。ボクは津上あき。新設チームレグルスのトレーナーです」

 

 今は自分の愛バをどう支えるのか、それが大事だ。

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 結論として、NHKマイルカップ終わってからの一週間と日本ダービー終わってからの二週間、キングカメハメハを預かる事にした。

おそらくそれで彼女のケアは十全にできるだろう、なにせ元が良く鍛えられているし、脚のケアはあきから見ても良くできていた。

そうでなければマツクニローテ(究極版)を走ってなお、故障率が五分五分などと見立てられない。

 

 ただ、流石に骨の太さ1ミクロンから、筋繊維の太さ一本から、内臓がどのような動きをして、どんな風に栄養を取り入れているかなど、普通のヒトが完全に把握できるわけではないので、そこは仕方がないだろう。

これでキングカメハメハは無事走り切れるだろうし、きっともっと強くなってくれるし、翔ちゃんも強い相手と走れると喜んでくれるだろう。

あきはルンルン気分で帰っていった。

 

 

――――――――――――――――

 

 

 あきが帰った後のトレセン学園カフェテリア。

他人の眼が届かない、奥まった一室で、東条ハスミは先程まで居たトレーナーが計画した回復プランを改めて精査していた。

ハスミの胸中は、正直に言って荒れていた。

キングカメハメハが無事に走り切れるのは嬉しい。

彼女がその選手生命を絶たずにいられるのは何より喜ばしい事だ。

 

 だがそれはそれとして、それを当然のようにこなす事が可能だと見られた事が、何よりも悔しい。

津上あきはキングカメハメハを短時間見ただけで、こちらが熟してきたトレーニングを、どのような戦法を目指して鍛えてきたのかを、今の状態を、完璧に見抜いていた。

そして、それをどんな風にすれば回復するのか、どのようにすれば故障しないのか、まるで身体の中身を最新機材で逐一チェックしたかのように。

 

 あぁ、確かにキングカメハメハの忠告は正しかった。

彼女ほどウマ娘の身体を、脚を解っているトレーナーは居ないだろう。

己がその域まで至れない事を、己が自分の愛バ達の限界を最大まで引き出せない事を、己がその限界の壁を壊させてやる事が出来ない事を。

トレーナーとしての勉強を始めて、トレーナーとして活動し始めて、こんなに悔しいと思った事は無い。

今まで、担当したウマ娘がレースで負けた事もあった。

その時も悔しかったが、これはそれ以上だ。

自分の愛バ達の全力を、自分より引き出せるトレーナーが居るのだなどと。

 

 あぁ、認めよう、今の『最強』は自分達だとしても、将来の『最強』は貴女達だと、今は素直に認めよう。

だが、それは自分達が『挑戦者』となる事だ。

今まで『最強』であり、時に『双璧』と呼ばれても、常に他に追われ、目指されるチームであったリギルが、追い、目指すチームとなる。

今はこの悔しさを認めよう、今はこの喜びを噛みしめよう、今はこの感謝を伝えよう。

だが、このままでは終わらせない。

いずれ追いついてみせる、と。

 

 この日より、東条ハスミの胸に、常とは違う闘志が灯った。

『最強』として、挑みかかってきた者達を打ち倒すのではなく。

『挑戦者』として、己より強い者と闘う覚悟を決めたのだ。




知ろうと思えばミリ単位で骨の太さを把握して調整して筋繊維の1本から調整して的確に必要な栄養素を把握できる(オンオフが簡単に可能)とか、実はこいつはチートを存分に使い倒してます。

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