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東京レース場、芝1600m、NHKマイルカップ。
『さぁ世代のマイルチャンピオンを決めるこのレース、やはり注目は一番人気、皐月賞ウマ娘キングカメハメハでしょうか、彼女は日本ダービーにも出走を表明しております』
『トモの張りもいいですねぇ、このレースでも期待できますが、今後の予定を考えるとどれだけ抑えて勝てるかが重要になるでしょうか』
実況と解説が語るように、キングカメハメハが走る事を表明しているローテーションは過酷という他は無い。
世間はもし走るとしてもどれだけ勝てるのか、勝てるとしても一体どう勝つのか、強い事は間違い無く解るが、一歩間違えれば間違い無く故障するであろう彼女に対し、期待と不安で騒いでいた。
キングカメハメハはそんなものなどどこ吹く風と余裕の表情を見せていたが、その心はメラメラと燃えていた。
己のトレーナーが誰よりも悔しい思いをしながら、それでも自分の為にと最善を尽くしてくれた事。
自分の我儘に見放されてもしょうがないと思ったのに、東条ハスミは何処までも自分の事を考えてくれた。
脚が壊れないよう、選手生命が絶たれないよう、プライドを投げ捨てて。
あぁ、ならば、この『大王』が応えないわけにはいかない。
「随分とギラギラしてるじゃない」
「あら、サンビーム。そういう貴女もね」
ゲートイン前に声をかけてきたのは1枠1番、コスモサンビーム。
前走の皐月賞では5着だが、彼女も注目されている。
朝日杯FSを勝ったG1ウマ娘であることもあるだろうが、何よりも。
「走るのはアンタだけじゃないわ。絶対に負けてやんないから。このレースも、次のダービーも」
「あらあら、宣戦布告ね。いいわ、この『大王』の名にかけて受けてあげる。圧勝してあげるから覚悟してなさい」
「ハッ、言ってろ」
彼女の次走も、日本ダービー。
つまり、キングカメハメハと全く同じレースローテーションを走るということ。
共に皐月賞を走ったウマ娘ならば他にメイショウボーラーも居るが、彼女はダービーに出走予定を出していない。
コスモサンビームは人気ではマイラーと目される逃げウマ娘メイショウボーラー、ダートが主流なアメリカから来たものの此処まで四連勝で駒を進めた留学ウマ娘シーキングザダイヤに押されて四番人気ながら、クラシック全体としてキングカメハメハの対抗バとして目されている。
コスモサンビームの宣戦布告を受けたキングカメハメハは心底思う。
自分には全力で支えてくれる良きトレーナーが居て、身体を壊さないよう助けてくれる良き友人達が居て、共に走る良き好敵手が居る。
なんと幸せな事なのかと。
燃え上がる闘志に応えるように、自然と唇が吊り上がる。
今日の走りは、一段と良いものになりそうだ。
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「お~、カメねーさんとっても気合入ってるの~」
「そうだな。あの笑顔が出るという事は、今日のレースにかなり燃えているぞ」
観客席にて、チームレグルスこと幼馴染6人がキングカメハメハのレースを観戦に来ていた。
「多分勝つ。あの笑顔のカメ姉は怖い」
「昔、親戚の集まりで見た練習レースで、あの笑顔で凄い追込みしてたのを覚えてるのよね」
昔より親交があった所以か、彼女達にはキングカメハメハの闘志が漲っているのが解る。
そして、そうもなれば。
「あきちゃん」
「うーん!翔ちゃんのお願いでもこればかりは無理かなー!出走登録まだそもそもできないからね!メイクデビューまだしてないし!来年!来年ね!?」
「あきちゃん」
「ねぇ!?ちょっと皆!?ちょっとくらい助けてくれていいんじゃないかな!?ねぇ皆!?翔ちゃんのボクの右腕握る力がちょっとずつ強くなってるんだけど!?ねぇ!?」
「「「「がんばって」」」」
「ちょっとぉ!?」
天然お嬢様系修羅が頼れる幼馴染の腕を掴みながら、『あれに出て走りたい』と指差すのは充分であり。
四人はあとで思う存分並走させられるんだろうなぁ、と修羅の闘争心から予想される未来図を今は忘却しながら、一番頑丈な幼馴染に対応を投げるのであった。
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『さぁ今年もやってまいりました世代最強マイルチャンピオン決定戦、最強を決めるのは三冠レースだけじゃない、夢を目指す18人揃いまして、今!スタートしました!』
『メイショウボーラー好ダッシュマイルの舞台では負けられないとハナを切る内からはトラッドスキームロードインザスカイハートランドカフェ三人による先行争い』
『後ろにシーキングザダイヤがつきましたがここでタイキバカラが抜け出し先頭目掛け上がっていきます中団アポインテットデイダイワバンディットこの二人』
『一バ身離れて外側キングカメハメハは今ここだコスモサンビームその内につけております!』
コスモサンビームはこのレース、キングカメハメハの内に付いて走ると決めていた。
府中1600では枠番の有利不利は少ない、あいつなら走りやすい外側を選んで走ってくる筈だ、と見ていた為だ。
実際にその通りになったし、勝負は最後の直線525.9m。
外を周って抜け出した時、少しでも油断してみろ、内から差し切ってやる。
少し前を走る褐色の手足を見ながら、心は轟々と燃えていた。
『さぁタイキバカラ先頭で今800を通過二番手ハートランドカフェ三番メイショウボーラー内から行った』
『外めを通ってロードインザスカイアポインテッドデイ二人上がっていくトラッドスキームシーキングザダイヤ並んで行って外から!外からキングカメハメハ一番外に四コーナー動きました!』
――此処だ!
溜めていた脚を解放し、コスモサンビームはキングカメハメハの内を周って、直線を駆け出した。
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ドクンドクンと心臓から脈打ち、全身を巡る血液を自覚する。
心が熱い、身体が熱い、まるで噴火を待つ活火山のように内にマグマを溜めている。
まだだ、まだ噴火にはまだ早い。
溜めて、溜めて、溜めて―――
此処だ――
キングカメハメハは目を細め、唇は弧を描く。
溜めていたマグマよ、待たせたな。
今こそが噴火の時だ。
コーナー直後、火口から噴き出す闘争心に押されるように、火山弾の如く飛び出した。
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『直線コースに入りましたタイキバカラまだ先頭!外からハートランドカフェ上がってきたメイショウボーラー400を通過!』
『コスモサンビーム上がってきたシーキングザダイヤこれはちょっと苦しい!』
――抜いた!
コスモサンビームはコーナーを曲がった直後、右後方の目的の褐色を見出し、そのまま抜き切ってやるとスパートをかけた。
前の奴らも問題無い、このまま走って勝つと決め、見え始めた残り200mの標識を先頭で抜いてやるという時に。
身体の右側から、まるで灼熱しているかのような熱量を感じた。
「(――まさか!!)」
振り向きはしない、だが解る。
あの大王が、外から来る!!!
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『コスモサンビーム上がるおっとこれは外に!外に!』
走る中風を切る、燃える身体に丁度良いととても気持ちが良い。
『坂を上りバ場の真ん中から!バ場の真ん中からキングカメハメハ抜けた抜けたぁ!』
「んなぁっ!」
コスモサンビームの驚いた声が聞こえる、それもまた心地良い。
群衆よ見ろ、これが私だ、私の走った跡、それこそが覇道だ。
『三バ身四バ身これは大きなリードキングカメハメハ強い強い!コスモサンビームメイショウボーラーこれは無理!キングカメハメハ今圧勝ゴールイン!!』
『キングカメハメハ四連勝!皐月賞に続きG1の冠、二つ目を戴冠!三つ目のダービーも戴こうと圧巻の走りを同世代に見せつけました!』
『二着コスモサンビームとは八バ身、タイムは1分32秒0!レコード、これはレコードタイムです!』
波乱のクラシック、キングカメハメハ、圧勝の二冠目戴冠。
最速に続き、マイルチャンピオンに輝き、見据えるはダービー。
大王は、その輝きを確かにその目に捉えた。
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「やったわね、カメ…」
レースを見届けた東条ハスミはぐっと拳を握りしめた。
勝てる準備はしてきた、勝てるとは思っていた、だが何があるかは分からないのがレースだ。
レースに絶対は無い。
しかし、彼女は異名通り、大王としての威風を示した。
次に目指すレースは、全てのウマ娘とトレーナー達が憧れ、勝利する為に死力を尽くす、生涯一度の大舞台。
そのレースを勝つ為だけに全身全霊を尽くし、其処で燃え尽きてしまったウマ娘さえいる。
関わる者を熱く狂わせる、灼熱の舞台。
日本ダービーでも、勝つ。
投げ捨てたプライドの痛みも確かに感じながら、それだけで終わらせはしないとハスミは歩き出す。
ウイニングライブ前の控室に津上トレーナーを呼んで、キングカメハメハの状態を診てもらう予定だ。
理解できるかは解らないが、少しでも学べるものがあるならば、例え一欠けらでも自分の身にしてやる。
心を決意で満たして、ハスミは控室の扉を開けた。
中にやたらぐったりした津上トレーナーとその右腕を握り締めてやたら眼を輝かせているディープインパクトとそれを見て爆笑しているキングカメハメハが居た。
ハスミは扉をそっと閉めた。
あと五分、いや、三分だけ時間を貰おう。
決意に入った罅を埋めながら、彼女には珍しく、シュガーレスではない甘い蜂蜜キャンディーを取り出して、口に咥えた。
実況読みにくいと思ってもライブ感を大事にして欲しいので句読点はこれからもあんまつけないと思います、すまんな!
肉体的に大丈夫でも精神的に疲労したらそりゃあチートオリ主もぐったりするよ(小並感)